「無学 鶴の間」第3回レポート
共通点があって親近感が湧く
大阪の帝塚山にある「無学」を舞台に、笑福亭鶴瓶がU-NEXTで生配信する番組「無学 鶴の間」、その第3回目の生配信が7月2日に行われた。会場となる「無学」とは鶴瓶の師匠・六代目笑福亭松鶴が住んでいた家を鶴瓶が改装した寄席小屋のこと。これまで20年以上にわたり、数多くの会や鶴瓶一門による寄席が開催されているが、こうしてカメラが入ることで、観客70人ほどしか収容できないこの空間で繰り広げられるライブが、いかに贅沢な時間なのか、あらためて知ることができる機会にもなっている。
また、この「無学」、もともと収録用には作られていないこともあり、段取りのために楽屋とステージを行き来するスタッフの姿が映し出されるのも、3回目の配信にしてすでに見慣れた風景だろう。
いつものようにまずは鶴瓶が1人ステージに。そこにサンパチマイクを持ってスタッフが現れる。
「この人、村井さんって言うんですけどね、中島みゆきさんの従兄弟なんですよ」
実はこれ、1回目、2回目の配信でも行われており、もはやお決まりのフレーズ。身近なスタッフ1人ひとりをも面白がる鶴瓶らしいフリではあるが、今回はさらにそのイジリは長い。
「そんで、この人、もともと銀杏BOYZにおったんですよ。僕はそんなん知らんから、それをいっつも僕に言うんですよ。銀杏で初めてドラムやってたんですよ」
「ふふふ」と含み笑いをする鶴瓶の言い方に、村井という人物を楽しんでいる様子が伝わってくる。しかし、これが3カ月にわたる長いフリになっていることを、私たちは、鶴瓶がこの後、呼び込むゲストの名前を聞いて知ることとなる。
「生放送であんまり出したらあかん人がゲストなんです。銀杏BOYZの峯田です」
2003年結成のバンド、銀杏BOYZ。今はオリジナルメンバーはみな脱退し、峯田和伸のソロプロジェクトとなっているが、前身のバンド・GOING STEADYから含めて約25年、銀杏BOYZの音楽、そしてそのボーカリストである峯田和伸は、同時代に生きる若者の心を揺さぶり続ける、稀代のロックミュージシャンと言っていい。
鶴瓶が峯田とこうして公の場で語るのは、2018年の「A-Studio」「桃色つるべ」、2020年の「チマタの噺」に続き、4度目のこと。鶴瓶も最初、映画やドラマを通して俳優としての峯田は知っていたというが、調べていくうちに、全身全霊で挑む凄絶なライブパフォーマンス、心に突き刺さる楽曲の数々に惹かれ、「この人を無学のゲストに呼びたい」と思ったと話す。
鶴瓶 面白い人やなと思ったんです。それですごく興味持って、そしたら共通点も何個かあって、親近感が湧いて。お互い、こんなところでは言えないですけども(笑)。
峯田 なんですか? なんですか?
鶴瓶 ステージ上でそういうことになったという(※かつて鶴瓶はテレビの生放送中に全裸になったことがあり、峯田はライブ演奏中に全裸になって書類送検されたことがある)。
峯田 共通したことが1個だけ。
鶴瓶 あんた、台湾のライブでもそんなことやったらしいじゃないか?
峯田 ああ、忘れましたけど(笑)。
鶴瓶 忘れたいものですよ。俺もそうやねん(笑)。
とはいえ、ここは寄席小屋。こうして「ただただしゃべる」機会など経験のない峯田は、「ギターがなければ、何もできないんですよ」と終始落ち着かない様子。だが、鶴瓶が峯田について調べたことを話し始めると、「よく知ってますね!」と驚きながらも、少しずつ、飾らない、素の峯田の言葉がポロポロとこぼれ始める。
鶴瓶 ギターのチューニングしていた人、誰なの?
峯田 八木くんです。
鶴瓶 その八木くんがね、ずっとギターをチューニングしているんですよ。聞くと「僕、チューニングできないんです」と。それ、びっくりして。
峯田 いや、でも、ほかにもいるんじゃないですか。音楽やってても、実はできない人。
鶴瓶 俺、ぴんからトリオしか知らんわ。
峯田 フハハハ。でもチューニング、あれもどうかと思いますよ。2、3曲歌ってね、すぐチューニングやるじゃないですか。あれ、カッコつけてるだけですよ。
鶴瓶 ワハハハ! でも八木さんが言うてたけど、不思議と、演奏中でも音外れないんですって。
峯田 狂わなんですよ。だから直したことないですもん。
鶴瓶 すごいな。あんだけ激しいことやって狂わないってどないなってんの?
峯田 弾いてないんじゃないですか? もう一人ギターいるし、いいやって(笑)。
鶴瓶 ぴんからトリオやん、そんなの(笑)。
現「鶴の間」スタッフ、元銀杏BOYZの村井氏を深掘り
続いて話は峯田の家族のことへ。峯田は山形の生まれで、実家は2代続く電器屋。長男として生まれた峯田は、生まれたときから3代目を継ぐことを決められていて、近所の人たちからも「3代目」と呼ばれていたという。鶴瓶は「A-Studio」で、山形に暮らす峯田の父親に会いにいったことに触れ、そのとき、兄の代わりに電器屋を継いだ弟にも会ったと話す。
峯田 本当は僕が継ぐつもりだったんですけどね。
鶴瓶 バンドやり始めた頃や。
峯田 申し訳ないですよね。学費出してもらって東京の大学出てきたのに、父親からしたら、これかよって感じですよね。
鶴瓶 そりゃそうや。成人式に帰ってくると言うことで、近所の人たちに顔を繋いでおこうと、お父さんはそう思っていたにもかかわらず、レコーディングがあって帰らへんかったんやろ?
峯田 そうですね。そのとき、初めて「実はバンドやってます」と。それで勘当みたいな時期もあったんですけど、「3年だけ待ってくれ」と言ったんですね。「3年で結果出なかったら山形戻ります、電器屋やります」って言ったんですけどね、なんかズルズルきちゃいましたね。
鶴瓶 でも結果が出たんやろ?
峯田 バンドのことは聞かれませんけど、やっぱりドラマとかに出ると喜んでますよね。「NHK観たよ」って(※2017年、朝ドラ「ひよっこ」、2019年には大河ドラマ「いだてん」に出演)。
鶴瓶 俺もそうや。最初が朝ドラや。「純ちゃんの応援歌」(1988)。NHK出たらみんな信用するよな(笑)。
峯田が「落語家になると言ったときはどうでした?」と訊くと、鶴瓶も同じで「反対された」と振り返る。
鶴瓶 今やったら落語家でもいろんな有名な人いてはるけど、僕らのときは収入なんてあらへん。で、うちの兄貴が優秀やったんよ。勉強もようできて。「こいつは勉強もせえへんのやから、好きなことやらせたらええのや」って言って。兄貴の優しさやね。それで落語家になったんですよ。
峯田 僕も弟から助けられました。僕、東京でバンドをやり始めて、まだ最初のぐずぐずの頃に、弟も東京に大学で来てたんですよ。弟にもやりたいこと、夢があったと思うんです。
鶴瓶 そやろな。
峯田 僕らが初めてのアルバムを出すときに、いつもだったら「兄ちゃんいいの作ってるね」とか言ってくれていたんですけど、アルバムのサンプル盤をもらって、まず弟に聴かせたいと思って「これできたよ」って渡したら、「ふーん、よかったね」って、ちょっとそっけないんですよ。それまで仲良かったのに。俺ら、同じアパートの隣の部屋に住んでたんですよ。ある日、真っ暗にしてテレビだけつけて寝てたら、弟が入ってきて、俺が寝てる脇に正座するんですよ。俺、目つぶりながら、何やってんだこいつ、と思ったら、「兄ちゃん、聞こえてる?」って。俺、反応もせず寝たふりしていたら、「兄ちゃん好きなバンドやれよ、俺は電器屋やるから、兄ちゃん好きなことやれよ」って言って立ち上がって出ていったんですよ。
鶴瓶 ええ話やん。ちょっと泣くよ、それ。峯田が聞いたんやろ、寝ながら。
峯田 そうですそうです。俺も涙がつーっと流れて。それでそこから俺、バンドがんばろうって思って。
そして話は、今、制作スタッフとしてこの番組のプロデューサーを務める「村井」のことへ。峯田と村井は高校の同級生で、どちらも東京の大学へと進学し、そのときにバンドを始めたのだという。
鶴瓶 あいつ、それまでドラムなんかやったことなかったって?
峯田 僕もギター弾いて歌ったことなかったんですけど、東京の大学4年間で、どうせ卒業したら田舎帰っちゃうんで、その前に好きなことやろうかと、それで初めてバンドやったんですよ。だけど最初あいつはいなくて、3人でやってたんですよ。そのうちライブハウスでお客さんも増えてきて、店長からも「いいね、君たち」みたいに言われて浮かれていたんですよ。そしたら村井くんがドラムやりたそうにしているので、あいつ、友達もいないので「バンド入る?」って言ったんですよ。そしたら、(村井の真似して)「ああ、いいよ」みたいな(笑)。
鶴瓶 ワハハ。今もそうやもん、あいつ。自分から「入りたい!」とは言えへん。(村井の真似して)「ああ、いいよ」って。
峯田 悔しいんですよね。俺は夢を見つけてバンドをやって、でもあの人は、東京来たけど、夢を見つけられてないっていう、そのプライドがあるんですよ。
鶴瓶 ワハハハ!
峯田 それで見るに見かねてメンバーに入れて、4人でライブやったんです。そしたら店長からダメ出し食らって、「3人のときのほうがよかった」って言われて。
鶴瓶 ワハハ。うれしいわ~。
峯田 店長からボロクソ言われて、俺ら、めっちゃ凹んで。
鶴瓶 あいつが入るからあかんかったんやろ?
峯田 そうなんですよ。下手くそすぎるんですよ。それで高円寺の今はなき噴水の前で缶コーヒー飲みながら4人で泣いて。「でも、でも」って、「でも俺らはやるぞ」っつって。「村井くん、お前はずっと俺らと一緒だ。絶対お前を辞めさせたりはしないよ、あの店長を見返してやろう」って。
鶴瓶 そこからウマなったんか? あいつは。
峯田 ウマくならなかったんですよ。
鶴瓶 ワハハ! それ、うれしい。
峯田 苦しかったですよ、8年間くらい。
鶴瓶 ええわ!(笑) それは!
空気階段もぐらの話「キングオブコントは正座して見ました」
笑い話に昇華しながらも、峯田の仲間への愛情や音楽への想いが言葉から滲み出る。こうした人との繋がりから、「そう言えば、空気階段のもぐらっておるやん。あいつがずっと銀杏BOYZの追っかけやったんですよ」と鶴瓶が切り出す。その頃、もぐらは高校生。学校を休んで地方のライブにまで来るもぐらを見かねて、物販を手伝わせ、ツアー先のホテルに泊めてあげたりしていたという峯田を「そんな人間やな。俺に似てるなと思ってね」と鶴瓶。
その後、急にライブに来なくなったもぐらとの再会は、空気階段が「キングオブコント2021」で優勝する3年ほど前のこと。偶然、居酒屋で居合わせ、そこから縁が再び繋がったのだという。
「キングオブコントは正座して見ました」と峯田は続ける。
「うれしかったっすよね。あのときの、お金もなくて、学校休んでライブ来ていた少年が、あんな、自分のやりたいことを見つけてね」
それは鶴瓶も同じ。「無学 鶴の間」第1回目のゲストだった桂二葉が鶴瓶の追っかけで、その人が今や噺家になって2021年の「NHK新人落語大賞」に優勝したことに重ね、「ほんと、うれしいよね」と頷いた。
鶴瓶 でも俺、オッサンファンが多いのよ。そっちもオッサン多いやろ?
峯田 はい。ほんとオッサンばかりですよ。
鶴瓶 すっごいファンおるやろ?
峯田 でもあんまりお客さんのこと言うと、なんか、いろいろ言ってくるんですよ。例えば「可愛い女の子からもっと声かけられたい」とか言うと、「あ、ファンを差別するんだ」とか言うんですよ。でもそれは、バンドやってる俺が、とかではなくて、青年男子みんなが当たり前に持ってる感情じゃないですか!
鶴瓶 (笑)
峯田 まじで、男ばっかいらないんすよ! 俺と同じ髪型とかしてるんすよ! 50越えた男が! ジャージ着て、「峯田さーん」って。もっとポップな、原宿とかにいるような人来ないかなっていう話ですよ!
鶴瓶 ワハハハハ! でもやっぱ求心力があんねん、男の人は寄ってくんねん。ライブで客席に飛び込むやんか。ツアーの最初に飛び込んで、肋骨折って、ツアーの途中でもまた飛び込んで、アホちゃうか。
峯田 そこが僕の弱いところなんでしょうね。普通にやったら面白くないかなって。
鶴瓶 俺らもそうよ。普通にやったらあかんちゃうかなって思ってしまうよね。
峯田 ちゃんと音楽で、ちゃんと歌うだけで、表現できたらいいんでしょうけど。
鶴瓶 いやいや、それは自分の表現なんやから。だからオッサンはファンなんだから。「峯田ー! もっとやってくれ! もっと飛んでこい!」って。
ラストは弾き語り、鶴瓶からもリクエスト
話は、好みの女性や俳優としてやってみたいラブシーンなどあちこちに飛び、生配信ギリギリの危ないトークもしばしば。そのたび、「おい! 寸止め!」と峯田の言葉を遮りつつも、さらに吹っ掛ける鶴瓶。あっという間に1時間が過ぎ、「じゃあ好きな歌、歌って」と鶴瓶が促す。チューニング済みのギターを八木さんが抱え、ステージにいる峯田に渡す。
「最初は弦の押さえ方とかもわからなかったんです。ジミ・ヘンドリックスっているじゃないですか? あの人のライブビデオでギターを押さえているところの画面を一時停止して、こことここを押さえてって見様見真似でやってました。あとで知ったんですけど、ジミヘンは右利き用のギターを左で弾いてたんですよ。だから同じ音が出るわけないんですよ。でもなんとかなるもんですね」
まさにその頃、大学時代に書いた初期の名曲「BABY BABY」を峯田は弾き語りで歌い始めた。一緒に口ずさみたくなるメロディと甘酸っぱい歌詞、それを真っ直ぐに、時に力強く歌い上げる峯田の歌声に、観客からは自然に拍子が起きた。
「この曲は女の子と付き合ったこともないときに作った曲です。初期の曲は机上の空論丸出しの妄想だけで、純度がものすごく高いというか。今は書けないですよね。ちょっと計算が入ってしまうんですよね。でもまた一周して書けたらいいっすよね、こういう曲が」、そう吐露する。
最初は1曲だけの演奏の予定だったが、鶴瓶が「新しいアルバムだと『アレックス』もええよね。あと、最初のアルバムだと『東京』」と、何気なくリクエスト。それを受け、「あれは彼女と別れたときに作った歌」と峯田が歌い始めたのは「東京」。目を閉じ、魂を込めて歌う峯田のその歌声に、鶴瓶もじっと聴き入っている。
「ええ歌やなあ。またオッサンのファン増えたと思うわ」と鶴瓶。「なんか、気持ちが漢ですからね。ものすごい純粋な部分もあるし。だからいいんやろうなあ」
当日までゲストが誰かわからない「無学 鶴の間」は、それゆえ、観客にとって思いがけない出会いとなることが多い。つい2時間前まで峯田和伸のことを知らなかった人たちも、なぜ、鶴瓶が彼をここに呼びたかったのか、そして、なぜ、彼がこれほどに人を惹きつけるのか、その理由を、鶴瓶との会話の中で、そして何より、この2曲の弾き語りを通して知っていくのだ。そして終わる頃にはすっかりその人のファンになってしまう。そうやって人と人が出会うその面白さを、鶴瓶自身も楽しんでいるのだろう。そんな「無学 鶴の間」、3回目のゲストは、俳優としても活躍しながら、銀杏BOYZとして、さらに自由に、さらに実直に、聴く人の心を揺さぶるロックを作り続ける人、峯田和伸──。
プロフィール
笑福亭鶴瓶(ショウフクテイツルベ)
1951年12月23日生まれ。大阪府出身。1972年、6代目笑福亭松鶴のもとに入門。以降、テレビバラエティ、ドラマ、映画、ラジオ、落語などで長年にわたって活躍している。大阪・帝塚山の寄席小屋「無学」で、秘密のゲストを招いて行う「帝塚山 無学の会」を20年以上にわたって開催してきた。
峯田和伸(ミネタカズノブ)
1977年山形県生まれ。GOING STEADYを経て2003年に銀杏BOYZ結成。圧倒的なパフォーマンスとストレートに突き刺さる歌でバンドシーンを席巻。2003年、映画「アイデン&ティティ」で主演を務め、以来、映画、ドラマなどでも高い評価を受ける。最新アルバムは2020年リリースの「ねえみんな大好きだよ」。9月22日に東京・中野サンプラザ、9月28日に大阪・オリックス劇場にて銀杏BOYZ特別公演「君と僕だけが知らない宇宙へ」が開催される。