「無学 鶴の間」第1回レポート
ずっと鶴瓶の追っかけだった
大阪の帝塚山にある「無学」を舞台に、笑福亭鶴瓶がU-NEXTで新しい番組「無学 鶴の間」をスタートさせた。「無学」とは、鶴瓶の師匠・六代目笑福亭松鶴が住んでいた家を、鶴瓶が買い取って寄席小屋として改装した場所のこと。鶴瓶はこの場所で、20年以上にわたり、毎月ゲストを呼んで「無学の会」というイベントを開いている。誰がゲストなのか観客は知らされない。しかしこれまでそうそうたるゲストが訪れており、わずか74名で満席となる小屋で繰り広げられる「ここでしか聞けない」フリートークや、そこにいる観客だけに向けて披露されるゲストによる演芸、ライブを観ることができるとあって、毎回応募が殺到する人気公演となっている。
今回スタートした新番組「無学 鶴の間」は、本来であればそこに行かなければ体験できない「無学の会」の臨場感、親密さ、特別感を、生配信を通して味わえるというもの。鶴瓶は「これを通じて、無学の会のことも知ってもらえたら」と話す。
18時開演。まずは鶴瓶が一人、ステージに立ち、これから呼び込むゲストについて語りはじめる。
「僕のずっと追っかけだったんですよ。そしたら落語にはまって、落語家になって、NHK新人落語大賞を獲ったんです。2020年に出場したときは(審査員の柳家)権太楼のお兄さんにボロカスに言われたんですね。だけど次(2021年)にもういっぺん挑戦して、満点で通ったんですよ。権太楼のお兄さん、(桂)文珍兄さん、ほかの方も全員満点。こんなことあり得ない。そのときに『ありがとうございました』と言ったらええのに、『ジジィども、見たか!』言うたんです(笑)。ようそんな憎たらしい口叩くなあと思ったんですけど、でも権太楼のお兄さんもそうですけど、そんな子がね、自分に挑戦しにきてんねんなと理解しながら満点を出すというのは、出すほうもそうやし、行くほうもそうやし、面白いなあと。それが上方落語から出て、全部の噺家の中から選ばれた。これはすごいことですよ。それでは今日のゲスト、桂二葉さんです」。
自分の追っかけだった人が落語家になり、今、若手落語家のトップとなり、今日、同じプロとしてひとつの舞台に上がるという人生の不思議。そのことの面白さを鶴瓶自身が語ることで、そのエピソードを聞きながら、二葉が登場する前から、すでに見る側が「この人に会いたい」という気持ちになっている。そこにマッシュルームカットの桂二葉が照れ臭そうに登場。待ってました、とばかりに、温かい拍手が湧く。
鶴瓶 どうやったん? (NHK新人落語大賞の)決勝は。
二葉 たまたまあの日うまいこと行ったんです。
鶴瓶 審査員って、落語のすごい人がいてるわけよ。そこで「もうええ、やったれ!」と思ってやったん?
二葉 2年連続で決勝まで行かせてもらったんです。最初の年は全然あかんかったんです。情けないなあという感じになって、鶴瓶師匠に一回相談させてもらってね。なんで賞レースの決勝でアガってしまうのかということをお話聞いていただいたときに、もちろん名誉みたいなのもあるんですけど、私、賞金がほしい、と。賞金にもうちょっとで手が届くというときになったらドキドキする、と。
鶴瓶 ははは。生々しい奴やなあ。ほんで?
二葉 私、すでに賞金使ってたんですよ。優勝する前に「もう使っとけ!」と思って。それで鶴瓶師匠に「賞金でいつもドキドキしてしまいます」と相談させてもらったら、「なんぼやねん」と師匠が言わはって、「50万です」と言ったら、そしたら師匠が「やろか」。
鶴瓶 ワハハ! ヤラしいこと言うな! お前な、U-NEXTで流れているんやで。「やろか」って(笑)!
二葉 でもね、あ、50万くれはるんのや、と思って、それで気がラクになって、振り切ってやれたなというのがありました。
鶴瓶 お! あ、そう?
二葉 師匠のおかげです(笑)。
鶴瓶 ワハハ。ちょっと待ってな、俺、やってないやんか……(笑)。
二葉「古典落語に出てくるアホが好き」鶴瓶「お前が、落語に出てくる奴やな」
2人の間にはマイクが一本。何を話すか決まっていないフリートークゆえ、最初は緊張気味の二葉だったが、鶴瓶がどんどん話を振っていくうちに、まるで漫才のようなやりとりへと変わっていき、次々と笑いが起きていく。
鶴瓶 でもよかったよね。もちろんお金もうれしいけど、その噺家の厳しい人たちの前で獲った瞬間って、うれしかったやろ?
二葉 うれしかったですね。
鶴瓶 どこで言うたん? 「ジジィども、見たか」は。
二葉 獲ったあとの会見のときに「率直なお気持ちを聞かせてください」と言われて。うれしいとかそっちのけで、ずっと腹立っていたんで。それまで「女は高座返しだけしとけ」とか、「女には落語は難しい」とかそういうことを言われてきたので、すごい腹が立ってきていたんです。
鶴瓶 どれくらいのトーンで言ったんや?
二葉 かわいく言いました。「ジジィども、見たか、という気持ちです♡」って。
開演前、二葉の師匠・桂米二とも電話で話したと鶴瓶。そこから二葉が米二から稽古をつけてもらったときのエピソードが続き、師匠と弟子とのやりとりの中に、人間味溢れる米二の姿や二葉のトボけたキャラクターが浮き彫りになっていく。「古典落語に出てくるアホが好き」という二葉だが、鶴瓶も「お前が、落語に出てくる奴やな」と笑うほど、彼女自身がなんとも愛嬌あって、不思議な可笑しみがあって、面白い。
40分ほどのトークが終わり、「なんでも好きなの、演ってな」と鶴瓶。狭いステージに高座がつくられ、二葉が落語を一席披露。マクラで実際にあった自身と近所の生意気な子供とのやりとりを語り、そのまま古典落語「真田小僧」へ。そのとき、そこにいるのは「女の落語家」ではなく、二葉の高い声が生きた「悪知恵の働く生意気な子供」。本人のキャラクターにも合う、桂二葉にしかできない「真田小僧」に観客は引き込まれ、笑いが沸く。
一席終わると、鶴瓶が舞台に出てきて、2人で再びトークが始まった。
二葉 入りたてのとき、アフロやったんですよ。
鶴瓶 なんでアフロにしてたの? ……って、人に言われへんけどな(笑)。二葉を見て、なんでこいつアフロにしてるんやろと思たけど、あ、俺、こんなやったんやなあって思ってね(笑)。
二葉 落語やるときに、女性が舞台袖から出てくると「あ、女やな」と思われるんじゃないかなというのがあって。でもそのときにアフロの女が出てきたら、もう「女」とかよりも「こいつ何考えてんやろな」みたいな感じになるなと思ったんです。アホっぽいというか。それでアフロやってたんですけど、5年くらいやってたら、生えてこんようになって。
鶴瓶 ワハハ。
二葉 鶴瓶師匠がアフロしてたのも知ってたから、ああ、こんなことになって、と。
鶴瓶 おい!
配信1回目に落語家を招いた鶴瓶の思い
無学からの配信第1回目に落語家を呼びたいというのは、鶴瓶の思いだったと聞く。上方落語の普及に尽力した笑福亭松鶴邸跡の「無学」で会を開く意味、そこに、これからの落語界を変えていくだろう、桂二葉を呼ぶということ。脈々と続いてきた落語の縦と横の繋がりを思いながら、「厳しいことも言われるけれど、噺家の先輩後輩はいいものですよ」と鶴瓶が言うと、二葉が言う。「9月の大阪の独演会には権太楼師匠がゲストに来てくれるんです。お手紙を書いて」。
「お前も度胸あるなあ!」と鶴瓶。「噺家ってそういう繋がりがあるのよね。なんぼ言ったって、落語への思いは一緒やからね」。
こうして人と人と繋がりながら、誰でもない自分の落語を作り上げていく、この人の噺をまた聞きたい。この日、「ここ」に立ち会った誰もが、そして配信を見た誰もが、そう思ったに違いなかった。「無学 鶴の間」1回目のゲストは、2011年入門以来、「女に落語は難しい」と言われてきた落語の世界に革命をもたらすべく奮闘を続ける人、桂二葉──。
プロフィール
笑福亭鶴瓶(ショウフクテイツルベ)
1951年12月23日生まれ。大阪府出身。1972年、6代目笑福亭松鶴のもとに入門。以降、テレビバラエティ、ドラマ、映画、ラジオ、落語などで長年にわたって活躍している。大阪・帝塚山の寄席小屋「無学」で、秘密のゲストを招いて行う「帝塚山 無学の会」を20年以上にわたって開催してきた。
桂二葉(カツラニヨウ)
1986年8月2日生まれ。大阪府出身。2021年、若手落語家の日本一を決める「令和3年度 NHK新人落語大賞」で女性初の大賞を受賞した。これは審査員5人ともに満点をつけてのパーフェクト優勝。もともと鶴瓶のファンで、落語会に通ううちに落語に惹かれ、自身も落語家に。「無学 鶴の間」の第1回目だからこそ、これからの落語界を変えていくような落語家を迎えたいという鶴瓶の思いでゲスト出演となった。