「無学 鶴の間」第9回レポート
生放送、何を出すかわからない
「こんなところに出るのかな、という人です。みんなよう知ってる人や。毎日見てる人ですよ」
そう言って、鶴瓶が呼び込んだのは、フリーアナウンサーの有働由美子だった。この「無学 鶴の間」配信前日、冬休みを終え、ハワイから帰ってきたばかりの鶴瓶。舞台に現れた有働に、開口一番、「時差ボケで頭がハッキリしないから、ちゃんと、有働さん、頼みますよ」と伝えると、有働はすかさず、「前回は酔ってて、今回は時差ボケということですね!」と切り返す。
前回の配信は、芸ごとの人たちにとっての「正月」を意味する「事始め」と重なり、笑福亭鶴瓶一門が集まり、酒を交わしたあとでの「無学 鶴の間」だった。そのため、鶴瓶はまだ酒が残っていた状態。その配信を見ていたという有働が、そのときの様子を改めて振り返る。
「事始めで、落語家の皆さんがお稽古事を始める日だというので、皆さんでお祝いをしたというのが正しいのだけども、前回酔っ払って説明されていたので、『事始めで芸者さんとかがなんか始めますねん、しょうがなかったんですわ』っておっしゃっていたんです。芸者さんと何をして酔っ払ったんだろうと思ってました」
「違う違う。僕の言ってることが伝わってなかったんですね」と鶴瓶は苦笑いしながらも、「これ、オンエアされてますからね。ちゃんとせなあきませんよ」と自らに言い聞かせるように、有働に忠告する。
鶴瓶 ニュース番組も生やからね。
有働 でもニュースの場合はよっぽどじゃない限りは変な発言はしないので。
鶴瓶 俺らはほんまに怪しいことばっかりやから(笑)。
有働 だから何かあったら「お詫びして訂正申し上げます」とやりますので。
鶴瓶 そういう意味で言うと、いまだに頭上がらんのは、アヤパン(元フジテレビアナウンサーの高島彩)やん。アヤパンに会うたら謝らなあかん。アヤパンが入社2年目のときに、僕がフジテレビで変なこと(生放送で酔っ払って全裸)になってもうたんですよ。それでアヤパンが「放送で流していけないものを流してしまってすみません」って。可哀想に。2年目で謝るって。
有働 えっと、フジテレビで何されたんでしたっけ?
鶴瓶 やかましいわ!
有働 NHKだったからわからなくて。
鶴瓶 嘘つけ!
有働 (笑)。
鶴瓶 そういえば、有働さんが「あさイチ」の司会をやってたときね、俺と、内田裕也さんが、生でゲストだったことありましたよね。僕も「え、内田裕也さん?」、向こうも「え、鶴瓶なの?」ってなってる(笑)。朝の生放送で、内田裕也と俺が出るわけ!
有働 あったあった(笑)。
鶴瓶 その時の有働さんの一言が、「NHKも勝負に出ましたね」(笑)。
有働 「賭けに出ました」って言いました(笑)。失礼ですよね。
鶴瓶 なんやの、あれは。
有働 内田裕也さんも何言うかわからないじゃないですか。師匠も何出すかわからないじゃないですか。本当にもうねえ困ります。
鶴瓶 「言う」と「出す」ってどういうことや!(笑)
人のこと、よう笑ったりする
そこから鶴瓶は内田裕也とのエピソードを語り始める。樹木希林と仲が良かった鶴瓶は、樹木が内田と結婚したことについて「なんであんな人と結婚しはったん?」と訊いたことがあるという。すると、樹木はこう答えたそうだ。
「あの男には差別がないのよ」と。
鶴瓶 「誰にも平等なのよ。それが好き」って言わはった。いいでしょ、その言葉。
有働 その一点で結婚されたんですね。
鶴瓶 「差別もないけど、収入もない」ってね(笑)。でもその言葉を聞いて、内田さん、素晴らしいなって思いましたね。
有働 でも差別がないのは、師匠もそうじゃないですか。
鶴瓶 僕も差別はないですけど、なんか、人のこと、よう笑ったりしますからね(笑)。
有働 どういうことですか?
鶴瓶 だいぶ前ですよ。阪神電鉄に乗ったんです。それで、若者2人が前の席に座っていました。そのカップルがめちゃ笑っているんですよ。なんで笑ってるんやと思ったら、俺の横に女の人が座っていて、その女の人が鼻の穴をグーってほじってるんですよ。でもそんなん笑ったらあかんからね。俺は大人として笑わんようにしてたんです。そしたら、電車が長岡天神で停まって、その人、バーっと走っていって、「長岡天神、急行止まる、覚えとこ!」って言わはったんですよ。それで笑ってもうた(笑)。いまだに覚えてる。その人より俺が(長岡天神に急行が止まるって)覚えてるわ(笑)。でも、日常にはオモロいこと、ようあるでしょ?
有働 面白いことがあって笑える番組もありますが、ニュース番組だと笑えないですね。笑いそうになることが起きても、「続いてのニュースが」と続けます。
鶴瓶 それ、絶対笑わないの?
有働 でも、「笑ったらあかん!」ってなっているから、そんな悲惨なニュースでもないのに、かえって険しい顔になる(笑)。
鶴瓶 余計おかしいことになるわけや(笑)。でもニュースってね、何も見ないで言うやんか。あれはなんなの? 落語は反復して反復して覚えて、完全に頭に入れるけど、ニュースは昨日今日あったことやから反復できないやろ?
有働 それは全部プロンプター(原稿を表示する装置)です。
鶴瓶 プロンプターでも、俺、読むの、めっちゃ下手やから、「なんやったやろ?」ってすぐなるけど。
有働 プロンプター下手と言っても、総理大臣とかもまあまあ下手じゃないですか。
鶴瓶 ワハハ! これ、配信ですよ!
有働 (笑)。いや、下手というか、不慣れでいらっしゃる。
出会った人を大事にする
生まれは鹿児島だが、幼少の頃から兵庫、大阪で暮らし、NHKも最初の勤務は大阪放送局。今も実家は大阪にある。「無学」は鶴瓶にとってもホームだが、有働にとっても地元に帰ってきた感があるのだろう。鶴瓶と話していると、関西のイントネーションが時折出てきて、それがまた会場を和ませた。そして話は、有働がNHKのアナウンサーの中で一番仲がいいという小野文惠のエピソードに。鶴瓶もまた「鶴瓶の家族に乾杯」で小野とのコンビも長く、「大好きやねん」と話す。
鶴瓶 あの人、福島の、あの、え、何あれ?
有働 被災地?
鶴瓶 被災地!
有働 今日は「時差ボケ」だから。
鶴瓶 被災地の、住んではるところあるやん、あの……、あれ。
観客 仮設住宅?
鶴瓶 仮設住宅!!
有働 え? これ、全員トークで仕上げなあかんの?(と、会場を見渡す)
鶴瓶 仮設住宅に行ったときに、震災でお子さんを亡くした人と出会って、「私が子供になります」と言って、親子の契りを交わして、それからいつも福島に行ってはる。そんな人やろ? あの人は。
有働 本当に人を大事にする人なんです。だから文惠ちゃんちでご飯食べるときは、お世話になった蟹漁の方から届いた蟹とか、「家族に乾杯」で行って知り合いになった地域のお魚とかが届きます。
鶴瓶 ほんまにめっちゃ届く! 俺、この仕事全部辞めてもずっと食っていける(笑)。あそこの鮭、あそこのフキ、とか。
有働 毎年ですよね?
鶴瓶 あのね、そんなに好きじゃないものもくれはるねん(笑)。クワイ、箱いっぱい届くけど、あんなん、たくさん食べる?(笑) もちろん、「ありがとうございます」って言いますよ。
有働 直電ですか?
鶴瓶 直電ですよ。誰経由やねん。
有働 番号、向こうもわかりはるわけですよね。
鶴瓶 そうですよ。
有働 それで危ない目とか、オレオレ詐欺とかあったことはないんですか。
鶴瓶 向こうもどう騙していいかわからへんやん(笑)。
しかし小野同様、「出会った人を大事にする」のは有働もそうなのだろう。それは、8年間、NHKの情報番組「あさイチ」でともに司会を務めた井ノ原快彦が、昨年、ジャニーズ事務所のグループ会社「ジャニーズアイランド」の新社長に就任したときの、彼女のこんなエピソードからも伺えた。
有働 社長とか大変そうじゃないですか。大丈夫かなと思って、「とにかく身体、大事にね」ってLINEを送ったら、「大丈夫、すごく元気で楽しい」と返事が来ましたね。
鶴瓶 ああ、そうか。
有働 ちょうど私がやってる「news zero」の日に社長就任が決まったんですよ。「news zero」はわりとそういうニュースも流すのですが、私が知っている人だからといって、「社長就任おめでとうございます」とニュースで言うのも変じゃないですか。だから何も言わないことにしようとなったんです。でもVTRを見ていたら、ぽろっと「身体に気をつけてがんばれ」って、消えるような声で言ってしまって……。次のニュースに入っているのに、つい心の声が出ていたんですね。本当に弟のような存在なんです。
鶴瓶 「あさイチ」のコンビはめちゃよかったよ。イノッチも本当にいい奴やもんな。
有働 本当にそうです。気が利くし、男の子っぽいところもあるし、男らしいところもあるし、一緒にやっていて、本当にやりやすかったですね。
桂文珍に一番間違えられる
そこから2人の会話は、「誰に間違えられるか」という話へと発展。「鶴瓶さんは間違いようがないでしょ」と言う有働に、「アフロの頃は鈴木ヒロミツさん。それから一番多いのは(桂)文珍兄さんですよ。メガネかけてる噺家というだけですよ。だから世間はいい加減やで。ちゃんとしてほしいわな」とボヤく鶴瓶。頷く有働も、同じくNHKのアナウンサーの久保純子によく間違えられていたと笑い「『サインください』と言われると、悪い気はしないから、2回くらいサインを書きました」と笑う。
さらに、小林聡美に似てると言われるという有働に、「僕は小林聡美さんタイプが好きなんですよ。うちの嫁もそっちのタイプや」と言う鶴瓶。
鶴瓶 普通の男性ってなんかこう、着飾ったような「私、綺麗でしょ!」(とメガネを外して目を大きく見開き、「女」を全面に押し出すような表情をする)っていう女性が好きじゃないですか。僕はそんなんはあんまり好きじゃないんです。目の中になんか入れてる人、いてるやないですか。
有働 カラコンですか?
鶴瓶 カラコン!
有働 (自分の顔を指差し)入れます、入れてます、入れてますよ!
鶴瓶 入れてんの!?
有働 入れてますよ!
鶴瓶 ワハハハハハ! カラコン、入れてる雰囲気しないわ!
有働 カラコン入れている理由が、透明だと落としたときに色がわからへんから、縁が黒いとわかりやすいので入れてます。でもカラコンはだいたいみんな入れてますよ。
鶴瓶 目玉大きい人でもカラコン入れてるやんか。目玉の中に目玉入れて、そんなんいらんやん!(とあらためて有働を見て)え? 入れてんの?
有働 入れてますよ。だからどっちかというと、“そっち側”ですよ。「私を見て!」っていう。
鶴瓶 ちゃうちゃうちゃう!(笑) 絶対ちゃう!!
有働 そうですかねえ(とトボケる)。
鶴瓶 だけど、俺はショートカットで、胸が……。あ、配信やった(笑)。それで、化粧っ気のない人が好きなんです。すっぴんでいいんですよ。
有働 いやいやいや、でも男性の「すっぴんが好き」はだいたいなぁ(首をかしげる)。
鶴瓶 いや、俺は本当にすっぴんが好きです! 70のオッサンが「すっぴん好きや」と言ってもどうでもええねんけど(笑)。
有働 女優さんのすっぴん風は、普通の濃いメイクよりも時間かけて自然風に見せる、ものすごい上手いメイクさんがやってますから。
鶴瓶 ふふふ。
有働 それを見て、「あの女優さん、すっぴんみたい」って言われるの、エッて思ってます。それ、すっぴんちゃうやんって。
鶴瓶 1人で何思てるねん!(笑)
有働 50代、暇なんですよ(と鶴瓶を睨む)。
「いろんな取材してきたんやな。ええ仕事してるよ」
ほかにも、W杯を観ながら「三苫薫選手と結婚したら……」と妄想していた話や、1人で家飲みして、酔っ払ってウイスキーの瓶に英語で話しかけていた話、さらにはNHK在籍時代にキャスターを務めた「サンデースポーツ」で、種牡馬「ラムタラ」の種付けの現場取材をしてその状況に驚いた話など、ぶっちゃけトークが次々に飛び出してくる。
もともと飾らない人柄が魅力。しかしこういうトークライブは、有働のサービス精神がより発揮されるのか、そのエピソードの数々に「どういうことやねん!」と鶴瓶も大爆笑。もちろん「配信」であることを意識しながらも、テレビの収録とはまた違う、どこかプライベート感が強い「無学」だからこそ、そして話す相手が心を開かせる天才の鶴瓶だからこそ、ついついしゃべってしまう話やその時々に見せる表情の豊かさに、有働自身の人間の面白さが見えてくる。そうして、観客もそんな多くのエピソードに笑いながら、彼女が多くの人に愛される理由を感じ取っていくのだ。
「無学」にゲストを呼ぶときは、いつも事前にその人のことを調べる鶴瓶。27年間勤めたNHKを退社し、2018年、有働がフリーの道を歩き始めたのも、NHKの中でキャリアを重ね、管理職につくことよりも、ジャーナリストとして「現場」にこだわりたいという思いがあってのことと知る。実際、フリーになっての有働は、中東やアフリカ、また、震災を受けた東北の各地を訪ね、「news zero」のメインキャスターについてからも、現場に赴き、自分がそこで何を感じ、何を伝えるのか、その実践を続けている。
鶴瓶は有働がこれまでやってきた仕事を振り返り、「いろんな取材してきたんやな。ええ仕事してるよ」と、その姿勢を讃える。それはNHK時代にアメリカ総局特派員としてニューヨーク勤務していた3年間が大きな経験だったと有働は言う。その後、日本に戻り「あさイチ」のメインキャスターとして活躍することとなったが、帰国前は、そのままアメリカに留まり、仕事を続けたいという思いもあったそうだ。
有働 でもニューヨークに行ったときが38歳だったんですよ。ここで結婚せなあかんと思って、外国人の相手を探そうと思ったんですけど。
鶴瓶 ラムタラみたいなのを探そうと思ったの?
有働 むしろ逆で、そういう経験がそんなにないから、ラムタラみたいなのはイヤやと思ってました。そしたら、自分の家を借りて最初にテレビをつけたときの番組がゲイチャンネルで、それで男性と男性の行為の最中で、それがラムタラ並みで、これは無理やわ!って思って……(ふと我に返って)……え、こんな話して、私、「news zero」に戻れますかね!? めっちゃ心配になってきた! 月曜日、櫻井翔さん1人でやってませんかね!?
鶴瓶 ワハハ! いや、大丈夫大丈夫、それは大丈夫ですけど(笑)、でも外国人でもいろいろありますけどね。
有働 それは日本に帰ってきてから聞いたんですよ。
鶴瓶 だいたいわかるやろ!(笑) そんなテレビに出るような人は、ラムタラみたいな人ばっかりやんか。……いや、ちょっと待って! ラムタラは馬やんけ!
有働 あ、それで馬並みって言うのか。
鶴瓶 やかましいわ!
有働 ……(笑)。
鶴瓶 でもそういうこともあったやろうけど、結婚はもういらんような気がするな。
有働 45くらいまではめちゃくちゃ焦ってました。一番せなあかんことをしなかったという思いがあって。
鶴瓶 お言葉ですけど、それ以外のことでいろんなことできてるやん。
有働 それは自分ができてることやから当たり前に思ってしまうので、できてないことができてないとずっと思っていましたね。
鶴瓶 それはないもんねだりや。でもいずれ、そうやってお互い助け合える人が出てきたらええやんか。
その言葉に「そうですね」と頷く。現在、愛犬と暮らしているという有働。犬を飼い始めた頃は、自身がNHKと独立する時期と重なり、さまざまな心境の変化もあり、「前は生活も不安で、これで病気になって収入減ったらどうしようとか、自分の収入とか自分の心の安定とか、自分の都合で求めていたんですが、自分で稼げるようになったら、犬は最高やんって思うようになりましたね」と、今の思いを穏やかに語った。
「こんなに仲良くなりました」
あっという間の1時間半だった。「ずっと立ってこんなにしゃべって、楽しかったな」と鶴瓶が言うと、有働も「初めてのことで楽しかったです」と礼を言う。
そういえば配信の後半、有働はこんなことを言っていた。
「芸能界や放送の世界ってコントロールされて、出来レースじゃないかと思われていますけど、鶴瓶師匠みたいに、時々、空気を読まずにパーンと言ってくれると、出来レースじゃないんだなと思ってもらえる。そういう奇特な人がいるんだなと」
その意味では、有働自身もまた、そんな「奇特な」存在なのだろうと思った。言いづらいことも本音で語り、それは時々、テレビでは相応しくないと批判されることもあるだろうが、埋もれて消えていく声を拾い上げ、伝えることこそ、彼女のジャーナリストとしての姿勢とも言えた。
次の日、鶴瓶のInstagramには、お揃いのように白のハイネックを着た二人の写真が投稿され、「こんなに仲良くなりました」とあった。鶴瓶のその言葉にも、この配信を見たあとでは深く納得してしまうほどに。
「無学 鶴の間」、2023年最初のゲストは、フリーアナウンサー、ジャーナリストとして、現場にある声を、現場に行かなくては聞き取れない声なき声を聞き取り、自分の「声」で伝えることを大切にしている人、有働由美子──。
プロフィール
笑福亭鶴瓶(ショウフクテイツルベ)
1951年12月23日生まれ。大阪府出身。1972年、6代目笑福亭松鶴のもとに入門。以降、テレビバラエティ、ドラマ、映画、ラジオ、落語などで長年にわたって活躍している。大阪・帝塚山の寄席小屋「無学」で、秘密のゲストを招いて行う「帝塚山 無学の会」を20年以上にわたって開催してきた。
有働由美子(ウドウユミコ)
1969年鹿児島県生まれ、兵庫県、大阪府育ち。1991年NHKに入局し、「おはよう日本」「あさイチ」「紅白歌合戦」など数々の番組を担当。2018年NHK退社。現在は「news zero」(日本テレビ系)でメインキャスターを、また、「うどうのらじお」(ニッポン放送)でパーソナリティを務める。東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター客員研究員。著書に、これまでの人生を綴ったエッセイ「ウドウロク」がある。