OL升野は女性として成り立つギリッギリのライン
──各キャラクターの私服が絶妙でした。例えば主人公はパーカーにふわっとしたスカートというラフなスタイルが多かったですね。
バカリズム あれは住田さんの趣味です(笑)。
住田 あはははは(笑)。けっこういろいろ試したんですよ。最初はもうちょっと女の子っぽくしてみたんですけど、“女版バカリズム”にしようってことで思いっきり普段の升野さんに寄せたんです。升野さんってよくパーカー着てるんで。
──「バカリズムさんがOLだったら」を実写化しているわけですね。後輩のサエちゃん(佐藤玲)のかわいらしい服装もキャラにぴったりでした。ブログを書いているときから服装や趣味の設定ははっきりしていたんですか?
バカリズム そうですね。読んでいる雑誌の種類も決まってました。
住田 升野さん、最初にチャート表を見せてくれましたよね。それぞれ5人のキャラクターがこういう趣味で、彼氏がいる、いない、とか。
バカリズム スリーサイズとか、最寄り駅とか、どこの学校を卒業してるとか。そういったプロフィールから更衣室のロッカーの位置まで決めていました。そういうのをちゃんとしておかないと、つじつまが合わなくなってくるんですよ。「この人とこの人はロッカーが隣だからよく話す」とかチャートで見える形にして、参考にしながら脚本を書いてました。
──バカリズムさんが主人公を演じる上で「女装してる」と思われないように気を遣ったと伺いました。
バカリズム それは本当に僕のファインプレーというか(笑)。化粧もほぼしないし、いわゆる女の子っぽいしゃべり方をしないっていうのはけっこう重要だったと思います。
──自分のことを「俺」と言わないだけで、あとはバカリズムさんそのままという感じでした。
バカリズム 最低限、女性として成り立つラインのギリッギリのところをやっていましたね。
住田 「女装ドラマ」ではないですからね。逆に女の子っぽさみたいなものを極力排除することで升野さんが女性としてドラマの中に成立していると思います。
バカリズム 実は僕と女優さんたちのセリフの言い回しって、ほぼ同じなんです。本当にリアルな会話を台本にすると、男か女かわからないんですよ。普通のドラマだと「~よ」「~だわ」って書いて女性を表すと思うんですけど。そのリアルさを守るのはけっこう気を遣いました。
──すね毛を処理したり、パンツが見えないようにしたりといったことには気をつけていたそうですね。
バカリズム 無駄なところに視聴者の意識がいかないように。あ、あと若干絞りましたよ(笑)。あまりにもみんなよりデカイとそっちの笑いになっちゃいそうだから、当たり障りのない程度に。いわゆるバカリズムっぽい感じにしようと思って、自分にとってベストだろう体重に合わせました。
──宣材写真のバカリズムさんのようなイメージ?
バカリズム そうですそうです。
住田 「クランクインまでにもうちょい絞ってくるんで!」って言ってましたよね(笑)。
バカリズム 見る側に嫌悪感を与えないように、なるべく印象に残らないようにしました。
「男だったんだ」
──ほかのキャストのみなさんは「OL升野」を違和感なく受け入れてくれたんですか?
バカリズム メインの5人は控室も一緒で、1つのテーブルでお菓子食べたりお弁当食べたりしながらしゃべっていたので、ドラマの空気感と変わりませんでした。楽しかったですよ、「差し入れのこれ食べた?」とか。みなさん本当に僕のことを男だと感じなくなってきていて、撮影が終わって僕が私服に着替えると、引くんですよ。
住田 あはははは(笑)。「男だったんだ」って、本当にショックだったみたい。不思議ですよね。
バカリズム 距離を置かれるんです。ちょっとした休憩時間はいつも5人でたまってしゃべっていたのに、最終回のラストシーンの撮影のときは僕が男の格好をしているから入れてもらえないんですよ。「あ、お疲れさまでーす」みたいな。
──よそよそしいですね(笑)。
バカリズム 「騙された!」って言ってました(笑)。「もうあの生活はないんだ」「日常が奪われた」って。
──そのくらい女性として受け入れられていたのが驚きです。
住田 キャストのみなさん、終わったあとに「普通の作品に戻れない」って言っていたんですよ。「演じてる」っていう感覚ではなくなっているというか。もともと升野さんとはそういうふうにしたいというところからスタートしたので、狙い通りではあったんですけど。もうその感じがバーチャルですよね。
バカリズム この作品では、いかに自然にやってもらえるかが重要だったので、空気感は大事にしようと思っていました。控室にいるときからどうでもいい話をしていて、その空気のままセットに行ったり、会話をよりリアルにするために台本上にはないあいづちをあえてテンポが崩れるようなタイミングで入れたり。台本があるように見えないやり取りっていうのは女優さんたちと心がけていましたね。
──確かにキャストのみなさん、本当にOLなんじゃないかというくらい自然体でした。
バカリズム 台本を書くときはそんなに意識してなかったんですけど、僕と同期のマキちゃん(夏帆)、後輩のサエちゃんの3人でいるときと、小峰様(臼田あさ美)と酒木さん(山田真歩)っていう先輩を含めた5人でいるときの僕とマキちゃんの態度が微妙に違うんです。3人のときは自分たちが一番上だから、サエちゃんに対してちょっと強め。でも先輩がいるとちゃんと気を遣って抑えめにする。台本で書いたわけではないのに、なんとなくその空気感が漂っているのが面白かったですね。
住田 その感じすごいわかる。小峰さんと酒木さんが2人でいるときも、ちょっと違う空気でしたよね。お姉さん2人の感じ。自然とその空気になるんですよ。
──何気ないやり取りなのでどこまでも続けられそうじゃないですか。カットをかけるタイミングって迷いませんでしたか?
住田 いつまででもって感じでした(笑)。
バカリズム けっこう止めないんですよ。みんなでシュークリームを食べるシーンで、僕がサエちゃんにだけガチで食べさせようとしてて。住田さんも面白がってそれを止めないから、本当に苦しそうな顔をしているんです(笑)。ちょっともう笑っちゃってるくらいの表情で、「マジかこいつ、止めろよ」みたいな。
──第1話の“小峰ダンス”(囃し立てられた小峰様が後輩たちのコールに合わせて踊る)もひと節多い気がしたのですが。
住田 あはははは(笑)。
バカリズム そうです。それがリアルなんです。僕らの「小峰コール」がちょっとしつこいっていう。
住田 コールに応えるために小峰様が自分でダンスのバリエーションを絞り出してます。
バカリズム 僕らは何にも指示してないですよ(笑)。
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升野さんにしか書けない
- 「架空OL日記 DVD-BOX」
- 2017年10月18日発売 / ポニーキャニオン
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[DVD]
12312円 / PCBG-61470
あらすじ
目覚ましのスヌーズにイラッとしながら身支度をして、満員電車に揺られて出勤するOL「私」。擬人化した月曜に悪口を言って週初めの憂鬱さを晴らす。アフターファイブは仲良しの同僚とお茶したり、化粧品売り場をチェックしたり。ダイエットを決意してジムに行くけれど、誘惑に勝てずお腹はぽっこりのまま……。そんなOL升野と仲間たちの日常を描く。
- 原作:「架空OL日記1」「架空OL日記2」(バカリズム著 / 小学館文庫)
- 脚本:バカリズム
- 監督:住田崇
- キャスト:バカリズム / 夏帆 / 臼田あさ美 / 佐藤玲 / 山田真歩
©2017「架空OL日記」製作委員会
- バカリズム
- 1975年11月28日生まれ、福岡県田川市出身。マセキ芸能社所属。多くのテレビ番組にレギュラー出演するかたわら、毎年単独ライブを開催。11月22日には最新ライブ「ぎ」を収めたDVDが発売される。また「素敵な選TAXI」(関西テレビ)、「黒い十人の女」(読売テレビ・日本テレビ系)、「住住」(日本テレビ)など脚本を手がけるドラマ作品も多数。
- 住田崇(スミダタカシ)
- 2017年1月から3月に放送されたバカリズム脚本・主演のドラマ「住住」(日本テレビ)でも監督を務める。ほか監督作にはオムニバス映画「バカリズム THE MOVIE」、「潜入捜査アイドル・刑事ダンス」(テレビ東京)、「戦国鍋TV ~なんとなく歴史が学べる映像~」(tvkほか)、「怪獣倶楽部~空想特撮青春記~」(MBSほか)など。