コント動画を毎日アップする「JARUJARU TOWER」は間もなく3億回再生に届く勢いで、有料会員制ネタサロン「ジャルジャルに興味ある奴」の運営も軌道に乗るジャルジャル。主軸としている単独ライブの動員数も年々増加しており、アーティストや俳優などジャンルを問わずさまざまなファンから熱視線を浴びている。
お笑いナタリー初となる今回のジャルジャル単独特集では、その中でもジャルジャルに強いシンパシーを感じているというロックバンド・ヤバイTシャツ屋さんを迎えて座談会を実施した。どんなところからネタや曲を着想するのか、「誰も傷つけない笑い」がもてはやされる昨今、表現に対する葛藤はあるのか。さまざまなポイントで共鳴した2組のトークをお届けする。
取材・文 / 狩野有理 撮影 / 森好弘
題字 / ジャルジャル、しばたありぼぼ(ヤバイTシャツ屋さん)
ヤバT、ジャルジャル単独ライブの感想は?
──今回は初のジャルジャル特集を組むにあたり、ジャルジャルの大ファンというヤバイTシャツ屋さんにお集まりいただきました。
後藤淳平・福徳秀介 ありがとうございます!
──ヤバTのみなさんは昨年11月に開催された単独ライブ「JARUJARU TOWER 2019」に足を運ばれたということで、まずはそのご感想をお聞かせいただけますか?
こやまたくや いや、感動しました。最初のオープニングコントで「これなんやねん?」っていう感情にさせられてからの、どんどん伏線が回収されていくのが気持ちよくて。
しばたありぼぼ 芸術的なものを観ている気持ちになりました。
こやま うんうん。なんやろ、映画を1本観終わったときの感覚?
もりもりもと 僕としばたは同じ日に観に行って、「いや、すごかったね」ってずっと感想を言い合ってました。
しばた ジャルジャルさんのシュールな雰囲気がとても好きで。やっていることがど真ん中に見えてど真ん中じゃない、みたいな。
後藤 あはははは(笑)。そんなに褒めてくれるんや。
こやま 岡崎体育くんと一緒に観に行ったんですけど、体育くんもすごく感動していました。
福徳 うれしいなー。
こやま あれが好きなんですよね、リズムネタのときの腰の落とし方。
後藤 腰の落とし方!?
しばた あれ、好きで真似してます。
福徳 後藤がやるやつでしょ?
しばた はい(笑)。
後藤 ああー、リズム系のやつはちょっと腰落としてるかも。すごいところ見てるなあ(笑)。
こやま 僕、芸人さんの単独ライブを観に行ったのが初めてで。バンドでいうワンマンライブのような、メジャーな曲からカップリングまでがっつり楽しめて満足度がすごく高かったです。東京では4日間やっていましたけど、全部同じ内容をやられるんですか?
後藤 内容は一緒ですね。
こやま 素朴な疑問で、どういう気持ちで4日間同じ場所で同じネタをやるんですか?
後藤 あー、なるほど(笑)。バンドではあまりないですもんね。
こやま 僕らだったらセットリストを変えたり、MCを変えたりすると思うんですけど。
後藤 やるネタは一緒だけど、細かい修正点が毎回生まれてきて「昨日こうだったから今日はこういう感じでいこか」というふうにお客さんの反応と自分たちの感触を確かめながら少しずつ変えているから意外と飽きないんですよ。
こやま へえー、面白い。僕、倉本美津留さんも好きなんですけど、スタッフクレジットされている倉本さんはこの単独ライブにどんな関わり方をしているんですか?
福徳 単独ライブのときはいつも120個くらいネタを作っていて、そのうち自分たちで35個くらいまで絞ります。で、それを倉本さんや作家陣に4、5時間かけて全部見せる。
──その35本は実演するということですか?
福徳 そうです、そうです。
後藤 まあ、お手軽バージョンですけどね。
福徳 ほんで、みんなで最終的に12個くらい選抜して、「このネタはもっとこうしたほうがウケるんちゃうか?」とアドバイスをもらいながらブラッシュアップしていきます。
後藤 それと同時にライブ全体のテーマみたいなものを考えるっていう。
──100以上をボツにしてしまうのはもったいない気がしますね。
後藤 毎日YouTubeにアップしているのはその削ぎ落とされたネタなんですよ。昔はそのままボツネタとして埋もれていってたんですけど、掘り起こして成仏させている感じです。
──ヤバTのみなさん、今回の単独ライブで印象に残っているネタはありますか?
もりもと (ネタリストを見ながら)「野次ワクチン」めっちゃ面白かったです(笑)。
こやま 「野次ワクチン」って言いたくなるよなあ。
──「野次ワクチンちゃんと打てた奴」。事務所の社長が、野次を飛ばされることを想定して新人歌手に練習させるというネタでした。
しばた 後藤さんが歌っていた歌はどうやって作っているんですか?
後藤 感覚ですね。練習で思いついたメロディをそのまま本番でも歌うんですけど、今回ラスト2公演くらいでネタ中にメロディを見失ってしまって。
こやま えー!(笑)
後藤 ちゃんと作っていないから思い出す手立てがないんですよ。途中で「あれ? なんか歌が安定せえへんな」って思っていたらどんどん違う歌になっていって。でもあのネタ、何回も同じ歌を歌うじゃないですか。だから1回目に間違えて歌ったやつをその場でまた覚えておかないといけなくなって、てんやわんやでしたね。結局そのまま最終日までもとのメロディを思い出せなかった。
しばた あはははは(笑)。
福徳 でも、バンドの方は野次なんて飛ばされることはあまりないですよね?
こやま 野次というか、Twitterで文句を言われたりはしますね。「賑やかしのバンドが!」みたいな。
後藤 うわ、嫌やなあ。
こやま そういうのに都度都度反応してしまって、僕は野次ワクチン打ててなかったです(笑)。
もりもと ライブ中、こやまさんが僕のことを「もりやま」って普通に呼ぶノリがあるんですけど、それをお客さんが「もりやま!」みたいにやり出したときはちょっと……。もうガン無視するしかなくて。
後藤 あっはっはっは!(笑) わかります。他人に言われると冷めてしまうっていう。
もりもと そうなんですよ(笑)。もうちょっと僕のおしゃべりが上手だったら面白く変換できるのかなーとかも思うんですけど。ジャルジャルさんはお客さんからイジられてしまうことはないですか?
福徳 ちょいちょいあるけど、そのときはほんまに迷って、僕も基本無視ですね。上手な人はうまいこと返したりするから、夜シャワー入りながら「あー!」ってなります。
こやま・しばた・もりもと あはははは(笑)。
しばた 「語(ご)りをやりに来た奴」も面白かったです。最初「ごり」ってなんやろ?って思ったまま見ていました。
──単純にどういう発想なんですか?「かたり」を「ごり」だと思い込んでいるナレーター、というコントの出発点は。
福徳 そのまんまです。テレビ観てたら、「語(ご)り」って書いてあったんですよ。
しばた え?(笑)
福徳 実際は「語(かた)り」ですけど、ちょうど物で「り」が隠れていて「語」っていう字しか見えなかったんです。「語」しか見えてない場合、やっぱり「ご」と読むじゃないですか。あれを「かた」とは読まない。
しばた なるほど(笑)。
福徳 で、「語(ご)り」なんやなーって思って。
もりもと そこから拾い上げてっていう感じなんですね。
福徳 そうそう。「ウニ踏んで死んだ奴」というネタもそうです。「ウニ」の水揚げの映像がニュースで流れていたのを観たっていうだけ。
こやま・しばた・もりもと えー!
こやま そっからネタになるんや。
福徳 ちなみに、「語り」と「ウニ」は同じ番組です。
こやま・しばた・もりもと あははははは!(笑)
DAMチャンネルを見ていて思いついたネタ
もりもと ジャルジャルさんのネタはいつもYouTubeでも見させていただいていて、最近だと「教習所に通う関東出身のツッコミ下手な奴」にグッときました。
もりもと こやまさんとしばたは関西出身なんですけど、僕は静岡県出身でお笑いに疎かったんです。バンドを組むにあたり、こやまさんに「お前はツッコミ担当。俺らがボケるから」と言われ、そこから「お前のは関西人のノリとちゃう!」みたいな厳しい指導が入るようになって……。そういうこともあったのですごく共感しました。
後藤 あはははは(笑)。でも関西出身じゃない方から見てどうなんですか? 腹立ちません?
もりもと グサグサ刺さる部分はあります(笑)。でも、そこにスポットを当てるんだ!っていう着眼点にハッとさせられました。ジャルジャルさんのネタって「こういう奴いるよな」って共感できるような、人間ドラマが垣間見えるものが多いと思うんですが、実際そういう人を見つけてネタにしているのか、まったくの架空の話なのか、どちらですか?
福徳 あの「関東出身のツッコミ下手な奴」のネタは、カラオケボックスでネタ合わせしているときにDAMチャンネルを見ていて思いつきました。
もりもと あー(笑)。
福徳 あれって一生見ていられるくらいむっちゃおもろくて(笑)。ミュージシャンの方たちのやり取りが……。グループ内だけのノリとか、MCが拙い感じとか、いろんなものが醸し出されていて好きなんです。画面の中にいる人たちがツッコミを入れたときのわずかに宙に浮いた感じが、モニター通り越してこっちまで伝わってきて。
こやま・しばた・もりもと あはははは!(笑)
後藤 出たことありますか? DAMチャンネル。
こやま あるんちゃう?
しばた 1回出たっけ。
もりもと 高めのイスに座って。
福徳 そうそう! あれ、難しそうですね。
しばた あははは(笑)。
もりもと 僕らも実はジャルジャルさんに影響を与えていた可能性が……。急に恥ずかしくなってきました(笑)。
福徳 いやでも、あれは全員が変なんじゃなくて。たまにすごい強者がいるんですよ。
──こやまさんのお笑い指導が厳しかったということですが、その笑いに対するストイックさは音楽活動にどう生かされているんですか?
こやま 昔、ライブのMCを全部書き出していたんですよ。
後藤・福徳 えー!
しばた 台本を作っていて。
後藤 それは笑かすための台本?
こやま そうです、そうです。
しばた 一語一句書いていました。
福徳 すっげえ。
こやま 今思えば内容は全然面白くないんですけど、当時は面白いと信じてやっていましたね。「ここでこう言う。で、もりもとがこうツッコむ」みたいなことを全部書いて、それを読みながらライブしていたんですよ。そのときの高ぶった感情を叫ぶ、とかまったくしなくて。
しばた ダンボールとか模造紙とか、物を使ったりもしていました。
──笑わせることに労力を費やしていた。
こやま そうですね。
しばた ライブ終わりの反省会はMCのことばっかりでした。
こやま 音楽の話は一切しなくて。「あそこウケへんかったなあ」って。
しばた 「間が悪かった」とか。
福徳 じゃあ、「いい曲作ろう」と「面白いこと考えよう」の比率だと……。
こやま おもろいこと考えてるほうが多いかもしれないです。
福徳 そうなんや(笑)。
後藤 おもろいこと思いついて、「あ、これに合う曲にしよう」みたいな?
こやま っていうのもあります。
後藤 常におもろいこと考えてるってこと?
こやま そうですね。だから、面白いと思われたくて曲を作っているっていう部分もあります。
後藤・福徳 へえー!
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“肩幅の歌”を聴いて価値観が限りなく近いと思った
2020年4月17日更新