千鳥の2人にアドバイスをたくさんもらった
──挑戦者8組の魅力を見せるために、ほかに気をつけたことは?
挑戦者自身を驚かせるお題やセットを作ることは必須でした。なので、セットが下からせり上がって出てくるというのもサプライズの1つです。お題については千鳥さんの力をお借りしました。打ち合わせを何度かさせていただき、芸人さんのことを本当に一番わかっているから「こういうお題のほうがいいかも?」みたいなアドバイスもたくさんいただいて。そうやって芸人さんがワクワクするものが作れたから、収録がうまくいったのかなと思います。皆さん能力があって地肩がある人たちなので、自然と追い込まれるスタイルを作ることで、逆に魅力が出る。芸人さんたちを信頼してよかったです。
──特に「この場面でこの芸人さんは期待を超えてきた」ということはありましたか?
1問目の「こんな医者は嫌だ!」は、しかもその「まだ見たことのないパターン」を求めるお題だったのでいきなりハードルが上がっていて、どういう空気になるんだと怖かったんです。そんな中、せいやさんと秋山さんのコンビがトップバッターで行ってくれて気持ちが楽になりました。そのあとくるまさんと野田さんの体を張ったネタもめちゃくちゃ面白くて、会場の空気を序盤にすごく作ってくれました。出場者のみなさんが何をやってもいいように、裏に衣装や小道具をすごくたくさん用意したんですよ。スーツも女装用の衣装も、あらゆるものを。
──万全に用意されたんですね。
この間、くるまさんが「『THEゴールデンコンビ』のオペレーションがよすぎて感動した」と言ってくださっていたみたいで。普段「有吉の壁」で即興には慣れていたのがよかったんだと思います。「有吉の壁」は、あの速度とテンポ感で撮影を止めないので「今からスタンバイします」みたいなことがない。かぶせたいときにかぶせられないとテンションが下がるし、仕切り直すのは面白くないんです。だからこの番組も、ステージ間の準備はありますけど、ほとんど止めていません。それは大事にした部分。お客さんの前で笑いがちゃんと増幅していくようなオペレーションをやったつもりです。
──千鳥のお二人の役割はどうご覧になりましたか?
ライブ感で言うと、やっぱりすごいお二人です。千鳥さんと打ち合わせしたときに「各芸人のネタが終わったあとに、ちょっとしゃべったほうがいいかもしれないですね」という話もしました。ネタが終わったあとすぐに次のネタに行くのではなく少しクロストークをする。たしかに千鳥さんが「なんでそのネタやったの?」と聞いたり、ネタを解説してくれたりして、すごく空気を作ってくれるんですよ。それが全部適切で。収録が半日くらいあったのでお客さんのテンションが最後まで持つのか心配していて、それは千鳥さんも同じだったんですけど、「お客さんを途中で入れ替えるのも違うよね」と話しました。入れ替わったら、かぶせたものが伝わらないから。千鳥さんが半日もダレない空気を作ってくれたので、MCをお願いして本当によかったなと。
──もともとMCは最初から千鳥さんに決めていたのでしょうか?
そうですね。早い段階でお願いをしました。このライブショーで芸人さんたちが思い切って即興ネタをして、MCとの掛け合いができる。その信頼があって身を委ねられるという点で今本当にMCをやってほしい2人です。「チャンスの時間」(ABEMA)も含めた普段の芸人さんとの掛け合いが、この番組に生きている感じはしますね。
優勝コンビはとんでもない地肩と勝負強さ
──1億円かけたという豪華セットのこだわりを教えていただけますか?
1億円もかかるとは思っていなかったんです(笑)。セットが上がってくる機構を作ることにこだわりました。フジテレビのスタジオで撮ったんですが、デザインは鈴木賢太さんという「IPPONグランプリ」「ENGEIグランドスラム」などフジテレビのデザインを手掛けられている方にお願いしました。機能とデザインがちゃんと一体化していてすごいんですよ。LEDの枚数の使い方と面積、そしてあの色使いは世界に出ても目を引くと思います。デザインを何パターンか描いてくださったんですけど、イチ押しだったのがこのピンクとグリーンの色使いでした。鈴木さんは当日、リハーサルから“ベタづき”でいらっしゃって。その収録日には「THE SECOND」の生放送があり、それも鈴木賢太さんのデザインだったので、当日そこを渡り歩きながら、全部リハとかも立ち会っていただきました。自分が日本テレビ出身で、フジテレビの方だから一緒に仕事することはないんだろうなと思っていたんですが、こういう機会ができてうれしかったですし、仕事をお願いして本当によかったです。
──現在のフジテレビを支えているデザイナーの方の1人なんですね。
僕もけっこうフジテレビの番組を見てきたのですごく楽しみにしていました。セットも技術さんもすごかった。「“オールテレビ”でがんばろう」みたいな気持ちは芽生えていましたね。ディレクターもテレビ地上波のゴールデン帯を演出として背負えるような皆さんのドリームチームでやっていて。こういうことはあまりないんですけど、いろんな人と一緒に作るのは大事だなと改めて感じました。テレビが好きだから、こういうコンテンツをお笑いで作ろうとか、局をまたいで連携しようとか、もっとテレビでもやってもいいだろうし、やれる可能性もあると思っています。
──いろいろなお題やセットの設定で、テーマ選びやバランスについて意識されたことはありますか?
「意表を突くこと」です。前半に出てくる「宇宙」が舞台のお題は、「普通は後半のお題だろう」とかツッコまれたりもしたんですけど(笑)。そのあとゲストが出てくるお題は逆にすごくシンプルにして、とにかく「どうやって裏をかくか」を意識しました。それによって芸人さんに燃えてもらう。バリエーションもめちゃくちゃ考えました。ここにも千鳥さんのお力添えが大きかったですね。
──最終決戦では木村佳乃さんと中村倫也さんを起用されました。
いろんな形式を考える中で俳優さんがボケたりするのはちょっと違うだろうと思っていました。戦いは全員平等でないといけないので、この賞レースの本質には当てはまらない。それをどこまでも排除して、芸人さんに俳優さんをどう掛け算したら笑いとして爆発するのかなと考え抜くと、ああいうスタイルに着地しました。ここは作る上でもすごく悩んだところですが、芸人さんが力を試すところを見る番組、というのはブレなかったと思います。今回出てくれたゲストの方には理解していただいて、あの形で出ていただいたのはすごいことだし、お笑いにリスペクトもあって最高の俳優さん方でした。
──そんな最終決戦を経て、とあるコンビが優勝しましたね。
すごいなと思いました。とんでもない地肩と勝負強さです。
──これから番組を視聴するお笑いナタリーの読者に向けて、最後に橋本さんから伝えておきたいことを教えてください。
自信を持って「観てほしい」と言える番組になりました。お笑いナタリーを読んでくださっているような、お笑い好きな皆さんに広めてもらえるコンテンツだと思います。「この番組って面白いね」とぜひSNSで伝えてくれたらうれしいです。お笑い好きの人の裾野がさらに広がると思います。
プロフィール
橋本和明(ハシモトカズアキ)
1978年生まれ、大分県生まれ。2003年に日本テレビに入社し、「有吉の壁」「有吉ゼミ」「マツコ会議」といった番組の企画・演出などを務める。日本テレビ退社後、2023年に株式会社WOKASHIを設立した。2024年にはショートコントコンテンツ「本日も絶体絶命。」の総合演出を新たに手掛けている。