バナナマン、ノリと遊びが詰まった最新作「bananaman live O」盟友オークラによる解説も (3/3)

バナナマンは芸人でありエンターテイナー

コント「Outshine」のワンシーン。

コント「Outshine」のワンシーン。

Outshine

日村がやってきたのは、不快で深いものを展示する「ふかい展」。同窓会帰りという彼がトレンチコートの下に着ていたのはまさかの格好。生ドラム演奏をバックに思いの丈を独白する。

設楽 こういう、雰囲気のあるネタは昔からたまにやっていますね。生のドラム演奏を入れたり、ここまでのコントと繋がっている部分を入れたり。

日村 衣装に仕掛けを施してもらったり、ダンスの先生に振付してもらったり、けっこうちゃんと作っているよね。


オークラ解説

90年代頃にシティボーイズさんがやっていたような、1つ目線をつけた笑いや世界観はもともと好きで、昔からこういうタイプのネタはやっていましたが、今回久々にできてやっぱりいいなと思いました。こういうネタが入ると全体が締まるし、いいアクセントになりますよね。はっきりとした笑いどころがない、親切ではないネタって怖くてなかなかできないですけど、しっかりウケているのを見ると、バナナマンに対するお客さんの信頼感があるのがわかります。こういうショーっぽいものも演じられるバナナマンは芸人だけれどエンターテイナーでもあるなと感じます。


コント「Ominous」のワンシーン。

コント「Ominous」のワンシーン。

Ominous

娘がテニス部の合宿先でとある騒動の渦中にいると設楽から聞かされる日村。設楽が同じくテニス部の息子に電話して様子を伺うと、次々と新たな出来事が巻き起こっているようで……。

設楽 話のメインになっている子供たちは出てこなくて、親同士の会話で成立させるっていう面白さですよね。時間がどんどん進んでいくコントだから覚えるまでは大変なんですけど、覚えちゃうとやってて楽しかったです。

日村 お芝居みたいだから楽しいよね。

──最後のコントだけ背景のセットが変わりますね。

設楽 そうなんですよ。最近はラスネタの飾りにお金をかけるのが流行りになってて(笑)。見た目がガラッと変わってます。


オークラ解説

これまでは本人たちが事件に巻き込まれるという設定で作り続けてきましたが、今回は自分の子供の話。親としてなんとか問題に介入しようとするんだけど、子供たちが自分で答えを出してしまうというのは、ありそうでなかった設定です。今のバナナマンの年齢だから説得力があるし、こういうネタができるとまた一段階先に進めるような気がして、個人的にも好きな1本です。

30年続けて出てきたバナナマンの色

──バナナマンは今年で結成30周年の節目を迎えます。こうやってほぼ毎年単独を続けてこられたことを振り返ってみていかがですか?

設楽 自分で言うのもなんですけど、こういうのって奇跡ですよね。これは武道館のときにすごく感じたことで、その日を押さえて、そこに合わせて練習して準備してきても、例えば当日にインフルエンザやコロナになっちゃったらもうできないわけじゃないですか。単純に、こうやって何かをやってお客さんが観に来て成立するって、本当にいろんなことがうまく噛み合って実現していることだから、自分で「奇跡」って言うのはなんだかバカっぽですけど、「よくやってんなあ」とは思います。

日村 本当だよね。お客さんが毎年楽しみにしてくれているからこそ開催できてる。武道館であれだけたくさんのお客さんを一気に目にして、「こんなに応援してくれているんだ」っていうのをいつも以上に体感できたんですよ。あの光景は特別でしたね。30年も続けてこられたのは本当にみなさんのおかげだなと改めて感じました。

バナナマン

バナナマン

──この30年でネタの作り方や演じ方は変わってきていますか?

設楽 見せ方はいろいろ変わってきましたけど、根本の作り方はそんなに変わってるとは思わないです。蓄積してきた技みたいなものは増えてるかもしれないですけど。

日村 稽古場でやる夏の合宿みたいなものは毎年やってますし、スタイルは変わらないですね。演じ方はもちろん30年もやっていれば考え方も変わるし、テクニックは付いてると思います。僕はもうちょっとスカしてましたね。若い頃は。

設楽 日村さんはスカしてた(笑)。「こういうふうにやってるほうがいいんだろ?」みたいな気持ちがどこかにあったよね。バナナマンの最初の頃は見よう見まねでやっていたから、コントのキャラクターには入っていたけど、自分の色みたいなものは出てなかったと思う。本人の“ニン”が出るようになった時期はどこかであったのかもしれないです。だから今回、「どんなネタやってもバナナマンの色が出てる」って言われるのは、知らないうちに身について変わってきたことなのかもしれないですね。

オークラ インタビュー
オークラ

「bananaman live O」の感想

今回の単独は特に、バナナマンだからできる単独ライブになっていると思います。そこまで繰った入り口のコントではないけど、いざ始まるとバナナマンの2人にしかできない話が繰り広げられる。面白どころが1つのラインだけじゃなく、2人のやり取りそのものの面白さが全部のコントに生きてきていて、それはバナナマンにしかできない表現だし、そこを楽しむコントは今後いくらでも作れそう。また一つ新しい段階に入ったなと思います。今、賞レースを目指す芸人たちは設定の切り口を重視した、4~5分のネタを量産する傾向にありますよね。そういう中で、バナナマンのコントはより際立っていると思います。

「O」というタイトルについて

「O」のポスタービジュアルは、バナナマン2人の間が空いているんですよね。本人たちははっきりとは言いませんが、この真ん中のところに僕がいる、みたいな設定なのかなと。僕のほうもわざわざ「これってそういうことですか?」とは聞かないですけどね。時計も(自分の誕生日を表す)12時10分になっているとか、細かいことまで考えてやってくれていると思うと、粋というか、ありがたいです。「かけがえのない」という意味ではこちらもそう思ってます。「おじさん」っていうのはそっちのほうが年上ですけどね(笑)。

「bananaman live 2023 O」ポスタービジュアル

「bananaman live 2023 O」ポスタービジュアル

オークラが見てきたバナナマン

バナナマンは20年ほど前からすでに自分の年齢に沿った設定のコントをやっていました。バナナマンのコントで、おじいちゃんの設定、子供の設定、学生の設定はあまりありませんよね。ただそうなると、今50代のバナナマンが新入社員や女性に振り回されるような役はできないから、どうしても描くコントの世界が狭くなってくるし、以前やった設定と被ってしまうこともあります。そういうことに頭を悩ませたり、「なんのために単独ライブをやっているのか」と考えたりしたことも少なからずあったんじゃないかと思いますが、コロナで単独が2年間ストップして、「H」で復活したときに「バナナマンとしてクリエイティブなものを見せていこう」という欲求が出てきた。それが今回の「O」では、「もっと楽にコントを楽しんでもいいんじゃないか」という域に到達したような気がします。いい意味で肩の力が抜けているというか、バナナマン2人が楽しいと思うことをそのままコントに落とし込んでいるなと感じます。

今まではずーっと、みんなで稽古場に集まって、朝までダラダラやるという若手のようなやり方で単独ライブの準備をしてきましたが、さすがに近年はちゃんと帰っていますね、それぞれの家に(笑)。みんな歳だし、いつまでも稽古場に寝泊まりできないので。効率よく進められるようになったという意味ではライブとして成長したなと思う反面、夏休みが終わってしまった感もあります。いつも単独ライブのあと、ラジオで「稽古場事件簿」という稽古中に起きたエピソードを振り返る企画をやっているんですが、以前より事件の数が減ってきていて。事件が起きるほど稽古場にずっといなくなったというのは、少しさみしくもあります。

昔から変わらず、バナナマンは独自性がある芸人だと思います。今の芸能界の、いわゆるダウンタウンが作ったお笑いの文脈や芸人らしさ、そのヒエラルキーの中に入ってはいると思いますが、本人たちがやっていることはまったくそれっぽくない。バラエティの第一線にいながら、独自性のあるものを30年間やり続けてきたからこそ、すごく独特な存在になっていると思います。芸人らしいところもちゃんとあるし、芸人らしくないところもある。赤えんぴつも、芸人が歌うにはいい歌すぎるじゃないですか(笑)。でもそれも1つのショーだし、コントにもなっている。今のお笑い世界にバナナマンみたいな芸人がいるのはいいことだなと思います。

立ち位置や生きざまばかりを求める芸人が増えている中で、面白いものを作って披露するという一番シンプルなことを常にやり続けているのがバナナマン。しかも毎年おなじみじゃなくて、進化させたり試行錯誤したりしながら、「今年のバナナマンはこうなんだ」っていうのを自分たちで考えて作る行為は、クリエイティブな分、すごく大変なんです。お金になるのかとか、意味があるのかとかはわからないけど、それでも続けているのは一番お笑い芸人として誠意があることなんじゃないかなと僕は思います。武道館ライブも成功して、単独以外の新しいこともやれると感じたので、2人へのメッセージは「これからもまだまだ一緒にやれたらいいですね」でお願いします(笑)。

バナナマン

バナナマン

プロフィール

バナナマン

写真左 / 設楽統(シタラオサム)
1973年4月23日生まれ、埼玉県出身。

写真右 / 日村勇紀(ヒムラユウキ)
1972年5月14日生まれ、神奈川県出身。

1993年に結成し、「ラ・ママ新人コント大会」でデビュー。「YOUは何しに日本へ?」(テレビ東京)、「バナナサンド」(TBS)、「奇跡体験!アンビリバボー」(フジテレビ)、「沸騰ワード10」(日本テレビ)、「バナナマンのせっかくグルメ!!」(TBS)、「乃木坂工事中」(テレビ愛知)、「JUNK バナナマンのバナナムーンGOLD」(TBSラジオ)などに出演中。ホリプロコム所属。

オークラ

1973年12月10日生まれ、群馬県出身。1990年代にお笑いコンビ・細雪(ささめゆき)として活動し、解散後にバナナマン設楽の誘いで放送作家・構成作家に転身した。バナナマン、おぎやはぎ、東京03らのライブに携わるほか、「ゴッドタン」(テレビ東京系)、「JUNK バナナマンのバナナムーンGOLD」(TBSラジオ)などの構成を担当。ドラマの脚本も手掛けており、直近では2024年1月期に「となりのナースエイド」(日本テレビ系)が放送され、4月には篠原涼子とバカリズム主演の「イップス」(フジテレビ系)がスタートする。Huluドラマ「漫画みたいにいかない。」では監督を務めた。