「S」は衝撃だった
──ライブタイトルがアルファベット1文字というのは今までにありませんでした。野暮な質問かもしれませんが、なんの「S」なんですか?
設楽統 僕、設楽の頭文字を取って「S」です。直球すぎて恥ずかしいという気持ちもあったんですが、ここで1回、新たな気持ちでやってみようと思い切って付けました。
──設楽さんの冠というわけですね。日村さんはこのタイトルになると聞いてどう思いましたか?
日村勇紀 タイトルの話はラジオのスタジオに設楽さんと(作家の)オークラと3人でいるときに聞くことが多くて、今回も同じシチュエーションで告げられました。びっくりしましたね。今まで何かしらの言葉や文章だったのが、「S」一発だったから。「S」って聞くと「SM」の「S」を思い浮かべる人が多いと思うんですが、僕はやっぱり設楽の「S」だってすぐ連想できたので、自分の名前の頭文字を付けたというのは衝撃でした。
設楽 何年かごとにシリーズっぽくしているので、次は日村の「H」でやろうということも話しました。気が変わって「H」をやらない可能性もありますけど(笑)。
日村 これで全然違うアルファベットだったらすごいよ(笑)。次は「H」でやるっていう話はけっこう聞いてますからね。
──以前お話を伺ったときはライブの作業プロセスとしてビジュアル撮影が最初だとおっしゃっていました。今回もそうですか?
設楽 そうです。本当の本当を言えば、この2人が着ているスーツを作るところからなんですが。
──ここ数年はアメリカ映画っぽい雰囲気が続いていましたが、今回はテイストが異なります。
設楽 今回はイタリアンな感じになりました(笑)。これまでは自然な雰囲気で談笑していることが多かったんですが、2人がカメラをまっすぐ見て笑っていないというのも今までにあまりないですね。
(マネージャー) このスタジオの名前も「S」だったんですよ。
──へえ!
設楽 「S」のスタジオを探したわけではなくて、偶然。
日村 それすごいよね。
設楽 でもこのスタジオの方はうちが「S」だからタイトルも「S」にしたんだって思っているかも(笑)。
──ネタ作りは日々少しずつ書き溜めていくのか、「やるぞ!」とスイッチを入れてやるのか、どちらですか?
設楽 「やるぞ!」ですね。1カ月くらい稽古場を押さえてもらっているので、家では思いついたことをメモする程度でほとんど稽古場でやっています。荷物も全部置いていますし、日村さんやオークラが仕事で来られないってときでも1人で行きます。
──泊まることもありますか?
設楽 週末はわりと泊まっていました。泊まるというか、次の日まで続けてやっている感じ。金曜日はラジオがあるので、ガッとやれるのが土日しかないんですよ。ノッているときはそのままやりたいのでぶっ通しで稽古場にいました。日村さんも稽古場で寝てたっけ?
日村 いや、俺は1回帰ってた。
設楽 日村さんって、ちょっと時間が空くとなんか帰るんですよ(笑)。
日村 シャワー浴びたりしたいじゃない。稽古中の楽しみといえば、お鍋。もうお相撲部屋みたいだった。
設楽 日村さんって相撲にも鍋にも「お」を付ける(笑)。でも本当に相撲部屋のように鍋ばっか食べてたね。
日村 そこらの相撲部屋よりもうちのほうが安くてうまい自信あるもん。“バナナ部屋”の味、みたいなものもあるし。
設楽 飯食うとき、日村さんは裸で食べるから「横綱」って呼ばれているんですよ。で、オークラが大関。鍋ってヘルシーだから、うちの横綱と大関はどれだけ食べてもいいって言うんですけど、そこに「ちょっと蕎麦入れてみようか?」って。
日村 そうそう。結局、炭水化物も食べちゃう。
コンビ結成当初から決めていたこと
──各コントのタイトルも「S」にちなんでいますが、ネタはどういうふうに作っていったのでしょうか。
設楽 まず「S」で始まる英単語をいろいろ書き出して、そこから発想してみようかっていう作り方でした。その単語が必ずしもタイトルとして残っているわけではないんですが、例えば「START」とか「SAY」とか、単語から設定を考えてみたり。今までとは違うネタの出発点でしたね。
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「ボスがやられた!」。敵討ちすべくアジトへ乗り込もうと作戦を立てる2人だが、役割分担で揉めている。ボス然とソファにどっしり腰を据え、無茶な指示を出してくる設楽に日村は納得がいかない。そんな中、敵から「お前らのボスを1人でよこせ」と連絡が。恰幅のよい自分こそがボスだと言い張っていた日村はあっさりと設楽にボスの座を譲ってしまい……。
──このオープニングコントはライブビジュアルのお二人と同じ格好から始まります。
日村 この始まり方はわくわくしますよね。
設楽 実は最後の最後に作ったネタで、最初からこれでスタートしようというつもりではなかったんです。
──公演2日目の回を拝見したんですが、日村さんが舞台袖に駆け込む場面がありましたよね。その真相をお聞きしたいのですが。
設楽 出た(笑)。あの回を観たんですね。
日村 あれはもう、完全にセリフが抜けちゃって舞台袖に確認しに行っていたんです。
設楽 これまで単独ライブをやってきて、セリフを忘れるとかちょっと間違えるとかそんなことは散々あるんですけど、日村さんが舞台上からいなくなるっていうのは初めての経験で。めちゃくちゃ焦りましたよ。「ちょっと待ってろ!」って言ってパーッて走って行っちゃったはいいけど、こっちはどれくらいで戻ってくるかもわからないから。
日村 あっはっはっは!(笑)
設楽 そのときの記憶があんまりなくて、映像にも残ってないから自分ではどうだったかわかっていないんですよ。どうでした?
──何かあったのかな?とは思ったのですが、設楽さんは冷静に見えました。実際にああいう演出だと思った人もいるみたいです。
設楽 本当ですか? 「けっこう遅いなあ」って内心はバクバクしていて。
──こんなハプニングもあるんですね。
日村 舞台からいなくなるっていうのはさすがに初めてです(笑)。でも、裏に行けばスタッフがいて台本も置いてあるから、もしセリフを忘れたらはけちゃえばいいっていうのを昔から言っていて、それをとっさに思い出したんです。
設楽 そうそう。それはコンビ結成当初から決めていることで。最悪、袖に行けば大丈夫っていう。でも1日目はできたから不思議。
日村 突然抜けちゃったんだよね。しかも次の展開へ向けて俺から発言しなきゃいけない部分だったから、「これはダメだ、絶対わかんない」って思ってはけました。
──袖にはけることを瞬時に決めた日村さんの判断力もすごいです。
設楽 俺も「潔いー!」と思いました(笑)。このハプニングがあったので、1本目がちゃんとできるかどうかが今回の最初の肝で。気が引き締まりましたね。
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