ライブ初日の手応えが「やばかった」
──お二人はもう映像をご覧になりましたか?
設楽統 製品盤は観ていないんですけど、最終的なチェックはいつもみんなでやるので、そのときに初めて映像で観ました。ライブではよくできたと思っていても、映像で観ると「こうしておけばよかった」とか「お芝居をもっと練習しとけばよかった」って思っちゃうんですよね(笑)。
日村勇紀 見返すといろいろあるよね。「もうちょっと上手にやってた気がするんだけどなあ」とか。
設楽 でも全体的にいい感じでしたね。いろんなタイプのネタがあってバランスの取れた作品になったと思います。
──ライブ中の手応えはどうでしたか?
設楽 よかったですよ。あ、でも初日が……。
日村 そうだ、初日の手応えがやばかったんだ。
──「やばかった」?
設楽 やばかった、やばかった(笑)。でもこれは原因がわかっているんです。今回は「いつもと違う試みでいきたい」ってみんなに言って、初日は客入れBGMを流さなかったんですよ。もう俺らもおじさんだし、大人っぽく1ベル(開演を知らせるベル)のブーっていう、いわゆる劇場の雰囲気でライブを始めたいなっていうのがあって。そしたら全然笑い声がなくて。
日村 あっはっはっは(笑)。お客さんが緊張しちゃったんだろうね。
設楽 あとで聞いたら、「笑っちゃうとアレなんで、タオルで口を押さえてました」って人が多かったみたい。
日村 そういう感情になっちゃうんだ。笑い声を出しちゃいけないっていう。
設楽 やりながら、「これはおかしいぞ」と。ウケてないわけじゃないんだけど、思っていたよりも笑い声が少なくて。
日村 なんか違うんだよね、会場の空気が。
設楽 で、2日目にBGMを入れたらまったく反応が違うんです。だから「大人っぽい空気づくりとかやめやめ! 曲流そう」って(笑)。
日村 2日目のウケ方がすごいよかったんだよね。同じコントをやっているとは思えないくらい。
──その要因は、やはりBGM?
設楽 いや、絶対あると思います。何年もやっているのに、そんなこと初めて知りました(笑)。
ビジュアル撮影裏話
──今作のジャケットも素敵な仕上がりですね。ビジュアルはどんなイメージで撮影したんですか?
設楽 アメリカの古い映画のパッケージみたいなものをイメージしました。
日村 茅ヶ崎のスタジオまで行きました。梅雨の時期だったんですけど、奇跡的に1日だけ晴れて。
設楽 そうそう。あ、でも場所の候補として写真で見たときはこの(パッケージ右に写っている)木があったんですけど、行ったらなかったんですよ。この感じがよくてここにしたのに、着いたら「あ、ない!」って(笑)。切られちゃってたんです。
日村 切っちゃうってすげえよな(笑)。
設楽 そしたら「じゃあ足しときます」と。要は合成で。しかも、実はこの日村さんも別の写真の日村さんなんですよ。
日村 あ、そうなんだ?
設楽 何枚も撮っているから、いい感じの日村さんを選んではめ込んでるんです。
日村 すごいね。そうなってくると、もう行かなくてもいいんじゃないかっていう(笑)。
設楽 もちろん行ったほうがいいんだけど。
日村 行くのが楽しいしね。
──単独ライブのときはビジュアル撮影のためだけにスタジオを借りるんですね。
設楽 最近はずっとそうです。俺らが最初にライブのビジュアルみたいなものを作ったときは、バナナをコピー機でスキャンしただけだったよね。
日村 (渋谷)ジァン・ジァンでやったライブだ。
設楽 もっと遡ればワープロでただ字を打っただけのチラシでしたけど、写真を使うようになってからはマネージャーと一緒に公園に行って使い捨てカメラで撮ったりしていました。現像した中からいい写真を選んで。こういうふうにちゃんと撮影するようになったのっていつからだっけ?
日村 10年くらい経ってるかなあ。
設楽 もっと前じゃない? 「激ミルク」(2001年開催)のときに今のデザイン周りをやってもらっている田村兄弟(makena graphics)に出会ったんですよ。でもスタジオを借りるようになったのはやっぱり10年くらい前か。田村さんに「フランス映画みたいな感じで」とかニュアンスだけ伝えて、撮影場所の候補をいくつかもらって選んでいます。
テーマは「二者択一」「人の二面性」
──「one-half rhapsody」というタイトルを付けた今作のコンセプトについて聞かせてください。
設楽 最初になんとなく“分数”のイメージがあったんです。「one-half」は2分の1とか半分っていう意味で、二者択一というか、人が常に選択をしながら生活していることだったり、人の二面性みたいなものをテーマにネタを作ろうと思って。
日村 確かに、2人が対になっているようなネタが多いよね。1本目の「GAME of which」なんてまさに。
設楽 「rhapsody」(=狂詩曲)は響きがカッコいいですし、「狂う」っていう字が人間の二面性っていうものに合っているなと思って付けました。
- GAME of which
- 日村と設楽はルーレットでお題を決めてくれるディベートアプリゲームで遊んでいる。何度やっても設楽にあっさり言い負かされてしまう日村は「もう1回!」とねだってリベンジしようとするが、「思い出と未来、どっちが大切?」というお題が出されるとなぜか早々に降参。中学校時代の最悪な思い出を打ち明け始める。
設楽 いつも1本目には「こういうライブですよ」っていう色のものを持ってくるようにしています。今回は「one-half」なので、さっき話したように2択でいろいろおしゃべりするコントにしました。
──設楽さんが日村さんを論破していくのが普段のお二人に近い関係性だなと思いました。こういう素っぽい役はいつもどうやって演じているんですか?
日村 もう普通に、ってことだよね。なるべく普通にしゃべるほうが面白い。
設楽 そうだね。キャラに入ってやるネタも面白いんですけど、俺らはけっこう若いときから等身大の自分たちがしゃべっているようなネタを作っていますね。このネタに関しては年齢も決めていないですし。コントって年齢を決めちゃうとできなくなっちゃったりするので。
──歳を重ねてもそのときの自分たちで演じられるように。
設楽 そうです。ただ、単独の1本目の場合はラストのネタと少しだけリンクする感じにはしています。なんとなく同じ人物なのかなっていうふうに。最近はオープニングのネタとラストのネタの衣装を合わせたりすることも多いですね。
- Bitching
- 設楽との待ち合わせに遅れてやってきた日村。妻とケンカしたと言って、10カ月になる子供と大荷物を抱えている。よほど日頃の鬱憤が溜まっているのか、設楽に会うなり愚痴が止まらない。「離婚」の2文字も頭をよぎるという日村は、設楽に諭され一旦妻へ電話をかけることに。すると驚きの事実を告げられ、設楽を残して帰宅していく。
──このネタは終始日村さんのペースで進んでいきます。最後に設楽さんが取り残されるという形もバナナマンのコントでは珍しい気がしました。
設楽 あ、そうかもしれないですね。俺らって日村さんの板付きで始まって日村さんが舞台に残されるっていうネタがわりと多いけど、これは俺が板付きで俺が残されてる。
日村 本当だ。これは逆だね。
──新鮮でした。
日村 俺が20分くらいずーっと愚痴を言うだけっていう。
設楽 こういうネタってけっこうムズいんですよ。
──どんなところが難しいですか?
設楽 覚えづらいんです。稽古中から日村さんは「覚えられない」的な空気を出してきていましたね。「2人で言わない?」みたいな(笑)。でも、そこは「いや、違う」と。日村さんが言わないと成立しないって説き伏せました。
日村 あっはっはっは(笑)。1人でしゃべってるのって怖いんです。俺が止まったら終わりだって思うから。あとこれ、俺がずっと嫌なことを言っているじゃないですか。一歩間違えたら最悪のネタになっちゃうんですよ。
設楽 ふふふふふ(笑)。難しいよね。これはでも、日村さんの技が。
日村 技っていうか、かわいらしく見えるようには意識しました。子供のことは大好きっていう部分とか。
設楽 日村さんって嫌なこと言う役をやると本当に嫌な奴に見えるんです、昔から。「ハナからのハジマリ」(2004年開催「Elephant pure」より)っていう嫌な上司のネタがあって、最初にやったときはイメージ通りにできなくて傑作選ライブ(2010年開催「chop」)でリベンジしたんです。それに近いものがありましたけど、すごく上手にできたと思います。
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