ウエストランド井口と作家飯塚の「今月のお笑い」。

今月のお笑い 29本目 [バックナンバー]

ウエストランド井口と作家飯塚が語る「2024年9月のお笑い」

予想がつかないKOC、秋改編、告知しろよ、ルシファーの行く末、お笑いマン野田、覇気がない若者

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芸人ドラフトで道が拓ける

井口 それで言うと、高野は「アメトーーク!」(テレビ朝日)の芸人ドラフトでザキヤマさんの1位指名。あれはうれしいでしょうね。

飯塚 ルシファー(吉岡)さんは千鳥ノブさんの3位だった。

井口 しかも、かなりイジりつつの絶賛。まさにルシファーさんの魅力ってああいうことですから。

飯塚 ノブさんの選抜は「チャンスの時間」(ABEMA)オールスターみたいな人選だったよね(笑)。

井口 ルシファーさん、「チャンスの時間」にあれだけ毎回出ていたかいがありましたよ(笑)。

飯塚 井口くんも昔、「芸人ドラフト」で有吉さんに指名されてたよね。まだ「M-1」優勝前だったから、抜擢感があった。

井口 あれはうれしかったです。そこから道が拓けた気もしますし。観ている人も「井口っていいんだ」となったんじゃないかなと思います。この人たちが認めてるならそうなんだ、みたいな。

飯塚 ちゃんとした人が言ってくれないと視聴者の人に伝わらないところはあるね。

井口 ただこの間、ハライチ澤部さんに会ったら凹んでました。

飯塚 凹んでた?

井口 わりと固めのメンバーにしちゃったのを反省していて。

飯塚 ああー。遊びがない(笑)。

井口 それをその場でイジられたからまあいいか、と思っていたら、やっぱり終わったあと普通に叩かれたらしいです(笑)。

飯塚 ガチで選んだんだろうなっていうのがわかって、それはそれで面白かったけどね。ノブさんに選ばれてルシファーさんの評価は上がった気がするけど、ルシファーさん本人は今後どうなっていきたいんだろう?

井口 そこなんですよね。僕は「オトステ」とかでルシファーさんをイジってめちゃくちゃ面白いなと思っていますけど、ルシファーさん自体がどうなりたいのか。ネタは間違いなく面白いけど、イジられるポンコツっぷりもある。「オトステ」リスナーがルシファーさんの単独ライブを観に行くと「こんなちゃんとしてるんだ……」ってなるんですよ(笑)。あのいつものダメおじさんからは想像つかないネタのクオリティなので。その2つの柱がリンクしてないところはありますね。そこが面白いんですけど。

左からウエストランド井口、飯塚大悟。

左からウエストランド井口、飯塚大悟。

お笑いマン・マヂラブ野田

飯塚 「水曜日のダウンタウン」でやっていた「インフォマ-1GP」。空気階段、ニッポンの社長、さや香、令和ロマン、ニューヨーク、マヂカルラブリーというすごいメンバーが厳しい制約の中でインフォマーシャル用のネタを作る企画で、みんな面白かったけど、やっぱり個人的にはマヂラブのリアルゴールドマンのネタが好きだった。ああいうPR案件とか番組用に作るネタって、アリネタに取り入れるパターンと、0から作るパターンとあって、どっちもいいと思うんだけど、野田さんは本当に0から作ってくる感じがして好きなんだよね。「ドラフトコント2022」(フジテレビ)で野田さんが台本を書いたカンペのコントも好きだったんだけど、野田さんってこういうときいつもコンビのネタの延長とはまったく違うものを新たに作ってくる。

井口 0からってなかなかできないですからね。もともとのコンビの型にはめ込むとかはありますけど。その一方で、「はかる-1グランプリ」ではジグザグジギーだけアリネタやって優勝して後輩に文句言われるっていう事件もありました(笑)。

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飯塚 あはははは(笑)。野田さんってタレントとして総合力が高いからか、あんまりネタを作る能力に着目されていない気がするんだけど、毎回笑いの新しい発明を持ってくるし、そういう場所で全力でがんばれる感じが好きなんだよね。

井口 野田さんなんて本当に、お笑いマンですからね。

飯塚 お笑いマンだね(笑)。お笑い筋肉マン。

明日の予定はスタンガン

井口 最近は配信系のデカい番組の発表が続いてますね。

飯塚 井口くん、またしんどい企画(※)に呼ばれてる(笑)。

井口 そうなんですよ。なんなんだよ! チャンピオンの仕事じゃないだろ!

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※編集部注:藤井健太郎が企画・演出、Prime Video「KILLAH KUTS」の「街行く人に政治信条を聞いて『右寄り』と言われたら右折、『左寄り』」と言われたら左折しなくてはいけないレース」にウエストランドが参加している。

飯塚 井口くんの企画も大変だけど、「スポーツスタンガン」とかの「KILLAH KUTS」でやっている企画って、「テレビではできない」みたいな謳い文句はよくあるけど、テレビどころかどこでも見たことがない映像だった(笑)。YouTubeでも見たことないし、できないよね。

井口 僕界隈では話題になってましたよ、「あれのオファー来た……」みたいな(笑)。

飯塚 今、みなみかわさんと単独ライブの打ち合わせをしているんだけど、「明日、スタンガンっすわ……」って言ってた(笑)。人間が生きてて「明日スタンガン」なんて予定、普通ないから。スタンガンって不意打ちしかないから。

井口 また僕に近い人が多いですね。高野、しんいち、みなみかわさん。

飯塚 チーム「大脱出」だ(笑)。

井口 こういう配信のお笑い番組が今後も増えていくんですかね?

飯塚 演出家とか制作スタッフも有名な人じゃないと予算の大きい企画って動かないから、新進気鋭の人のめっちゃ尖った番組、みたいなものはまだテレビのほうが生まれる可能性があるんじゃないかなとは思う。

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知らない芸人が優勝する日が迫ってる

飯塚 毎年呼んでもらっている「大学芸会」という大学生お笑いの大会の審査員を今年もやらせてもらった。毎年センスの鋭い人が多くて刺激をもらってるんだけど、その一方でネタがアングラ化しているなーとも思った。下ネタとか、芸能人の過激なゴシップネタが多くて、観客も大学お笑い関係者が多いからすごくウケていて。いわゆるテレビのお笑いとは別の世界だった。

井口 人気者お笑いへのカウンターみたいなことなんですかね?

飯塚 そうかもしれない。一時期はポップな、人気者お笑いの感じが流行ったけど、そこから尖りたい人が出てきてそっちが主流になってきたのかも。で、今はアングラっぽいネタで逆に被っちゃってる。前提として着眼点とか、ネタの発想とかセンスはすごいんだけど、「そんなに下ネタ入れなくても面白いのに……」とは見ていて思っちゃった。大学生お笑いのシーンがそれで盛り上がっているならいいんだけどね。

井口 プロではないわけですからね。楽しくやれているなら。

飯塚 アングラ化が進んで、ゆくゆくはまたポップなお笑いが大学生の間で主流になるかもしれない。

井口 その繰り返しですからね。

──飯塚さんは「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」でも審査員をされていましたね。

井口 誰が優勝したんですか?

飯塚 大阪を拠点にフリーでやってる男女コンビのガングリオン。「UNDER 25」の出場者は「大学芸会」とは年齢的に2~3年の違いで、大学お笑い出身者も多かったけど、こっちはちゃんとみんなプロ仕様のネタだった。

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井口 どんどんそういう若い人たちが出てきて、いよいよ本当に知らない人が「M-1」チャンピオンになってくるんだろうなと思います。近年のチャンピオンのマヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランドってけっこう仲良しで僕にとってはよく知る人たちで、令和ロマンもK-PROライブに出ていたからギリギリわかりますけど、例えばエバースとか、本当になんのつながりもない人がバッと来る日がもうそこまで迫ってるんだろうなと。

飯塚 井口くんの強みではあったからね。上の世代も下の世代もみんな顔見知りって。

井口 僕は相当幅広く知っているほうなので。ライブとか番組で本当に知らない奴と絡むと新鮮だし、「僕のこと本当に嫌だと思ってないかな?」と思いますね。

──井口さんがどういう人なのかまだ知らない若手。

井口 僕なんかずっと嫌なこと言っているわけですけど、その1回だけだったら「この人すごい嫌なこと言ってくるな……」と思われそうじゃないですか。

飯塚 下の世代になればなるほど「失礼で嫌な人だな」って思われるかも。

井口 1年間見ていれば、1年間嫌なこと言ってるからもうどうでもよくなるでしょうけど。だからちょっと嫌なんですよね、知らない若手。

飯塚 そういう現場のあとにや団とかに会ったらめっちゃうれしいんじゃない?

井口 そうですね。ついつい言いすぎちゃいますもん。「本当どうしょもないっすねー!」とか。

飯塚 うれしくて(笑)。

井口 うれしくてついつい言いすぎちゃいます。

尾崎からの一周

井口 芸人に限らずですけど、事務所を退所して独立する人が最近多いじゃないですか。なんか、尾崎(豊)から一周してるというか。「自由になりたい」が流行ることってあるんだなという気がするんですよね。僕からすると、校舎の窓ガラスは割っちゃダメだし、座って勉強しろよって思うんですけど。

飯塚 あははは(笑)。個人事務所って一長一短あると思うんだけど、例えば井口くんが個人事務所のタレントだとして、「大脱出」に出てたらなんか違和感あるというか。「もうやだよ」と言いながら、自分で「これやります!」とオファーを受けて出てるんだ、って思うかも(笑)。事務所が受けちゃってるからやらなきゃいけないんです、と言いたい部分もあるじゃん。「やらされてる」ていでやっているほうが楽っていうものも世の中にはいっぱいあるから。

井口 そうなんですよね。僕個人としては、デカいところにいたほうが面白いかなとは思います。もちろん人によるし、やりたいことが明確にあれば、そっちのほうが動きやすいと思いますけど。

飯塚 みなみかわさんは独立したけど、奥さんに手綱握られてる感もあってちょうどいい。「なんかスケジュールに入ってて」って言えるだろうし。

井口カルチャースクール

──ほかに9月の気になる話題はありますか?

井口 若い人たちに覇気がないですね。

──覇気がない、というのは?

井口 うーん。なんか、覇気がないんです。大丈夫か?ってくらい覇気がない。

──ぐったりしている?

井口 ギラつきがないんですよ。ギラついてればいいってわけでもないですけど。心配になるくらい覇気はないです。僕としてはもっと、椅子にこう(浅く)座って、こう(いつでも飛び出せる状態に)しててほしいんですよ。飲んでても覇気ないし。

飯塚 ちょっと違う話かもしれないけど、要領がいい人が得する時代になっている気がしていて。要領悪いけどとにかくいっぱいチャレンジして、努力をすごくできる人もいるはずだけど、今の世の中では要領のいい人が語るスマートな成功論が歓迎されてる。成功者のビジネス書とか読んでも、みんながみんな要領のいい人の真似できるわけじゃないし、がむしゃらにやるしかないところを、「クールにやっていこう」みたいな論調が幅を利かせちゃってるなと。

井口 だから、そういう人とは仲良くなれないですね。

──がむしゃらな人のほうがいい?

井口 覇気がないんで。そういう人って辞めますしね、絶対に。まあ時代が違うというか。親の死に目にも会えない気持ちでやってる人はいなんだなって思います。すべてを捨ててきました、みたいな人はもういないですね。

飯塚 そうじゃなきゃいけない瞬間が昔はあったからね。例えば、テレビ番組とかの収録があるのに、急遽家に帰らなきゃいけないことが発生したら、今だったらスタッフさんも「もちろんそちらを優先してください」という感じだと思うけど、「それでこのチャンスを棒に振る奴だったらもういいよ」みたいなノリは僕らときもまだちょっと残っていたから、その粘りみたいなものはあったと思う。難しいのが、こういうのって全部「おじさんの根性論」にまとめられて、「古いよね」の一言で片付けられちゃうから、そこがみんなががむしゃらになれない理由なのかなと思う。ダサいからね、がむしゃらにがんばるのは。

井口 そうなんですよ。

──ハラスメントになりかねないので「がむしゃらになれよ」とは言いにくいですしね。

井口 僕は言っていきますし、友達にもなりませんよ、そんな奴とは。結果出していればまだしも、結果も出してないのになんでスカしてんだよ?って話ですから。

飯塚 そういう井口ムーブというか、自分も後輩に言えるようになったらいいなと思う。半分愛情、半分マジみたいなことは日頃からやってないと伝わらないから、急にやっても「めっちゃ怒られた!」ってなっちゃうから。井口くん、やったほうがいいんじゃない? そのカルチャースクール。

井口 やろうかな。本出そうかな?

飯塚 「トドメを刺さない叱咤激励術」。

──「今月のお笑い」から出しましょうよ。

飯塚 そういう技術があるんだったら身につけたい人もいると思う。いっそのこと全部、今の世の中の風潮の逆を書けばいいんじゃない?(笑) 「親の死に目に会えないつもりでやれ!」とか「なるべく飲み会に行け!」とか「仕事は一切断るな!」とか。

井口 あはははは(笑)。たまに世の中の風潮と逆のことを言うネタをやったりしますけど、1つもアンチコメントが来ないってことは、実はみんな思ってるってことですよね。自分は先輩からあんなに言われてきたのに、いざ後輩ができたら全然言えないじゃんってことに憤ってるということですから。

飯塚 9月の気になる話題が「若手に覇気がない」(笑)。

井口 あと嫌なのが、タイタンの学校の奴とか預かりの奴、K-PROの若手の奴が、金魚番長が賞レースで優勝していることに対して、異世界のことだと思っている。「同世代の奴になんか絶対負けないぞ」という気持ちでやらないと! 「おめでとう~」じゃないんだよ! 2回戦くらいで負けて「こんなもんでしょ」と思っちゃってる感じがムカつくんです。「あいつらは別なんで……」とか言っている奴らは、絶対に成功しません!

年末イベント「ライブ!!今月のお笑い」決定

──年末の公開取材イベント「ライブ!!今月のお笑い」ですが、12月30日(月)の夜に決まりましたのでよろしくお願いします。

井口 めちゃくちゃ年末じゃないですか(笑)。

──実家にも帰らず今年のお笑いをみんなで振り返りましょう。あと言い忘れていることはないですか?

井口 あ、かもめんたるの単独ライブを観させてもらったんですけど、配信終了までに告知するのを忘れちゃったんですよ。面白かったので、次回ぜひみなさん観に行ってください。今回のは終わっちゃいました。

飯塚 「UNDER 25」の決勝のMCが槙尾さんで。

井口 槙尾さんがやってたんですか!?

飯塚 槙尾さんっていうかかもめんたるの2人と、かが屋。決勝のあとミニ打ち上げがあったんだけど、槙尾さんがちょうど配信されたばかりのさらばのYouTubeの「馬狼」に出ていて、「あれ見た? みんな」ってすごい言ってた。

井口 なんだそれ! 見てらんないなあ。

飯塚 自分の出世作かのように触れ回ってた(笑)。

井口 この間会ったら「飲食店も成功できないやつは売れない」みたいなわけわかんないこと言ってましたよ。

飯塚 あとみなみかわさんの単独ライブ「よかれ」の大阪公演が迫ってきていて、大変そう。井口くんとかみなみかわさんみたいな過酷仕事をしながら同時にネタも作ってる人って、実は井口くんとみなみかわさんだけじゃない?

井口 そうですよ。本当にすごいんだから。最近みんな、単独前は仕事を抑えてネタ作りの時間取るじゃないですか。なんで僕だけこんなスケジュールの中、(新ネタライブの)「漫才工房」やんなきゃいけないんだよ!

飯塚 (きしたかの)高野くんとか、(ザ・マミィ)酒井くんとか、ともしげさんとかは、相方がネタがんばってくれてるし、ちょっと違うよね。みなみかわさんも過酷スケジュールの中で単独の準備してて、けっこう追い込まれてそう(笑)。

井口 大変そうでしたね。昨日か一昨日も会いましたけど、「このあと単独の稽古や……」っていつもとは違う表情でした。体張る系の仕事のときはつらくてもどこか輝いた目をしていますけど、単独となると違う大変さですからね。

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左からウエストランド井口、飯塚大悟。

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プロフィール

井口浩之(イグチヒロユキ)

1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年から2014年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。とろサーモン久保田とのレギュラー番組「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日)は毎週火曜26:34~。タイタン所属。

飯塚大悟(イイヅカダイゴ)

1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」「クレイジージャーニー」(TBS)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。

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