昨日9月30日に結成20周年を迎え、ベストライブ「
取材・
※取材は9月15日に実施。
とうとう角ちゃんが意見を言わなくなりました
──この20年でネタ作りの体制にどんな変化がありましたか?
飯塚悟志 もともとはファミレスで角田さんと一緒に作っていて、できるだけ角田さんの主張を大事にしようとしていたんです。意見が違っていても機嫌よくボケてもらいたいから。それと、アルファルファのときは僕が1人でネタを作って、豊本が何も言ってこなかったから、東京03になってから2人で一緒にネタを作る喜びもありました。でも角ちゃんの言うとおりにやったけどあんまりウケなかったというのが続いて……。そうすると、「ここ、こうしたらいいんじゃない?」って、ちょっと言うようになるじゃないですか。
角田晃広 あったねー。
飯塚 そのときの角ちゃんの顔! 本当に機嫌が悪くなるんです。でも実際に角ちゃんのやりたいようにやると芳しくないから、「ここダメだったよね?」というのを終わったあとすぐに舞台袖で言うようになりました。そうするとムスッとした顔でも受け入れるしかないから。
角田 結果が出ちゃってるから(笑)。お笑いのすごいところはそこなんですよ。お客さんの反応が如実にわかるという。
飯塚 それをちょっとずつ繰り返していったら、とうとう角ちゃんが意見を言わなくなりました。
豊本明長 あははははは(笑)。
角田 答えが出ちゃうんだもん。間違え続けていたっていう。
飯塚 人力舎の仲間の芸人を巻き込んで、飲みの席で角ちゃんを説得してもらったこともあったからね。
角田 認めなきゃいけないのに、ただただ反発していた時期があったんです。
飯塚 だってスベってんのに、スベってないって言うんだもん!
角田 だってスベるなんて嫌じゃないですか。だから認めたくなかったんです。最初はそれでずっと粘ってました。
飯塚 さっき角ちゃん自身も言ってましたけど、めちゃくちゃ尖ってたし、ものすごく頑固だったんです。組む前はそんな感じ、一切なかったから。詐欺ですよ、詐欺!
豊本・角田 あははははは(笑)。
飯塚 いざ組んでみたら豊本以上にキレるし(笑)。矢作さんとかザキヤマ(アンタッチャブル山崎)が説き伏せてくれたんですよ。あのときどう思ってたの?
角田 そりゃ面白くなかったですよ。周りを巻き込んで、ずるいと思ってましたよ。2人で話せばいいのに。
飯塚 2人で話したって聞いてくれなかったじゃん!
角田 あとあと考えたら2人で話しても解決しなかったからだと理解しましたけど。あのときはまだ尖ってる感じだったからムスッとしてましたよ。
飯塚 でもそのあと角ちゃんは俺の言うことを聞くようになって、自分の意見も言わなくなって、2人でも作らなくなって、ネタの設定すらも出さなくなって(笑)。
角田 単純に設定も浮かばなくなっちゃったんで。
飯塚 ネタ作りの割合で言ったら最初は俺と角ちゃんでしっかり5:5だったのが、今は9.5:0.5くらいになりましたね。設定までいかなくて種だけ、みたいな。コロナ禍もあって家でネタを作るようになっちゃったのもあると思いますけど。「あれ? 家で1人で作れるじゃん」って。効率がいいんですよ。今までは俺が豊本と自分のセリフを書いて、角ちゃんのセリフは渡して書いてもらってたんです。それが長考の時間で、ずーっと待っていないといけなかったけど、ある程度俺が角ちゃんのセリフを書けるようになってきたから早くなりました。
──ファミレスで一緒にネタを書いていた頃からずいぶん作り方が変わったんですね。ファミレスでのネタ作りは大変そうだけど楽しそうでもありました。
飯塚 ファミレスで飲むビールがうまいんだよね。
角田 単独のネタが6本揃ったときに飲むビールがうまいんです。お店の瓶ビールを全部空けたこともありますから(笑)。
飯塚 あそこのデニーズ(南平台店)には、お店ぐるみで応援してもらった気がしますね。長居しても怒られなかったし、嫌な顔一つせず、むしろ「よく来てくださいました」と。いつも我々が使う席を案内してくれて、そこが空いていなかったら、「空いたらご案内しますね」みたいに言ってくれてたんです。
角田 店長が異動するときはご挨拶にも来てくれましたから。
昔よりもモチベーションは高くなってるかもしれない
──この20年で笑いのツボや、ネタのこだわる部分は変わってきましたか?
飯塚 昔のほうが「こういうことはやりたくない」というのが多くて、こだわりはどんどんなくなってきている気がします。今、ほんとに面白い後輩がいっぱいいて、そういう人たちから学んで、「こういうのはアリなのかも」と思えるようになってきた気がするな。コントでその場にいない第三者の店員さんに話しかけるのも、ちょっとずつ増えてきました。昔は東京03のコントは3人だけの空間と決めて、そういうことは頑なにやらなかったけど。やっぱり必要に応じて広がりも持たせていきたいと思うようになりました。
──全国ツアーを回るようになって変化したこともありますか?
飯塚 少しでも喜んでもらえるならセリフの中にご当地の地名を入れてみたりとか。やれるならやりたいと思えるようになりました。昔はそういうのは絶対に嫌で、東京公演と変わらないものを見せて回りたいと思っていたけど、今は楽しんでいただきたいという気持ちのほうが勝ってます。
──素敵な変化ですね。ネタ作りで、もうこれ以上書けないと思うことはあったりしますか?
飯塚 それは毎回思いますよ。
角田 実際、僕は書けなくなりましたし(笑)。
飯塚 でも日常を切り取るネタって、設定が尽きないんですよ。毎日生活している中で誰かしらに会ったら何かがあるから。むしろ宇宙人が出てくるとか、突飛な設定で活動している人たちに比べたら、ヒントはいくらでもあるんじゃないかな。日記に近い気がします。
──コントだけで食べていけるようになってからのモチベーションの変化についても伺いたいです。
飯塚 来年食べられなくなるかもしれないし、結局、組んだときとモチベーションは一緒です。「面白い単独ライブをやりたい」。それだけを毎年毎年思って続けている感じですね。そのときに自分たちが面白いと思った100%のコントを見せなきゃっていう。それでいいネタをネタ番組でやって、面白いと言ってもらいたい。いまだにずっとそれだけです。だから周りと比べて「今回はうちらの単独よかったな」とか、「今回はこのコンビの単独が優勝だな、負けたな」とか、そういうことを考えながら毎年続けてます。
──それを20年間続けてきて今に至るということでしたら、確かに「気づけば20年」という感じなのかもしれないですね。
飯塚 特に今は面白い人たちがいっぱいいるから励みになるし、もしかしたら昔よりもモチベーションは高くなってるかもしれない。若い人たちは量産するでしょ。ゾフィーとか、かが屋とか、ダウ90000とか。面白い人たちがみんな量産型なんですよ。だから単独ライブで6本ネタ作るのに、ひーひー言っていられない。
──後輩も同じ目線で見ているところがすごいです。
飯塚 それは昔からなんですよ。面白ければ普通に尊敬できちゃうし、「俺もやりたい!」って思う。それこそ学生の頃にダウンタウンさんとかウッチャンナンチャンさんのネタを見て「面白い、俺もやってみたい」と思ったのと変わらない気がします。いまだに面白い人への憧れがあります。
ちゃんと面白いものを作ったらちゃんと褒めてもらえる
──9月30日に開催されるベストライブ『東京03 20周年記念BEST LIVE『東京0320』』は公式アプリ「TOKYO03 Company」会員の投票によって選ばれたコントが上演されるそうですね。「小芝居」「蓄積」「スマイルハウジング」「嫌いな上司」「許せる心」というラインナップです。出揃ったネタを見てどうお感じになりましたか?
飯塚 わりと自分の好きなネタが選ばれてるなって思いました。「小芝居」はオークラに台本を見せたときに「ベストコントだ」と言ってもらったのがすごくうれしくて。それがちゃんと1位になってる。「蓄積」はネタ作りに関して言うと無理やり作ったという記憶がありますけど。僕が目立ってるネタは無理やり作ってるっていう(笑)。僕は基本的に角ちゃんと豊本を目立たせたいと思ってネタを作ってるんで。「スマイルハウジング」は5回目の単独で作ったわりにいいネタだなと思います。“できるスタンス”の角ちゃんのよさが出てる。
角田 「スマイルハウジング」はやっていて楽しかったですね。
飯塚 「嫌いな上司」は上の子が今3歳半なんですけど、1歳ぐらいのときに設定を思いついて、2年ぐらい温めていたネタです。新しすぎてアンケートの選択肢には入れていなかったけど、ここ最近では特に褒めてもらったネタなので、やることにしました。この歳になっても、ちゃんと面白いものを作ったらちゃんと褒めてもらえるんだなって。すごくテンション上がったんですよ。
角田 映画「怪物」(※)で賞を獲った坂元裕二さんも「嫌いな上司」を観て「あれすごいね!」って大絶賛されてましたから。
──角田さんがあの上司役をしっかり演じきれると信頼していないと作れないネタだと思いました。
飯塚 そこへの信頼はやっぱりありますよ。角ちゃんも豊本も、やれるネタの幅は相当広いから、ネタ作りで困ることは少ないです。設定を思いついて「面白いけど、この2人じゃできないな」と思ったことはほぼないかも。角ちゃんはこのネタで赤ちゃんのことを研究してくれましたから(笑)。
角田 YouTubeで赤ちゃんの動画を見まくりました(笑)。
──「許せる心」はオークラさん作ですね。
飯塚 オークラ作のトリネタのランキングを別で募って、その1位ですね。オークラは変わらないすごさがあると思います。ほんとにずーっと熱いし、ずーっと何かの恨み言を言ってるんです(笑)。そのパワーがすごい。日曜劇場(「ドラゴン桜」)の脚本とか、いろいろ経験を積み重ねてコントのセリフもいいセリフが増えてきたし、素晴らしい脚本家さんになっていってるなと思います。それでいて根っこの部分は変わらないから最強じゃないですか。バカリズムにも同じものを感じるんですよね。どんどん書いてるものの精度が上がって、芝居のうまさにも磨きがかかっているのに、根っこはまったく変わらない。ストイックだし、パワフル。オークラと升野くんは似てる気がするな。
──結成当初からお客さんやファン層に変化は感じられますか?
飯塚 どうなんでしょうね。ずっとファンでいてくれる人っているのかな。お客さんの年齢層は幅が広がってきているのは感じますけど。でも今考えるとアルファルファのファンには申し訳なかったなと思います。8年間活動してきたにもかかわらず、応援してくれていた人たちのことをまったく考えずにバッサリその活動を切って新しいことを始めたので。でもそれくらい背水の陣でもあったから……。僕はそれまでライブに来るファンは我々のことが好きで笑ってくれるから、笑いの数としてカウントしていなかったんですよ。我々のことを知らない人を笑わせたい。じゃないと本物の笑いじゃないって。
角田 その考え方もすごいよね。
飯塚 だから出待ちとかほんとに嫌いでした。友達じゃねえんだよって。仲良くなりたくてお笑いをやってるわけじゃないから。今思うとほんとに尖ってたなって思います。片や、プラスドライバーは出待ちのファンに温かかったですよね?
角田 そうしておけば笑ってくれるからね。
豊本 ははははは(笑)。
飯塚 東京03はアルファルファのコントを全否定するところから始まってるから。でも結局、アルファルファでやってきた8年間、角ちゃんがプラスドライバーでやってきた7年間も必要だったと思う瞬間がくるんですよね。だから何も無駄なことはなかったと思います。
※映画「怪物」:是枝裕和監督と脚本家・坂元裕二がタッグを組んだ人間ドラマ。安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希らとともに角田が出演者として名を連ねている。カンヌ国際映画祭では最優秀脚本賞を受賞。
「ここからが本番」という気がしてる
──20年間の活動で、まだやれていないことはありますか?
飯塚 「まだやれていない」というか、「ここからが本番」という気がしてるんですよね。東京03は50代からが面白いんじゃないかなってずっと思ってきたから、ここからが楽しいと思います。等身大の50、60歳の面白いコントができたら、今まで見たことがないようなすごいものになるなって。しみったれた感じにならないようにしたいです。
角田 よく飯塚さんと飲んでるときに「ジジイになってもラ・ママとかでパイプ椅子だけで勝負できたらカッコいいよね」みたいな話をしていたから、いよいよそういう年齢に近づいてきて、それができるようになっていたらいいなって思いますね。だから僕もこれからが楽しみです。
豊本 ワクワクしますね。50代、60代の人たちの年相応のコントとか、どうなるんだろうって。
飯塚 その世代だけじゃなくて、若い人にも面白いと思ってもらいたくて、それが難しいんです。我々の“あるある”って、若い人からしたら知ったこっちゃないから。学生の頃、おじさんの話がほんとに嫌いだったんですよ。学校の先生とか、親戚の集まりとか。だからずっと高校時代の自分の目線を指標にしながらネタを作ってきたんですけど、結局、おじさんになった今、その頃の自分の目線がものすごく深く突き刺さってるんです。もう、がんじがらめ(笑)。当時の自分をおじさんのネタで笑わせたくてしょうがない。ミュージシャンはいるんですよ。サザンとか。コントでそれができたら最高だと思うんだけどな。
──今はそういうチャレンジの真っ只中でもあるんですね。では最後に、これから先のビジョンや将来像があれば聞かせてください。
飯塚 ビジョンは正直そんなにないんですよ。ここからが楽しみだなというのと、あとは佐久間お兄ちゃんとか、オークラ大先生とか、50から60までの10年間の区切りの中で我々東京03を使った番組とか作ってくれないかなって(笑)。「さとふる」のCMも我々のライブに足繁く通ってくださったプランナーさんが作ってくれたり、ほんとラッキーでしかないんです。今までも俺ら3人だけじゃ何もできないから、いろんな方々の助けでいろいろやらせてもらってきてましたけど、これからも仲良くやり続けられたらいいなと思います。
豊本 体力もそうですけど、台本を覚えられなくなったら終わりなので、そうならないようにがんばるしかないですね。
角田 歳を取って僕なんかネタの設定も浮かばなくなっちゃったけど、飯塚さんは単独ライブでもネタの修正をずっとしているんですよ。ツアー中もずっと修正し続けて、大千秋楽でようやく完成するみたいなことがあるんで、飯塚さんにはその感覚を持ち続けてもらいつつ、歳を取っていけたらなと思います。病気だけしないように。
飯塚 でもそう言うけど、角ちゃんが「怪物」に出てくれるのとか、めちゃくちゃでかいですよ。「半沢直樹」とかね。一緒にコントやってて鼻が高いですもん。「俺、『怪物』の人と一緒にコントやってる」って(笑)。
角田 逆なんだけどね。
飯塚 それで映画ファンも観にきてくれるようになるんだから。お笑い芸人の地位向上にもつながっていると思うんですよ。今後も大きい作品に出てくれたら東京03の地位も上がるから、角田さんにはどんどんがんばってもらいたいです。
角田 呼んでもらいたい!
飯塚 豊本も今後はあると思うよ。
豊本 そうだといいんだけど。
飯塚 まあ3人ともがんばっていこうってことだね。
東京03(トウキョウゼロサン)
左 / 豊本明長(トヨモトアキナガ)1975年6月6日生まれ、愛知県出身。
中央 / 飯塚悟志(イイヅカサトシ)1973年5月27日生まれ、千葉県出身。
右 / 角田晃広(カクタアキヒロ)1973年12月13日生まれ、東京都出身。
スクールJCAに通っていた飯塚と豊本がアルファルファとしてコンビで活動したあと、2003年に元プラスドライバーの角田を加えた形でトリオ・東京03を結成。「爆笑オンエアバトル」(NHK総合)や「エンタの神様」(日本テレビ系)といったネタ番組にも数多く出演し、「キングオブコント2009」では優勝を果たした。全国ツアーが屈指の動員力を誇り、コント芸人が憧れるトリオに。
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