今月のお笑い 16本目 [バックナンバー]
ウエストランド井口と作家飯塚が語る「2023年8月のお笑い」
「M-1」ロス、粗品の1人2役、井口は傭兵でいるのが楽しい、実は熱いAマッソ加納
2023年9月1日 19:00 101
構成
※取材は8月28日に実施。
ウエストランド、今年も「M-1」出る?出ない?
──ではさっそく8月のお笑いを振り返りましょう。賞レースは「M-1グランプリ」が開幕し、「キングオブコント」の準決勝進出者が発表されたところです。
井口 「キングオブコント」の発表の瞬間、
飯塚
井口 決勝に行ってくれたらまたタイタンが盛り上がると思います。漫才だけじゃなくてコントでも、となったらすごいことなので。
飯塚 ……なんかさ、このタイミングで「キングオブコント」について言えることがあんまりないよね。たいした影響はないと思うけど、変な影響を与えたくない。準決勝が終わって、決勝メンバーが出た頃だったら話せるかもしれないけど。
井口 準決勝で落ちちゃったけどよかった人の話とかはできるかもしれませんね。
飯塚 「M-1」は、ももがエントリーナンバー1なんだよね。直接エントリーシートを出しに行って、「1」を取りに行っていると思うんだけど、2020年にファイナリストになったときはエントリーナンバー6だった。「エントリーナンバー1」って面白いし、「M-1」に懸けている意気込みがすごいなと感じる。
井口 しかも、
編集部注:1回戦シードは前大会の準々決勝進出者まで。ももは3回戦敗退だった。
飯塚 1回戦で話題になっているのは、ラブリースマイリーベイビー。
ラブリースマイリーベイビー「M-1グランプリ2023」1回戦
編集部注:今年7月に結成された小学生の女の子2人組。おしゃべりしながらの登場や決めポーズ、「銃社会だったらどうする?」といった斬新な設定が注目される。1回戦を通過し、ナイスアマチュア賞も獲得した。
井口 一番バズってますね。
飯塚 ただ、滝沢ガレソに紹介されてたのはちょっと複雑だった。変な大人に変な感じで消費されてほしくないって、余計なお世話だけど思っちゃう。
井口 「M-1」も社会を巻き込んで話題になるものになっているってことですよね。
飯塚 この連載でも言ってたけど、ちょこちょこ井口くんが今年の「M-1」に出る、出ないを匂わせているのはどうなったの?
井口 この記事が出る頃にはもうエントリーが締め切られてますからね(締め切りは8月31日)。だから、出てないでしょうね。
飯塚 出てないんだ? 「実は出ます」の伏線なのかと思った。
井口 出ようかとも思ったんですけど、そんな話にはならなかったですね。
飯塚 本当に出たい気持ちはあったんだ?
井口 個人的にはあったんですけど、「出ますか?」というのも全然ないし。
──「出ますか?」というのは、大会側から?
井口 そうです。「出られますよ」とかも特にないので。開催発表会見も当然出ない人として呼ばれていたわけですし。別に本人の意思で出られるんでしょうけど、聞かれないってことは出るもんじゃないんだろうなと。
飯塚 いろんなところで出るかもしれない空気を出していたから、急に出場して変に騒がれないようにちょっとずつ撒いていってるのかなと思ってた。
井口 本当に迷っていたんですよ。「M-1」の予選なんて本当に大変だから嫌ではあるんですけど、賞レースの予選を念頭に置かない活動が初めてで、すごくいいネタができたときにどうすればいいんだろうと思って。それで、いろんな人に聞いたりもしていたんです。
飯塚 「あちこちオードリー」(テレビ東京)でも言ってたね。
井口 番組でも言いましたし、裏でもいろんな人に聞きました。「ENGEIグランドスラム」とか「THE MANZAI」(共にフジテレビ)とか大きいネタ特番でやればいいんじゃない?と言う人もいましたけど、
飯塚 僕も出ていいと思ったけどね。ただ、芸人からもお笑いファンからもすごい嫌われそうだけど(笑)。
井口 それもありますよね(笑)。実際は日々ライブに出ている芸人に勝てないだろうなとも思いますし。
飯塚 「タイタンライブ」のネタが面白かったって噂になってて、マネージャーさんにお願いして映像観させてもらったんだけど、確かに面白かった。「あるなしクイズ」のネタをさらに濃くしたみたいな「悪口無限製造漫才」。
井口 飯塚さんがツイートしてくれたお陰で会う人、会う人にめちゃくちゃ言われました。「M-1」に出ようかなと思う理由の1つは、「このネタがどこまで行くんだろう」という男の子的な発想なんですよね。
飯塚 1回でいろんな人に見せたいしね。
井口 そうそう。そうなんですよ。
飯塚 ネタ番組の1回でウケてじわじわ知られるより、一番注目度の高いところでやりたいって気持ちはわかる。
井口 「THE SECOND」は出られないですし。
飯塚 あんなに賞レースにはもう出たくないって言ってたのに(笑)。
井口 これが世間にどれくらい受け入れられるんだろうとか、どういう反応があるんだろうと考えちゃうんです。
飯塚 今まではチャンピオンになったら「賞レースから開放されて好きなネタができる」というモードになるのが主流だったけど、「ネタの出しどころがなくて物足りない」は意外と誰も言っていなかったかもね。
井口 コントの人は、むしろ「キングオブコント」で名を馳せて単独ライブやツアーで食べていきたいという考え方だと思うので、こういう感じでもないんでしょうけど。
飯塚 「M-1」ロスになってる(笑)。
井口 勝手に僕だけが「M-1」ロスになってます。
──エントリー締め切りまであと数日ですが、まだ迷います?
井口 そうですね。でも、出たところでマイナスもでかいですし。
飯塚 関係ない気もするけどね。「M-1」のお客さんは新しいスターが出てほしいから「出んなよ!」と思われるとは思うけど、それでも会場でウケたらすごくない?
井口 それができたらめちゃくちゃすごいです。
飯塚 今までにないアウェーだよ。優勝後に出る「M-1」の予選は。
井口 それはそれで楽しそうっていう気もしなくはないですけど。
──そのぽっかり空いた穴を埋められるものが今のところ見つかっていない。
井口 まだ「M-1に挑戦していない年」を1年しっかり経験してみていないのでわからないですけど。あと、連覇とかしてみたいとも思うんですよ。なんせネタに定評がない(※)ので、連覇したらさすがに認めてもらえるんじゃないですか? それか、もう冷めるか。「M-1」が。全体的に。
飯塚 あははは(笑)。もしウエストランドが連覇したら「M-1」終了の日かもね。
井口 「もういいよ」ってなるかもしれないですね。またこういうのが勝つんだったらもういいわ、みたいな(笑)。
飯塚 今の芸人さんって、高校球児が甲子園に挑むみたいに、賞レースに毎年挑むことが前提の芸人活動になっているから、「出ない」って自分で選択するのは難しいよね。
井口 だから、ラストイヤーで優勝するのがいいのかもしれないです。諦めもつくので。変に1、2年あると迷う。4、5年あるならもうちょいじっくり悩めますけど。
飯塚 ウエストランドは今年がラストイヤーだから、来年「やっぱ出よう」はできないんだよね。
井口 そうなんですよ。
飯塚 離婚届みたいにとりあえずエントリーシート書いておけば? いつでも出せるように。
──では、エントリーしたかどうかはこの記事が公開された頃にはわかっていると。
井口 そうですね。
飯塚 まだこんなに悩んでる状態だと思ってなかった(笑)。
※編集部注:「M-1」チャンピオン史上初のネタに定評がないコンビだと気づいた、という話を「2023年5月のお笑い」でしている。
粗品こわい
飯塚 「霜降り明星のオールナイトニッポン」(ニッポン放送)でせいやさんがお休みした回が話題になっていたね。粗品さんが1人で粗品A、粗品Bの掛け合いをしていたのが伝説的な生放送だったと。
井口 何かと話題を振りまいてますね、霜降り。
飯塚 こういうことがあるたびに霜降りってバケモノだなって思う。どんなことがあっても、毎回、面白さで上塗りしていくのが本当にすごい。バラエティだと2人の反射神経のよさに目がいくんだけど、粗品さんって「R-1」の優勝特番のループするの(※)とか、システムの笑いも実はすごく冴えていて。もちろん漫才も面白いし、全部できるのがこわい。
井口 なんでもできるからこそ、本人としてはどうなるのが理想なんだろうというのは思います。仲間たちと武道館公演(参考記事:日本武道館で「チンチロ」開催決定)もやるみたいですし。
飯塚 粗品さん単独のYouTubeも人気だしね。
井口 霜降りがどうなりたいのか、ほかの芸人に聞こうと思ってたんですよ。聞き忘れてたなあ。今度聞いてみよ。
──本人には聞かないんですね(笑)。
※編集部注:「R-1ぐらんぷり」の優勝特番「霜降り明星・粗品が今一番やりたい企画TV」(関西テレビ)は、粗品がロケを進めていくと途中でロケ冒頭に戻ってしまうという“ループもの”の作りになっていた。
立ち話の間とLINEの間、漫才の世代差
飯塚 8月の放送ではないんだけど、「賞金奪い合いネタバトル ソウドリ~SOUDORI」(TBS)の「解体新笑ライブ」で、有田さんが宮下草薙のネタを絶賛していたのが印象的だった。有田さんの世代の漫才って、立ち話をベースに、あくまで初見としての会話のラリーで、いかにその場の掛け合いを面白くするかというのを美徳としてきたと思うんだよ。それこそ「あちこちオードリー」の「ゴッドタンSP」で、
井口 ああー。作り方が違うというか、見せ方が違うというか。
飯塚 これは勝手な推測なんだけど、これまでの漫才は対面している2人の会話がベースだった。でも、最近のネタってLINEとかのやり取りを見ているような感じがしていて。なんでだろうと考えたときに、立ち話だったらその場の瞬間のツッコミをするけど、LINEは1回考えて、繰ったことを言う。それがLINEの間なんじゃないかなと思って。一発目のツッコミからすごく繰ってるネタになっているのが、SNSとかLINEが中心になってる世代の特徴なのかなと思った。
井口 確かに、一発目からそんなわけないツッコミを言いますもんね。一発で理解している感じのツッコミは、逆に恥ずかしい感じがするから自分たちはやってなかったですけど。
飯塚
井口 そうですね。決めてもないし、書いてきても結局違うこと言いますし。新鮮さがなくなって飽きちゃうので。ただ、そのスタイルの人たちは自分たちが新鮮さを感じる、とかじゃない部分でやっているんでしょうね。
井口は傭兵でいるのが楽しい
飯塚 「LIGHTHOUSE」(Netflix)は見た? 星野源さんが「皆目見当違い」を使ってた。
井口 僕らの話もしてくれていましたね。
──ウエストランド初の著名人ファン?
編集部注:ウエストランドは有名人のファンが1人もいない、と前回の記事で話していた。
井口 ファンではないですよ。その月はホットだったんだろうなーと思いましたけど(笑)。「LIGHTHOUSE」のようなテイストも一つのトレンドですよね。この人たちも悩んでるんだ、というのを視聴者に見せるっていう。もう演者もそういう気持ちを言っていいし、それが共感されてる。
飯塚 「あちこちオードリー」もそういう感じだもんね。芸能人としての悩みでも、観ている人が自分の立場に置き換えて共感している。トークってNetflixのコンテンツになるのかなって最初に思ったけど、何カ月もかけて対話を進めていったり、トークの内容から星野さんが曲を作ったりして、今までにないスケール感になってる。「バラバラ大作戦」(テレビ朝日)とか、秋の改編でまた新しく番組が始まると思うんだけど、ウエストランドは?
井口 いや、始まんないですよ。
飯塚 「ウエストランドと共にやっていこう!」みたいな若いディレクターはいないのかな。
井口 いないと思いますよ。
──なんでいないんですか?
井口 楽しくないんじゃないですか? 「結局あいつがしゃべって終わるだろ」みたいな(笑)。僕も最近考えるんですよ。今後どうなりたいか。芸人自ら企画構成に参加して、考えていることを形にしていく番組もけっこうありますけど、僕はそういうクリエイティブなことをしたい願望がまったくなくて。
飯塚 仕事の内容とかも含めて、ああいう感じがいいなって思う人はいるの?
井口 「あちこちオードリー」でも言いましたけど、
飯塚 傭兵として駆り出されたらその場で八面六臂の活躍をするスタイルだ。
井口 そうですね。ゲストで呼ばれて、その場その場で結果を出すほうが僕は楽しいし、いいなと思います。
飯塚 とにかくゲストで呼んでくれ、と。
井口 いや、もちろんレギュラーがあるに越したことはないですけど(笑)。僕自身にやりたいことがないんですよ。こういうことがやりたくて、こういうゲストを呼びたいんです、と自分発信でやるよりは、場を与えられたらそこで一生懸命やりたいタイプで。内容は仕切りでもなんでもいいんですけど。究極を言えば、人が書いたネタでウケても僕はなんにも思わないんで。こだわりなんかないんですよね。
ともしげの突破口、器用なラブレターズ
飯塚 でもそんな中、「チャンスの時間」(ABEMA)に2週連続で出ていたね。
井口 優勝後初めて出させてもらいました。気を使ってか、全然声もかけてくれなかったので。
飯塚 「チャンスの時間」だけは井口くんに優しい。
井口 大変でしたけどね、めちゃくちゃ! 「チャンスの時間」は僕の本音をアテレコする企画と、同級生コンビのタッグマッチ企画を2本撮りして、そのまま「アメトーーク」(テレビ朝日)の収録だったんですけど、漫才もやらなきゃいけなかったし、「商業高校芸人」なんて本当にトークないし……。
飯塚 井口くんの気持ちを代弁する企画の
井口 僕もそう思いました(笑)。この2年でともしげさんの一番いいところが出てました。
飯塚 今までテレビマンはみんな困っていたと思うんだよ。ともしげさんを呼んだはいいけど、何をやってもらえばいいのか。ただただ素朴なことを言えば面白い、って設定を作るという突破口が見えたよね。あと、「チャンスの時間」にはラブレターズが最近よく出てる。
井口 それをルシファー吉岡さんが敏感に感じているみたいです。以前この連載で話した“シオプロルート”(「2023年4月のお笑い」を参照)じゃないですけど、「ゴッドタン」(テレビ東京)の「マジギライ」でもラブレターズと一緒でしたし。それで「日本でいちばん明るい賞レース 耳心地いい-1グランプリ」(TBS)も2位だったので、もっと注目されるといいですけど(参考記事:ゆんぼだんぷ「僕たちのネタの中で一番繊細な音をやりました」耳心地いい-1優勝)。
飯塚 ウエストランド優勝の恩恵を受けている部分もあるのかな?
井口 そうなっていればいいですけどね。
飯塚 「耳心地いい-1」、ラブレターズだけめっちゃちゃんとしたコントだったよね。もしかしてバズってるんじゃないかと思ってTikTokで「ワンダーペイ」で検索したけど、バズってなかった(笑)。ラブレターズらしいなと思うのは、しっかりしたコントをやりながら、「水曜日のダウンタウン」(TBS系)の「30-1グランプリ」とか、「ゴッドタン」の「泣ける下ネタ選手権」とかにも対応できるところ。実はけっこう器用でいろんなことができるんだよね。
井口 「歌ネタ王決定戦」(MBS)も決勝行ってましたしね。
飯塚 いろいろできちゃうからこそ、やっぱり「キングオブコント」で活躍するところが見たいね。ウエストランドが「M-1」優勝して、三四郎が「THE SECOND」で決勝行って、ラブレターズが「キングオブコント」決勝行ったらすごい。
井口 「つぶぞろい」(※)の効果出てますから。リアルに考えて怖いのは、大会の優勝者によっては世代がガラッと変わることがあるじゃないですか。この1、2年は僕らの世代がいっぱい出ていますけど、第7世代ブームのときを思い出すとゾッとします。オーディションにも何も行かせてもらえなくなって。ただ、若手芸人の高齢化がとんでもないことになっている問題もありますけど(笑)。
※編集部注:飯塚が2011年から自主開催していたお笑いライブ。三四郎、ウエストランド、ラブレターズらが出演していた。今年1月に東京・草月ホールで実施された「つぶぞろい2023 ~みんな売れて大復活ライブ~」で再集結。
飯塚 第7世代のときは
井口 お笑い界は若い人に優勝してほしいと思っていると思いますけど、こればっかりはわからないですね。
Aマッソ加納、実は熱い
飯塚 AマッソのYouTubeチャンネルが最近、いろんな芸人さんを呼んだバラエティ企画になっていて。実は熱い人なんだよね、加納さんって。仲間と一緒に売れたいっていう気持ちが強い人だと思う。姉貴肌の人というか。
井口 意外と、仲間とやるのが好きな人ですよね。まさにさっき言っていたような0から作り上げるのが得意なタイプですし。
飯塚 AマッソのYouTubeが話題になって、AマッソのYouTubeから人気に火がつく芸人さんも今後増えていくのかもしれない。
井口 言ったら、フワちゃんがそうですもんね。
飯塚 そうだね。Aマッソって、一昔前までは若干斜に構えてる人たちって認識されていたところもあったと思うけど、今の活躍を見てると総合的にタレント力があるなって思う。
井口 僕たちのことを「M-1」以降に知ってくれた人が多いから、Aマッソとかと一緒にいると驚かれるんですよ。関係性を知らないから。ライブでわちゃわちゃやっていた頃の感じがYouTubeとかで表に出るといいですよね。
単独ライブをやりたくない理由をちゃんと考えてみた
飯塚
井口 あと、横浜アリーナの「出川哲朗還暦祭り」もすごいメンバーですよね。
──ウッチャンナンチャンやナインティナイン、有吉弘行さん、ダチョウ倶楽部などの出演が決まっています(参考記事:「出川哲朗還暦祭り」ナイナイ、さまぁ~ず、有吉ら集結 会場は横浜アリーナ)。こちらは来年1月開催です。
飯塚 オードリーの東京ドームも2月にあるし、ビッグイベントが続々と決まっているけど、ウエストランドはそういうのはやりたい気持ちはないの? 「ウエストランドin日本武道館」。
井口 全然やりたくないですね。
飯塚 珍しいよね、全然やりたくないって。
井口 極端なことを言うと、めちゃくちゃでかいところでやるより「チャンスの時間」とかに出ているほうが血が滾るというか(笑)。
──単独やりたくない芸人さんってほかにあまりいませんよね。
井口 ハナコ秋山くん、
飯塚 カウンター芸だよね。本流の人がいる中で出るから映えるというか。だから「M-1」ロスになってるんだ。
井口 「M-1」以上の環境はもうないですから。
飯塚 荒れてる場のほうが得意だもんね。「M-1」に代わるアウェーを探さないと。
井口 今までがずっとアウェーでしたからね。どのライブ出てもアウェーで、ホームなんかなかったので。自分たちを好きな人たちを集めて、自分たちがやりたいことを見せるのが単独ライブなわけじゃないですか。それに興味がないんでしょうね。好きな人を集めたくないというか(笑)。
飯塚 だから一貫しているよね。コント師が単独ライブの最後にやるほっこりコントが嫌だって「あちこちオードリー」とか「M-1」のネタでも言ってたけど、そういうことなんだなって思った。
井口 そうなんですよ。「あちこちオードリー」は、
ニューヨークは時事ネタ
飯塚 ニューヨークの単独「虫の息」がよかった。ニューヨークがすごいなと思うのは、どのコントも漫才も言ってみれば時事ネタ。今、最新の世の中のイジり方みたいなネタだから、来年やったら古くなっちゃうものもあると思うんだよ。ストックされないから毎年大変だろうなと。
井口 僕らのネタもそうですけど、悪口こそ時事ネタですから。
飯塚 ある程度知られたら、自分たちのお決まりのパターンで設定を変えてやっていけば毎回お客さんも楽しんでくれると思うんだけど、ニューヨークはそのときピンポイントで刺さるものを作らなきゃいけないから、それを毎回やれるってすごい。
井口 カロリーが大変。
飯塚 ちょっとでも時代の読み方を間違えていると思われたら離れていく人もいるだろうし。古いとかズレてるって思われないようにしないといけない芸風なんだよね。
井口 そのへんの感覚とか塩梅は大事ですよね。
爆笑問題・太田はずっと誤解されている
飯塚 「爆問×伯山の刺さルール!」(テレビ朝日)がこの秋改編で終了するみたい。番組の話ではないんだけど、太田さんって、誤解されてる部分も多いなって感じがしていて。あんなに優しい考えの人いないのに。
井口 それは本当にそうだと思います。
飯塚 「サンジャポ」(TBS)とか見てても一番弱い人の立場からしゃべっているのに、全然そういうふうに捉えられていないというか。大暴れしてる太田さんの印象に流されちゃってる人も多い気がする。
井口 「太田上田」(中京テレビ)がYouTubeで始まった頃はそんなコメントばっかりでした。「あれ? 太田めっちゃいい奴じゃん」っていう。そういうもんなんでしょうね。本当にわかりやすいことをしないと伝わらないし、逆にわかりやすくいいことをすれば一発で信じる。
飯塚 太田さんのそういう部分が伝わってほしいなって個人的には思っているんだけど。でも、もうちょっとしたらいいおじいちゃんみたいになりそう。タモリさんとか鶴瓶さんのような。
井口 イジれますしね。「おい!」って本人も言われたいタイプなので。
飯塚 みんなからイジられるいいおじいさんで、でも博学で、自分の言葉を持っているっていう。そんな感じになるんじゃないかなーと勝手に想像してる。
ダイヤモンドからケビンスに変えました
井口 とある芸人が、けっこうテレビに出ているのにお金が苦しいって話を聞いて、知名度とまったく比例しないんだなと思いました。逆に、劇場があるよしもとの奴らは堂々と生きてますよ。
──堂々と?(笑)
井口 やっぱり、お金があるってすごいなと思います。売れてないって本当に嫌なことなのに、すごいみんな堂々としてるなと思って。
──例えば誰ですか?
井口 いやだから、
飯塚 最近はターゲットを
井口 ケビンスに変えました。この間ダイヤモンドの小野に会って「飯塚さんに言っときました」って言われたので。本当はダイタクにしたいけど、やっぱり怖いから。
編集部注:「さほどテレビに出ていないよしもと芸人でも配信で稼いでる」という話の例で井口はよくダイヤモンドの名前を挙げていた。ダイタクは怖いから使っていない。前回の記事より。
「ロケがうまい」って、何?
井口 最近思うのが、ロケだけ「うまい」って言うじゃないですか。平場が「うまい」はないけど、ロケは技術をすごい言いません? 「ロケの達人に習おう」とか。ロケだけは「うまい」とされるものがちゃんとあるのがけっこう特殊だなあと思って。
──視聴者がそういう目で見ている?
井口 というよりは、台本の構成上そうなっていることがよくあるなと。
飯塚 「食レポ、上手にできるか」というくだりは確かに多いよね。
井口 それが本当に嫌で。面白ければ別にいいだろ!っていう。
飯塚 そういうフリが入ると、無難にこなしても面白くないし、わざと下手にやったり大きくボケるのも違うし、難しいんだよね。「天然でめっちゃ下手」しか正解がない。
井口 そうなんですよ。「アメトーーク!」の「今年が大事芸人」で食レポの悩みを話す流れがあって、そのとき千鳥さんが「別にうまくならんでええやん」というふうに言ってくれてだいぶ楽にはなりましたけど。こういう話をここでするのも、「あいつロケ下手なんだ」と思われたりするから嫌なんです。その物差し捨ててくれよ!と思いますよ。
飯塚 メタ化しているんだよね。「ロケがうまくできるか」って1個俯瞰で見てる。
──それは最近とくに顕著なことなんですか?
飯塚 そうかもしれないですね。
井口 昔からさんざんやってきて、「うまい」というものができているんでしょうね。
飯塚 テレビを引いて捉えてるスタッフが増えたから、「ロケがうまいか」という視点を番組自体に組み込んでいるんじゃないかなと思います。もともとは、取材対象者が面白く映るようにしたり、知りたい情報を引き出したりすることが「ロケがうまい」でしたけど、千鳥さんとか、ボケまくって面白くする芸人を「ロケ芸人」と言うようになってからだんだん変わってきて、今は自己完結で笑いを作って進めていくのが「ロケがうまい」になっている気がします。それでいうと、「ゼロイチ」(日本テレビ)でソニンさんがロケしてたんだけど、本来の意味でめっちゃロケうまかった(笑)。リアクションとか、絶妙な質問したり。
井口 本来そういうのでいいですもんね。
飯塚 あと、食レポの「おいしい」って顔、難しくない? 「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日)で、
井口 いいですねそれ。真似したいです。
立派な肩書にちょっとコンプレックスを感じる井口
井口 全然今月の話じゃないんですが、最近の芸人ってすごい経歴の人が多いなと思って。「慶應出身です」とか「スポーツで全国大会行ってます」とか、親戚が有名人、親がお金持ち……。
飯塚 でも、ウエストランドが持たざる者の漫才だからしょうがないよ。何もないからああいうスタイルになってる。
井口 ああー。みんなが“ある”おかげで僕らが勝てたっていう部分もあるのかもしれません。
飯塚 賞レースの予選を見ていて思うのが、現役の教師とかシステムエンジニアとかいろんな経歴の人がいて、「どうもー! 現役システムエンジニアの○○でーす!」って芸人のテンションに合わせて出てくる人が多い。元気よく、芸人らしくやらないとダメだ!って思っちゃうのか。経歴を生かすんだったら登場からその職業の感じで行けばもっとウケるんじゃないかなーと思って見ているんだけど。
井口 ラブリースマイリーベイビーだけですもんね、ちゃんと小学生の女の子っぽく出てきたのは。
飯塚 ラブリースマイリーベイビーはわかってたね。わかってるのかはわかんないけど。今はまだラブリースマイリーベイビーのなんの情報も知りたくない。すでに何かなのかもしれないし、裏に誰かいるのかもしれないけど。誰も暴かないでほしい。
最後に…
飯塚 ちょっと前回の記事の訂正をさせてください。「THE SECOND」をきっかけに
──すみません。私も以後書き方を気をつけます。
井口 じゃあ僕もいいですか? 前回の記事を読んで、「井口さんももしかしたら考えてるのか……?」みたいなことを言っている奴。なんにも考えてないわけないだろ! 考えてるんだよこっちは! いい加減にしてくれよ。だから、僕ももうちょっと考えてることとか言っていこうと思って。焚き火の前でしゃべるしかないですよ。
編集部注:テレビ朝日のYouTube「動画、はじめてみました」の企画「焚き火で語る。」に全然呼ばれない、という話を「2023年5月のお笑い」でしている。
井口 あと「あちこちオードリー」で思ったのが、「井口さんと男性ブランコの相性がいい」という言われ方をよくするんですよ。「さらばと相性いいですね」とか。いや「井口さん面白い」でいいだろ! なんで“相性”でやってると思ってんだよ。絶対に僕の手柄にはしないという強い意思を感じました。それだけ最後に言っておきます。
飯塚 「井口さん面白い」とはどうしても言いたくないのかな?(笑)
井口 だから、認められてない感はありますよ。
飯塚 どうやったらひっくり返るんだろうね。
井口 「M-1」優勝してるのになあ。
井口浩之(イグチヒロユキ)
1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年、2013年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。タイタン所属。
飯塚大悟(イイヅカダイゴ)
1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」(TBS)、「ヤギと大悟」(テレビ東京)、「トークィーンズ」(フジテレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。
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