ウエストランド井口と作家飯塚の「今月のお笑い」。

今月のお笑い 15本目 [バックナンバー]

ウエストランド井口と作家飯塚が語る「2023年7月のお笑い」

「27時間テレビ」、ピッツァマン現象、固有名詞を使うネタ、吉住単独、鈴木ジェロニモの案件化、太8連休

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ウエストランド井口と構成作家・飯塚大悟が、毎月のお笑い界の出来事を勝手に振り返る連載「今月のお笑い」。今回は、千鳥ダイアンかまいたちがMCを務めた「FNS27時間テレビ」や、若手の賞レース「ツギクル芸人グランプリ」「ABCお笑いグランプリ」、吉住単独ライブのすごさ、鈴木ジェロニモの“案件化”の速さ、「相席食堂プライムビデオSP」ロバート秋山回などが話題に上った。「ツギクル芸人」をきっかけに巻き起こったピッツァマン現象や、「ABCお笑いGP」でも見られた固有名詞を使うネタ、「M-1」王者ウエストランド河本に訪れてしまった8連休についても考える。体調不良で療養していた井口にとって復帰一発目の場。リハビリも兼ねたゆるめのトークを脳内再生しながらお楽しみあれ。

構成 / 狩野有理 ヘッダーイラスト / 清野とおる

※取材は7月31日に実施。

40代が仕切って40代が体張っていた「27時間テレビ」

──今月もよろしくお願いします。

飯塚 井口くん、入院してたんでしょ?

井口 今日退院しました。この取材から復活なんです。

飯塚 これがリハビリだ(笑)。

井口 そうですね。入院中、21時消灯だったのでもう眠いです(笑)。

──今が21時ですからね。

井口 入院中はやることなくて、寝まくりました。吉住の単独ライブを配信で観たくらいです。

飯塚 「M-1」優勝後に丸1日何もない日は今まであったの?

井口 1日休みはありました。でも、結局「何かやらなきゃ」ってなっちゃうんですよね。この間の休みはディズニーシーに行きましたけど、疲れる一方でしたし。

飯塚 1日休みは溜まったことをやって終わっちゃうからね。2連休以上はない?

井口 なかったです。マセキの「笑フェス」とか、キャンセルしてしまった仕事もあって申し訳なかったですけど、規則正しい生活をしていたので元気にはなりました。

飯塚 「FNS27時間テレビ」(フジテレビ)は出られてよかったね。

──ウエストランドは「真夜中のお笑い鬼レンチャン」コーナーに出演されました。

井口 すごい時代になっているなと思いました。学生時代に観ていた「27時間テレビ」って、30代の芸人が仕切って20代の若手が体を張っていましたけど、40代が仕切って40代が体張っていたじゃないですか。40歳の僕がチーム内の最若手でしたもん。敵チームにも空気階段もぐらがいたくらいで、あとは若手と名乗るおじさんばっかり(笑)。若手芸人の高齢化を感じましたね。最後、進行役だった麒麟・川島さんも相撲を取ることになって、「あの川島さんがやるんだ!」みたいな空気が流れたんですよ。ちょっと前までは川島さんもプレイヤー側だったと思うんですけど、今や相撲を取ることも貴重な、格のすごい人になっているんだなというのも感じました。

飯塚 帯番組を持つと変わるのかもね。

井口 あの流れを作った千鳥・大悟さんもさすがだなと。

飯塚 「真夜中の鬼レンチャン」は企画自体がすごかったよね。全部の裁量が川島さんに任せられてた。プレイヤーのボケがアウトかセーフか瞬時に判断して。「ここはアウトにしてあげたほうがおいしい」とか「ここはスルーして次の人にいこう」とかを一瞬で決めなきゃいけない。

井口 ムズいですよね。まだやってない芸人が後ろに控えているのにアウトにするのって。

飯塚 「ラヴィット!」(TBS)で脳みそが鍛えられまくって、“生放送対応最強MC”になってるなと思った。

夏っぽい、ウエストランド井口と飯塚大悟。

夏っぽい、ウエストランド井口と飯塚大悟。

──ウエストランドが「27時間テレビ」に出演するのは今回が初でした?

井口 「笑っていいとも!」のレギュラーだったときに出ているので、10年ぶりですね。

飯塚 「27時間テレビ」はここ何年かなかったし、その前は収録で、歴史や食がテーマだったから、久しぶりにフジテレビのお笑いのお祭りが復活した感じだった。

井口 出られてうれしかったですし、若手も「出たい」って思うような内容だったと思います。

千鳥が面白いものが面白い

飯塚 子供たちが今、ほいけんたさんの「カラダぐぅ(※)」の動画を見てゲラゲラ笑っているらしいね。

※編集部注:今年1月放送の「千鳥の鬼レンチャン」の「サビだけカラオケ」で、ほいけんたがT.M.Revolution「HIGH PRESSURE」の「カラダが」の部分を「カラダぐぅ」という独特な発音で歌い上げたことが話題に。「27時間テレビ」でのほいけんたは西川貴教とコラボするなど大車輪の活躍だった。

井口 すごいですよね。ここに来てほいけんたさんのピークが来るのかっていう(笑)。本当に人生ってわかんない。別に、本人的にも番組的にもそれを狙いにしていたわけじゃないでしょうし。

飯塚 制作側もこんなふうになるって誰も思ってなかっただろうね。「カラオケ番組には出ません」っていうアーティストも多い中、「鬼レンチャン」にはちょうど千鳥やかまいたちがイジりやすいアーティストやタレントが出てきて、結果的に今までにない化学反応が起こってる。

井口 飯塚さんもX(旧Twitter)で言っていましたけど、この数カ月でほいけんたさんが軸になるような番組になったのはすごいですよね。しかもそれがTikTokにも親和性があった。

飯塚 当たり前のように「TikTokで見た」ってみんな言うもんね。

井口 まあ、違法ですけどね。

飯塚 そうだね。テレビ制作者の中には狙ってやるのはダサいと思っている人もいるだろうけど、一場面が切り取られてSNSでバズることも番組の人気に繋がることが増えてきてる。

井口 アイドル鳥越もTikTokでバズったのがきっかけですから。

飯塚 あれは番組の切り取りというか、本人オリジナルの発信だけどね。アイドル鳥越の婚約も今月の出来事じゃなかった?

井口 そうだ。すごい話題の畳み掛け方ですよ。僕が「M-1」優勝したから僕のモノマネをやりだして、そのBGMをパーマ大佐が作っていて、実は2人は付き合っていて、パーマ大佐とコラボして、僕とコラボして。で、婚約。次は籍入れたとか式を挙げたとかも言いますよ、きっと。

飯塚 「婚約指輪をもらった」とか、「式場決めました」とか、もっと細かく刻んできそう(笑)。

井口 僕に保証人になってくれって言ってきてますし。こうなったら流行語にランクインしてほしいですけどね。名前が入ったら面白いので。

飯塚 そこまでは行くかなあ……(笑)。

──その場合なんていう言葉でノミネートされるんですかね?

井口 「ウエストランド井口」ですよ。

──名前そのもの(笑)。「27時間テレビ」の話に戻りますが、ほいけんたさんやダイアン津田さんのお母さんが全編通して大活躍していました。

飯塚 内輪の笑いをを世の中に発信する力が千鳥さんはすごいですよね。千鳥さんが「面白い」と言ったりイジっていたりするものって、“世の中の面白いもの”に転換されるようになってる。

井口 ダウンタウンさんがそうだったように、「千鳥が面白いって言ってるから面白い」みたいになっていますよね。「カラダぐぅ」なんてスルーされてもおかしくないのに。

──真剣に高音を出そうとしているだけですもんね。

飯塚 面白いかつまんないかジャッジする人が強いんだなって思う。有吉弘行さんとか。「つまんない」とか「スベってる」とか、なかなか言いづらいことだけど、それをズバッと言える人が時代を作っていくのかなという感じがする。

井口 自分もやってきてないと言えないから、実力は絶対ある人でしょうしね。

──「鬼レンチャン」内で誕生したスターを輝かせる一方、MC3組のbaseよしもと時代を感じさせる演出も多くありました。

井口 エンディングもそうでしたし、「めざましテレビ」のパートでもやってましたね。めちゃくちゃお笑い好きな人が作ってるんだろうなっていう、かなり掘り下げた映像だった。前回この連載で飯塚さんが話していたヘッドライト町田さんも出てきてましたよ。

飯塚 お笑いのお祭りとはいえ、27時間を貫くストーリーみたいなものも欲しかったのかなって思います。わりと最近始まった「鬼レンチャン」から生まれたものだけではストーリーにはなりづらいから、大阪の劇場の、ワーキャー路線じゃなかった3組がフジテレビのど真ん中の番組で今トップ張ってるという物語も1個加えたんじゃないかな。マラソンのゴールを番組のラストにしなかったのも、マラソンの感動と、MCたちが27時間やりきった感動がごっちゃになっちゃうから、あえて分けてやったと言っていたし。

井口 ああー、マラソンで東京ホテイソンたけるがなんかやってましたね。

飯塚 ゴールでへたり込んだ井上咲楽さんを真っ先に助けたっていうのがネットで話題になってた。実際はスタッフに頼まれて水を渡しに行ったみたいだけど。見ている人は、ああいうのが好きだよね。

井口 だから、前回僕が言ったように、もう人はみんな「いい人か悪い人か」でしかツイートしないんで。

飯塚 その論ね(笑)。

井口 「いい人か悪い人か」と、「仲いいか悪いか」だけなんだから。

ピッツァマンと「ちょんってすんなよ」は同じじゃない

井口 「ツギクル芸人グランプリ」と「ABCお笑いグランプリ」がありましたけど、ちょっと吉本が強い感じがありましたね。

飯塚 「ツギクル芸人」では、前身大会の「お笑いホープ大賞」「お笑いハーベスト大賞」から数えてもよしもとで優勝したのは初めて。

井口 エントリーできる組数が事務所ごとに決まってるから、よしもと的にも誰を行かせるかっていうところもあったと思いますけど。

飯塚 漫才工房から2連覇できなかったね。

編集部注:「漫才工房」は、事務所ライブ「タイタンライブ」でボスである爆笑問題が新ネタを披露するばっかりに自分たちも新ネタをやらないわけにはいかなくなったウエストランドが、ストレッチーズ、ママタルト、さすらいラビー、ひつじねいりと共にネタを2本おろすライブ。昨年の「ツギクル芸人」はストレッチーズが優勝し、今年はママタルト、ひつじねいりが決勝進出していた。

井口 説教しときましたよ。「このままじゃヤバいぞ」って。「M-1」もよしもとが強そうなのでまずいですね。

飯塚 井口くんは「対よしもと」の監督なの?(笑)

井口 まだ「対よしもと」でやってるの、僕しかいないんで(笑)。

飯塚 「ツギクル」はお客さんが「M-1グランプリ」や「THE SECOND」に比べて一般寄りのお客さんだったのかなと思った。テンポがよくて、わかりやすいネタがウケていた印象。フジテレビの日置(祐貴)さんはナイチンゲールダンスを「ギャグ漫才」と表現していたけど、、久々にああいう王道の漫才コントで活躍してる若手を見た気がする。最近って、センスだったりワードとか、いかに新しいことができるかに寄っていた気もするので。

井口 ナイチンゲールダンスはワードとか構成とかじゃない部分で笑わせてましたもんね。

飯塚 あと、終わった直後に巻き起こったピッツァマン現象(※)。

編集部注:「ツギクル芸人」決勝でツンツクツン万博が披露した、ピザをモチーフにした路上パフォーマー「ピッツァマン」のネタ。放送終了後、出演者たちがこれを真似するムーブメントが発生した。ママタルト大鶴肥満も「我こそが真のピッツァマンだ」というコラムを書いている。

──井口さんはピッツァマン現象をどう見てたんですか?

井口 いやいやいや、あんなの僕が一番嫌いなやつですよ。

──あはははは(笑)。

飯塚 僕は「ツギクル」の現場にいたんですけど、終わったあとになんか楽屋が盛り上がっているなーと思ったら、みんなでピッツァマンをやっている動画が上がってて。数年前ではありえないよね。さっきまで戦ってたライバルたちがこんなふうにワイワイするの。

井口 なんなんですかね? 昨今の「みんなでやろう」みたいなノリ。

飯塚 怪奇!YesどんぐりRPGのプレイヤーチェンジとかね。「仲がいい」って言うとちょっとニュアンスが違うかもしれないけど、バチバチした感じは一切ない。

井口 僕からしたら何やってんだよって感じですけどね。

飯塚 「野澤輸出のお笑い大喜利」っていう、大喜利ライブというより大喜利をどれだけ外すか、みたいなライブがあって、そこでもみんなピッツァマンやってたよ。

井口 僕の名前も出てたみたいですね。

飯塚 令和ロマンのくるまさんが「井口側の人間」と言われてた。たぶんこの連載で「『ダイヤモンドno寄席』のノリが実はよくわからない」って言ってたからだと思う。

井口 「ダイヤモンドno寄席」とかでちゃんぴおんずのネタをみんなが真似するのもそうですけど、人のをやるってどういう気持ちなんだろうって僕は思いますけど。

飯塚 ピッツァマンはまだイジってもいいと思うんだよ。ネタの中のネタだから。それを本人もコントの中でイジっている構造だし。ただ、ちゃんぴおんずの「ちょんってすんなよ」は本ネタだから、あんまり雑にイジるのは危険というか。本人たちが嫌がってないならいいんだけど……。

人のネタをやる・固有名詞を言う

井口 まあ、みんなそこまで考えてないんでしょうね。やっぱりカバーとかが人気じゃないですか。

──「M-1」後はいろんなライブでファイナリスト同士が決勝ネタをカバーして話題になりますね。

井口 K-PROでも「カバーネタ祭り」とかが盛り上がるんですけど、僕らの世代ってそういうのあんまりやりたくないから、お茶を濁して「爆笑問題やります」って言って自分たちなりに時事ネタ作ってやったりしましたもん。三四郎もそのままカバーするんじゃなく違うことやってましたね。

飯塚 エンタメが多様化してきて、「内輪ウケが一番面白い」となってきている気がする。井口くんとか僕の世代だと、初見の人も笑えるようにしなくちゃって思っているところがあって。「これは裏笑いだ」とか気にしていたけど、今は表も裏も関係なくなってる。

──裏笑いをわかりたいし、わかったほうが楽しいと考えるお笑いファンも多いのかもしれません。

井口 「内輪ウケでやってんじゃねえよ」って言われるのが嫌だったんですけど、もう誰もそんなこと言わないんでしょうね。カナメストーンの機嫌直すやつとか、ほかの人がやったら怒られそうだなとか僕ら世代は思っちゃうけど。

飯塚 “人のをやる“っていうのはベテランだと躊躇があるかもね。あと、固有名詞をネタの中に入れることについても思ったことがあって。「UNDER5 AWARD」のときに審査員の佐久間一行さんが「自分はなるべくネタの中で固有名詞を出さないようにしてる」ということを言っていて、人の名前とかを使って笑いを取るのは違うっていうのが佐久間さんの哲学なんだろうなと思って。だけど今って固有名詞をバンバン出す人がけっこういて、令和ロマンが「ABC」で披露していた漫才は、back numberの曲だけで丸々1本だった。そういうネタを賞レースに持ってくるって、以前ではありえなかったことだなと。

井口 “禁止”くらいの感じでしたよね。やってもどうせ落とされるからやらないし。

飯塚 “反則”みたいなね。今はそういう感覚もなくなって、SNS世代の面白がり方という感じはすごいする。「ゴッドタン」(テレビ東京)の「お笑いを語れるBAR」で、東京03飯塚さんがダウ90000の蓮見さんに「ヴィレッジヴァンガードでひとネタ作っちゃうセンスは自分にはない」って言っていたけど、ダウ90000は固有名詞の使い方が今っぽいよね。

井口 僕ら世代が固有名詞を使わないのは「オンバト」(NHK総合)の影響もあるかもしれないです。NHKでは基本的に固有名詞を言えないので。その延長でテレビではダメなんだって思ってました。「『ローソン』は『コンビニ』に変えてください」って言われちゃうので、はじめから固有名詞の部分が面白いっていう作り方をしていないですね。

審査員は「つまんねえよ!」と言っていい

──「ABC」の優勝はダブルヒガシでした。

飯塚 ダブルヒガシって“陽”というか、プラスの2人がコンビ組んでるのが珍しいし、いいなって思う。

井口 「ツギクル」で渡辺(正行)リーダーが言ってましたけど、年末が楽しみですね。ここで結果出したコンビはそのネタはやらないにせよ、勢いはついていると思うので。

飯塚 見ていて思ったのは、SNSでも言われていたけど、賞レースが「審査員に噛みつくショー」にもなっているよね。審査員に歯向かってみたりするのがウケる風潮がある。

井口 怖かったですからね、昔は。

飯塚 噛みついたりするともっとイタい感じになってた。今は視聴者が若いからなのか、ありになってるよね。若者が権威あるおじさんに噛みつく構図が好まれてる。

──審査員もかなり気を使ってコメントしている様子でした。

飯塚 何を言っても炎上しちゃいますからね。

井口 審査員が審査されちゃう。僕は思い切ってやってほしいですけどね。「つまんねえよ!」とか「なんだこれ」とか言ってほしい。

飯塚 いいところを褒めつつアドバイスしている人もいたけど、やっぱり上手に褒めるのが一番いいのかもね。みんなが気づいていないところまで褒める。

井口 出場者からすると審査員に何を言われても全然いいんですけど。

飯塚 揚げ足を取るのが楽しくなっているSNSユーザーが増えていると思う。ちょっとでも揚げ足を取れるところ見つけるとうれしいっていう。

井口 嫌だなあ。

飯塚 審査がおかしいってことはないはずだからね。審査員がそう言うってことは、視聴者の中にもそう感じた人がいるってことでもあるから。もしどうしても文句を言いたいなら、本人を叩くんじゃなくて主催者に意見として言うべき。

井口 審査員がどう思ったか、でしかないですからね、審査って。ちなみに、飯塚さんは「ツギクル芸人」の予選の審査をしていたんですよね。誰が面白かったですか?

飯塚 決勝に残ったメンバー以外だと、フランツが面白かった。ネタも面白いし、「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」の予選でフランツがMCをやっていた回があって、それも面白かった。フランツすごいなって思う。

井口 めちゃくちゃ褒めますね。

飯塚 フランツを早くから推してたって言いたいから(笑)。

──井口さんこの連載で以前フランツを話題に出してましたよ。「2022年8月のお笑い」で言ってます。

井口 僕がですか?

──井口さんが「その日のライブで一番ウケていて、ムカつく」という話をしていて、飯塚さんが「フランツ面白い」と言っています。

飯塚 この1年でまだ結果は出ていないけど、今後に期待。あと、サスペンダーズにがんばってほしかったけど、どうしても賞レースだとコントって難しいなと思った。

井口 異種格闘技系の賞レースだとそうですよね。「R-1グランプリ」もコントは勝ちづらいですし。

飯塚 ブロックのトップバッターだと、さらのところから空気を作っていけるからハマる可能性も十分あると思うんだけど、漫才の直後だとやりづらい部分がある気がする。でも、「ツギクル」は爆笑問題・太田さんがラジオで触れてくれるまでがセットで、いいよね。

井口 爆笑問題がMCなのは相当でかいと思います。誰よりも笑ってますから。ラジオで話してくれるのも出ている人からすればめちゃくちゃうれしいでしょうし。

飯塚 本当に損することは言わないし、ちゃんとみんなが面白く見えるようなことしか言わないんだよね。

マシンガンズ滝沢の「anan」で熱出た

井口 この間、マシンガンズとK-PROライブで一緒になったんですけど、出てきた瞬間「キャー!」ってなってました。うちわを持っている人もいたし、出待ちも何十人と集まっていて。

飯塚 そういう人たちって、なんの人たちなんだろうね? どういう人生を歩んできた人たちなのか気になる。

井口 なんで5月19日まで知らなかった奴を5月20日からこんなに応援できるんだよっていう。

飯塚 若くてカッコいい漫才師に「キャー」ってやるのはストレートすぎるというか、ほかのお笑いファンの目もあるからしづらいけど、“おじさん”っていうフィルターがあると堂々と「顔ファンです」と言えるんだろうね。

井口 本人も「俺らワーキャーなんだよ」って言えますからね。20代の奴が言ってたら鼻につきますけど。こっちも「おじさんがやってらあ」とかイジれるんで。

飯塚 だから今、顔で売り出すのっておじさんしか無理なんじゃない?

井口 そうですね。既婚者っていうところも安心材料なのかもしれません。

飯塚 滝沢さんが「anan」に出てるの見た?

井口 見ました。これ見て熱出ましたもん。

飯塚 病床で?(笑)

井口 マシンガンズがこんなことになることあるの!?っていう。

井口、「マストで来てほしい芸人」になっている

飯塚 マヂカルラブリー村上くんの結婚式でダイヤモンドの小野さんに会ったんだけど、井口くんに怒ってたよ。

編集部注:飯塚は大学お笑い時代から村上と友人。

井口 何を怒ることがあるんですか?

飯塚 「トークで落とせ!大悟の芸人領収書」(日本テレビ)でダイヤモンドの話したでしょ?

井口 はいはい。「よしもと芸人が配信で稼いでる」って話をして。

飯塚 「井口さんがオーバーに言ったせいで叩かれてる!」って怒ってた。

井口 僕もオンエアのあと会って、「違う人にしてくださいよ」って言われました。ちょうどいいラインを見つけたいんですけどね。最初「ダイタク」って言おうとしたけど、怖いからやめときました。

飯塚 ダイタク怖いんだ?

井口 怖いじゃないですか。デカいし。ケビンスとかも最近使ってるんですけど。

飯塚 「芸人領収書」で思ったのが、井口くん次の仕事があって飛び出しだったけど、飛び出しでもいいからマストで来て欲しい人なんだって思って感動した。

井口 そうやって呼んでもらえるのはうれしいですよね。

夏っぽい、ウエストランド井口と飯塚大悟。

夏っぽい、ウエストランド井口と飯塚大悟。

吉住の強さ

飯塚 僕も吉住単独を観に行ったんですけど、すごい領域に行っているなと思う反面、それがまだ一部のお笑い好きの人にしか知られてないのがもったいないなと感じました。

井口 吉住の単独に対するストイックさはすごいですよね。パーパーあいなぷぅが吉住と仲良くて、単独の時期に入ったら遊べないし、連絡も控えているって言っていたんですけど、それをすっかり忘れて吉住に会ったときに「ネタできてるの?」「まだなの? ヤバいじゃん」とか言ったら、「最悪なんですけど……」ってめちゃくちゃ機嫌損ねちゃって。こんな軽い感じでネタのこととか言っちゃダメなんだ(笑)。

──ナーバスな時期だったんですね。

井口 それくらい真剣に取り組んでるんでしょうね。

飯塚 「THE W」で優勝したときからかなり進化していたし、女性の1人コントの歴史を塗り替えていると思う。友近さんとは流派が違うけど、こんな人、今までいなかったんじゃないかなっていうくらいすごいことをやってる。

井口 ほっこり要素もなかったですし。

飯塚 狂気のコントだよね。「ゴッドタン」の「気づいちゃった発表会」でテレビ業界に対して辛辣なことを言っていたけど、それも納得できるというか。コントでこんなにすごいことをやってるから、あれくらい言える自信があるんだろうなと。人間として強い。でも、単独で見た人はみんなすごいってわかるんだけど、まだそれが世の中的に知れ渡る瞬間が来てないと思うんだよ。「キングオブコントの会」(TBS)とか、みんなが見る番組でコントのすごさが出ると、「亀教」のかもめんたる・う大さんみたいに広まると思う。

井口 単独ライブに力を入れている人は、どうやって大きくしていくか悩んでるみたいですね。

飯塚 昔はもっと口コミで伝わった気がするけど、今は「ダイヤモンドno寄席」みたいな事件性があるライブが話題になって、シンプルに「単独ライブがすごい」っていうのは行った人の中でしか語られないんだよね。

井口 YouTubeやラジオで人気とか、別の軸がないと難しいですよね。

「M-1」本気で狙うぶるファー

飯塚 あ、スーパーニュウニュウの単独も行ったよ。

井口 冷蔵庫のダンボール使ってました?

飯塚 使ってた。あらゆるダンボール使ってた。120分くらいやってたよ。

井口 長いなあ(笑)。

飯塚 ゲストがトム・ブラウンで、全員ずっと変なことやってた(笑)。女優の奈緒さんがスーパーニュウニュウのファンらしくて、映像出演していたんだよ。「奈緒さん」をお題にコントを作る話にもなっているみたい。

井口 うらやましいなあ。

──有名人でウエストランドのファンっていないんですか?

井口 1人もいないんですよ。

飯塚 確かにいないね。珍しいよね。こんなに1人もいないの。1人くらいはいそうじゃん。

井口 1人もいないんですよ。単独やっても誰も有名人来ませんし。

飯塚 今さら手を挙げる理由もないのかもね。

井口 発見感もないし。

飯塚 チャンピオンになったし、今からわざわざ応援しなくていいって思われているのかも。

井口 優勝する前も別に誰にも応援されてなかったですけど……。飯塚さん、ぶるファー(紺野ぶるまルシファー吉岡のユニット)の単独も行ってましたよね? ネタバレ禁止って口酸っぱく言っていたので話せることはないかもしれませんけど。

飯塚 いろんなタイプの漫才をやってて、すごいなと思った。2人ともネタを作れるし、ネタを作るのが驚異的にうまい。

井口 珍しいですよね。ここまでちゃんと単独をやって「M-1」に向かうユニット。

飯塚 さっきの吉住さんの話じゃないけど、ルシファーさんも単独をやれば観に行った人は「面白い」って言うけど、すごさが外に伝わっていない。「M-1」でいいところまで行って、知ってもらうきっかけになるといいけど。

井口 準決勝まで行けばだいぶ変わると思います。おいでやす小田さんとこがけんさんも「M-1」決勝で面白さが知られたわけですし。

井口はモテない奴らを束ねない

飯塚 鈴木ジェロニモのYouTubeで「説明」っていう動画シリーズがあって、例えば水道水のおいしさをいろんな言葉で表現するんだけど、数カ月前に始めたことなのに、もう「きのこの山」とコラボしていて。動画がバズって、企業が目をつけて、案件に結びつくまでのスピードが尋常じゃない。鈴木ジェロニモそのものがまだ世間に知られていないのに。

井口 僕ですら会ったことないですもん。

飯塚 こういうのも一個の売れるパターンなのかもね。でも、お笑いファンの中で盛り上がってたのにもう案件になっちゃったって残念がってる人もいた。

──仕事になっちゃうと、違う。

飯塚 ビジネスになると冷めちゃう人もいるのかも。

井口 YouTubeって「自分たちの味方だ」と思わせてる人が強いですもんね。さらば青春の光みたいな。もういい加減にしてくれって思いますけどね。フジロック行きます、エロいことできそうだな、女子に話かけられた! 3Pできそうや、結局できませんでしたシコって寝ます……って、もういいよそれ!(笑) たまには「できました」とかあればいいですけど。

飯塚 「できました」は言わないんじゃない(笑)。

井口 それで「自分たちの味方だ」ってまんまと騙される奴もいるんだから。

飯塚 まあ、それは森田さんが独身であることと個人事務所であることの強みを生かして当然だけどね。生かしてほしいよ。

井口 そういうのが上手ですよね。バキバキ童貞とかも“僕らの味方”感があるというか。

飯塚 でも、童貞ビジネスに走らないのが井口くんの品の良さではあるよね。モテない人たちを束ねて「俺についてこい!」みたいなムーブを取れるポジションではあるじゃん。

井口 ついて来てほしくないんですよ。一緒にするなって常に思っているんで。

飯塚 そこがいいところ。「ついてくるな!」っていう。

井口 ついて来そうになったら「こっちはサッカー部だからな」って毎回言うようにはしてます。お前らとは違うんだぞと。

入院中に一気見した「相席食堂」特別編

──ほかに今月印象的なことはありましたか?

飯塚 毎回、取材前に取り上げるべきトピックを募集しているんですが、だんだんリプライが減ってきてます。興味を持たれなくなっているのかも。

──がーん。

飯塚 でも、その中でも多かったのが、「相席食堂プライムビデオSP」。いろんな有名監督が「相席食堂」(ABCテレビ)をプロデュースするっていう企画なんですけど、最後がロバート秋山さんの回で、架空のキャラでロケをしているのがとにかく面白いっていう。

井口 今日全部観ました。

飯塚 秋山さんの回?

井口 いやいや、全部です(全10話)。病院で暇だったんで(笑)。

飯塚 「クリエイターズ・ファイル」もそうだけど、秋山さんのセンスがすごすぎるから、千鳥さんみたいに面白さを噛み砕いて解説してくれる人がいたほうがいいのかなって思った。

井口 とんでもない次元にいますもんね。唯一無二じゃないですか。

飯塚 唯一無二だね。こんなに芸人みんなが認めていて、かといってアングラではなくて一般的にも面白いと思われている人ってほかにいないと思う。

井口 YouTubeだけで完結しているんじゃなくて、テレビでもちゃんと成功しているし、媚びへつらってる感じもなく面白いって、とんでもないですよね。誰も真似できない。

飯塚 秋山さんみたいな人って現れないよね。

歴代「M-1」王者初の8連休

飯塚 村上くんの結婚式で脳みそ夫さんにも会って、井口くんと(三四郎)小宮くんが売れたから、「パフェがくるまで」をまたやらなきゃなって言ってたよ。

編集部注:マヂカルラブリー村上、脳みそ夫、飯塚は大学お笑い時代からの仲。「パフェがくるまで」は2012年に開催された、脳みそ夫、三四郎・小宮、ウエストランド井口によるトークライブ。

井口 やらなきゃではないですけど(笑)。

飯塚 狩野さん(=筆者)が、すごい昔に脳さんがやっていた配信を観てて怖いってことも言ってましたよ。

──ん? あ、Ustreamで配信していた「天才・脳みそ夫の臓器が出るテレビ」。ご本人に取材でお会いしたときに「観てました」とお伝えしたことがあって。

井口 誰が知ってるんですか!(笑) 僕らもゲストで出たことある気がしますけど。

飯塚 脳さん、自分が生配信の走りだって言ってた。

──2010年頃のことです。

井口 僕らと一緒にやっていた人がだんだんみんな世に出てきて、昔のライブ、それこそ「つぶぞろい」(※)みたいなこともまたやりたいですよね。

※編集部注:飯塚が2011年から自主開催していたお笑いライブ。三四郎、ウエストランド、ラブレターズ、脳みそ夫らが出演していた。

──そろそろお時間ですが、話し忘れていることはありませんか?

飯塚 カベポスターの永見さんがYouTube「さまぁ~ずチャンネル」に出ていたのを観ました。「さまぁ~ず大好きカベポスター永見に凸撃」っていう企画なんだけど、永見さんってさまぁ~ずに憧れているんだなーと思って。

井口 意外ですよね。

飯塚 あらかじめ10個の大喜利の答えをフリップに書いておいて、どんなお題でもその中で対応できるっていう特技を披露してたのがすごかった、っていうだけの話なんですけど。

井口 あ、そういえば前回「まーごめ問題(※)」を研究してくれたことに大鶴肥満が喜んでましたよ。

※編集部注:ママタルト大鶴肥満のギャグ「まーごめ」についてマルシアが番組でどう思うか聞かれていた件。

飯塚 僕も「ツギクル芸人」のときに言われた。「すいませんでした!」って。僕に謝られても困るんだけど(笑)。

井口 来週の「ナイツ ザ・ラジオショー」(ニッポン放送)に夏休みのナイツさんの代打をやらせてもらうんですけど、ゲストで三四郎と(モグライダー)ともしげさんが来ます。

飯塚 お仲間ラジオだ。ちゃんと「ウエストランド ザ・ラジオショー」なんだもんね。

井口 そうなんですよ。前、「タイタンライブ」に三四郎とモグライダーがゲストで来たとき、ナタリーの見出しで「3組揃う」って書いてて。誰目線のなんなんだよ!(笑) 何が揃ったんだよっていう。

参考記事:「タイタンライブ」でウエストランド、三四郎、モグライダー揃う

──ついに揃った!と思いまして。

井口 僕らからしたらそうですけど(笑)。また揃いますのでぜひ聴いてください。あと、ABEMAでやっていた石橋貴明さんの特番に太田さんが出て、「タイタンライブに出てくださいよ」って言ったら「じゃあやるか!」みたいな流れになっていたんですよ。思いのほか貴さんがいいリアクションで。いつか出てくれるのかなと思うと楽しみですね。まあ、自分も新ネタ作んなきゃいけないのか……と思うと憂鬱ですけど。今月の「タイタンライブ」にはナイチンゲールダンスが出ますからね。

飯塚 最後に「太、8連休」は言及しておく?

編集部注:「M-1グランプリ2022」優勝から7カ月目にして8連休が到来したことを「ウエストランドぶちラジ!」#585で河本が報告している。

井口 「M-1」王者で初じゃないですか? 8連休。

飯塚 「M-1」王者じゃなくても心配になるけど。

井口 そんなん言い出したら、去年は全連休ですから。それと比べたら大したことないですよ。バイきんぐの西村さんのインタビューを読んだら、月2回しか仕事がなかった時期もあったみたいなので、西村さんみたいにこっからまた盛り返してくれればいいですけどね。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

ウエストランド井口と飯塚大悟。

井口浩之(イグチヒロユキ)

1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年、2013年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。8月25日(金)に「タイタンライブ」「爆笑問題withタイタンシネマライブ」(全国25の映画館で「タイタンライブ」を同時生中継)開催。タイタン所属。

飯塚大悟(イイヅカダイゴ)

1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」(TBS)、「ヤギと大悟」(テレビ東京)、「トークィーンズ」(フジテレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。「手前味噌ですけど、『バカリズムと欲望喫茶』(テレビ朝日)が面白いので観てほしいです。喫茶店を舞台にしたエチュードバラエティという感じで、即興で、芸人さんと役者さんが面白いやり取りを繰り広げています」。TVerで8月7日(月)まで配信中!

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