芸人がドラマ脚本を手がけることは、今や特段珍しいことではなくなりつつある。先日発表された「第39回ATP賞テレビグランプリ」で優秀賞、総理大臣賞を受賞した「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ)のバカリズムは2018年に「架空OL日記」(読売テレビ)で「第36回向田邦子賞」に輝くなど、多数のドラマ脚本で存在感を示しているし、映画界でキャリアを積んできた品川庄司・品川や、演劇界では「岸田國士戯曲賞」ノミネートの経歴を持つかもめんたる・う大、豊川悦司&中村倫也のバディものを描いたシソンヌじろうのほか、近年のニュースを振り返ると空気階段・水川かたまり、ヒコロヒー、吉住、ダウ90000の蓮見翔といった若手の名前も“脚本家芸人”と言われて思い浮かぶリストに入ってくるだろう。
そんな中、
取材・
「お笑いインスパイアドラマ ラフな生活のススメ」
小池栄子、桜井玲香、中川大輔扮するお笑い好きの一家・福池家の日常を描くドラマ。家族とその周りで起こる小さな事件を芸人たちのネタの力を借りて解決していく。彼らがいつも楽しんでいるのは、ウエストランド、ミルクボーイ、錦鯉、天才ピアニスト、笑い飯ら賞レース優勝者から知る人ぞ知るネクストブレイク芸人まで、幅広いネタ。さらに本人役でくりぃむしちゅー有田、ヨネダ2000、おいでやす小田などがさまざまな方法で出演する。セットやセリフにもお笑いのエッセンスが満載。現在第1話がNHKプラスで見逃し配信中。
セリフの言い方「よしなに」
──今回の脚本家陣の顔ぶれは新鮮でもあり、納得感もある4人だなと思いました。パイロット版から続投する加納さんとしてはいかがですか?
Aマッソ加納 すごく“優しい3人”が加わってくれたなと思いました。
ザ・マミィ林田・ハナコ秋山・男性ブランコ平井 あはははは(笑)。
加納 パイロット版で小池さん、桜井さん、中川さんのお三方が作られた空気感をそのまま引き継いでレギュラー化するとなったときに、この3人の名前が挙がったのには賛同しかなかったです。コント師として面白い、脚本も書けそうなのはもちろん、「嫌な奴がいない」ってめっちゃいいなと思いました。嫌な奴が1人でも入ってたら、小池さんたちが作ってきた温かい空気を壊してしまいそうなので。この3人なら間違いない。NHKは目のつけどころがさすがやなと思いましたね。
林田 そう言っていただけて照れくさいですね。優しく育ててくれた親に感謝します(笑)。
──すでに活躍している“脚本家芸人”というと、かもめんたる・う大さんやシソンヌじろうさんなどがいらっしゃいますが、その1つ下の世代のみなさんで一緒に作品を作れることについてはどうでしょうか。
林田 シンプルにうれしいです。脚本に挑戦してみたい気持ちはずっとありましたけど、なかなかチャンスをいただけるものじゃないと思っていたので。
秋山 任せてもらえる世代になってきたのかなって思いましたね。(ポスターに記載されている脚本家の名前を見て)この並び、違和感しかないですもん(笑)。ちょっと若手芸人すぎないですか? 大丈夫ですか? NHKのドラマですよ?
林田 確かに(笑)。「NHKで」っていうのがまたすごいですよね。
加納 自分の書いたセリフを俳優さんたちが言ってくれているのを見て、「なんか言ってるで!?」っていまだにびっくりします(笑)。
平井 かなりセリフ通りに言ってくれているんですよね。自分としては「そこはよしなに、よしなに」のつもりで書いていたんですが、こんなに忠実に言っていただけるとは。
林田 平井さんは特に、今の「よしなに」みたいな独特な言い回しとか個性があるじゃないですか。それをそのまんま感じられるシーンもありましたよね。「これ平井さんが書いてる!」ってすぐわかる(笑)。
平井 例えば、「はっきりと言ってよ」って書けばいいところを、なんか知らないけど「はっきり、くっきり」ってほんまにコントの勢いでセリフを書いちゃっていて。全然はしょってもらってよかったんですけど、そのまま言ってくれているのがうれしくもありました。こちらから出したものを大事にしてくれてるんだなって。
──記者会見のときに、キャストのみなさんおっしゃっていました。「絶対に芸人さんの意図があるだろうから、そのまま言いたい」と。
加納 いや、そんなんないんですよ?(笑)
──そうなんですね。一字一句台本通りではなくてもいい?
加納 そうですね。撮影現場に赴いて演出しているわけではないので。むしろ、「こんな間で言ってくれんねや!」っていうのが一番の発見で、面白かったです。普段のコントでは自分に当て書きしているわけじゃないですか。だから間とか言い方とかも書きながら自分でわかっていますけど、そうじゃないのがドラマというか。自分の手から離れたら、もうみなさんのものなんだなと思いましたね。
平井 現場でのやり取りの中で生まれるものって絶対にありますしね。そこに関しては任せたほうがいいんだろうなと。
秋山 普段やっている自分たちのコントだと、それぞれが勝手にセリフの行間で余計なことを言って、やりながら作る部分も多いんですよ。だけど今回は台本が自分の手を離れたらもう関与できないので、僕は何度も頭の中でリハーサルしながら書きました。それがちょっとプレッシャーでしたね。それでも出来上がったものを見ると意図していなかった言い方でより面白くなっていることもあって、いろんなワクワクを感じられる経験でした。
──「平井さんの台本だとわかる」というお話がありましたが、お互いの脚本を読んで“らしさ”が出ているなと思った部分はありましたか?
平井 ボケの切り口とかに出ていましたね。
加納 「秋山やな~」と思ったのが、みんなで餃子を包むシーン。その観点が、ハナコっぽというよりは秋山っぽかった。自分たちのコンビやトリオとして出しているワールドって、もうそれぞれのパーツが決まっているからそれに合うようにやっていると思うんです。でも今回の脚本では、「こういうことを面白がったり、いいと思っているんや」というのが個人として出ていたのがよかったです。
秋山 家族が居間に集まるシーンで、どうしたら自然に家族が集まれるかと考えたときに、「餃子包もう」と思って(笑)。シチュエーションが限られているからこそ、それぞれの個性が出るのかもしれないですね。
脚本家芸人への道は長い
──ドラマ脚本に挑戦してみて発見したこと、気づいたことを教えてください。
加納 入口をちょっと覗かせてもらった感覚で、「あ、先は長いですね!」っていう気持ちになりました(笑)。挑戦したことによって、まだやれていないことが山のように見えたというか。でも楽しさも知れたし、もっとやってみたい気持ちにもなりました。
秋山 うわー、めっちゃわかります。もっと学ばないと武器が足りないこともわかりましたし、学びたいという意欲も湧いてきました。僕はテレビドラマの脚本は2回目なんですが、以前やらせてもらったのはシチュエーションコメディだったので、それよりも場面が多くて考えることも多かったんです。ドラマだからこそ思いっきり自由にやれることもたくさんあって、楽しかったです。
──コントとドラマでは脚本の書き方は異なりましたか?
秋山 それもまだ知り始めたところです。僕の担当した回に出てくる“ちっちゃいおいでやす小田さん”の使い方は映像だからこそできたので、こんなことも叶うんだ!と思う反面、俳優さんたちに「これの何が面白いんだ?」とか思われていないか心配にもなりました。自由ではあるけど、その分責任があるなと。
林田 岡崎体育さんが出てくださった回は思い切ってコントっぽい言い回しでやらせていただいたんですが、想像の何倍も面白くなっていました。コンビでやっているときも相方が台本以上に面白くしてくれることはもちろんありますけど、初めてやっていただく方だったし、芸人さんでもなかったので、より興奮がありましたね。こんなに膨らむことがあるんだ!って。いろんな人に宛てて書けることも脚本をやらせていただく楽しみの1つなんだなと思いました。
平井 僕はドラマの脚本を自分がやるなんて考えたことがなくて、ずっと劇場でコントをやって死んでいくんだろうなと思っていたんですけど(笑)、今回初めて監督さん、ディレクターさんと話し合いながら作ってみて、その作業がむちゃくちゃ楽しかったんです。「ここはこういう思いなんじゃないですか?」「ああ確かに。じゃあこうですかね」みたいな、みんなでやり取りしながらものを作ることが新鮮でした。正直、ドラマも今まであまり見てこなかったんですけど、最近よく見るようになりました。
──今まで意識していなかったドラマに興味を持つきっかけにもなったわけですね。
平井 ほかのみんなの担当回を見ても、画角とか撮り方でこんなに面白くできるんだって驚きがありました。コントって、全部セリフに起こさずともシチュエーションを想像させないといけないんですけど、今回はそれを全部セットとして配置して、そこにはちゃんと意図もあって、まさしく“絵作り”だなって。だから、僕にとってはコントとドラマはまったく違う脳の使い方でした。本当は映り方まで考えられたらいいんですけど、そこまでは無理だったので監督さんたちにお任せしました。「よしなに」と。
「作品」は誰のもの
──普段1人でコントを書いているみなさんにとっては、演出の方やプロデューサーなど制作陣みんなで作っていく過程ってどうでしたか?
林田 楽しかったですね。
秋山 登場人物の性格とか「今この子はこうなりかけています」みたいな状況が書かれている表が用意されていて、それを見るだけで楽しかったです。
──加納さんは撮影現場に足を運んだということですが、どんな様子でしたか?
加納 私は「すみません、お邪魔させてもらいます」という気持ちで行ったんですけど、小池さんから「加納さんがいたら緊張します」とか言われて。……な、わけなくない!?(笑)
一同 あはははは(笑)。
加納 どういう意味?と思って、頭ぐるんってなったわ。「言い方合ってますか?」とか聞かれて。こっちは「そんな、そんな!」みたいな感じでした。
林田 俳優さんってけっこう芸人を立ててくれますよね。
加納 平井くんが言っていたように、大人数でもの作ることの楽しさで言うと、カメラマンさんが「俺の作品!」みたいな顔で撮ってくれているんですよ(笑)。それがめっちゃうれしくて。
平井 それいいなあ。それぞれ自分の作品だっていう責任感を持ってやってるんだ。
加納 全員が「やらされている」っていう空気になる可能性もなくはないじゃないですか。みんなが前向きに取り組む現場にいさせてもらえたのは幸せでしたね。今回はいいチームだから同じ思いで進められたと思うんですけど、ふと「ドラマって誰のもんなんやろ?」って考えたんですよ。もし打ち合せで、私が「いや、これでいきます!」って主張したとして通るんかな?とか。「よーい、スタート」で急に小池さんが全然脚本と違うこと言い出して、現場で「それええやん」ってなったら変わっていくのかな?とか。
平井 でもやっぱり、監督のものなんじゃないですか? 脚本はもう手を離れたらあんまりやれることはない気がします。
加納 確かに。そういうことも考えたりして、大人数でものを作ることの面白さをいろんなところで感じられましたね。
<後編につづく>
プロフィール
加納愛子(カノウアイコ)
1989年2月21日生まれ、大阪府出身。幼なじみの村上とAマッソを結成し、2010年にデビューした。2021年に「女芸人No.1決定戦 THE W」で準優勝。近年は執筆活動も行い、文芸誌で小説やエッセイを発表する。著書に「イルカも泳ぐわい。」(筑摩書房)、小説集「これはちゃうか」(河出書房新社)など。ワタナベエンターテインメント所属。
林田洋平(ハヤシダヨウヘイ)
1992年9月10日生まれ。長崎県出身。トリオ時代を経て2018年に相方・酒井とコンビ結成。「ツギクル芸人グランプリ2019」優勝。「キングオブコント」では2021年に初めてファイナリストとなり注目を集める。結果は男性ブランコと同率2位。ラジオリスナーとして知られ、「眼力剛」のラジオネームで投稿していた。プロダクション人力舎所属。
秋山寛貴(アキヤマヒロキ)
1991年9月20日生まれ、岡山県出身。相方・菊田とのコンビに岡部が加入する形で2014年にハナコを結成した。2018年、「キングオブコント」優勝。2021年1月クールのドラマ「でっけぇ風呂場で待ってます」(日本テレビ)でシソンヌじろうらと共に脚本を担当した。今年4月に初のイラスト集「#秋山動物園」(朝日新聞出版)を発売、KADOKAWAでは初のエッセイ「人前に立つのは苦手だけど 」を連載している。ワタナベエンターテインメント所属。
平井まさあき(ヒライマサアキ)
1987年8月1日生まれ、兵庫県出身。大学の演劇サークルで出会った相方・浦井とコンビを結成し、2011年に大阪でデビュー。2017年に活動拠点を東京に移した。2021年に「キングオブコント」決勝に初進出し、ザ・マミィと同点で準優勝。翌年2022年には「M-1グランプリ」でも初の決勝進出を果たし、4位の成績を残した。吉本興業所属。
お笑いインスパイアドラマ ラフな生活のススメ
NHK総合 2023年7月4日スタート 毎週火曜23:00~23:29(全10話)
NHKプラスで配信。
<出演者>
小池栄子 / 桜井玲香 / 中川大輔 / 豆原一成(JO1) / 松本穂香
竹原芳子 / なだぎ武 / 宮澤エマ / 加藤諒 / 戸塚純貴 / ヨネダ2000 / イチキップリン / 岡崎体育 / 岡野陽一 / おいでやす小田 / 木野花 / 本多スイミングスクール / くりぃむしちゅー有田 / Yes!アキト / インディアンス田渕 / 笹野高史 / 溝端淳平 / 三四郎 / 平成ノブシコブシ吉村 / 石川萌香 / ウエストランド / チョコレートプラネット / ジャングルポケット / 男性ブランコ / ミルクボーイ / 錦鯉 / ロッチ / 天才ピアニスト / 笑い飯 / ヒコロヒー / ビスケットブラザーズ / かが屋 / さや香 / ザ・マミィ / アルコ&ピース / ハナコ / ランジャタイ / マヂカルラブリー / Aマッソ / きしたかの / いぬ / ソマオ・ミートボール / ゆめちゃん / ちゃんぴおんず ほか
ナレーション:Aマッソ加納
関連記事
NEWS @NEWS_0
Aマッソ加納、ザ・マミィ林田、ハナコ秋山、男性ブランコ平井「芸人が書くドラマ脚本」(前編) https://t.co/jrqXChmkLE