阿佐ヶ谷姉妹

忘れられないあのライブ 第8回 [バックナンバー]

阿佐ヶ谷姉妹が語るシティボーイズへの憧れ、コンクリの上が楽屋だった結成初期

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お笑い好きの私たちに「忘れられないあのライブ」があるように、芸人にもそんなライブがあるだろうか? ウケた、スベった、隣の芸人が爆笑を取って悔しかった……出演者として体験した「忘れられないあのライブ」、そしてお客さんとして心揺さぶられた「忘れられないあのライブ」を、芸人たちに聞いてみる。第8回は4年ぶりとなる単独ライブ「私の中の豆苗」を控えている阿佐ヶ谷姉妹。結成して初めて出たライブや尊敬するシティボーイズから告げられた“サプライズ”について語ってくれた。

取材 / 狩野有理

忘れられない“出た”ライブ

コンクリの上が楽屋

江里子 どう? 美穂さん。

美穂 「ラ・ママ新人コント大会」に初めて出たときかしら。

江里子 2008年の6月だったわね。

美穂 日付とかすごい覚えてるわよね、お姉さん。

江里子 そう? オーディションを受けて、新人コーナーに出させていただいたのよね。「10人手が挙がると強制終了」っていう。美穂さんのアルバイト先の方も来てくださって。“ゲラ要員”というか(笑)。

美穂 お願いしたわけじゃないのよ。「出るよ」と言ったら4、5人で来てくれて、声出して笑ってくれたわね。

江里子 その方たちに見てもらっている心強さもあってか、夢中になってやって、なんとか最後まで完走できて。

美穂 初出演で強制終了だったらトラウマになりそうだけど、やり切れてよかったわね。もう、無我夢中で。

江里子 私たちが芸人を始めたのが2007年の10月。鰻屋さんのご主人に「阿佐ヶ谷姉妹」と名付けていただいて、「なんでもやりますから阿佐ヶ谷姉妹にお声がけください」なんて半分ふざけてブログに書いたら、「爆笑の王子さま」というライブに呼んでいただいたのが最初です。北区の王子でやっていたので、「爆笑の王子さま」。

美穂 うっすら覚えてる。

江里子 3~4分の持ち時間だったのに、私たちは8分やっちゃったのね。

美穂 「時間を守る」とかもわかってなかった。時間を計るなんて発想がなかったのよ。

江里子 そうなのよね。興が乗ればそれでいっちゃえ!みたいなところがあった(笑)。その当時、まだ私たちは演劇を志していたので、3分や4分の感覚が身についていなくて。最初に由紀さおりさん、安田祥子さんのライブ中の会話?みたいなものを1分ちょっとやって。あの頃は「ボボボーボ・ボーボボ」という響きだけで笑ってもらえると思っていたのよね。由紀さおりさん、安田祥子さんが「それなに?」「ジャンプよ」って言うだけのネタ。あとは、ひたすら「トルコ行進曲」を歌いました。

美穂 そしたらどなたが怒ったんだっけ?

江里子 冷蔵庫マンさん。ちょっと睨まれたっていうだけよ? 冷蔵庫マンさんも劇団上がりだから。しっかりされてる。

美穂 お客さんの反応は、ザワザワ~っていう感じだったかしら。

江里子 フワ~っとした空気になったわね。実力のある共演者の方、ガッポリ建設さんとかWコロンさんはすごくウケていたんですけど。

美穂 私たちはずっと歌っているだけだから、「この人たち、なんなんだろう」みたいな反応でしたね。手応えとかは何もありませんでした。

江里子 「トルコ行進曲」の練習ばっかりしたわね。

美穂 そうね。イスがいっぱい置いてあるような、薄暗い物置みたいなところに隠れて座って、ぶつぶつ練習して。

江里子 共演の芸人さんたちは楽屋にいらしたんですけど、私たちみたいなおばさん2人では気後れして。非常口に続いている階段よね? そこに、横には並べないので、階段の上と下、段違いになって座って。トーテムポールみたいになって2人で同じ方向見て、ぶつぶつぶつぶつ練習した。懐かしいわねえ。

美穂 あのときからあんまりネタを覚えていなかったのよ、お姉さんが。ギリギリなのにやってこなかったの。

江里子 “帳尻合わせのお江里”だから。

美穂 そのときはまあ、1回出るだけだから注意しなくてもいいかと思ったんですよ。ライブに出続けるとは思っていなかったですし。それがこんなふうになるなんてねえ。不思議なもので。

江里子 15年続くなんてね。その頃、「エンタの神様」(日本テレビ)が全盛期で、スタッフさんがあらゆるライブに新人発掘に来られていたんです。そこで「ヘンテコな奴らがいるぞ」と見つけていただいて、そこから2008年の2月に初めての深夜のテレビ出演。そのあとが、さっき美穂さんが言った「ラ・ママ」ね。

美穂 そういえば「ラ・ママ」のときも非常階段のところにいたわね。そこでお化粧したり。

江里子 だいたいコンクリの上だったわね、私たち。

美穂 入り口前の塀のところで飛びツッコミの練習してたわね。

トーテムポールっぽい阿佐ヶ谷姉妹。

トーテムポールっぽい阿佐ヶ谷姉妹。

泣き崩れた「ASH&Dライブ」

江里子 やだ、なんで私「爆笑の王子さま」のことを長々と。「ASH&Dライブ」の話もしたかったのよ。

美穂 そうね、そうそう。

江里子 2012年の4月のことなんですけど。

美穂 よく覚えているわね。

江里子 吉祥寺で開催された、シティボーイズさんはじめASH&D所属の人が全員出演する「ASH&Dライブ」という事務所ライブがあって。私たちはその当時、仮所属、いわゆる“預かり”の状態で出させていただきました。2日間あって、最終公演のエンディングで急に「お前ら、前に出ろ」と。そこではシティボーイズさんに表彰状を読み上げていただいたんですが、「阿佐ヶ谷姉妹を正式所属とする」ということが書かれていて、晴れてASH&Dに所属できるということをサプライズで伝えていただいたんです。号泣して、泣き崩れました。自分たちが「阿佐ヶ谷姉妹」という名前で初めてライブに出たのが2007年の10月22日。で、ASH&Dに所属できたのが2012年の4月22日。ちょうど4年半越しのお話だったんです。

美穂 あら、そう。

江里子 どちらも22日だったから覚えているのよ。そういうご縁みたいなものも感じたりしてね。私が泣き崩れたときに、一体となって拍手してくださったお客様や、舞台上で笑ってくれた先輩方が温かくて。私たちは劇団研究生として知り合った当初からシティボーイズさんを好きで憧れに思っていたので、そのシティボーイズさんから正式所属を伝えていただけたことが何よりうれしかった。

美穂 毎公演、表彰状をもらったんだっけ? 1回だけ?

江里子 ん? 1回しかもらってないわよ? 何、毎公演って。ちょっと待って美穂さん。記憶が全然ないのはどういうことなの?

美穂 3回公演あったとしたら3回とももらっていたのかしらって思って。

江里子 楽回よ、楽回! 最後の公演だけ。サプライズを3回って、そんなわけないでしょ。そのたびに号泣していたらやらせじゃないの。いくらなんでも毎回号泣するほど役者じゃないわよ?

美穂 (笑)。お姉さんが泣いていると私が引いちゃうところがあって、「すっごい泣いてるなあ」と思った記憶はあります。

江里子 打ち上げの席にも初めて参加させていただいて、きたろうさんが酔っ払いながら「お前たちは大丈夫だ」って言ってくれて。「俺が大丈夫って言った奴らは大丈夫なんだ」と。「ほかにどんな方がいたんですか?」と尋ねたら、「嵐だ」と……。

美穂 ええ? 適当だったんじゃない?

江里子 酔った席でのお言葉でもうれしくて……(笑)。とにかくがんばらなきゃなって思いましたね。とにかくがんばらなきゃなって思いましたね。

美穂 「入れてもらえたからがんばろう」っていう話はしたわね。

江里子 「骨を埋める覚悟でがんばらなきゃね」って。

あと2個ありました

江里子 私、5個くらい話していいと思っていたんですけど、1人ひとつずつですか?

美穂 あと何を言おうとしたの?

江里子 「ラ・ママ」の300回スペシャル。

美穂 お姉さんが緊張してお腹壊したとき?

江里子 そうそう。俳優座という大きい会場で、向かう途中の国会議事堂前か霞が関のトイレにこもるはめになっちゃったのよね。ウッチャンナンチャンさんや「ラ・ママ」を支えてきたそうそうたる方たちが出演されていたんだけど、会場で内村さんをお見かけして、テンション上がって「おはようございます!」って言ったら、トイレに入られるところだったのよ。まずいところでご挨拶したわ。やだ、トイレの思い出ばっかりね。もう1つは、今いくよ・くるよのくるよ師匠とご一緒させていただいた、なんばグランド花月の舞台。ミニ新喜劇のコーナーの中でくるよ師匠もピンクのドレスを着られて、“阿佐ヶ谷三姉妹”みたいな形で共演させていただいたのが印象に残っていますね。くるよ師匠は本当に天真爛漫で、堂々たるパフォーマンスをされていたんですけど、舞台を降りられてすぐに「あそこ、どやったかなあ?」「どうしたらもっとウケたかなあ」と振り返られていた。くるよ師匠は完璧で、私たちが下手くそだったから以外に理由はないんですけど……。こんなにレジェンドな方でも舞台1つひとつ、真剣に追求されているんだなと感動しました。

忘れられない“見た”ライブ

シティボーイズに憧れたのに、こういう芸風になった

美穂 一緒のやつかしら。

江里子 一緒のやつじゃない?

美穂 シティボーイズさんが日比谷野音でやられた「NOT FOUND 非常識な青空」(1997年「NOT FOUND あるいは、レイヴ・ウィズ・ザ・キャッチボールシスターズ」の追加公演)。お姉さんと、お友達何人かで観に行きました。

江里子 憧れのシティボーイズさんと中村ゆうじさん、いとうせいこうさん、5人がひとつも手を緩めることなく私たち全員を笑わせに来てくださる感じがめちゃくちゃカッコよかった。だんだん夕暮れになっていって、夜になっていって……という移り変わってく時間をシティボーイズさんやシティボーイズファンの方と一緒に共有できて、「なんて幸せな時間なんだろう」と思いながらずっと笑って観ていました。映像も音楽も生の舞台も全部が一体となって、素敵だけどめっちゃ面白くてぶっ壊れていて。その空間にいられてとってもうれしかったんです。

美穂 トラブルがあるのも楽しくてね。大竹さんが開始早々に額を切っちゃって、絆創膏貼って出てきて。20代の頃に観た舞台ですけど、すごくよく覚えています。

江里子 あの舞台に憧れたのよ、私たち。なのに、こうなっちゃったのよねえ。

美穂 憧れたんですけど、全然ああいうおしゃれな芸風になれなくてね。ピンク色になっちゃって。

江里子 どういう計算でこうなっちゃったのかしら。方程式間違えてちゃったみたい。でも、あんな素敵な年の重ね方ができる芸人さんになれたらいいなと思いますね。それはいまだに変わらずに、憧れ続けています。まだまだだわね、私たち。青いわね。いつまで置いておいても硬いままのキウイってあるじゃない?

美穂 そういう感じね。熟さない感じ。

江里子 熟さないのよ。

美穂 腐ってる感じはあるけどね。

江里子 ああー。逆に? 干し柿でも全然甘くならないの、あるわよね。ああいう感じ?

美穂 そうね。干し柿なのに硬い感じ。

江里子 ほかには、「袖から観た」で言うと、バイきんぐさんが「キングオブコント」で優勝される前にご一緒させていただいた、「ラ・ママ」。カーテン越しからもお客さんがひっくり返るように笑っているのがわかるほどの爆笑の取り方で、あれは震えましたね。これはもうとんでもないことになるんじゃないかな、と思っていたら本当にその年に優勝されて。やっぱりすごい方はすごいのねと痛感しました。

4年ぶりの単独ライブを6月に東京、福岡、大阪の3都市で開催

美穂 大変よ。

江里子 本当大変。ありがたいことにたくさんの方にチケットご購入いただきまして、なんとか3都市回れる目算は付きました。あとは私たちがどうやってみなさんに喜んでいただくか。今回「私の中の豆苗」というタイトルなんですけれど、私たちが豆苗が大好きなので、自分たちの好きなものを盛り込みたいですし、お客様にも好きなところを見つけて帰ってもらえるような舞台になったらいいなと思っています。でも、できるかしらねえ?

美穂 そうねえ。ネタとか歌とか、詰めていかないと。

江里子 いつもギリギリまで腰を上げないような人間2人だから。

美穂 お姉さんが計画性がないのよね。

江里子 ちょっと、なんで私のことばっかり言うのよ。

美穂 前もってやっておくっていう能力がないのよね?

江里子 あらーよく言う。美穂さんも、あわよくば一緒にサボろうっていう魂胆じゃないの。

美穂 (笑)。単独ライブは大変なんですけど、やっている最中は楽しい気持ちになってくるのよね。私はあんまりサービス精神みたいなものがないんですけど、ライブのときだけはお客様に楽しんでいただけるようにできたらいいなって思います。

江里子 美穂のサービスタイムね。

美穂 前の単独ライブでは3つの衣装の中からお客様に選んでもらった衣装に舞台上で生着替えして歌う、とかやったわね。果たしてそれを喜んでもらえていたかはわからないんですけど(笑)。

江里子 私たちみたいな2人のライブに時間とお金と足を使って来てくださるっていうことに、毎回泣いちゃうんですよね。

美穂 確かにね。いつも泣いてるわね。

江里子 今回も、開催できることに感謝。笑って終えられたらなって思っています。今回こそは泣かずに、でも泣いちゃいそうな気がする……(と言いながら涙ぐむ)。今もう思っただけで泣いちゃいそうだもの~。お客様がお仲間みたいな気分になるんですよね。4年ぶりにお仲間に会えることを私たちも楽しみにしています。

阿佐ヶ谷姉妹

阿佐ヶ谷姉妹

阿佐ヶ谷姉妹(アサガヤシマイ)

木村美穂(キムラミホ)
1973年11月15日生まれ、神奈川県出身。

渡辺江里子(ワタナベエリコ)
1972年7月15日生まれ、栃木県出身。

東京乾電池研究所在籍中に知り合い、シティボーイズの話題で意気投合し友人関係に。2007年にお笑いライブデビューを果たし、2012年4月にシティボーイズと同じASH&Dコーポレーション所属となった。歌唱力を生かした歌ネタのほか、おばさん同士のやりとりを描くコントが人気。2016年「第22回 細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」(フジテレビ)で優勝。2018年に「女芸人No.1決定戦 THE W」を制し、翌年2019年にも決勝進出を果たしている。「大竹まこと ゴールデンラジオ!」(文化放送)月曜パートナー。「阿佐ヶ谷アパートメント」(NHK総合)などに出演中。

阿佐ヶ谷姉妹単独ライブ5「私の中の豆苗」

<出演者>
阿佐ヶ谷姉妹
ニュービーンズ:鈴木和美(Fl) / 葛岡みち(Pf) / 石本大介(G) / 栗木健(Dr / Per) / 伊藤健太(Ba)

<構成・演出>
山田真実

東京公演

2023年6月15日(木)18:30開場 19:00開演
2023年6月16日(金)13:30開場 14:00開演 / 18:30開場 19:00開演
2023年6月17日(土)12:30開場 13:00開演 / 16:30開場 17:00開演
会場:東京・渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール

福岡公演

2023年6月22日(木)18:30開場 19:00開演
会場:福岡・西鉄ホール

大阪公演

2023年6月24日(土)18:30開場 19:00開演
2023年6月25日(日)12:30開場 13:00開演 / 16:30開場 17:00開演
会場:大阪・近鉄アート館

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読者の反応

矢島拓 @empress_jitou

単独ライブ終わり、毎回必ず泣かれるおねえさんが愛しくて愛おしくて🥰

4年前の単独ライブ、あの美穂さんが泣いた日が1日だけあったのよね。美穂さんの涙にとてもビックリしたんです😮

今回の単独ライブも美穂さんの涙が見れる日があるといいな。とてもレアだし😍

#阿佐ヶ谷姉妹 https://t.co/YksKWCFQmg

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