お笑い好きの私たちに「忘れられないあのライブ」があるように、芸人にもそんなライブがあるだろうか? ウケた、スベった、隣の芸人が爆笑を取って悔しかった……出演者として体験した「忘れられないあのライブ」、そしてお客さんとして心揺さぶられた「忘れられないあのライブ」を、芸人たちに聞いてみる。第5回は
取材
忘れられない“出た”ライブ
面白いことをやっていれば、誰かがちゃんと見てくれている
平井 僕らが芸歴2、3年目の頃、「大阪コント倶楽部」というユニットコントライブがありました。メンバーは、
浦井 全部一から作るユニットコントでしたけど、当時は配信もなかったですし、本当に劇場でだけ。真のコント好きみたいなお客さんたちが観に来てくれていました。
平井 今思えばもったいない。めちゃくちゃ貴重でしたね。夜中、全員で会議室に集まってネタ作っていました。そのときの案出しのホワイトボードの写真、まだ残ってます。
浦井 速いんですよ、先輩たちの案出すスピードが。それにまずびっくりして。「すごすぎるやん」と。3徹くらいしていましたね。夜中に絶対ななまがり森下さんがおかしくなって、下ネタしか言わない時間があるのも毎回恒例でした(笑)。
平井 “下ネタタイム”ありましたね。午前2時、丑三つ時に。
ナダルの大嘘
浦井 僕は、大阪にいたときにオールナイトライブでやった、「ナダル裁判」。
平井 あったなあ(笑)。
浦井 それ見たときに、「バケモンやな」と。
平井 悪意はないんですよ、ナダルって。ピュアよね。
浦井 ピュア。自分に正直。
平井 思ったことをただ言うっていう、“ピュア失礼”みたいな。
浦井 でも、それが一番悪いのかもしれない(笑)。オールナイトイベントの最後のほうの企画だったので、午前4時くらいだったかな。疲れてたお客さんも大爆笑してました。結局、罰ゲームはやったと思うんですけど、そこは全然覚えていないんです。嘘がおもろすぎて(笑)。で、翌年の「キングオブコント」で優勝していました。
忘れられない“観た”ライブ
初めて生で観たラーメンズ
平井 初めて生で
浦井 行ってみたら最前列で、ビビったな。
平井 そのとき、こんなところ注目せんでいいんでしょうけど、舞台が板みたいなもので少し上がっていたんですよ。平台よりももっと薄めで、アクトスペースを作るための板が。それがなぜかむちゃくちゃ記憶に残っています。要は、舞台上に“舞台”を作ることで、ここからが違う世界だと区切っているわけです。目線のところがちょっと浮いていて、リアルとコントの境界線ってこういうので作るんだって思いましたね。それを自分たちの単独ライブでもやりたかったんですけど、お金の関係でできたことないんです。パンチカーペットすら貼らせてもらえない。それが悔しくて。「やりたいです」とお願いすると、「ん?」って顔されるんですよ。お笑いの舞台ではあまりやらないことなのかもしれないですけど、僕は憤ってます! それがあるのとないのでは絶対違うはずなので。 パネルとか床とか、そういうところがちゃんとしていればお客さんはより集中できると思うんです。やりたいことを全部やらせてもらえるように、がんばるしかない。
浦井 NSCに入る直前やったよね。大学4回生の2月、3月頃。もう願書は出していて。
平井 そのときは「いいなあ」とか「こんなんできたら最高だな」っていうのは漠然とありましたけど、こういうことができるとはまったく思っていませんでした。NSCに入って最初は漫才をしていましたしね。
制約の中でやるほうが性に合っている
平井 ラーメンズさんのほかにめっちゃ好きだったのが、
浦井 (長らく考えて)僕は、先輩にビデオで見せてもらった第三舞台の「朝日のような夕日をつれて」が印象に残っています。グレーのスーツが汗だくになるまで2時間しゃべりっぱなしで、「何これ?」と。めっちゃ難しい話なので、すごいことをしているということだけはわかりました。当時、大学の演劇サークルでそれを観て、衝撃でしたね。絶対……嫌だと思いました(笑)。すごいけど、これは大変すぎるぞと。最近観たのだと、
平井 (他ジャンルの舞台を)観るのはめっちゃ好きです。自分に影響してほしいと思って観ますけど、面白いものを観たら、ファーって忘れてしまいますね(笑)。忘れて、ファーとなったのがまたファーっと上がって来てくれたらいいなと願います(笑)。
浦井 蓄積していって、ふとしたときに、そこから引っ張ってきたとは意識せずに自分の表現に出てくれたらいいですよね。
平井 舞台の「ハリー・ポッター」も観ました。すごかったです。でもあんなすごいの観ても、自分には何も生かせない(笑)。水ある、火ある、プロジェクションマッピングある、宙吊りある、全部やってました。科学の粋を全部集めたような。
浦井 全装置を駆使していました。めちゃくちゃお金かかってそう。もし潤沢な予算があって、全部やっていいと言われても、緊張するよな。これ使ってスベったらと思うと(笑)。
平井 憧れますけど、お金がないとか、これ持ってこられないとか、制約がある中でやるほうが性に合っているとは思います。なんでもやれるよって言われたら、どこまで何をしていいかわからない。
浦井 「ゲストに誰を呼んでもいいです」って言われても、悩みに悩んで結局
平井 俳優さんにお願いできるとしても、めっちゃ気使いそうやしなあ。
男性ブランコの“観てほしい”ライブ
閉館後、夜の水族館でコント収録
平井 12月9日(金)に行うオンラインコントライブ「トワイライト水族館」は、池袋のサンシャイン水族館でコントを収録しました。生の部分もありますが、半分以上は撮影した映像コント。やっぱり生き物たちがいるので全編生配信ではできないんです。ストレスを与えることは絶対にダメなので。でも、映像美は半端ないと思います。日テレのディレクターさんが特番を撮るときのチームを呼んできてくれて、ガチンコのチームで作っていますから。逆に、その映像美をフリにした面白さもあるんじゃないかな。映像コントの合間にミニコーナーを挟むような構成で、さらにサンシャイン水族館の楽しみ方もふわりとわかるんじゃないかなという内容になっています。
浦井 いろんなお魚の水槽の前で収録していて、背景の映え方が尋常じゃなかった。
平井 水族館での撮影はめちゃくちゃ沸き立ちましたね。苦労したところでもあるんですが、寝ちゃうんです、魚たちが。クマノミという魚が、柔らかいイソギンチャクのところで「ん~~~」みたいな感じで寝ているんですよ。それがむちゃくちゃかわいくて。反対に夜行性の魚もいますし、水族館の夜の顔がいっぱい見られました。
浦井 装丁家の川名潤さん、魚譜画家の長嶋祐成さんの協力で素敵なポスターもできました。「ベルリン国際映画祭受賞」とか書いてあってもおかしくないくらいの(笑)。
平井 でも、怖いんだよな。芸人からも「何やるの?」「面白そう」と言ってもらえているんですけど、めちゃくちゃハードルが上がっている感じがしていて。もちろん面白いものを提供するつもりではありますが、「とんでもねえことするんじゃねえか」みたいな気持ちは一回置いていただいて。「コントを水族館でやる」というどストレートを投げているだけと思っていただけると。
浦井 恐ろしいことに、コントはもう撮り終わっていますから。期待していただいてうれしいんですけど、ここからはもうどうしようもない(笑)。
平井 しょうもないネタも入ってますから。1個、めっちゃ心配なやつあるな……(笑)。
浦井 読者のみなさんの「忘れられないライブ」にはなってほしいですし、そうなる努力ももちろんしますけど、「撮影した場所が水族館の、オンラインコントライブ」と思ってフラットな気持ちで観ていただきたいです。
半年続けた毎月コントライブ
平井 2月から新ネタをめちゃくちゃ作ってコントをたくさんやってきましたけど、「キングオブコント」準々決勝で落ちてからあんまりコントをやってないんです(笑)。わりと早めに漫才に切り替えましたね。でも毎月やってみて、賞レースはちょっと別ですけど、ネタ慣れというか肩肘張らずに出て行けるようになった気がします。12年やってきて、今さらなのかもしれませんけど。緊張してネタやる、緊張してネタやる、というのを6カ月続けてきたことで、いい意味で脱力して臨めるようになったのかな。
浦井 準備期間が被ってきて、3週間でやらなあかんというときもあった。何もない時間がなかったので、ずっと“半オン”みたいな状態で、集中力はついた。
平井 そんなにセリフ覚えがいいほうではないんですけど、わりかし覚えられるようになったのもあります。一言一句覚えるんじゃなくて、文脈的に覚えるようになった。そうしないと間に合わないので、コツみたいなものを掴んでやっていましたね。特訓のような。
浦井 今後もし、忙しい中で単独ライブやりますってなっても大丈夫だなという自信は付きました。ただ、(毎月コントライブは)二度とやらない。
平井 あれは、もう無理やなあ(笑)。
男性ブランコ
浦井のりひろ(ウライノリヒロ)
1987年12月3日生まれ、京都府出身。
平井まさあき(ヒライマサアキ)
1987年8月1日生まれ、兵庫県出身。
大学の演劇サークルで出会い、そろってNSC大阪校(33期)に入学。「もってる!? モテるくん」(読売テレビ)、「爆笑ファクトリーハウス 笑けずり Season2」(NHK BSプレミアム)などに出演した。2017年から東京に移り、ヨシモト∞ホールの看板メンバーとして活動している。2021年「キングオブコント」で初の決勝進出を果たし、準優勝。「M-1グランプリ2022」でも決勝進出している。吉本興業所属。
男性ブランコのオンラインコントライブ「トワイライト水族館」
日時:2022年12月9日(金)21:00開演 22:00終演
料金:3000円
チケット:FANY Online Ticketで販売中。
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