お笑い好きの私たちに「忘れられないあのライブ」があるように、芸人にもそんなライブがあるだろうか? ウケた、スベった、隣の芸人が爆笑を取って悔しかった……出演者として体験した「忘れられないあのライブ」、そしてお客さんとして心揺さぶられた「忘れられないあのライブ」について、芸人たちに聞いてみる。第2回は
取材
忘れられない“出た”ライブ
ある意味忘れられない
川北 ちょっと趣旨と違うかもしれませんが、「地獄だった」ライブは覚えています。「チャンスライブ」というライブのシリーズで、ピラミッド型のライブなんですよ。一番下に「チャンスライブミニ」があって、それに勝ったら「チャンスライブ」、それに勝ったら「スーパーチャンスライブ」「ハイパーチャンスライブ」「スペシャルチャンスライブ」と続いて、一番上が「ウルトラチャンスライブ」。その「ウルトラチャンスライブ」で優勝するとどうなるかというと、賞金獲得の“チャンス”がもらえる(笑)。MCのリニアさんが「この中に1枚だけ当たりのくじが入ってます」と箱を持ってきて、優勝者がくじを引くんです。僕らはゲストとして呼ばれてその行方を見ていたんですが、結局外れてしまって。リニアさんが「かわいそうすぎる」と言って、おごってあげていました。
ガク 本当に「チャンスライブ」だったね。
川北 「賞金獲得ライブ」とは言っていない。2014年頃のことだと思います。僕らがまだコントばっかりやっていた時期。楽屋が屋上にあったのも覚えています。夜だったので外を眺めていたら、いろんな光が見えて。きれいだなと思っていたんですけど、よく見たら全部出演者のタバコの火でした。
ガク じゃあ僕は最近のライブの話を。カナメストーンさんとママタルトと僕らの3組で今年「風薫る東名阪漫才興行」というツアーをやったんですが、その名古屋公演(6月に大須演芸場で開催)のときに、大喜利のコーナーでカナメストーンさんに僕の女性関係の暴露をされるという一幕がありました。そこから大喜利がちっともウケなくなっちゃって。「ガクが暴露に動揺して大喜利ウケなくなってる!」って言ってもらうことでやっとウケるというような状態だったんですけど、ライブが終わって、よくよく考えたら、暴露される前から大喜利は1個もウケていなかった。暴露されたことより、そもそも自分が大喜利でウケていなかったことにあとで気づいたとき、すごく恥ずかしかったです。
川北 暴露に感謝しなきゃいけなかった。
ガク 救ってもらっていました。僕がスベる理由を作ってくれていた。あとで気が付きましたね。
ちょっとずつ芸風が歪んでいった
ガク いい思い出のほうだと、「バスク」。Aマッソ加納さんとブンブンブンというコンビの阿久津さんが主催していた、好き放題やる芸人を集めたライブです。金属バットさん、錦鯉さん、メイプル超合金さん、ななまがりさんとか、けっこういろんな人が出ていて、出演者が発表されていないのに、ライブが開催されるという告知だけでチケットが完売するほど人気でした。全員めちゃくちゃウケるし、ウケればウケるほど、次のライブではもっとめちゃくちゃやってやろうという気持ちにみんながなっていって。いいことか悪いことか、あのとき出ていたみんなの芸風がちょっとずつ歪んでいったというか(笑)。
川北 「バスク」のせいで、だいぶみんな遠回りしてた。
ガク 「もっと変なことを!」「もっと奇襲を!」みたいな気持ちになっていったような気がします。でも芸人はみんな楽しかったと思う。出ると気持ちいいライブ、出たくなるライブでした。
忘れられない“観た”ライブ
「M-1」ってすごい
ガク 大学生のときに「M-1グランプリ」の敗者復活戦を大井競馬場に観に行きました。50組以上いたと思いますが、めちゃくちゃ記憶に残っています。全然知らない芸人でもこんなに面白いんだって最初に思った瞬間です。当時、土佐駒さん(現ロングロング)とか、ミルクボーイさん、ななまがりさん、てんしとあくまさん。名前も聞いたことない状態でネタを見たんですが、「うわ、おもしろ!」と衝撃でした。誰がなんのネタをやっていたかもいまだに覚えてます。そこで「M-1」ってすごいんだとちゃんと実感した気がします。準決勝も両国国技館に観に行ったと思うんですよ。
川北 両国って、かまいたちさんがネタを飛ばしたときじゃない?
ガク あ、そうかも。そのときはスリムクラブさんが爆裂にウケていて。準決勝はスリムクラブさんの印象しかないくらい。
※編集部注:両国国技館で行われた「M-1グランプリ 2010」の準決勝にかまいたちは出場していませんでした。
川北 僕はあまり(ライブを)観に行かないんですよね。(しばらく考えて)浜口浜村さんの単独ライブを観に行かせてもらったことがあって。最後にネタが終わって、エンドロールが流れて、出てきたときに浜村さんが坊主にしていたんです。でも、全然ウケてなくて(笑)。考えればそりゃそうなんですけど。
ガク 急に坊主にされても(笑)。
川北 全然ウケてないのが面白かったです。観ている人からしたら、笑うことじゃないというか。「えっ!?」ってなっちゃう。
生の醍醐味は?
川北 ちゃんと地獄になれるというのがライブのよさだと思います。会場に行ったらもう絶対観ないといけないし、スベっていたとしてもその気まずい空気も感じないといけない。それが本当に嫌なお客さんは途中で席を立つこともあるけど、それもイジられる。テレビや配信だと、ちゃんとこの“地獄”を味わえないんですよね。スキップして好きなところだけ見ればいいから。僕は、中学、高校と、部活がしんどすぎて、そのときの仲間って大事なんですけど、そういう、一緒につらい思いをした人同士の絆みたいなものって生まれると思うんです。ライブが終わってから「あれヤバかったね」って話もできるし。
ガク お客さんとして観に行くときは、ほかのお客さんのことも見られるのがいいですね。「全然面白くないのにこの人めちゃくちゃウケてる……!」とか。
川北 それも笑えてくる。「笑いすぎだろ!」で笑える。それが、みんながウケてないところで「盛り上げよう」という気持ちで笑ってくれているただのいいおじさんの場合もあって。
ガク 賞レースの1回戦とかにいるよね(笑)。そういう、その空間にいるからこその楽しみ方もあると思います。
プロダクション人力舎で注目の芸人は?
川北 わたなべりょうわたなべ・亮以外ですよね?
ガク わたなべりょうわたなべ・亮でもいいんじゃないの?(笑)
川北 わたなべりょうわたなべ・亮とへんてこぼういず以外がいいですよね。
ガク 誰も除外してないから。
川北 まあでも、永田敬介です。僕ら同期なんですけど。永田敬介をどこへ行けば観られるかは……けっこうどこに行っても観られないです。
ガク がんばって探さないと。
川北 なかなかレアです。
真空ジェシカ
ガク
1990年12月3日生まれ、神奈川県出身。
川北茂澄(カワキタシゲト)
1989年5月23日生まれ、埼玉県出身。
青山学院大学(ガク)、慶應義塾大学(川北)在学中にそれぞれ大学のお笑いサークルで活動を始める。2011年3月「漫才を愛する学生芸人No.1決定戦」決勝に進出。このときの優勝が永田敬介の組んでいたコンビ・スパナペンチだった。2019年「マイナビLaughter Night」(TBSラジオ)の第5回チャンピオンライブで優勝し、ラジオ「真空ジェシカのラジオ父ちゃん」がスタート。昨年、「M-1グランプリ2021」で決勝進出を果たす。8月25日(木)に東京・さくらホールで行われる「もてあそばれる21組のネタライブ『審査委員長は真空ジェシカ』」「人力舎若手ライブ『夏ネーター 2022』」に出演。プロダクション人力舎所属。
もてあそばれる21組のネタライブ「審査委員長は真空ジェシカ」
日時:2022年8月25日(木)13:45開場 14:00開演 15:45頃終演予定
会場:東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
料金:S席2000円(販売席数限定、全席前方席、S席のみ)
<出演者>
MC:真空ジェシカ
本田兄妹 / リニア / うちまつげ / じぐざぐ / 魂ず / おとぎばなし / 化石コンパス / バイオニ / なかよし / 大仰天 / あそび / ジャンク / パルテノンモード / バローズ / みたらし祭り / キャプテンバイソン / ノーテクノロジー / 春日向のように / ソルトレイク / いろはラムネ
エキシビション:最高の人間
※記事初出時より、編集部注を追記しました。
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