囲碁将棋・文田「ずっとお客さんが笑ってくれたら中毒になる」電気止まりかけても

2021年11月8日 19:00 644 7

644

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

181 443
20 シェア

初めてのことに緊張や戸惑いはつきもの。期待に胸を膨らませて臨んだのに、想定外のハプニングに見舞われて大失態を犯してしまうこともある。そんな初々しい経験の中から「初単独ライブ」の記憶を掘り下げる「初単独メモリーズ」。今回は、来る11月12日（金）に最新単独ライブを控えている囲碁将棋・文田に筆を執ってもらった。「90分漫才」の原点とは。

文 / 文田大介

それでもやっぱり楽しかった

こういう機会でもないともう思い出すこともなかったのかもしれない初単独ライブ。というかこういう機会があっても全然思い出せそうにありません。家の片隅に捨てられずに置いてあるネタ帳のノートの束をペラペラと見ていくと丁度その頃のノートが見つかりました。2008年の7月22日でした。13年前の芸歴5年目の頃です。

単独ライブを開催できるのは1つの目標であり、これは僕に限らず当時の吉本の若手には1つのステータスでした。若手芸人が一定期間に一斉に単独ライブを行う「若手単独祭り」というイベントがあってこのメンバーに入ることは勲章みたいなものでした。5年目でここに入ることができたのは同期で見ると早い方でも遅い方でもなかったと思います。それでもこの初単独が決まったときは嬉しくて泣いちゃうくらいでした。

イベントを仕切る作家さんからの助言で「囲碁将棋は長尺の漫才をやった方が良い」と言ってもらったというか言われてしまったので単独ライブの90分は登場してから終演までフルで漫才をし続ける90分漫才というスタイルになりました。ここから10年くらいは単独ライブは出ずっぱりで漫才をするというスタイルでやってます。

今では慣れもあってなんてこともないですが当時は作るのに苦労しました。それこそ毎日寝ずに打ち合わせをするような日々でした。当時のスケジュールの感じは1カ月に60ステージくらいライブがあって給料は月5万前後、もちろんバイトもしなければなりません。そこに深夜稽古ですから多分この初単独をやるために寿命が5年は縮んでいると思います。さらにネタを作るよりも苦労したのがチケットを売ること。当たり前ですけど勝手にチケットが売れるわけがないんです。会場は新宿のシアターブラッツ。キャパは150人より少ないくらい。初単独のチケットは自分たちで売りに売って100枚くらい。初単独ライブは若干空席の目立つライブでした。

もう13年前ですから内容はあんまり覚えていなくて、とりあえず今思い出したことを箇条書きでお送りします。

宝くじで1等が当たった時に銀行でもらえる「その日から読む本」を小道具にガリガリ君で当たりが出た相方に対して読む「当たったからといって仕事をやめてはいけません」「ガリガリくんで仕事辞めるわけねぇだろ」みたいな漫才
ずっと喋っているので袖に水を飲みに行くんだけど、帰ってきたときに紙エプロンしていて「お前さ、水だけじゃなくて飯食ってきただろ」みたいな漫才
自分で撮ってきた映像を流しながらクイズ何を作ってるんでしょうか。作業員の格好をして工事現場から土砂を一輪車に載せて移動して「正解はビル作ってました」みたいな漫才
オープニングはダンス

頭から煙が出るくらい集中しましたがこれ以上は記憶にございません。そして思い出していてわかりましたが、そんな90分漫才なんて偉そうなものでもありませんでした。若干邪道でした。

年に1回、寝ないで相方とガッツリ語り合う期間として重要だったんだと思います。ケンカになったり焦ったりイラついたり、こんだけやってギャラ7000円かよ、とか。グッズのTシャツをデザインして全部売れたのにギャラ2500円って、とか。単独ライブの期間は毎回電気が止まりそうになるんだよな。

それでも90分間、ずっとお客さんが笑ってくれたら中毒になっちまいますわな。

こんなに金にならないことに没頭させてくれてありがとうな！思い出してたらなんか腹立ってきたけど、過去の自分ありがとうって本当に思います。電気代が払えるくらいのギャラはあげてやってください。

写真は何一つ残ってませんでしたが、当時のチラシがあったので添付します。

初単独ライブ開催当時のチラシ。

文田大介（フミタダイスケ）

1980年6月20日生まれ、神奈川県出身。NSC東京校9期生で、2004年に高校の同級生である根建太一（ネダテタイチ）とコンビを結成し、デビュー。コンビ名は2人が高校時代、囲碁将棋部に在籍していたことに由来する。各地の風景をバックに漫才を行う“絶景漫才”をYouTubeで展開中。ラジオアプリGERAにて「囲碁将棋の情熱スリーポイント」を毎週火曜に配信。吉本興業所属。