初めてのことに緊張や戸惑いはつきもの。期待に胸を膨らませて臨んだのに、想定外のハプニングに見舞われて大失態を犯してしまうこともある。そんな初々しい経験の中から「初単独ライブ」の記憶を芸人たちが綴るこの「芸人が綴る初単独メモリーズ」。その第12回では、今月8月に東京&大阪での単独ライブを控えている
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初めてと初めて
初めての単独ライブはいつだったかとスマホの写真フォルダを遡ると、2015年6月28日でありました。僕にとって単独ライブの歴史は、僕の絵の歴史でもあります。初回から今回まで、単独ライブのフライヤーは全て僕が作りました。そのほとんどがイラストで構成されており、つまりは僕の絵の成長過程が残っている訳です。なんとも恥ずかしい遺産ですが、毎度描き終えた時点ではそれなりに満足しております。そして忘れた頃に見返すと、若気の至りを思い返した時のようなあの心臓がきゅっとなる感情が込み上げてくるのです。という訳で今回、初単独ライブのフライヤーを探すべく写真フォルダを遡るに至りまして、今まさにきゅっとなっている最中でございます。
さて、初回のフライヤーはどのようなデザインかといいますと、まずタイトルはずばり「蛙亭単独ライブ」でございます。初回だからとこだわるのを恥ずかしがったのかシンプルなそのタイトルを、中央上段にドンと起きまして、その下に真っ赤な緞帳と舞台があり、カエルのキャラクターに扮した我々蛙亭が漫才をしようとしておりますところへなんと、キリンが舞台袖から首を伸ばし三八マイクを咥えて引っ張ってしまい漫才どころではないという、かわいくも不思議なシーンでございます。と、文字にすればこそ幾分かマシですが、完成品はやはりお粗末です。まずキリンです。なぜキリンを描いたのかと申せば、当時僕がキリンを描くことにハマっていたから、に他なりません。ライブ中に出てくることもなければ、ましてやカエルとの親和性もありません。フライヤーの情報としてノイズでしかありません。キリンはもちろんカエルも背景も全体的に線が荒く太く、いろいろおかしな点だらけ。しかしそれでも当時、僕は初めての単独ライブに胸を躍らせて埃のかぶったペンタブを引っ張り出し、意気揚々と描いていたのであります。
絵を描き始めたのは物心つく前でした。あまり外で遊ぶタイプではなく、ゲームが心の拠り所で、記憶にある中で一番はじめに描いた絵も漫画やアニメではなくゲームのキャラクターでした。父親が器用で絵が上手く、おねだりして描いてもらった絵を逆輸入して描いていました。小学4年生の春休み。体調を崩し寝込んでいると、暇な僕の為に父親が某海賊漫画の単行本を買ってきてくれました。それからその漫画の浪漫に魅了され、毎日のように絵を描きました。
高校2年生の春。某熱血ロボットアニメにハマり毎日そのアニメの絵を描きました。躍動感のある絵に惚れて、授業中には教科書の余白にびっしり手や目の絵を描きました。その後もいろんなものにハマっては絵を描き、思えば誰に習うでもなく、その時々によって絵柄も変わりました。
この初単独ライブのフライヤーが初めてでした。完全にオリジナルで0から絵を描いたのは。うまく描けていなくて当然な訳であります。しかしながらあんなに楽しく描けたのも初めてでした。僕が今まで描いてきた絵の師匠達は、いつこれを体験したのか。小学4年生の春休みだという方もおられるでしょう。なんとも羨ましい限りです。そんな思いもあり、初単独ライブは僕にとって特別なものなのです。
肝心な内容はと言いますと、これまた恥ずかしい思い出があります。60分ライブで漫才とコントを5本程用意していたのですが、そのうちのコントで「森のレストラン」というのがありました。冒頭、森のレストランに訪れた僕が店内に置いてある信楽焼きのたぬきの群れに驚き「気持ちわる!」と言って始まるストーリーでした。本物の信楽焼きのたぬきを用意する予算はなく、パネルにプリントした物を並べる手筈だったのですが、伝え方が悪かったのか当日並べられていたのはアニメ風のかわいらしいたぬきの群れでした。僕はそんなかわいいたぬき達に向かって「気持ちわる!」と叫んだ訳であります。
カラスを題材にした漫才もありました。ネタの合間に流すVTRで「カラスに扮した僕が街を歩き本物のカラスと話をする」という物を用意しており、それと連動している漫才でした。しかし、VTRが本番直前になってトラブルで流せないことになり、漫才ができなくなってしまうのです。急遽イワクラさんの親友である赤ちゃん(の人形)と3人で漫才をしました。ぶっつけ本番です。今ではたまにアドリブめいたネタもするのですが、当時は経験がありませんでした。なんとか無事に乗り越えることには成功しましたが、ドキドキで臨んだのを覚えています。初単独ライブは結果、キリンではなくたぬきとカラスに困らされることとなりました。
それから6年経ち、今回で17回目の単独ライブです。この間にいろんなことがありました。今回の単独ライブは東京と大阪での2公演、初めての経験です。また特別な思い出となることを祈りつつ、何より今は、皆様と会えることを心より楽しみにしております。
中野周平(ナカノシュウヘイ)
1990年11月20日生まれ、岡山県出身。NSC大阪校34期の同期だったイワクラと2012年4月に蛙亭を結成。コントと共に漫才にも定評があるが、「キングオブコント」優勝を目標に2020年4月より東京に拠点を移して活動している。声が特徴的で、「ぼる塾の煩悩ごはん」(テレビ朝日)やダスキン、スカパー!などのテレビCMでナレーションを担当。2021年6月公開の「青葉家のテーブル」で映画初出演を果たした。最新単独ライブ「ネタ・ウォー ~ざけんなよ~」を8月9日(月)に東京で、8月12日(木)に大阪で開催。
蛙亭単独ライブ「ネタ・ウォー ~ざけんなよ~」
<東京公演>
日時:2021年8月9日(月)14:00開演 15:00終演
会場:東京・ヨシモト∞ホール
<大阪公演>
日時:2021年8月12日(木)19:00開演 20:00終演
会場:大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
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