日頃は表舞台に立っている芸人たちも、何かを好きになる気持ちは私たちと一緒! テレビで観たコントの世界に没頭したり、あのマンガの主人公から自分の信念を曲げない強さを学んだり、スクリーンの中にいる俳優の佇まいに魂を震わせたり……。こんなふうにさまざまなカルチャーに触れて人生を豊かにしてきたはずだ。
この「私の好きなポップカルチャー」では、お笑い界のポップカルチャー好き5名を書き手に迎え、音楽、コミック、お笑い、映画、ステージというナタリーで展開する5ジャンルのいずれかにまつわる思いを綴ってもらった。
文
※このコラムは2021年1月30日~31日に開催したオンラインイベント「マツリー」の一環として掲載したものです。
私が影響を受けた1曲
GOTTHARD「One Life, One Soul」
さて今回ありがたいことに大好きな音楽のことについてコラムを書くご依頼をいただいた。大好きな1曲、思い入れの深い1曲を選ぶということで、音楽のことを書ける喜びがある反面、正直選択肢が多すぎて相当迷ったのも事実である。それこそ人生で初めてCDを買ったFIELD OF VIEWの「突然」や、僕をロックの世界に引き込んでくれるきっかけとなったB'zの「LOVE PHANTOM」、さらに音楽という概念すらも超越したCoccoの「焼け野が原」などの候補が自分の中にあったのだが、結局のところ無難にスイスの英雄ゴットハードを取り上げさせてただくことにした。
「One Life, One Soul」は元々彼らの3rdアルバム「G.」に収録されていたアコースティックバラードだが、今回ピックアップしたのはゴットハードの初代ヴォーカリストで2010年に悲運の事故で世を去ったスティーヴ・リーの、未発表音源を集めた昨年発売の10周忌メモリアルアルバム「Steve Lee -The Eyes Of A Tiger: In Memory Of Our Unforgotten Friend!」でのバージョンだ。
スティーヴのヴォーカリストとしての凄さを書き連ねたら正直キリがなくなってしまうが、圧倒的な歌唱力、ロックを歌うために生まれたようなハスキーで味わい深い声、どんなタイプの曲でも最高のパフォーマンスを見せる表現力、ライブでのカリスマ性。リトル・リチャードを万能型にしたようなそのズバ抜けた実力は、登場した時代や国が違えば少なくとも“スイスの”英雄などと限定的な評価もされずに済んだのではないかとよく思う(偏見の惑星、地球)。
今回のアルバムはゴットハードの過去の名曲群のアコースティックバージョン、新曲、カバー曲で構成されているが、伴奏は極力シンプルにし、スティーヴの声の魅力を前面に押し出した作風となっている。
聴いてみて改めて思うのは、超一流の表現者に余計な装飾など必要ないということ。まあ余計な装飾と言ってしまうと語弊があるし装飾を加えることの美学も勿論あることはわかった上での話として、スティーヴほど声そのものに魅力がある場合、もはやそれ一つで楽曲の良し悪しを超越した至上の芸術となり得るということだ。それはアルバム1曲目である「One Life, One Soul」の冒頭一節を聴けば瞬時に感じ取れる。これぞシンプルイズベストの真髄というか、まれにそういった作品に出会う機会はあるが、大衆に媚びて装飾過多になり過ぎているものも多い中、真の意味で頂点を目指すのであればどのジャンルの表現者も目指すべきはそこなのではないかとこの曲、このアルバムを聴いて深く考えさせられたわけである。そしてそれは我ら日本人が本来得意とするはずの“引きの美学”に通じるところなので、その日本的精神を他の誰が失っても自分は決して失うまいと改めて思わされたアルバムであった。
史上最高のヴォーカリスト、スティーヴ・リーはもういないが、ゴットハードは衰えることのない才能と強固なチームの絆によってまだまだ素晴らしい作品を生み出し続けている。これからも僕は彼らの作品を追い続けながら、そこにスティーヴの魂を感じつつ見守りたいと思う。
最後にここまで読んでくださった皆様の心の声を代弁させていただこう。
誰だよ!!!!
平井“ファラオ”光(ヒライファラオヒカル)
1984年3月21日生まれ。神奈川県出身。2008年に新道竜巳とコンビ・馬鹿よ貴方はを結成。「THE MANZAI 2014」「M-1グランプリ2015」のファイナリスト。大の音楽好き、サンリオ好きとしても知られる。
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