2020年、いつもと違う年 その5 [バックナンバー]
シソンヌ×構成作家・今井太郎氏×制作・牛山晃一氏
シソンヌライブの定点観測、“コロナの年”にできた骨太コント
2020年12月23日 20:00 8
換気タイムはノー演出、それでも笑える工夫を
──1本目のネタの内容が、クラブに来ているお客さんの不安を取り除いてくれるというものだったじゃないですか。あれがあったことで2本目以降すごく安心して観ることができたんですよ。
長谷川 本当ですか?(笑)
──「不安を取り除いてくれた!」と思いました。もちろんコントの中の架空の観客に向けてやっているパフォーマンスではありましたけど、お二人も私たちと同じようにコロナに不安を覚えながら、葛藤もある中で楽しみを提供してくれているのだなというのが伝わってきて。
今井 そうなんですか?
じろう 当たり前だろ! そういうつもりで作ってるよ!
長谷川 いやいや、嘘はやめろ! 我々はそんなことまったく考えてなかったです! そう受け取ってくれるのはだいぶいいお客さんですよ(笑)。
──考えすぎでしたか(笑)。あと換気タイムの取り入れ方が新鮮でした。コントとコントの合間ではなく、1本のコントの途中に換気を入れるという。あれはどなたのアイデアなんですか?
今井 じろうさんですね。
じろう なんの意味もなくこっちの都合で5分の換気を入れるのではなく、何かしら笑わせる方向にしなきゃダメだなと思って、ああいう形にしました。
──換気のために一時中断することで温まっていた会場の空気やお客さんの没入感がリセットされてしまうのは、仕方ないけれどもったいないなと思っていたので、幕が開いてコントの続きが始まったのには感動を覚えました。
牛山 換気の時間自体に演出を入れるのは吉本の方針でNGだったんです。映像もBGMも流しちゃいけない、完全なノー演出の5分間。
今井 僕は本当は、あのシーンのまま緞帳を下ろさずにやりたかったんですけど、それがダメだったんですよね。
牛山 舞台上で何かが起こっていることも演出ということになるので、一度幕は完全に閉めました。
──換気時間を取ったり座席を間引いたりしながらの通常とは異なる公演になりましたが、手応えはどうでしたか?
長谷川 お客さんが少ないっていうのは思ったほどは気にならなかったです。
牛山 「笑いはないものだと覚悟しておいたほうがいいよ」って言っていたくらいだもんね。
じろう でも満席だったらどれぐらいウケてたんだろう?っていうのはやっぱり考えました。と言っても、ルミネ(theよしもと)の出番も含めて何カ月も満員の大爆笑っていうのは体感していなかったんですが。だから来年それを体感できたらいいなあとは思います。
長谷川 来年も厳しそうだなあ。
──そんな雰囲気が漂っていますね。
牛山 そうですね。まあこういう世の中の状況に対応しながら配信もできることがわかったのは1つ収穫でしたね。さっき言ったように、自分たちの配信スタイルを悩んでいたのでけっこういろんな配信ライブを観たんですけど、「全然笑いが来ないな」って思ったのと、その感じが配信を観ている人に「ウケてないの?」って伝わるのが怖いなと思ったんですよ。でも今回は劇場で観てくれていたお客さんの笑い声が多かったのもあって、けっこう笑い声が配信にも乗っていて「あ、よかったよかった」とホッとしました。
楽しみだった「有吉の壁」収録
──話は遡りますが、コロナが最初に拡大した春頃のことを聞かせてください。牛山さんは携わっている
牛山 メトロンズは「無理そうだな」とみんなが感じつつも、稽古は粛々と進めていましたね。真剣に取り組んでいたので、もしやれたらいい公演になりそうだなという空気感が漂う中、中止になってしまったので残念ではありました。
──それもあって、一層「
牛山 そうですね。予定していた公演がどんどんなくなる中、今年どうしてもやっておきたい、やらなきゃと思ったのは「シソンヌライブ」だけだったので、再開されたお笑いライブや演劇にちょこちょこ足を運びながら、どういう形でやれるか、チケット代はいくらでやるべきかって日々悩んでいました。
──今井さんはnote(「この機会にいろんな人にお話聞いて課金記事の全額お渡しするnote」)で裏方インタビューをやられていましたね。こんなときだからこそできた企画だと思いますが、やってみてどうでしたか?
今井 ほかの作家さんとかディレクターさんとか、けっこうな先輩にほめられたんですよ。でも、偽善扱いされたり、「これでフォロワー増やして自分のnote始めるんでしょ?」みたいなことを言われたりもして、いくら自分によこしまな気持ちがなくてもそういうふうに思う人はいるんだなーってことがわかりました(笑)。
じろう そんなこと言ってくる人いるの?
今井 いるんですよ。これに関しては全額そのまま渡してるので、まったく自分は得してないんですけど。でも普段恥ずかしくて聞けないようなことを聞けましたし、これにかこつけてしゃべってみたかった人としゃべれたのはよかったですね。あとは直接的な援助にもなったかなと。
──テレビではリモートでの収録が多かった時期です。シソンヌのお二人が出演していた番組だと「有吉の壁」(日本テレビ)のリモート企画がわくわくしました。
長谷川 「有吉の壁」があったのはデカかったですね。ロケは1カ月くらい中止になったんですが、いろいろ工夫して「リモート選手権」っていうのをやってくれて。
じろう 外出自粛中はオンラインゲームをやったり韓流ドラマを観たりして一切家から出ることなく過ごしていて、それでも全然支障なかったんですよ。でもちょこちょこ仕事が再開した頃は「あ、2週間後『壁』だ」って楽しみにしている自分がいました(笑)。
長谷川 芸人に会える貴重な機会でもあったので、「有吉の壁」にはだいぶ助けられた感がありますね。
次は本多劇場で1カ月公演
──緊急事態宣言が明けて、久々に劇場に立ったときはどんな感じでしたか?
長谷川 やっぱりダイレクトに反応が返ってくるのは楽しいですね。というか、テレビしか出なくなった人たちってどうやってこの感じを味わうんだろうって思いました。もちろんオンエア後に感想をもらえるのもうれしいんですけど、今はスタジオに観覧もいないし、スタッフさんしか笑っていないわけですよ。それも「編集のこと考えながら笑ってるのかな?」とか考えちゃいますし。だからやっぱりお客さんの生のリアクションの貴重さにはこの期間を経て気づきましたね。それまでは有吉さんと佐藤栞里ちゃんしか笑ってくれているのを確認できなかったんで(笑)。ルミネも客席減らしていましたけど、めちゃくちゃ温かかくてウケている感じは十分味わえました。
──劇場には本当に笑いたい人たちが来ているわけですもんね。
牛山 「生で観る」ということにこれからもっと価値が出てくる兆しがありますね。YouTubeや短い動画があふれている中で、生で観たい人って今あんまりいないのかなって感じですが、今回の「neuf」はチケット代1万円でも観に行きたいと思ってくれる人がこれだけいるとわかったので希望になりました。
長谷川 なんかネットニュースとか見てると「お笑いは必要ないんじゃないか」みたいな記事も出ているじゃないですか。でも必要としてくれる人は一定数いるんだなって思いましたよね。
──そして来年は本多劇場で1カ月公演が待っています(参考記事:シソンヌライブ完走、来年の第10回は本多劇場で約1カ月公演「皆さんも逃げずについて来て」)。
じろう 1カ月公演は赤坂RED/THEATERで一度経験しているので(参考記事:シソンヌ1カ月公演開幕!「誰よりも人前でコントしてる」来年は東京&大阪で)、そこまで身構えてはいないです。本多のほうが家からも近いし、下北まで行くあの道、好きなので(笑)。楽しい1カ月ですよ。
長谷川 体力を考えると、年齢的に今のうちにしかできないだろうなっていうのもありますね。やれるうちにやっておこうみたいな。ただ本多は広いので、喉が心配。でもたぶんじろうも声を張るネタは少し抑えてくれるだろうと勝手に思ってます。今回は張るネタが多かったんですが、次は1カ月なのでそこは考慮してもらって(笑)。
──個人的には「シソンヌライブ」の取材を1回目からしているので10回目を迎える感慨深さもありますし、最初は「本多劇場で1週間公演」を目標にしていた(参考記事:本多劇場目指すシソンヌ、単独公演に強い思い)のが、今は当たり前のように本多劇場に立っていて、そこまで大きな気負いなく1カ月公演に臨まれるんだな、すごいなとお二人の姿を見上げている気分なんです。
じろう 当初はそう言ってましたね。
長谷川 思ったより早く叶ってありがたい限りです。
──最後に、この企画の共通の質問をして終わりにしたいと思います。2020年、みなさんにとってどんな年でしたか?
牛山 2020年を“コロナの年”とスライドさせて考えると、全然まだ“この年”を振り返ることはできない状況じゃないですか。来年も地続きで、気を緩めないようにしながら戦略を練らなきゃいけないなというのを、今日このタイミングですごく強く感じています。「シソンヌライブをがんばった1年です」って言えたらよかったですけど、まったくまだ油断ならないですね。
今井 僕は今年、運勢が全然よくなかったんですよ。だから最初からいいことはないんだろうなと諦めていたからヤバイことが起きてもまだ耐えられたというか。でも、それにしては新しい仕事が入ってきて忙しく過ごせたので、ハードルを下げていた分、お得な気分ではあります。
──シソンヌのお二人は?
じろう 今年はでも……いろんなところでタバコが吸えなくなった年、ですね。
長谷川 そうだなあ。
今井 それコロナ関係ないですね(笑)。
じろう パチンコ屋も喫茶店も。
長谷川 時間潰せるところがなくなっちゃったんですよ。
今井 本多劇場も吸えないですもんね。
──じゃあシソンヌにとっては「不便な年」。
じろう あと、なんもしなくても平気な人なんだなって再認識できましたね。仕事がなかったらなかったで、ぼーっとしていられる人間なんだなって。焦燥感とかも特になく。
長谷川 俺は焦燥感を持つタイプなので、今回焦らずに済んだのはちょこちょこ仕事があってくれたっていうのが大きいです。マジで仕事ゼロになってたらたぶん発狂してたと思う。自粛でぼーっとしてても意外と大丈夫だったのは、たまにあった仕事のおかげですね。
シソンヌ
じろう
1978年7月14日生まれ、青森県出身。
長谷川忍(ハセガワシノブ)
1978年8月6日生まれ、静岡県出身。
NSC東京校で出会い、2006年4月に結成。「キングオブコント2014」王者。2013年より単独公演「シソンヌライブ」を毎年開催するほか、1年をかけて47都道府県を回る「モノクロ」も同時に展開している。ドラマ「今日から俺は!!」(日本テレビ)や舞台「スマートモテリーマン講座」などに出演し、俳優としても活躍。じろうが脚本家およびキャストとして参加する新ドラマ「でっけぇ風呂場で待ってます」(日本テレビ)は1月25日(月)にスタートする。毎週金曜23時より「シソンヌの“ばばあの罠”」(RKBラジオ)放送。現在は舞台「ミュージカル『モンティ・パイソンのSPAMALOT』featuring SPAM」に向けて稽古中。コント動画はYouTubeチャンネル「シソンヌライブ」、長谷川の企画動画は「はせがわちゃんねる」でチェック。
ミュージカル「モンティ・パイソンのSPAMALOT」 featuring SPAM
2021年1月18日(月)~2月14日(日)
東京・東京建物 Brillia HALL
2021年2月18日(木)~2月23日(火・祝)
大阪・オリックス劇場
2021年2月26日(金)~2月28日(日)
福岡・福岡市民会館 大ホール
シソンヌライブ[dix]
日程:2021年7月7日(水)~8月1日(日)
会場:東京・本多劇場
今井太郎(イマイタロウ)
1983年生まれ、兵庫県出身。2007年に構成作家としてデビュー。「あらびき団」(TBS)、「バナナサンド」(TBS)、「チャンスの時間」(ABEMA)などの番組に参加するほか、シソンヌ、渡辺直美、相席スタート、ニューヨーク、囲碁将棋といった芸人のネタ作りに協力。自身が企画する「性格の悪いネタをするライブ」は次回1月26日(火)に東京・ルミネtheよしもとで開催。
牛山晃一(ウシヤマコウイチ)
1973年生まれ、東京都出身。「ジョビジョバ(1994~2002)」、細川徹「男子はだまってなさいよ!」、福田雄一×マギー(ジョビジョバ)「U-1グランプリ」などの制作を担当。2013年に始動した「シソンヌライブ」の立ち上げから参加し、「シソンヌライブ[モノクロ]」、サルゴリラ、ライス、しずる、作家・演出家の中村元樹によるユニット・メトロンズの公演にも携わる。
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