ズーカラデル|1stフルアルバム全曲解説で探る、“日常に寄り添う歌”の源泉

アニー(M.11)

制作時期:2016年8月(「RISING SUN ROCK FESTIVAL」の日)

──「アニー」はバンドの知名度を大きく引き上げた代表曲です。2016年に「RISING SUN ROCK FESTIVAL」が開催された日に書いた曲ということですが。

吉田 そうなんですよ。山岸や当時のバンドメンバーは現地に行っていて、「楽しいよ」みたいな写真を送ってきたんですけど、俺は「自分が出ないフェスには行かない! 家で曲を作る!」という(笑)。

山岸 ははは(笑)。

──ライブアンセムになる曲を書こうと?

鷲見こうた(B)

吉田 大きいステージはイメージできてなかったんですけどね。この曲を書くきっかけになったのは、ナードマグネットの「Mixtape」という曲なんです。ライブの情景がありありと見えるような曲なんですが、最後に「もう行かなきゃ」「それじゃあまた」という歌詞があって、それってめちゃくちゃエモーショナルだなと。それを受けて、自分の気持ちを形にしたのが「アニー」なんです。

山岸 曲を聴いたときから「すごくいいな」と思っていたんですけど、周りからは「リード曲らしくない」とかいろいろ言われて、悔しい思いもしました。この曲をたくさんの人に認めてもらえたのは大きかったです。

鷲見 僕が「アニー」を初めて聴いたのはYouTubeの映像だったんですけど、「すごい。こんなバンドが札幌にいるんだ」と思ったし、札幌のバンド仲間もすぐにザワザワし始めて。売れるかはわからないけど、素晴らしい曲だし、こういう音楽が評価されてほしいという話をよくしてましたね。なんていうか、当時流行っていた邦楽ロックと違っていたんですよ。僕自身も、当時やっていたバンドで「盛り上げないとダメなの? いい歌でも売れないの?」という葛藤を感じていたので。

──2018年には「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に初出演しました。「アニー」を演奏したときの気分はどうでした?

吉田 最高でしたね。「アニー」を作ったときのエピソードも話して、盛り上がってもらって。うれしかったです。

春風(M.5)

制作時期:2017年3月 「幸せになりたいわ」と友人が呟いた次の日に

──「春風」はノスタルジックな雰囲気が漂う楽曲です。「幸せになりたいわ」と女性の友人がつぶやいた次の日に書いた、というグッとくるエピソードがあるそうですね。

吉田 そのときはしょうもないことしか言えなかったんですよ。「ホントはこんな返答を聞きたかったんじゃないだろうな」みたいなことを考えて、それをそのまま書いた曲ですね。この歌詞の通りに「イカしたブルーの汽車に乗って この町を出てゆくのです」というようなことはしなかったけど、気持ちはそういう感じでした。

──言葉のセレクトもちょっと懐かしくて。そのあたりは意識してますか?

吉田 あまりに直接的に時代を反映した言葉は使わないようにしていますね。自分たちの曲は普遍的なものであってほしいし、あとになって「古くさい」と思われるのは曲がかわいそうなので。その人が聴いたタイミングでリアルに届くような曲にしたいというか。

鷲見 「リブ・フォーエバー」(2017年9月発売の1stミニアルバム)に収録した曲の再録なんですけど、ベースとドラムを録った時点で「すごくいい音になった!」という手応えがありました。どういう音楽にするか3人でいろいろと話したし、音源としていいものになったと思います。

恋と退屈(M.8)

制作時期:2018年8月 2ndミニアルバム「夢が醒めたら」レコーディング中

吉田 この歌詞は、個人的にも気に入っていますね。高校の頃から聴いてきたロックバンドの音楽、ロックンロールに対する己の立ち方、どう相対するかということを歌っています。10代の頃に聴いていた音楽は、自分にとって宗教みたいなものだったんです。それがすべての正解というか。でも、それから時間が経って、自分も年齢を重ねて、「それだけでは立ち行かない」と思うこともたくさんあって。その中でそういった音楽に対して「あなたは素晴らしいし、今も好きだけど、俺は俺で好きなようにやるから」ということを歌いたいな、と。

山岸りょう(Dr)

──それが最後の「バスが来るのを待っている 雨降らないし 歩こうか迷っている」というわけですね。

山岸 結局、バスには乗れなかったという。

鷲見 しかも、まだ迷ってますからね。「歩こうか迷っている」ところまで来たのが立派だと思います。この曲のレコーディングからは、僕も制作に加わってるんですよ。その前はデモ音源や完成形の音源を聴いて、自分なりにアレンジを加えていたんですけど、「夢が醒めたら」からは3人で一緒に曲を作ってる感じがあって。「恋と退屈」は「いい曲になるはずだ」と思いながら、なかなかアレンジが定まらなかったんです。

山岸 だいぶ時間がかかりましたね。押すだけではなくて、ちょっと音数を抜くことで曲が生きることがあるんだなと勉強になりました。