女王蜂の噂

──KenKenさんとアヴちゃんの付き合いは長いんですか？

KenKen　俺がアヴちゃんを初めて知ったのは女王蜂がデビューする前で、どうやら神戸あたりからすごい若手バンドが来るらしいという黒船みたいな話でさ。「女王蜂は相当キレッキレなメンツらしい」と噂が流れてきて、ちょっと悔しかったんだよね。若手だと自分だけがそういう存在だと感じてたし、そもそもそんな噂が流れること自体、めったになかったから。

アヴちゃん　昔の噂って今のSNSみたいに可視化できるものじゃなかったよね。もちろん今も昔もどこのライブ会場のチケットが何枚売れたとか、具体的な事実はめちゃくちゃ大切なことなんですよ。だけど「ヤバいことをやってる人がこの世界、この国にいる」っていう噂だけが回ってきたときって、それだけでなんだかワクワクしたし、自分の励みにもなってた。

KenKen　まさかアヴちゃんのバンドに呼ばれて、ライブにしてもCDにしてもこんなドキドキを味わえるとは思いもしなかったな。たっちゃん（中村達也）と俺はいろんな人たちとやってきたから、獄門島一家ではアヴちゃんの表現したいことを自分ら流に噛み砕いてやることができてると思ってる。普通の人って頭の中にあるものがうまくアウトプットできないと思うんだけど、アヴちゃんは若いときからその表現力がすごいと思ったから、彼女の中にあるものをもっと引き出せたらいいなって。

アヴちゃん家にスイカを置いていく達也お父さま

──KenKenさんはいろんなバンドを経験してらっしゃいますけども、そんな中で獄門島一家はどういうスタンスでやっていますか？

KenKen　どのバンドもやる意味は違うんですけど、全然ベクトルが違う。何をやるかより誰とやるかが僕の人生的なテーマなんで、一緒にやる人によって僕が出す音も自分の立ち位置も変わります。そういう中で獄門島一家は明確なビジョンがあるからすごくやりやすい。自分が出すべき空気感とか、攻めるところは攻めて抜くところは抜くみたいなバランスがどのバンドよりもわかりやすいかな。

アヴちゃん　KenKenちゃんは獄門島にキラーリフをめちゃくちゃ持ってきてるんです。

KenKen　今まで自分のソロで使おうと温めていたフレーズをすごくこのバンドに持ち込んでいて、ひさびさに勝負かけてますね。アヴちゃんに勝つにはやっぱりこれしかないだろうっていうものを出してます。

アヴちゃん　勝負挑まれてた（笑）。

KenKen　やっぱりアヴちゃんを驚かせたいし、興奮させたいのよ。曲作ってるときに「一緒にやっててよかった」と思われたいし。

アヴちゃん　そう言ってくれるとうれしい。やっぱり演技じゃダメで本物にならないといけないなと思っていて。

──本物というと？

アヴちゃん　演技を続けることもできるけど、嘘が本当になっちゃうようなときもあるんですよ。例えば私と達也お父さまの距離が本当の娘とお父さんみたいで、いつもスタジオの帰り道を車で送ってもらってたんですよね。そのとき私がすごくつらい恋愛をしていて、毎日泣きながら相談してたんです。彼はそのとき、ずっと手を握って話を聞きながら「大丈夫やから」って声をかけてくれて。で、「すいかの名産地」のメロディを引用した「獄門島一家のテーマ」っていう曲があるんですけど、後日家にいるときにメールが入って、マンションのエントランスに行ったら「冷やしてね」ってメモと一緒にスイカが置いてあって。

──そんなことがあったんですね。

アヴちゃん　そうやって達也お父さまに限らず、みんなに支えてもらったことは数知れず……。結局お腹を裂いて、急所を見せながらやってるので、相手も自然と急所を見せてくるというか（笑）。ツアーの移動中に車の窓から（KenKenが）手をぶらぶら出してたときがあって、対向車が通り過ぎた瞬間、「この感じ、アヴちゃんと音楽やってるときと同じ感覚や」って言ったのをすっごい覚えてる。

KenKen　おお。

アヴちゃん　ちょっと間違えたら腕がなくなるみたいなスリリングな印象なんやって。

KenKen　このメンツの中にいると、精神的に日和るか日和らないかみたいなところってすごい大事なんだよね。獄門島一家のメンバーはそれぞれ勝負をかける、命を懸けるということの意味を知ってる人たちだからこそ、音楽中心の人生をここまで歩んでこれたんだと思うし。

アヴちゃん　そういう方々と一緒にやれてうれしいですね。いつも獄門島のライブのときは歌詞を決めていかなくてよくて、朗読も含めて全部即興でやってるんです。女王蜂では歌詞を変えずに歌ってもいつでも新鮮な気持ちだし、獄門島一家では新鮮を通り越して今思ってることとかをその場で言っていて。でも結局どちらも同じところにいつも着地するんですよね、歌詞のテーマとかが。

KenKen　バンドって「今日はいいライブだったね」みたいに、普通はこれぐらいのことができたらいいライブみたいな基準がなんとなくあるけど、俺たちはそういうことじゃないからね（笑）。

アヴちゃん　終演後、楽屋で「ってかさ、わけわかんなかったね！」って思わず言っちゃうのがいいライブ（笑）。