事務員G|演奏者として、イベント主催者として、“やれないことをやってきた”10年を振り返る

イベントを主催するだいご味

──その後、40mPさんの楽曲を歌い手たちがオーケストラの演奏をバックに歌う「虹色オーケストラ」、歌い手たちが星や宇宙にまつわる曲を披露する「Stars on Planet」、図書館をテーマにアコースティックライブや朗読を行う「秋風ライブラリー」といったイベントを主催するわけですが、どのイベントもしっかりコンセプトが確立されているのが事務員さんのイベントの特徴だと感じています。

事務員G

最初の頃は、動画投稿者をただ集めたような雑多なオムニバスライブでも成立したんですよ。とりあえず顔を見てみたい、生の歌声を聴いてみたい、どんな人なんだろうって思いがありますから。でもそういう時代はいつか終わってしまうので、イベントには絶対にコンセプトが必要になると考えていました。僕が最初に考えたコンセプトライブが「Unplugged afternoon」ってイベントなんです。イベントが流行り始めた当初はアニソンをみんなで歌うような、ガッツリ盛り上がる系のライブが多かったから、逆にアコースティックで着席しながらゆっくり座って聴けるコンサートがあったらいいなと思って。実際に企画してみたら、やっぱり需要があったんですよね。その流れが「虹色オーケストラ」や「Stars on Planet」などにつながっています。僕は「着席で、ゆったり観れるコンサート」を主軸にしようと思いました。僕が観てる立場だったら疲れちゃうから(笑)。周りの歌い手さんにも「ライブやるなら絶対コンセプトを立てたほうがいいよ」って言っていました。

──今年8月に行われた「Stars on Planet」を観させていただきましたが、ステージセット、衣装、書き下ろし曲に至るまでとことん作り込まれているイベントでした。

今年の「Stars on Planet」では6人のボカロPさんに曲の書き下ろしをお願いしたんですけど、まず僕のほうでストーリーを考えていて、ライブ当日に流すボイスドラマの脚本も書いてもらっていたんです。そのうえでボカロPさんには「こういう物語があるので、ここに入る曲を書いてください。ボーカルは○○さんです」とお伝えしてしました。で、曲ができてくると自分の想像以上のものが納品されてくるので、曲に合わせて今度は脚本のほうを修正したりして。それに今回は衣装にもすごくこだわったんです。

──出演者の皆さんが太陽系の惑星をモチーフにした衣装を着ているんですよね。

そうなんです。星の擬人化を歌い手さん本人にやってもらったら面白いだろうなって思って。それだけじゃなくて、各衣装に歯車のモチーフを入れてもらったんです。もともと今回の「スタプラ」には「宇宙と歯車」のイメージが僕の中にあって。

──「Stars on Planet」のキービジュアルには、確かに歯車が描かれていました。

時計のトゥールビヨンとかを見ると、宇宙を感じるんですよ。その複雑さと規則性が宇宙につながるという思いがあって、ビジュアル制作のくまお♀さんに宇宙と歯車のイメージを伝えてイラストを描いてもらったら、衣装さんも歯車のイメージをくみ取ってくれたんです。今回のイベントを通じて絵師さん、衣装さん、ボカロPさん、歌い手さん、演奏者とすべての人がそれこそ歯車のようにかみ合って、ライブという1つの作品を提供できたという手応えがあって。1つ大きなイベントを作るに当たって、いろんな関係者が1つのビジョンに向けて動いていく過程ってすごく楽しいんです。そして最後にようやく、お客さんが見てくださって一連の作品が完成する。この瞬間は崩れ落ちるくらいうれしいです。イベントを主催するだいご味だと思います。

10年前の自分と今の自分を一緒に観せる

──数々のコンセプチュアルなライブを主催してきた事務員さんが、ご自身の10周年ライブでどういうステージを考えているのか楽しみです。

この10年、僕はすごく長かった感覚があるんです。10年経って変わったものもありますけど、最初にあったことはもう変えられない。だから最初にあったことをもう一度思い起こすようなこともしてみたいなと考えています。

──10年前の12月1日にアップロードした動画「1人で同時に情熱大陸を演奏してみた」の再現ということでしょうか?

まあそんなところです(笑)。最近、同時演奏はやってなかったんですけど、やってみようかなって。それと[TEST]さんというギタリストの方には僕が企画したライブにほぼ全部出てもらっているので、今回彼のような縁の深い演奏者にも来てもらって、10年で得たものを一緒に表現したいと考えています。10年前の僕の姿と、10年でいろいろ得てきた今の僕を一緒に観せるようなライブになると思います。

──10周年を迎えたその後のビジョンって、事務員さんの中でありますか?

もう10年もやってきたわけですからね、ちょっと自分を変えようと思っているんです。

──それはどういうことですか?

僕の活動の動機って、“やれないことをやってみせる”ってことだったと思うんです。同時演奏も、ライブ作りも、みんながやれないと思ってたことをやることで、驚かせたかったし、喜んでもらいたかった。最近、インターネット上で音楽をやってもみんな笑わないし。

──昔はもっと“ネタ的”要素が強い動画が多かった印象があります。

そうですね。今は自己表現の場としてインターネットが選ばれているわけで、みんな本気で自分の作品を投稿している。でも僕はそれだけじゃなくて、ちょっと笑ってもらいたい、楽しんでもらいたいって思いが強いんでしょうね。だから10年前に画期的だった“インターネットで音楽をやる”っていうくらい衝撃的な何かがあればいいんですが。

──あくまで「人を楽しませたい」という活動のスタンスは変わらず、その手法として新しいものを探しているんですね。

まだそれが何かは見えていないんですけど、何かあるはずなんです。10年かけて会場の押さえ方や、オーケストラの手配の仕方、楽曲発注のコツなど、いろんなことができるようになりましたから(笑)。多少の難題は人とのつながりで解決できるところまで来たので、ここでもう1回みんなが驚くようなことを無理やりやって、また「事務員さんがこんなことしてる!」って驚かれたいです。ちょっと叩かれるくらいでも(笑)。

──打たれ強くもなりましたね(笑)。

ホントにそうですね。喜んでもらえるのならば、音楽に限らなくてもいいんじゃないかと思っているんです。料理を作ることでもいいと思ってます。世の中にはまだ誰も気付いていないアイデア、面白いことがいっぱい落ちてるはずですから、次の10年でそれを丁寧に探していきたいです。まあ結局僕が何かやろうとすると音楽になっちゃいそうですけど。

事務員G
ライブ情報
事務員G「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」
事務員G「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」
2017年12月1日(金)東京都 よみうり大手町ホールOPEN 18:00 / START 18:30
事務員G(ジムインジー)
インターネット上での活動から音楽活動を開始し、現在では多方面で活躍する演奏者。ピアノをメインにさまざまな楽器を同時に演奏する動画がネット上で大きな反響を呼んだ。2008年よりニコニコ動画でのパフォーマーを集めたイベントを企画し始め、「unplugged afternoon」「虹色オーケストラ」「Stars on Planet」など人気イベントの制作を精力的に行う。2012年公開のVocaloid楽曲214曲をつなげて弾いた映像が、ニコニコ動画「動画アワード」の「演奏してみた」カテゴリでMVDを受賞した。2014年9月にCMソング、ボカロ曲、アニメのテーマ曲などのピアノカバーを収録したアルバム「N43」をリリース。2017年3月には、動画共有サイトで多数の再生数を記録した「ジブリ長編映画の曲を全部つなげて弾いてみた」をベースに制作されたカバーアルバム「G'sG60 ~スタジオジブリピアノメドレー60min.~」を発表した。同年12月、東京・よみうり大手町ホールにて、自身の活動10周年を記念したライブイベント「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」を開催する。