事務員Gが12月1日に東京・よみうり大手町ホールでプレミアムコンサート「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」を開催する。
このコンサートは、事務員Gがニコニコ動画に自身初の動画「1人で同時に情熱大陸を演奏してみた」をアップした2007年12月1日からちょうど10周年の記念日に行われるもの。当日は彼と旧知の仲である[TEST](G)、二村学(B)、ショボン(Dr)、丹澤誠二(Sax)といったバンドメンバーと共に、事務員Gのキャリアを総括する多種多様な楽曲が披露される。コンサートの開催に先駆け、音楽ナタリーでは事務員Gにインタビューを実施。演奏者としてだけでなく、イベントの主催者として「虹色オーケストラ」「Stars on Planet」など人気のコンサートを生み出してきた彼に、この10年を振り返ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 沼田学
事務員Gの活動はパロディでスタートした
──10周年記念コンサートのタイトルは「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」。10年前の12月1日に「1人で同時に情熱大陸を演奏してみた」という動画が投稿されたわけですが、ニコニコ動画に“演奏してみた”動画を投稿したきっかけは?
ニコニコ動画というものはもともと知っていたんですけど、最初はそこまで興味を持っていなくて。でも楽器を演奏した動画が投稿できることを知って「自分もなんかやってみたいな」と思ったんですよね。今では「事務員G=ピアノ」ってイメージが強いかもしれないんですけど、当時はピアノの動画を投稿しようとは思っていなくて。
──確かに「情熱大陸」の“演奏してみた”は、いろんな楽器を事務員Gさんが1人で演奏する映像でした。
ただピアノを弾いても面白い動画ではないな、と思って。当時って画面を6分割にして、1人がいろんな楽器を演奏した映像と音を合わせる“演奏してみた”動画が流行していたんです。でも僕にはそんな動画を作る技術もなかったので、それだったら1画面で6つの楽器を同時進行でやってやろうと思って。だから事務員Gの活動はパロディでスタートしたんです。
──そのパロディ動画が、公開当時から大きな注目を集めるわけですね。
当時はビックリしました。投稿して1日目からすごく注目していただいたこともあって、あわてふためいていました(笑)。10年まるまる、常にこのシーンの最前を眺めさせてもらえたような感覚があります。本当にありがたいですね。
いい意味でも悪い意味でもきれいになった
──事務員Gさんが最初に動画投稿をした2007年頃、発表の場としてニコニコ動画はどのような空間でしたか?
10年前はノリと情熱だけで動画を投稿する人がほとんどで、遊び場みたいな感じでした。そもそも権利関係とかが整備されていなかったから、縛られることなくやりたいことを表現できたんですよね。
──確かに10年前と今では、動画サイトでの著作権などはかなり整備されていますね。
著作権についてもボカロPさんたちは最初、自分たちの作った曲に対する権利とかをあまり意識していなかったと思うんです。でも途中で「JASRACに登録したほうがいい」みたいな話になり始めて。当時、視聴者の方々からはすごく叩かれてたんですよね。「趣味でやってるのに、JASRACに登録するなんておこがましい」みたいな。
──ボカロ曲が収録されたCDがリリースされるときも炎上していた記憶があります。
そうでしたね。「無料で再生できる曲でCDを売るなんて信じられない」みたいな反応がありました。それとライブも同じでした。「イベントやります」って言うと「なんでチケット代を取るんですか?」みたいな反応が当たり前のようにあって。
──事務員Gさんから見て、ニコニコ動画はどういうふうに変わったと思いますか?
すごくきれいなものになったと思います。それはいい意味でも悪い意味でも。実は、10年やってきて僕は自分が変わった瞬間が明確にあるんですよ。ある日、ニコニコ動画には絶対転換期が来ると感じて、象徴的なことで言うとTwitterをフォローしてくれている人への“フォロー返し”を一切しなくなったんです。それまでお互いフォローし合ってた人に対しては、つらかったですが僕が一方的にフォローを外すことにしました。
──それはなぜ?
もともと僕はそれまで視聴者の方々と投稿者は同列だと思っていたんです。クラスの教室にいるちょっと変わった子がおどけて、みんなを楽しませてるって雰囲気が初期のニコニコ動画の空気感でした。でもだんだんと“投稿者対お客さん”っていう構図ができ上がってきて。僕のことを好きで見てくれている人と、僕は同じような立ち位置にいちゃいけなくなってきたんだって思うようになったんです。決して僕たちが偉くなったというわけじゃなくて、明確に差別化したほうが観ている方々も楽な時代になってきたんだ、と思いました。
──そう感じたのはいつ頃ですか?
2009年ぐらいに「CDを出した人がいる」「どこかに所属した人がいる」みたいな話が出始めてきたときですね。一部の人たちがクオリティの高い動画を作ることで「動画投稿のプロ」みたいな人が出てきて、多くのユーザーが観る専用の人になっていった。この流れは止まらないと思ったし、結果として今は“すごくキレイな動画しかアップしちゃいけないような雰囲気”になってしまった。この10年で変わったところだと思います。結果としていいことだとも思いますけどね。
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演奏者としての事務員G
- 事務員G(ジムインジー)
- インターネット上での活動から音楽活動を開始し、現在では多方面で活躍する演奏者。ピアノをメインにさまざまな楽器を同時に演奏する動画がネット上で大きな反響を呼んだ。2008年よりニコニコ動画でのパフォーマーを集めたイベントを企画し始め、「unplugged afternoon」「虹色オーケストラ」「Stars on Planet」など人気イベントの制作を精力的に行う。2012年公開のVocaloid楽曲214曲をつなげて弾いた映像が、ニコニコ動画「動画アワード」の「演奏してみた」カテゴリでMVDを受賞した。2014年9月にCMソング、ボカロ曲、アニメのテーマ曲などのピアノカバーを収録したアルバム「N43」をリリース。2017年3月には、動画共有サイトで多数の再生数を記録した「ジブリ長編映画の曲を全部つなげて弾いてみた」をベースに制作されたカバーアルバム「G'sG60 ~スタジオジブリピアノメドレー60min.~」を発表した。同年12月、東京・よみうり大手町ホールにて、自身の活動10周年を記念したライブイベント「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」を開催する。