高級車、中古の軽自動車、レンタカー、その次は?
──「レンタカー」の次に収録されている「orange juice」には珍しく社会への違和感や苛立ちがつづられてますね。
サビの「orange juice 飲んで」という部分だけが先にできたんで、オレンジジュースをテーマにしようと思っていろいろ調べてみたんです。オレンジはビタミンCが豊富に含まれているらしい、ビタミンCはストレスに効くらしいとわかってきて。その頃、FPS(First Person Shooter)のオンラインゲームでめちゃくちゃ子供にキレられたんですよ。
──初対面の顔も知らない子供に?
そうですね。それで「オレンジジュースは現代社会に生きるすべての人に必要だろ」と。そういう曲です(笑)。
──みんながイライラしている時代ですもんね。
政治家もテレビで怒ってるし。不利な状況になりやすいのに、なんでそんなに怒ってるんだろうって。
──ぜったくん自身は怒りを感じることは少ないですか?
そうですね。だからこの曲も「オレンジジュース飲めや!」というよりも、「飲んだらいいのに」っていうテンションで書きました。怒るよりも楽しいほうがよくないですか? もっと建設的な話をしようよと。振り返ったときに、「怒ってた時間はなんだったんだろう」と後悔することのほうが多いと思うんですよね。
──このアルバムに収録されている曲はどれも身近に感じられて、誰もが共感しやすいと思うんです。その一方で、漂ってくる景気の悪さというか。
あー、めっちゃ景気は悪いですよね(笑)。
──ひと昔前まで、ラッパーはイカつい車に乗ってることをアピールしてましたよね。FUNKY MONKEY BΛBY'Sがデビュー前の思い出を歌った「ROUTE 16」(2022年6月リリース)には「週末乗るレンジローバーじゃなく中古の軽自動車」という歌詞が出てきます。高級車じゃないというのが共感ポイントになってるんですね。
でも、車は持ってるんだ。
──そうなんです。で、ぜったくんは「レンタカー」という曲を発表して。「ビュンビュン逃飛行✈」では「格安成田でビュンビュビューン!」とLCCに乗っていますね。
この間、ライブで北海道に行ったときもLCCを利用しましたね。ターミナルがめちゃくちゃ遠くて大変でした……。
──ぜったくんが身近なワードを正確に拾っていった結果、社会状況をストレートに反映している側面もあると思っています。この不景気をサバイブしている現状というか。例えば、バブル時代はクリスマスに赤坂プリンスホテルのスイートルームに宿泊するのが世のカップルの憧れだったのに対して、「Gaming Party Xmas」では“ゲームパーティ”の様子が描かれていますし。
そうですね。景気が悪いからといって、生活が楽しくなくなったわけではない気がしていて。世間の人たちの物に対する所有欲がなくなっただけで、楽しいことは相変わらずあると思うんです。僕自身、最低限の生活は送れているので、不景気を深刻に捉えすぎていないというか。若者が政治に興味ないとよく言いますけど、別に不満がないからなんじゃないかなと。まあ、そうしているうちにどんどん景気が悪くなって、僕らの生活すらままならなくなってしまうというのはあるかもしれないですけど。
──確かに、“レンタカー”すら借りられないほど生活が苦しくなるかもしれない。
そういうことになったら、また違う楽しみを見つけると思うんです。今の若い人たちには現状をなんとか楽しもうとするやつが増えてるんじゃないかな。
──みんながみんな「クリスマスは赤坂プリンスに泊まらなきゃ」という規範に縛られてるほうが異常だったとも言えますもんね。
そういう時代は、ちょっと想像できないですね。
「これがRHYMESTERのライブのあの感じか……!」
──ぜったくんは今回のアルバムもそうですし、これまでほとんどの作品をデジタルでリリースしてきました。
単純に僕がCDを聴かないからというのが大きいですね。それこそ所有欲がないし、音楽の原体験が友達がPSPに入れてくれたMP3だったので。CDは2、3枚しか買ったことがないんですよ。RHYMESTERさんに関しては本当に好きなので、データでは聴けないような作品をCDで聴きましたね。
──サブスクにない音源もありますもんね。
そういうのも、聴ければそれでいいんで。だから配信でいいんじゃないかなと思ってます。
──レア盤をレコード屋でディグるみたいな感覚がないんですね。
そうですね。でも、NFTには興味があって。デジタルで所有するっていうのは新しいですよね。
──では今後、自分の曲をNFTとして発表することもあるかもしれないと。
まだ具体的には全然考えてないんですけどね。NFTを買ったことがないので(笑)。
──まだ日本だと購入するにも手続きが煩雑ですもんね。
とりあえず、「これはよさそうだぞ」という予感だけはあります(笑)。
──9月にはひさしぶりのワンマンライブが控えています。
ライブはあんまり好きじゃなかったんですよ。バンドのときの、お客さん来ないしノルマもあるしっていう嫌な記憶があるんで。
──ライブ=つらいものという刷り込みが(笑)。
デビューしてからは、しっかりしたステージを観せられるようにならないといけないから、その練習としてやってた感じで。
──まさに修行ですね。
でも、最近はお客さんが来てくれるようになって楽しくなってきました。「これが俺がやりたかったライブか……! RHYMESTERさんのライブを観に行ったときのあの感じはこれだったのか!」という(笑)。
──アウトドアだけでなく、ライブへの意欲も上がってきてるんですね。
そうですね。前回のワンマンでみんなが喜んでくれて、僕も楽しかったんで(参照:ぜったくん渋谷で初ワンマン、街の印象を「Good Feeling」に塗り替える)。もっと大きい会場でもやってみたいという気持ちもあります。あと、コール&レスポンスも普通にやりたい。やっぱり声が出せないと盛り上がりも3割減になっちゃうと思うんですよね。なんとか9月のワンマンは、お客さんが声を出せなくても楽しめるように工夫したいです。あと、この日はバンド編成なので、音源では聴けないめっちゃカッコいいアレンジを期待していてほしいですね。
ライブ情報
ぜったくん ワンマンライブ「WAKE WE UP!!!」
- 2022年9月16日(金)東京都 LIQUIDROOM
- 2022年9月18日(日)大阪府 Music Club JANUS
プロフィール
ぜったくん
東京都町田市生まれのラッパー、トラックメイカー。2018年にラストラム主催の新人オーディション「ニューカマー発見伝」でグランプリを受賞し、2019年7月に配信シングル「Catch me, Flag!!? feat. SUKISHA」でデビュー。2020年3月に6曲入りCD「Bed TriP ep」を発表し、11月に東京・WWW Xで初のワンマンライブ「Good Feeling」を行った。2022年4月に金田哲(はんにゃ)を迎えた配信シングル「WAKE me UP!!! feat. はんにゃ金田哲」をリリース。8月に自身初のアルバム「Bed in Wonderland」を配信リリースし、9月にワンマンライブ「WAKE WE UP!!!」を開催する。
ぜったくん(zettakun) (@zetta_kun) | Twitter