ぜんぶ君のせいだ。「FlashBack NightMare」インタビュー|傷も悪夢も患いも、すべてを受け入れ前に進む

ぜんぶ君のせいだ。が6thアルバム「FlashBack NightMare」をリリースした。

今作にはみきとP提供のシングル曲「Heavenlyheaven」、丸山漠(a crowd of rebellion)提供の「SCAR SIGN」、オキタユウキ(été)提供の「Underscore」など、多数の作家が参加した計10曲を収録。これまで所属レーベル・コドモメンタルINC.の作家陣による楽曲を軸にしてきたぜん君。にとって、グループの新たな魅力を提示する意欲的なアルバムに仕上がっている。音楽ナタリーでは今年2度目の47都道府県ツアーを終えたばかりのぜんぶ君のせいだ。と、レーベルの代表取締役である今村伸秀氏にインタビューを実施。コロナ禍でありながらも年間100本を超えるライブを行ってきた彼女たちの成長がしっかり反映された「FlashBack NightMare」の聴きどころを聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / Sana Utsumi

2度の47都道府県ツアーを経て、より自由に

──先日2度目の47都道府県ツアーが終わり、ようやくライブ漬けの日々にひと区切りがついたと思います(参照:ぜんぶ君のせいだ。盤石のセトリで7人の真骨頂を見せつける「みんなのことを置いて行ったりはしない」)。この1年で何度かライブを観させてもらいましたが、ツアーファイナルは皆さんが笑顔でパフォーマンスをしているのが特に印象的でした。

如月愛海 この1年、毎週末のようにライブを繰り返してきて、それなりの回数を重ねるまでは「7人のぜん君。を認めてもらわなきゃ」みたいな必死な気持ちが強かったんですよね。でも2度にわたる47都道府県ツアーでライブ漬けの生活を送って、7人で純粋にライブを楽しむことができる域まで達することができた。その集大成がO-EASTでのライブだったので、めちゃくちゃ楽しんでライブができた実感があります。

征之丞十五時 活動休止前の中野サンプラザでのライブ(参照:ぜんぶ君のせいだ。中野サンプラザで患いたちと集大成的ライブを展開)とか、Zepp DiverCity(TOKYO)での新体制のお披露目(参照:ぜんぶ君のせいだ。ZeppDCで新体制お披露目、新たな5人で再び走り出す)とか、ここ最近の大きな舞台でのライブはどうしてもシリアスな空気感でパフォーマンスをすることが多かったから、十五時もちょっとそわそわした気持ちでステージに立っていたようなところがあって。それが7人体制になって回数を重ねられたことで、今ではすごく安心して、楽しみながらライブができるようになりました。

雫ふふ 今回のツアーファイナルが、私たち3人(もとちか襲、甘福氐喑、雫ふふ)が加入してちょうど1年経つタイミングでのライブだったんです。でも不思議と1周年の区切りとかは感じていなくて、これからも進んでいくし、1つの通過点という気持ちが強くて。

征之丞十五時

征之丞十五時

雫ふふ

雫ふふ

甘福氐喑 ツアー中に新曲を初披露することがあってもバタつくことが少なくなって、ファイナルに向けてどんどん仕上がっていった感覚はあったよね。

もとちか襲 1年間ずっとライブをし続けていたから、ステージに立つのが生活の一部になっちゃって。ツアーが終わったのに「今週末はどこでライブだっけ?」ってつい思っちゃうんですよね。それくらい、ライブが自分の中で大きくなりました。

个喆 个喆も最初は患い(ぜんぶ君のせいだ。ファンの呼称)さんたちに認めてもらいたい気持ちが強くて緊張してたけど、さすがにこれだけライブをやったら楽しめるようになりました。メンバーと意思疎通も以前よりできているから安心してライブができてる感じ。

メイユイメイ 挨拶回りはもう終わって、ようやく自分たちの中に7人でのパフォーマンスを深く落とし込めるライブができたと思います。その中でもファイナルは一番楽しめてやれたと思います。

──メンバーそれぞれに成長があるのはもちろんわかるのですが、ファイナルを観ていて特に如月さんのパフォーマンスに目を引かれました。これまでのライブよりも伸び伸びしているような印象があって。

愛海 7人の中で一番ライブを楽しめている自信があるし、いい意味でみんなに頼れるようになったからだと思います。私が好き勝手遊んだとしても、みんながちゃんと脇を固めてくれていることがわかっているし、何かハプニングが起きたとしても私がフォローしなくてもみんなそれぞれがカバーし合うことが今ならできる。前回のツアーファイナルくらいまでは立ち位置で心配することもあったけど、もう大丈夫だから(笑)。7人が自由にライブを楽しめるようになったということは、私が余計な気を回す必要もなくなったということなので、私も伸び伸びパフォーマンスができるようになったんだと思います。

甘福氐喑

甘福氐喑

もとちか襲

もとちか襲

一方的にシンパシーを感じていたリベリオン

──ツアーファイナルでは新アルバムの収録曲「SCAR SIGN」が初披露されました。スクリーンに楽曲制作者である丸山漠(a crowd of rebellion)さんの名前が映し出されたときは驚きました。

愛海 実はぜん君。に入ってしばらくして、シャウトを歌うようになった頃に、よくリベリオンの曲を聴いていたんです。それと、実はけっこう前からリリースタイミングが被っていることが多くて、インストアに行ったらショップの展開で並んでいることが多かったんです。だから一方的に、めちゃくちゃ勝手にライバル視している時期もあって(笑)。

ふふ 以前からリベリオンの音楽が大好きで、ライブに何度も足を運んでいたんです。ライブを観てるから、デモ音源を聴いただけでフロアの情景が目に浮かんだんですよね。もし感染症対策とかがないフロアだったら、ここではこうやってもみくちゃになるんだろうな、みたいな。

十五時 フロアの患いさんがものすごく興奮しているのがわかったよね。イントロからたくさん手が上がってたし。

个喆 2階席の患いさん、落っこちてきちゃうんじゃないかってくらい盛り上がってた(笑)。

ふふ 首が飛んでいきそうなくらい頭を振ってる患いさんもいたよ。

愛海 リベリオンのラウドやメタルの枠に捉われていない音楽性には、勝手にぜん君。と共通しているところもあると思っていて。この組み合わせを聞いて、うまくいく未来しか見えなかった(笑)。

 初披露のときって、じっくり構えて聴かれちゃうことが多いんですけど、「SCAR SIGN」は初めて聴く曲なはずなのにすごく盛り上がってたのが印象的でした。

 Twitterで「SCAR SIGN」の試聴音源を限定公開したときにいろんな感想を見て楽しんでいたんですけど、けっこう「ぜん君。もリベリオンも好きだからうれしい」とつぶやいている患いさんが多くて。相性のよさみたいなものを感じてすごくうれしかったです。

メイ リベリオンを知ってる患いさんが盛り上がってくれたのはもちろん、逆もあってリベリオンのことを知らない患いさんも普通にテンションが上がってたみたいで。「リベリオン聴いてみよう」みたいな書き込みもたくさんあった。

愛海 リベリオン、めっちゃカッコいいから聴いてほしいけど、そっちにはいかないで!(笑)

个喆

个喆

メイユイメイ

メイユイメイ

傷も悪夢も大切な記憶の1つ

──アルバムに「FlashBack NightMare」というタイトルが付けられていることも気になりました。これについてメンバーはどう受け止めていますか?

愛海 アルバム収録曲の中でも「SCAR SIGN」の影響が大きいと思います。「SCAR SIGN」の歌詞の中に「傷がいい」という一節があるんですが、私たちぜんぶ君のせいだ。は心に傷を付け合いながら前に進んできたグループだと感じていて。傷を見て昔のことを思い出すように、ステージに立っていると、以前の風景を思い出してしまうことがあるんですよ。だから傷を隠してなかったことにしたくなる気持ちもわかるけど、私たちはそういうものを全部ひっくるめて前に進んできたグループなんです。

如月愛海

如月愛海

今村伸秀(コドモメンタルINC.代表取締役) 僕は結成当初からぜん君。の音源にもライブにも関わってきたからわかるけど、愛海の話したことは本当にその通りで、「あのときの傷がなければ今の大切な何かが欠けていたかもしれない」ということがすごく多い。特にぜん君。は体制がめまぐるしく変わったこともあって、“あのとき”の何かを拾い集める作業を繰り返している。再録アルバムの「Q.E.D」を作っているのも、前回のツアーファイナルがLIQUIDROOMで、次のツアーファイナルがO-EASTなのも、過去のぜん君。の足跡をたどっているんです。その過程の中で過去の光景がフラッシュバックすることが当然あって、しんどいときもあるけど、忘れたいことじゃないんですよ。大切な記憶の1つだから。

愛海 前回のインタビューで「Heavenlyheaven」が初期の「ねおじぇらすめろかおす」に近いという話をしたと思うんですが(参照:ぜんぶ君のせいだ。インタビュー|みきとP提供の“原点回帰”ナンバーで新たなフェーズへ)、「SCAR SIGN」は私たちの2ndシングル「ShitEndプラシーボ」を想起させるような楽曲なんですよ。そこでもすごく昔のことがフラッシュバックしたなあ。

──新しい作品を世に送り出すわけですから、作品の看板には前向きなメッセージを付けがちじゃないですか。そこで「FlashBack NightMare」というタイトルを付けるのは、ある意味勇気のいる行為なのではないかなと。

今村 こういうタイトルを堂々と付けられるのは、ひとえに彼女たちがいいメンバーだからかな。輝かしい未来のことを見せつける手法も当然あるけど、それをしないのは今のぜん君。に自信があるからだと思います。

愛海 ぜん君。としての傷だけじゃないんですよ。解散したつれづれ(ゆくえしれずつれづれ)から合流してくれたメイや个喆は、別の傷を負いながらここに来てくれているから。