本当はいつだって寂しい

──ぜん君。の代表曲である「無題合唱」と、その続編として描かれた「独唱無題」の2曲が入っているのも今作の特徴です。収録曲順に話を聞くとまず「独唱無題」から。この曲、変拍子が盛り込まれていたり、語りっぽく歌うパートがあったりと、歌うのがすごく難しそうな曲ですよね。

愛海　「独唱無題」は「アニマあにむすPRDX」（2016年11月発売の2ndアルバム）のレコーディングのときから苦戦していた曲なんです。まず「無題合唱」という曲があって、「独唱無題」はその3年後をイメージした曲として作られているんですが、当時の私たちは「無題合唱」が出てから1年も経たないうちに「独唱無題」をレコーディングしていて。要は背伸びをした状態で歌っていたんですよね。

襲　「独唱無題」がグループにとって大事な曲であることはなんとなくわかっていて、私は再録アルバムにこの曲はまだ入ってこないんだろうなと勝手に思っていたんです。まだもうちょっと時間が経ってから歌わせてもらえる曲なのかなって。

十五時　うん。十五時が入ってから音源化するのは今回が初めてだし。

愛海　メンバーは新しくなっているけど「無題合唱」から3年以上のときが経って、ようやく私たちが等身大で歌える曲として今回レコーディングできたのかなと思っています。

メイ　「独唱無題」はぜん君。の曲の中で3位以内に入るくらい好き。確か2019年4月の野音のライブを観に行ったときに「独唱無題」を聴いて、ぜん君。にとってすごく大事な曲だと理解したんです。だからこんなに早く自分が歌う曲になるとは思ってなかったですね。

愛海　なぜかは説明できないんですけど、私の中で「独唱無題」と「せきららららいおっと」は大きい舞台で歌っている姿がイメージできる曲なんです。今回7人で録り直して、やっぱり「独唱無題」は大きな舞台で歌われるべき曲だなあと改めて思いました。

十五時　「独唱無題」はイントロで時計をモチーフにした振り付けがあるんですけど、その動きがね、7人でやるとすごくしっくりくるんです。

愛海　「無題合唱」の3年後の曲だから、「独唱無題」では3拍使って時計の針を戻す振り付けをやっていたんです。今その振り付けを7人でやると、ちょうどイントロの長さに収まるんですよ。もちろん曲を作った当初は7人になることなんて想定していないし、今になって私たちのほうが曲に近付いた感覚があって。みんながいろんな選択をしてくれた中でこの7人で「独唱無題」を歌えていることがすごく愛おしいと感じました。

──そしてぜん君。の代表曲でもある「無題合唱」のほうは、アルバムのラストを飾る形で収められています。

ふふ　「無題合唱」は5人のときと比べて明らかに強くなったと思います。やっぱりツアーを通じてお互いのことをよく知れたのが大きくて、探り探りで声を合わせていた頃とは声の重なり方が変わってきた気がして。ライブで歌うときもみんなの存在がすごく心強くて、私自身、強い気持ちになって歌える曲です。

喑　最後のサビを全員で歌えるのがすごくうれしいんです。ライブでは円になってみんなで目を合わせて歌うので、レコーディングのときも自然とメンバーの顔を思い浮かべて歌っていたし。あと「君に出会って 泣き虫になる…」という歌詞があるんですが、ぜん君。に入ってメンバーや患いさんたちに出会って、本当に自分自身が泣き虫になった自覚があって（笑）。本当に自分の気持ちが100％込められるようになって、歌い方が明確に変わったところだと思います。

メイ　メイは最初、「無題合唱」をライブで歌うときにつれづれのことが頭に浮かんでいたんです。ただいつからか、今この居場所をなくしたくない、ぜん君。のメンバーの手を離したくないという気持ちが強くなってきて、ちゃんと目の前のみんなのことを思いながら歌えるようになった。「無題合唱」ってすごく悲しい曲だと思ってたけど、今は7人で力を合わせて歌うからすごく勇気をもらえる曲になりました。

襲　この曲がアルバムの最後に入っていて本当によかったなと思っています。それぐらい、明るい未来が見える曲だと思う。

愛海　「“寂しくなんかない”思い込んで強く在れ」という歌詞があるんですけど、7人になってもいつだって本音では寂しいんです。前を向いて走り続けてはいるけど、ふと過去のことが頭をよぎることがあるし、私はいつだって「寂しくなんかない」と思い込んで歌ってきたから。でもそれが自分だけじゃなくて、別にみんなに言っていいんだと改めて気付けた瞬間があって。寂しいのは私だけじゃないんですよ。今一緒に活動してくれているメンバーも寂しいし、なんなら過去に一緒に活動してくれたみんなも寂しいかもしれない。だから今「無題合唱」で一番思いが入るフレーズが「“寂しくなんかない”思い込んで強く在れ」ですね。

想像通りの私たちがステージの上で待ってる

──再録アルバムが2作品リリースされることで、30曲近く歌い直したわけですから、現在開催中のツアー「Sicutie & Stupid Tour 2021」のセットリストは前回のツアーよりもさらにバラエティに富んだ内容になりそうですね。

愛海　もう今セトリむちゃくちゃですよ（笑）。

メイ　いろんな曲が増えたから、遊びまくったセトリになってるよね。

十五時　遊んでるセトリだからこそ「革鳴前夜」のようなシリアスな曲がセトリに入るとすごく締まる感じがする。

愛海　成長しているし、セトリも変わっているし、前回のツアーとはまったく違うライブを楽しんでもらえると思います。なんなら土日の2日間でセトリをガラッと変えているので、2日間連続で観に来てもらっても全然違う楽しみ方ができると思います（笑）。

ふふ　私たちもいろんな曲が歌えて楽しいよね。

──皆さんがツアーを通じて叶えたいこと、目標としていることなどはありますか？

喑　今回のツアーではまだ叶わないかもしれないけど、もっと患いさんと距離が近いライブがしたいですね。去年入ったねちと襲とふふは距離感のあるライブしか知らないんですよ。でもライブをやればやるほど「ここでもっと盛り上がるんだろうな」とか、「ここはみんなで歌いたいな」とか、ぜん君。のライブ本来の楽しみ方が見えてきて。今は我慢しなきゃだけど、そういうライブに一歩でも近付けるように自分たちを高める期間にしたいですね。

个喆　个喆はみんなで泣けるようになりたい！

愛海　泣きそうなときあるじゃん。

个喆　泣きそうで止まっちゃうんだよ。

喑　ねちも一緒。リハのほうが泣いちゃうんだよなあ。

愛海　リハのほうが人目を気にしなくていいからね。甘福氐は強がりなところがあるから、もしかしたらもっと感情をさらけ出せるようになるかもしれないね。

ふふ　ふふは前回のツアーでも最初と最後で別人になれたと思うんです。だから今回のツアーも最後には別人になれたらいいな。

襲　ツアーファイナルで「雫デュフフ」に変わってたらどうする？

ふふ　やだ！（笑） そういう別人じゃなくて！

愛海　2度目の47都道府県ツアーを通じて「大きい舞台に立てるんだぞ」ってところを見せたいですね。1周目は苦しさ、大変さを感じることが多かったと思うけど、今はみんなそれを超えて遊べるようになってきたから。思いっきり楽しみながら努力を続けて、もっと先を見据えていきたいです。

襲　レコーディングのときに、加入したばかりの頃の歌を聴かせてもらうとビックリするんですよ。「え、これ本当に私の歌？」って思うくらい、自分が成長しているのがわかる。だから2周目のツアーを終えたらもっとうまくなっていると思うし、その先もすごく楽しみですね。

愛海　みんな伸びしろがすごいんですよ。だから逆に自分が焦っています（笑）。私はもう6年活動していて、みんなより伸びしろが短くなっている自覚はあるから、伸びしろを伸ばすんじゃなくて幅広くしようと思っています（笑）。

十五時　発展途上かもしれないけど、やっぱりツアーに遊びに来てほしいですね。

愛海　「Q.E.D.mono」と「Q.E.D.bi」を聴いたらきっとライブが思い浮かぶと思うんです。現場に来てもらえたら、きっと想像通りの私たちがステージの上で待ってると思うので、ライブを想像して聴いてもらいたいし、ライブに来るために何回も聴いてほしいアルバムになったと思います。