悔しくなくなってしまった
──活動休止の発表があったあとに、メンバーの一十三四さんと凪あけぼのさんの脱退が発表されました(参照:ぜんぶ君のせいだ。から一十三四と凪あけぼの脱退)。これまでも何度かメンバーの脱退はありましたが、グループ初期から活動している四さんの脱退には正直驚きました。
ましろ 長く活動していると迷いや戸惑いってどうしても積み重なるんです。それは四だけじゃなく、僕も一緒。四は特にそういうことをわざわざ口にするまでもないと思うタイプでありながら、自分の中でうまく消化して前に進めるタイプでもなくて。実は昨年の「CULT CHAOS CUTIE TOUR 2019」のときに、僕とめーちゃんと四の3人で話をしたんです。 そのときはまだ辞めるとかそういう話までしていたわけではないんですけど。
如月 ツアーを回っているとき、ライブ終わりに四が納得していない感じの顔をしている日があって。もちろん、うまくいかないことなんてたくさんあるから、私にだって納得のいかない日はあるんですよ。でも何かあればライブ後に必ず話すようにしているし、みんなもこれまでそうだったんだけど、四から何も話してくれない日があって。5人でいると話しにくいことかなと思って、ホテルで3人が一緒になったタイミングで話をしてみたら、四はすごく悩んでいたみたいで。
──何に悩んでいたんですか?
如月 そのときに限った話ではなくて、きっと四は加入のときからずーっと悩んでいたんですよ。あくまでも話したりしている中から感じることですけど、四は一生懸命がんばる自分と、自分の理想に届かない自分に対してイライラしてた。でもそれって、実はみんな同じなんですよ。私だってましろだって、自分の理想に届かないけど、そこに近付こうと必死でもがいている。でも四は理想に届かない自分が許せないと思っちゃうタイプなんですよね。とがれ(咎憐无)が抜けて5人体制になったとき、グループに変化がある中で自分がちゃんと成長できているのか、わからなくなってしまったみたいなんです。
ましろ グループで活動していると、どうしても変わらなきゃいけないタイミングってあるんです。四はすごく不器用な人間で、変化も苦手だから、悩みながら前に進むことが正しいとも思えなくて、きっと自分でどうしていいかわからなくなっちゃったんじゃないかな。しかも四は「できない」とか言わないんですよ。絶対に。
如月 四は嘘がつけないから、中途半端な気持ちの自分がぜん君。にいてはいけない、って思ったんじゃないかなあ。活動休止のことも含めて、私たちが前に進もうとして、いろんな話が出るじゃないですか。四は取り繕うようなことも言えなくて、意見も出せないことが許せなくなったんだと思います。
ましろ 初めてこういう話をしたとき、僕と愛海と四の誰か1人がいないぜん君。をがんばらなきゃいけない意味が自分でもわからなかったんです。3人のうち誰か1人が欠けてまでやるべきことなのかどうか。四にもそう言ったんですよ。でも「だから辞めてほしくない」みたいなことを簡単には口に出せなかった。今まで長くやってきたからこそ、四がたくさん悩んできたことは言わなくたってわかるし、そんな四が決心したことを簡単に引き止められなくて。ずっと一緒にやってきたから、お互いに言わなくてもわかることなんていっぱいあるんですよ。だから、四が伝えてくれたことも、言わなかったことも痛いほどよくわかっていて……。
如月 これはレーベルの社長から聞いた話なんですけど、四の脱退を社長もずっと引き止めていたらしいんです。でもあるとき四が「悔しくなくなってしまった」と言っていたことがあったらしくて。活動をしていると悔しいことだらけだし、なんなら私たちの原動力の1つに「悔しさ」というのがあると思うんです。それがなくなってしまったというのは、どうにかできることではない気がしたんですよね。こういうとき、メンバーもスタッフさんもファンも「何が原因なの?」って知りたいと思うんです。その原因が取り除けるものだったら取り除きたいじゃないですか。でも四の場合はそういうことじゃないというか。私たちはやっぱり気持ちがあるからがんばれているんですよ。でもその気持ちがなくなってしまうことに対しては、自分たちにどうにかできることじゃないんだよね。
ましろ うん。
如月 でも私は悔しいから、四には直接「四が脱退するとしたら、なおさらぜんぶ君のせいだ。は武道館に行かなきゃいけない」と伝えたんです。たとえ四が辞める選択をしても、ぜん君。を続けたいという人が1人でもいたら私は続けるから。私たちはもう武道館に行くという約束をいろんな人たちと交わしてきたし、それは叶えたいとかいう願望じゃなくて、叶えなければならないものになっている。
ましろ 僕も最初は四が欠けたぜん君。が想像できなかったけど、今は四の分も絶対に武道館に行かなきゃいけないと思ってるよ。
楽しむことができなくなった
──あけぼのさんの脱退についても話を聞かせてください。グループに加入してからまだ1年ちょっとなので、四さんとはちょっと事情が違うわけですよね。
如月 ぼのは、もともとメンタルが強いタイプじゃないんですよ。でもそんな自分を変えたくて、ずっともがいてきた人なんです。それはぜん君。に入る前からずっと彼女が繰り返してきたことで、ぜん君。に入ったからきっと変われると思っていたみたいだけど、人間の心はそう簡単に環境だけでは変われないんですよね……。変わりたいけど変われない自分に対して苛立ちを感じてしまううえに、それを思い悩んじゃうタイプでもあったんです。「悩んでいる自分が患いさんの前に立つことが苦しい」と思うようになってしまった。私はそれが悪いことだとも思っていなくて「患いさんだったらそういうところも含めてぼののことを愛してくれるよ」と伝えていたんですけど、ぼのの思い悩む性格はなかなか変わらなくて。ぜん君。として活動すること=ぼのにとって苦しいことになってしまったんです。
ましろ もちろん、ぼのもがんばろうとはしていたけど、ぜんぶ君のせいだ。の活動って自分たちがやりたいこと、立ちたいステージがあるからがんばれているわけなんですよね。もちろん苦しいこともたくさんあるけど、決して苦しむために活動をしているわけじゃないです。でも、ぜん君。としての活動がぼのにとって苦しいものになってしまったみたいで。
如月 「がんばろう」という前向きな思いと、「苦しい」というネガティブな思いを何度も往復しているうちに、ぼの自身が自分を奮い立たせることに疲れてしまったんです。それで彼女は「もしかしたら向いていないのかもしれない」と思っちゃったみたいで。私たちはぼのがぜん君。に向いているか向いていないかとか、そういうことを考えたことがないんですよ。だってぼのはもうぜん君。の一部なんだから。でも自分自身でそこを迷ってしまうと、外から手を差し伸べても引っ張り上げられなくなってしまうんですよね。
ましろ がんばりたい気持ちはもちろん持っていたけど、実際にがんばれるかどうかは本当に本人次第だから。
如月 これはぜん君。に限らず、すべてのアーティストに言えることだと思うんですけど、自分たちが楽しめているかどうかが一番大事だと思うんですよ。私たちが楽しめているからこそ、観ている人たちも楽しめるはずなんです。楽しめていなければどこかでそれが伝わってしまい、人を惹きつけるような、観ている人を楽しませるようなパフォーマンスはできないんです。
ましろ これはみんなに勘違いしてほしくないことなんですけど、四もぼのもぜん君。のことをすごく考えた結果、辞める選択に至ってしまっただけなんです。
如月 私たちからしても、2人だけじゃなくて、これまで関わってくれたメンバーすべてにちゃんと意味があることなんです。(夢咲)夢日が抜けたことで5人グループとしての自覚を持って、十字と成海5才が脱退したことで残された3人がとても強くなったし。めねととがれがいてくれたことでグループに新しい色が付いたと思うし、ぜん君。の歴史の中で全員がキーパーソンなんですよ。今回は四とぼのが抜けることになりましたが、このあとのぜん君。はもっと力を出せるようになるはずだから。
ましろ こんなに今まで関わってきた人たちを救いあげようとするグループもないと思うんです。「武道館でライブをする」という夢も、楽屋でなんとなく話をしているときに、字がなんの根拠もなく「武道館まで行きたい!」と言ったことがきっかけなんです。字だけじゃなくて、これまで関わってくれたメンバーのみんなが何かしら僕らに残してくれたものがあるし、応援してくれる患いさんたちから受け取っているものもある。だから武道館まで行かないと、みんなの思いが浮かばれないんですよ。僕たちが背負っているものは、武道館に行くことでようやく成就すると思う。
如月 もう夢じゃなくて意地なんですよ(笑)。意地でも武道館に行きたい。行かなきゃいけない。
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「辞める」という思考がない