3人だったら歌えなかった
──新体制になって初のリリースとなる「AntiIyours」は、前作「Natural Born Independent / ロマンスセクト」(2019年2月発売のシングル)とはちょっと違ったアプローチの曲ですよね。4人体制で進めてきたベクトルとはちょっと違うというか。
如月 作曲の(水谷)和樹さんから最初にもらった曲「ねおじぇらす めろかおす」で、まず私たちのグループとしての命が吹き込まれたと思っているんです。四が入ってから「僕喰賜君ノ全ヲ」という曲でそのときのぜんぶ君のせいだ。を象徴する曲を、その後、4人体制の集大成として「革鳴前夜」という曲を書いてもらって。今回の「AntiIyours」は、和樹さんが「僕喰賜君ノ全ヲ」と「革鳴前夜」の要素をどちらも兼ね備えた曲として書いてくれたんです。「革鳴前夜」で描いてもらった強くて前に進むぜん君。と、「僕喰賜君ノ全ヲ」で描いてもらったポップで“病みかわいい”ぜん君。、そのどちらもこぼすことなく1曲にまとめてもらいました。
ましろ もしかしたら「AntiIyours」という曲は、3人(如月、一十三、ましろ)だけだったら歌えなかったかもしれないです。この3人だったらもっと患いさん(ぜんぶ君のせいだ。ファンの呼称)を引っ張っていかなきゃいけないと思っていただろうし、弱みも見せられないし、過去に立ち返ることもできなかったと思う。これから先を見ていかなきゃいけないんだって、躍起になっていたと思うんですけど、ぼのと十五時が入って、改めてぜんぶ君のせいだ。がどういうグループだったのか、考え直す機会をもらったんです。僕らが言うのも変だけど「“病みかわいい”ってこういうことだったよね」って、この2人が入って改めて考えることができた。
如月 3人だけだったらたぶん今頃、海外のヘヴィメタルみたいな音楽性になってたかもしれない(笑)。
一十三 ただ昔の“病みかわいい”とはちょっと変わってきたのも実感しています。昔はただうじうじして「斜め右後ろ30m」(「キミ君シンドロームX」の歌詞)から見てるだけで絶望してたんですよ。でも今の“病みかわいい”ぜん君。は、絶望はしてても一筋の希望の光が差しているのがちゃんと見えている。「AntiIyours」は、自分のことがすごく嫌いで周りの世界も憎んでしまうような人間が、“君”と出会えたことで変われたことを歌った曲なんです。ぜん君。と患いさんの今現在の関係がちゃんと描かれていることにちょっと感動しました。
──メンバーが増えたことでボーカルが多彩になったのも大きな変化だと思います。
一十三 それこそ十五時のハスキーなボーカルはぜん君。の新要素ですね。
ましろ それと十五時の声質が入ったことで、ハモりがより多く入るようになりました。ぜん君。の曲はけっこうユニゾンが多くて、これまであまりハモりに挑戦してこなかったんですけど、「AntiIyours」はハモりがたくさん入っていて、僕らにとって挑戦の1曲になりました。
如月 それと、ぼのはもともと歌がうまいんですよ。「AntiIyours」では落ちサビの締めの部分をぼのに歌ってもらったんですけど、これはけっこうぜん君。にとっては新しいことですね。重みのある、決めの1行を新人に任せるわけですから。
ましろ 十五時がメロに合わせてしっかり歌ってくれるタイプなのに対し、ぼのは感情をしっかり乗せてアドリブを効かせて歌うタイプなんですよね。落ちサビの部分は、僕、四、ぼのの順番に歌うんですけど、僕と四はあえて感情を出しすぎないように抑え気味に入っているんです。5人で歌うからこそ、お互いを引き立て合うようなことができればなと思って。
──十五時さんとあけぼのさんにとっては初めてのレコーディングだったわけですが、歌録りはどうでしたか?
凪 さっき言ってもらった通り「感情を込めて歌おう」というのを目標にしていて。凪あけぼのとして初めての曲「AntiIyours」の歌詞を読んだとき、本当に重い曲だと思ったんです。「赦されない 現実は居場所じゃない」って歌詞にはぜん君。に入る前の居場所がなかった自分のことが書かれているような気がしたし、今までの人生で感じたこと、凪あけぼのとして今表現したいことを歌で伝えられるように、すっごく練習しました。
征之丞 ぜんぶ君のせいだ。の曲はどれも重いんですけど、「AntiIyours」にはやっぱり特別な思い入れがあります。すでにツアーも始まっているし、既存の曲も歌わせてもらっているんですけど、5人の歌割りだとなかなか自分の担当分って少ないんですよね。でも「AntiIyours」は、最初から5人で歌うことを想定して作られていることもあって、一番長くソロの尺をいただいた曲なんです。その中でも「邪魔なものが溢れてるよ 何故? あたしがほら、消してあげるよ」というパートが一番好きで。ここのパートは「十五時はぜんぶ君のせいだ。の一員として生きていくから、患いさんもぜんぶ君のせいだ。だけを見てね」という患いさんへのメッセージだと思って、気持ちを込めて歌っています。
如月 ちょっとホラー感ありますよね。声もハスキーでちょっと低く歌っているから、聴いてて本当にちょっと怖いんですよ(笑)。
振り付けというよりお遊戯
──シングルには「唯君論」の再録バージョンとして「唯君論。」が収録されています。曲中の自己紹介のパートも新体制になったことで一新されていますね。
征之丞 自己紹介の歌詞がすごくかわいいんですよ。十五時の自己紹介は「望んだのは物語に 甘い空青のハチミツ 転んでても花が咲くぞ 天然モノの空想」という一節で、それがすごくポジティブでかわいいんです。自己紹介パートは各自が振り付けを考えるんですけど、これまで振り付けなんて考えたことなかったし、どうやったらこのかわいさを表現できるのかけっこう悩んで……最終的には後ろの4人に2つペアを組んでもらって、ペアでハートマークを作ってもらってます。
如月 初めて考えた振り付けで、自分の周りにハートを作らせるのはすごくないですか?
──普通なら自分だけで完結する振り付けに収まってしまいそうですからね。いい意味で枠にとらわれていない、自由な発想だと思います。
如月 振り付けで言うと、ぼのの自己紹介パートではヤバさが出てますね。
凪 ぼのにはわりと中二病的なところがありまして……(笑)。歌詞にも「天使・悪魔の相反」とか「破壊と再生」とか大げさな言葉を入れてもらったんですよ。でも振り付けはバカっぽく騒がしくしたかったから、とにかく動き回る!みたいな。
一十三 振り付けというより、幼稚園のお遊戯みたいな……?
如月 でもその動きが普段のぼのなんですよ! だからすごくいい振り付け、いや、お遊戯……(笑)。
──歌詞をよく読むと、自己紹介パート以外の部分も細かく歌詞がアップデートされていますよね。
如月 そうなんです。「唯君論」って、私たちにとっては「ねおじぇらす めろかおす」以来の自己紹介曲で、4人時代の“再スタート”の曲だと思っていたんです。その曲を5人で歌うことに対して、もしかしたら患いさんの中にもいろんな思いがあるかもしれない。でも私たちは過去にあった曲も思い出も全部背負って新しい未来に向かっていきたいし、もしできれば未来に向けて一緒に歩いてほしい。歌詞が変わった部分は、より私たちの覚悟が表れているところかもしれませんね。
一十三 「唯君論」が完成してから「唯君論。」を作るまでそんなに長い時間は経っていないんですけど、この間にあった時間の流れを感じさせる内容に、歌詞がアップデートしていると思います。ツアーの初日、この曲をやったときは、いろんな思いもあってメンバーも大号泣でした。
ましろ 「過去のぜん君。がいい」と言う人たちがいるのもわかっているけど、それでもこの曲に改めて向かい合ってみてほしいですね。シングルの2曲でぜん君。の過去と現在がちゃんと合わせて表現されていて、さらに未来まで見えるような形になっていると思います。すごくバランスがいいけどぜいたくな2曲入りのシングルですね。
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二次元になる夢が叶った!