ナタリー PowerPush - Zeebra
キングが語る「俺の任務」
「俺の『悪い』はマジですけど大丈夫っすか?」みたいな(笑)
──今回「Gang On The Backstreet」(「Black~」収録)で東京スカパラダイスオーケストラと共演されましたね。
共演するんだったら、やっぱりブラックミュージックがルーツにある人たちのほうがやりやすいんですよね。それで言ったらスカなんかモロ、ジャマイカンミュージックなわけで。谷中(敦)さんとは何度も現場で会ってて「飲みに行こう」って言いながら、なかなか機会がなくて。で、今回オファーをしたら、「やっときたか!」とか言われて(笑)。
──この曲は大人の不良感がビンビンですね。
向こうから「Zeebraとやるんだったら悪カッコいい曲作りたい」って言われたんですよ。でも、「俺の『悪い』はマジですけど大丈夫っすか?」みたいな(笑)。60年代のスカアーティストでプリンス・バスターっていう人がいるんだけど、そんな感じのオケでやりたいって。イメージは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」とか、「ゴッドファーザー PART I」とかあのくらいの時代の路地裏感。それを東京の裏社会の方々と合体させてみたらこんな感じになったっていうところなんですけど(笑)。
──この曲は歌詞もキワドいですね。
10月に条例(東京都暴力団排除条例)が出たでしょ? だからこの曲、一時期ボツりそうだったんですよ。「Hey パイセン! 今回のはどんなのでいくら?」と「明日は末端五千万身につけてフライト」っていうリリックがレコード会社的に引っかかって。でも、俺はイキがりたいからそういう歌詞を書いたわけじゃなくて、さっき言ったような世界観を表現したかっただけなんですよ。だから、珍しくシカトしてたら、OKになりました(笑)。ちなみにこれ、ミックスはDub Master Xさんがやってくれてます。
死ぬまでこれで食ってくんでしょ?
──「Black~」の1曲目に収録された「The God」についてお訊きします。この曲のリリックにある「道開けなキッズ / Let me do my thing」や「反抗期なら抜けるまで待とう / それまではせいぜい牙磨けハーコー / ここは戦場 Ain't no mercy / 勝者のみが雲の上でパーティ」というラインは、RAU DEFさんとのビーフを思わせました。彼も含め、現在の日本のヒップホップシーンには面白い若手がたくさんいますが、Zeebraさんは彼らをどのように見ているのか教えてください。
昨日たまたまHIBIKILLAのツイートを見てて、まさにそのとおりだと思ったんだけど、「いくらいいアルバム作っても、いくらいいパフォーマンスをしても音楽で食っていくにはそれだけじゃダメだ」って。いい曲を作る、いいパフォーマンスをするなんていうのはいいアーティストならできて当然。アメリカなんかと違って、日本はヒップホップがジャンル的にもまだまだ向かい風だから、パフォーマンスがいいだけじゃダメです、全然。もっと外に出ていかなきゃ話になんないから。例えばS.l.a.c.k.には音楽好きは捕まえてほしいんだよね。で、あいつは小さいステージだけどフジロック出たりしてて。あれはすごく大切なことだと思うんだよ。そういうことをみんなそれぞれのポジションでやんなきゃダメなんで。それがないと結局それ以上は広がらないと思うんだよな。
──アーティストは、音楽でごはんを食べていくっていう自覚をもっと強く持たなければいけない、と。
そうですね。だって死ぬまでこれ(音楽)で食ってくんでしょ?っていう。月に15万~30万じゃ、死ぬまでは食えないから。そういうことを意識するのってすげえ大切かなって思う。
──Zeebraさんの場合、その意識はいつ頃から持っていたんですか?
「さんぴんCAMP」(1996年)の頃からかな。大前提として、俺はガキの分まで稼がなきゃいけなかったから、人よりも多く仕事しないと金が足りないって思ってた。寝ないで仕事をしてましたね。もう必要に迫られてって感じで。そしたら、気付くと頭一個抜けてたなっていう。それぐらいやればできるんだから、みんなもその気になったほうがいいと思いますよね。
──ただ、あの頃と今では景気が違います。
うん。ヒップホップに関しては、2000年くらいのバブルはなくなったからね。その後、自主とかインディーズでやっていくことによって、枚数が少なくてもそれなりにお金が入ってくるようになった。でも、正直それがみんなの足枷になってる気がする。
──足枷っていうのは?
もうそれで満足しちゃってるというか。
──そこそこ食べられるくらいのお金で満足しちゃう。
「インディーズで5000枚売ったらいくら入るの?」みたいな話だから。それだとそっから先がないと思うんですよ。だから「もっと大きなお金を取りにいこうよ」ってやっぱ思うんですよね。正直言って、今の時代難しいけど。
CISCOにECDがいたらとりあえずガンたれてた(笑)
──Zeebraさんが今回のアルバムでTINY PANX(高木完&藤原ヒロシ)「LAST ORGY」を「LAST O.G.」としてリメイクをされたのが意外でした。これまではどちらかというと、USヒップホップの伝道者というイメージがあったので。
TINY PANXの「LAST ORGY」は、俺が初めて買った日本語ラップのレコードなんですよ。Major Forceから出た最初の3枚の12inchは全部ゲットしてます。当時はDJもやってたから、その点でも日本のパイセンたちはみんなすごいなと思ってたんですよ、正直。その頃、俺らはまだ17歳とかで音楽性とかはリスペクトしてたけど、ラップに関してはあまりうまくいってないのかなって思ってて。俺は当時英語でラップやってたから、英語のほうがカッコいいなっていう印象でしたね。でも、それはあれっすよ。反抗期(笑)。
──あははは(笑)。
さっきの「The God」のリリックじゃないけど、抜けたんです、反抗期。当時なんか、CISCOにECDがいたらとりあえずガンたれてた(笑)。手だけはレコード掘ってるんだけど、お互い手元なんか全然見ないでガン飛ばしあうみたいな(笑)。でもね当時、俺が初めて観た海外アーティストの招聘とかも、結局全部完ちゃんとかパイセンたちがやってくれてたんですよ。そこで俺らもすごいいろんなものゲットできたし、彼らが書いてる文章とかを毎月読んで、そっからいろんな情報ゲットしてた。だからやっぱり彼らはどう転んでもオリジネーターだし、レジェンドなんですよ。
──Zeebraさんはフリーペーパー「FLJ」の連載「HARDCORE FLASH」で高木完さんと対談されてましたね。
俺が完ちゃんとつながることによって、日本語ラップしか聴かない子とかが「え?」って見るようになる。それはすごい意味があるなって思って。逆も然りで、完ちゃん側のパイセンたちも「え? Zeebraって最近そういう感じなの?」つって、最近良くしてくれるんですよ。おかげさまで(笑)。
──Zeebraさんのリスナーで完さんたちの功績を知らない人も多いはずですからね。
完ちゃんたちの世代っていうのは、なんていったって日本のクラブカルチャーのムーブメントを作った人たちですからね。インターネットがなかったあの時代において、彼らの機動力とか情報収集力はすごかった。それがある意味、彼らに権威を持たせた。でも、それ以降は俺らがしっちゃかめっちゃかストリートでバカなことしまくったから、俺らに権威なんてないんですよ。だから、俺がパイセンたちと下の世代をつなげていきたいなって思ってるんです。
S.l.a.c.k.は「完成されたスチャダラパー」
──具体的な例はありますか?
完ちゃんにS.l.a.c.k.を聴かせたんですよ、「すごいのいるよ」って。というのも、俺、S.l.a.c.k.を初めて聴いたとき、「完成されたスチャダラパーだ」って感じたんですよ。当時、スチャダラパーは日本のDE LA SOULって言われてたけど、英語のラップが好きな俺からすれば、スチャにはラップ的にもうちょっと何か欲しいなって思ってて。彼らのセンスとかオモチャみたいに音楽を作る感じとか俺は大好きですよ。でも、あの頃は俺らを含め日本語ラップ自体が完成してなかった。DE LA SOULは、完成されたものの中から出てきた異色な存在だったんだよね。だからS.l.a.c.k.を聴いて、ついに出てきたというか、それこそ「日本のDE LA SOUL」だって思ったんですよ。
──なるほど。S.l.a.c.k.という異色なラッパーの登場が、逆に日本のヒップホップシーンの成熟を象徴することになったというわけですね。
そうそう。だから、ここからつなげられるなって思った。もちろん完ちゃんも、「なんだこれ!」ってソッコー飛びついて(笑)。
──完さんは、DE LA SOULの初来日時にスチャダラパーと共にオープニングアクトを務めてますもんね。
実際、あの世代のパイセンたちもだいぶヒップホップから離れてたんですよね。せっかく日本語ラップの面白いやついっぱい出てきてるのに。
──ちなみにS.l.a.c.k.以外でZeebraさんが注目してるアーティストはいますか?
伸びしろを含めるとSIMI LABがどうなっていくかは興味がありますね。もちろん、RAU DEFだって大好きですよ。ただ、あのビーフはガチです。あと、普通に成功してもらいたいのは、SKY-HI a.k.a. 日高光啓(AAA)。あいつのソロがオリコンで1位とかになってくれたらうれしいですね。やつはもうこの2年くらい会えばいつも一緒にフリースタイルやるし、ものすごい本気ですからね。
「Black World」収録曲
- The God
- Take Over (All Guns Up)
- Pop Feat. K Dub Shine & DJ Oasis
- Fighter's Anthem Feat. Anarchy
- Blue Feat. AI
- Gang On The Backstreet Feat. 東京スカパラダイスオーケストラ
- Cruisin' (Skit)
- ジャングル・クルーズ
- The Illest
- Last O.G.
- Keep On
- One Hip Hop Feat. Zeebra / DJ Mitsu The Beats
「White Heat」収録曲
- Android
- Butterfly City Feat. RYO the SKYWALKER, Mummy-D & Double
- Money In My Pocket Feat. NaNa
- Fly Away
- Super DJ
- Venus In The Underground
- One And Only Feat. Big Ron
- My Applebum
- Dream Team Feat. Dag Force
- Endless Summer Feat. COMA-CHI
- Love Shines (Butter Smoother) / DJ Hasebe Feat. Sugar Soul & Zeebra
- Fire Feat. Zeebra (No Nukes Rebirth) / DEXPISTOLS
Zeebra LIVE TOUR THE LIVE ANIMAL 2012 "BLACK WORLD / WHITE HEAT"
- 2012年2月25日(土)
福岡県 福岡DRUM LOGOS
OPEN 18:00 / START 19:00 - 2012年3月2日(金)
愛知県 名古屋CLUB DIAMOND HALL
OPEN 18:00 / START 19:00 - 2012年3月6日(火)
大阪府 大阪BIG CAT
OPEN 18:30 / START 19:30 - 2012年3月10日(土)
宮城県 仙台Rensa
OPEN 18:00 / START 19:00 - 2012年3月16日(金)
東京都 赤坂BLITZ
OPEN 18:00 / START 19:00
料金:オールスタンディング4500円(全公演共通・ドリンク別)
※Zeebraオフィシャルホームページにて先行チケット予約受付中
期間:2012年1月10日(火)23:00まで
Zeebra(じぶら)
1971年生まれ東京都出身のラッパー。キングギドラのメンバーとして1995年にデビューする。日本語ラップの礎を築いたグループとして高い評価を得つつも、翌年にグループは活動を休止。1997年にシングル「真っ昼間」をリリースし、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。その後は、日本を代表するヒップホップアーティストとしてさまざまなシーンで活躍。2006年には、アルバム「The New Beginning」でアメリカのトッププロデューサーであるSWIZZBEATZやSCOTT STORCHとの共演を実現した。さらに2008年には、ラッパーとしての活動20周年を記念して武道館ワンマンライブ「Zeebra 20th Anniversary The Live Animal in 武道館」を開催している。2010年にはレーベルをAriola Japanに移籍。シングル「Butterfly City Feat.RYO the SKYWALKER, Mummy-D & DOUBLE」や「Blue Feat. AI」といった話題曲をリリースしたほか、DEXPISTOLSやDJ MITSU THE BEATSの作品に参加するなど、ジャンルや世代を超えた活躍をみせている。そして、2011年12月には、約4年半ぶりとなる最新2in1アルバム「Black World / White Heat」をリリース。2012年はZeebra Live Tour 『The Live Animal 2012 "Black World / White Heat"』と題したホールツアーを展開する。