音楽ナタリー Power Push - ZAQ
「hopeness」に詰め込んだ希望と決意
かわいいZAQはプロップスを得られるか?
──今のお話で「hopeness」がこのサウンドデザインになった理由の1つ、ZAQさんの思いに触れてきましたけど、この曲にはアニメ「紅殻のパンドラ」のオープニングテーマであるという側面もあります。
そうですね。
──で、アニメのテイストは「hopeness」でZAQさんが目指した大人っぽさとはちょっと違う。七転福音(ななころび・ねね)とクラリオンという、かわいらしい女の子2人のコミカルなバディものですよね。
だからかわいいメロディとアレンジを目指したりもしたんですけど、ZAQというアーティストが今、かわいい路線をやったところでプロップス(支持者)は得られるのであろうか?と。
──あはははは(笑)。イカツイアニソンを作ってきた私がかわいい路線に転向したらみんなビックリするんじゃないか、と。
27歳のシンガーソングライターZAQに「かわいい」は求められているのか?と(笑)。しかもmouse on the keysにハマっていたこともあって、メロディやアレンジが変化していき。今の私が歌うと似合う女性らしさがあって、しかもスムーズにすっきり流れていく曲ができあがった感じですね。……あっ、そうだ。あと私、今回エンディングテーマの制作も担当させてもらってるんですよ。
──福音役の声優・福沙奈恵さんとクラリオン役の沼倉愛美さんの歌う「LoSe±CoNtRoL」の作詞と作曲をなさってますね。
そっちの曲で「かわいい」は存分にやっちゃったので、オープニングは「大人っぽい」でも許してもらえるかな、とは思ってます(笑)。
私の言葉で書きたいから妄想を巡らせる
──とはいえ、ZAQさんの言葉を借りるなら「hopeness」は「アニソンとして機能している」。だから「紅殻のパンドラ」を観てビックリしたんです。なんでこのオープニング映像に、この音がハマるんだ?って。
あはははは(笑)。「すっきり流れる曲に仕上げた」とは言っても、ちゃんとアニソンとして機能するようにサビへと進んでいくごとに派手に展開するアレンジにはしていますから。あと「紅殻のパンドラ」にハマっていると感じていただけたのなら、それは歌詞がそういう内容になっているからなんだと思います。
──「カタラレズトモ」制作時、アニメの世界への寄り添い方がだんだん洗練されてきているとおっしゃっていましたよね(参照:「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」特集 水島精二×川本真琴×ZAQ鼎談)。
はい。
──で、今回の詞もまさにアニメに寄り添っている。「きみ」と「ぼく」が「生きている」ってどういうことだ?と問う歌を作り上げることで、サイボーグ的な全身義体の少女・福音と、アンドロイドのクラリオンの関係性と、彼女たちが抱いているかもしれない生命観を描いています。
「希望」について書いているのもアニメの影響ですね。アニメの中に「パンドーラ・デバイス」っていうキーワードが出てくるんですけど「パンドーラ」の語源は「パンドラ」なので。
──パンドラの箱を開けたら最後に希望が残っていた、と。
はい。福音には生身の身体ではない、全身義体だからこそ抱えている悩みもあるはずなんだけど、それでも彼女が希望に向かっていく歌詞を書きたくて。あと、あのどこまでもポジティブな福音はきっと、人造人間であるクラリオンに対してですら、歌詞のように「きみは“生きている”」って語りかける気がしたんです。だから暗いことは一切書きたくなかった。世界を恨みたくなくて。マジメな言葉が並んではいるけど明るい。その感じがアニメにハマる理由なんじゃないかな?とは思ってます。……まあその福音像は原作のマンガでも具体的には描かれてないから、全部妄想なんですけど(笑)。
──いや、素晴らしい妄想力だと思います。
アニメや原作のマンガで描かれることだけを書いていたら、私の言葉じゃなくなっちゃうし、そういう曲なら「ZAQ」の名前で歌う必要もないですから。「紅殻のパンドラ」というストーリーに触れたとき、私の中に湧き上がった妄想を言葉にしたかったんですよね。
喪失感を明るさに転換したいのかもしれない
──今回はある意味「紅殻のパンドラ」のスピンオフストーリーのつもりで詞を書いた、ということ?
いや、私自身にも思い当たる節があるというか、リアリティのある歌詞にはなってますね。これは初めて話す上に、暗い話になってしまうんですけど、つい最近、大学時代からの友人が亡くなりまして……。学生時代から憂鬱げな子だったので、2コーラス目ではそのことを歌ったりもしています。歌詞の通り「一緒に行こう」って、どこか気の晴れそうなところに彼女を連れ出せればよかったんじゃないか?とか。この経験や思いは個人的なものだから、皆さんが聴く曲、しかもかわいらしさが大きな魅力になっているアニメのオープニングテーマの中でまで暗い面を見せたくはなかったんですけど、それでも「きみ」と「ぼく」というバディが「生きる」歌になったのには、そのできごとの影響が確実にあります。
──悲しみはずっと心のどこかに残るんだろうけど、それでも「希望」と「~な状態」を組み合わせた造語である「hopeness」の看板のもと、本当に希望を歌ったところに作家・ZAQの強さとオリジナリティがあるというか……。
どんな明るい曲でも、書いてるときは実はすごく暗い気持ちになってることってけっこうあるんですよ。当たり前なんですけど音楽ってエモーショナルなものだから、感情を揺さぶられたときにアイデアが浮かぶことも多いですし。去年、劇場版「ラブライブ!」のエンディングテーマ(μ's「僕たちはひとつの光」)の作曲をやらせてもらったんですけど、その曲も飼っていたネコが死んだ瞬間に浮かんだものでしたから。
──「僕たちはひとつの光」ってすごく陽性なアイドルポップでしたよね。
残された私はそれでも希望を胸に生きていくべきだと思ってるし、聴いてくれる人たちに自分の感情を押し付けるのはやっぱり違うとも思っていて。無意識のうちにそういう思いが働いて、今ここにある喪失感をムチャクチャな明るさに転換したくなったのかもしれないですね。失恋した瞬間って、私にとっては史上最高にトガっててポジティブな歌詞を書ける瞬間だったりしますし(笑)。
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- ZAQ ニューシングル「hopeness」 / 2016年2月3日発売 / Lantis
- DVD付き限定盤 [CD+DVD] / 1944円 / LACM-34447
- アニメジャケット盤 [CD] / 1404円 / LACM-14447
CD収録曲
- hopeness
- ヒロインは嘘
- 薔薇の腰かけ
- hopeness cut out A-bee remix
- hopeness(OFF VOCAL)
DVD付き限定盤付属DVD収録内容
- hopeness Music Video
- Making of hopeness
ZAQ(ザック)
シンガーソングライター。3歳の頃からピアノを始め、音楽大学のピアノ科に進学。当時触れたアニメソングに衝撃を受け、アニソンシンガーを目指すように。そしてニコニコ動画主催のコンテストでファイナリストとなったことを契機に、2012年、アニメ「未来日記」のキャラクターソング「正義戦隊ゴ12th!!」のサウンドプロデュースを手がけてクリエイターデビュー。その後もさまざまなアニメ作品に楽曲を提供し、また同年10月にはアニメ「中二病でも恋がしたい!」のオープニングテーマ「Sparkling Daydream」でアーティストデビューを果たす。以来順調にシングルリリースを重ね、2014年4月には初のオリジナルフルアルバム「NOISY Lab.」を発表。また2013年以来、毎年、国内最大級のアニメソングイベント「Animelo Summer Live」に出演している。そして2016年2月、士郎正宗と六道神士が原作を手がけるテレビアニメ「紅殻のパンドラ」のオープニングテーマにして10枚目のシングル「hopeness」をリリースした。