音楽ナタリー Power Push - ZAQ
「hopeness」に詰め込んだ希望と決意
ZAQがニューシングル「hopeness」をリリースした。
ZAQ10枚目のシングル「hopeness」の表題曲は現在放送中のテレビアニメ「紅殻のパンドラ」のオープニングテーマ。義手ならぬ“義体”化された少女と、少女型アンドロイドをヒロインに配したアニメに寄り添うように、命の意味と「きみ」と「ぼく」の友情を描いた、ジャズファンクライクなナンバーだ。
デジタル感を押し出したアッパーチューンで鳴らすZAQが、これまでの楽曲と同じくブラックミュージックに軸足を置きつつも、曰く「大人っぽく」「女性的な」色合いを強くしたその訳は? 彼女に聞いた。
取材・文 / 成松哲 撮影 / 上山陽介
だからピアノで複雑なリフを弾きまくるんだろうなあ
──ZAQさんには毎回新曲のサウンドアプローチを大胆に変える人、ブラックミュージックをルーツにしつつもジャンルを横断しまくる人という印象があるんですよ。
そうかもしれませんね。そのときどきの自分内ブーム、ちょうど曲を作るタイミングでハマっているアーティストさんの影響でリズムの取り方なんかが変わっていっちゃうんです。
──例えばアニメ「中二病でも恋がしたい!」のオープニングテーマ「Sparkling Daydream」(2012年10月リリース)は2010年代のアニメソングのマナーを踏まえた1曲でしたけど、当時はエッセンシャルなアニソンが自分内ブームだった?
まさにエッセンスを抽出するような作り方をしてました。「ついにZAQの看板を掲げてアニソンデビューできる!」という喜びとともに、大好きなアニソンの要素を全部詰め込んで完成させた「私の考える最高のパターンで展開するアニソン」が「Sparkling Daydream」なんです。ただあの曲で評価をいただきつつも、私の中では「いつも同じものを作っててもつまらないよなあ」という思いが大きくなってきて……。
──アニメ「RAIL WARS!」のオープニングテーマ「OVERDRIVER」(2014年8月リリース)がヒップホップになったり、「コンクリート・レボルティオ」のオープニング曲「カタラレズトモ」(2015年10月リリース)がエモ・ラウド系にも目端を利かせた重たいサウンドになったりした、と。
はい(笑)。「毎回違うことがやりたい」っていうのがポリシーになっていったし、そのとき聴いてビビッときたジャンルを掘っていくのが一番楽しいやり方になった感じですね。
──じゃあ最近はどんなアーティストを聴いてます?
メチャクチャわかりやすい話になっちゃうんですけど、mouse on the keysです。
──確かに今回のシングル曲「hopeness」がピアノをフィーチャーしたジャズファンク仕立てになった理由がよくわかりました(笑)。
ですよね(笑)。「hopeness」を作り始めた4カ月前、私の中で踊れるピアノの曲が流行ってたから、こういうサウンドになったんでしょうね。
──「リズムの取り方が変わっちゃう」「なったんでしょうね」ということは、参照すべきネタを探す目的でジャンルを横断的に掘っているわけではない?
もっと感覚的。自分がそのときどんなジャンルにハマっているかを一番大切にしています。ただ、ハマったことに対する自覚が薄いというか、制作に入るまでは「なんかこの曲やこのジャンル、好きだな」って聴いてるだけだったりするから、今振り返ると「4カ月前、私の中でピアノが流行ってたんだろうなあ」「だから黒っぽいリズムに乗せてピアノで複雑なリフを弾きまくる曲を作ったんだろうなあ」ってちょっと他人事っぽくなっちゃうんです(笑)。
もっと個人の好みに裏付けされた音楽を
──自分内ブームってどのくらいのスパンでサイクルするものなんですか? というのも「カタラレズトモ」のカップリング曲「switchback story」も踊れるジャズ的なアプローチを取り入れた楽曲でしたよね。
ちょうど「switchback story」を作ってるときにそのアプローチに目覚めた感じですね。それまでは特にタイアップものの場合、アニメの制作サイドの方から「『Sparkling Daydream』みたいな感じで」とか「テンションがアガる曲を」「高まる曲を」っていうオーダーをいただくことが多かったし、その意思を汲んでアニソンとして機能する曲を作ることが楽しかったんですけど、「カタラレズトモ」の制作に入る直前あたりで「もっと個人の好みに裏付けされた音楽を作りたい」という欲求が芽生えてきて。
──これまでも十分「個人の好みに裏付けされた音楽」を作り続けているように見えたんですけど、その道をさらに突き詰めようと思った理由って?
1つ大きな理由があるとしたら自分の作るメロディのせいだと思います。私、メロディが歌謡曲テイストになりがちなので、アレンジのバリエーションで勝負したいんです。だから常にアレンジの斬新さでZAQらしさを表現していたつもりだったんですけど、それでもやっぱり「カタラレズトモ」を作り始める頃には「ちょっとイカツイ曲が続いているなあ」「『カタラレズトモ』もイカツイしなあ」ってなっていて。それでカップリング曲として、ある意味女性的な繊細さや柔らかさもある「switchback story」を作ったら手応えがあったから、今回はシングル曲として、大人っぽかったり、生っぽかったりする「hopeness」を作ったという感じですね。あと何か理由があるなら、やっぱり「いつも同じものを作っててもつまらないよなあ」ということで。前に作ったシングル曲の反動が今回は特に大きかったのかもしれない(笑)。
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- ZAQ ニューシングル「hopeness」 / 2016年2月3日発売 / Lantis
- DVD付き限定盤 [CD+DVD] / 1944円 / LACM-34447
- アニメジャケット盤 [CD] / 1404円 / LACM-14447
CD収録曲
- hopeness
- ヒロインは嘘
- 薔薇の腰かけ
- hopeness cut out A-bee remix
- hopeness(OFF VOCAL)
DVD付き限定盤付属DVD収録内容
- hopeness Music Video
- Making of hopeness
ZAQ(ザック)
シンガーソングライター。3歳の頃からピアノを始め、音楽大学のピアノ科に進学。当時触れたアニメソングに衝撃を受け、アニソンシンガーを目指すように。そしてニコニコ動画主催のコンテストでファイナリストとなったことを契機に、2012年、アニメ「未来日記」のキャラクターソング「正義戦隊ゴ12th!!」のサウンドプロデュースを手がけてクリエイターデビュー。その後もさまざまなアニメ作品に楽曲を提供し、また同年10月にはアニメ「中二病でも恋がしたい!」のオープニングテーマ「Sparkling Daydream」でアーティストデビューを果たす。以来順調にシングルリリースを重ね、2014年4月には初のオリジナルフルアルバム「NOISY Lab.」を発表。また2013年以来、毎年、国内最大級のアニメソングイベント「Animelo Summer Live」に出演している。そして2016年2月、士郎正宗と六道神士が原作を手がけるテレビアニメ「紅殻のパンドラ」のオープニングテーマにして10枚目のシングル「hopeness」をリリースした。