夏目は右回し、下川は左回し
──4曲目の「電球」も「僕」と同じく、身近なシチュエーションが描かれている1曲ですね。街灯や月などさまざまな“灯り”をノスタルジックに描写し、「痛みを灯りに変えたい」というポジティブなメッセージが込められています。
この曲は夏目(創太 / G, Cho)が作詞したんですけど、途中から「悩んでる」って相談を受けたんです。1番に「月はいつも 光る ひとりきり」という歌詞があって、「欠けるのも1人きりだよな」と思ったので「2番に書き加えてみたら?」ってアドバイスしました。最後に家の電球に関するくだりが出てくるんですけど、ここは過去の恋人に対する感情を表していると思うんです。完成版だと「そっと右回し」して新しいものに入れ替えるんですけど、僕だったら“左回し”にしてた。新しいことを始める前に、過去にケリを付けないといけないので。
──夏目さんは電球を取り替えるのに対し、下川さんはあえて取り替えない。
そうそう。僕は終わらせられないんだけど、夏目はすぐに切り替えるタイプなんだなって。そういう発想の違いはいいなと思って、そのまま夏目の案を採用しました。新しい方向に進もうとする気持ちは同じで、どちらも前向きですからね。
童貞こじらせた奴がマッチングアプリを馬鹿にする資格ないだろ!
──「電球」がとてもいいムードなのに、その次に用意された「童貞トキメキ☆パラダイス」はタイトルからして……。
ホント最低ですよ(笑)。
──前作の「カルマポリスII」と同じく、これも作詞は夏目さんですよね。
まさに彼です。あまりに下品すぎる会話がメンバー内で行われることがあって、その内容をそのまま盛り込んだんですけど、だいぶヤバいですね。しかもアベに「段々カンカンなマンマン」とか言わせてて、なんて奴だよ。
──「マッチングアプリに登録して出会え!」というオチも強烈で(笑)。
これは縁を切った友人とのエピソードをもとにしているんですけど、そいつは童貞をこじらせてヤバい奴になってしまって、「お前がマッチングアプリを馬鹿にする資格ないだろ! 登録しなさい」と説教したんです。そういう「マッチングアプリを使うことは悪いことじゃないぞ」という思いを夏目が歌にしました(笑)。
──夏目さん、こういうアッパーなテンションの歌詞を書くのが得意ですよね。
まあ、そういうエネルギーがあるのはいいことだと思います(笑)。彼はけっこう強気な奴なので、説教っぽい内容の歌をよく作ってくるんです。
──本作は「マジメと云う」でQueenのブライアン・メイ風のギターパートが盛り込まれていたり、ギタリストとしての夏目さんの魅力も発揮されているように思います。今回、彼が単独で作曲した楽曲はありますか?
「新時代さん」は彼がササっと作りましたね。僕と夏目が大好きなAtari Teenage Riotを意識した曲です。とにかくアッパーなサウンドに無理やりウイスパーボイスを入れて、2分以内でまとめました。完全に趣味に走ってますけど、僕は大好きですよ。
結婚して、伊勢丹に住もう!
──中盤に入っている「あてのない女の子」は、「人類のすべて」(2011年発表の自主制作盤)収録曲「足のない女の子」の再録版ですね。「頭からペットボトルが」を繰り返す歌詞で「懐かしい!」となりました。
「足のない女の子」は過去作の中でも特に暗い曲ですけど、アルバムのコンセプトにも合うので録り直してみました。でも「足のない」はちょっとな……って話になって。こんな物騒なタイトルの曲を入れ直すの、唐突で怖いじゃないですか。あんまり原曲のニュアンスが変わらないよう考えた結果、「あてのない」に落ち着いたんです。
──初期のライブではよく披露されていましたが、このタイミングでの再録は意外でした。
ライブで演奏しなくなってだいぶ経ちますね。「テレポート・ミュージック」(2015年発表の2ndアルバム)以降はこういうエログロな曲はほとんどやってなくて。高校生のときに作ったからもう10年以上経つのか。
──そして「ブラクラ」は「ほめられよいこ」で幕を閉じますが、序盤の「ソモサン・セッパ」が凝った構成だったのに対し、「ほめられよいこ」はかなりシンプルなアレンジです。
昔のパンクっぽい感じですよね。男の人って好きな女の子に褒められると、「俺は完璧」と思い込んだりしますよね。そういうテンションが上がる瞬間を抽出しました。
──「伊勢丹に引っ越したい」という冒頭部はインパクトがありますが、下川さんは以前ブログでもデパートが好きだと書いていましたね。
デパートはもう好きすぎて「住みてえ!」みたいな気持ちになっちゃうんですよ。好みな女の人を見ると「ああー……一緒に墓入りてえ」とか思うのと同じで、伊勢丹にもそういう気持ちを抱いてますよ。
──そうつながるんですか(笑)。
「もう結婚して一緒に伊勢丹に住もう!」みたいなね。そんな衝動が湧き上がった瞬間に書き上げました。アルバムは暗い雰囲気で締めくくりたくないから、必然的にこの曲が最後に来ましたね。1曲ごとに聴くとめちゃくちゃかもしれないけど、なんとかまとまりました(笑)。
モヤモヤしたものを吐き出し続けた12年
──「OSジャンクション」発表から「ブラクラ」発表までの約1年間は「挫・人間の花びら3回転」「城下町ワイワイワールド」「イチャイチャ共演」「キモツを測れる定規用意しました。風雲キモツ城」など、挫・人間の主催企画が数多く開催されました。
「イチャイチャ共演」では僕らのルーツとなる人、「城下町ワイワイワールド」では若手を中心に呼んで、それぞれ差別化したんです。でも「イチャイチャ共演」に出てくれたTOMOVSKYさんに「この企画どんどんマニアックになるねー! 大丈夫?」って言われちゃって(笑)。その枠に入れられてるトモフさんはどう思ってたんでしょうね。
──「イチャイチャ共演」の感想はご自身のTwitterアカウントやブログに書いていましたね。
みんな憧れの存在なのでうれしかったですね。この企画はとにかく隅っコに観てもらいたかったんです。挫・人間とリンクするところが必ずあるし、おこがましいかもしれないけど、橋渡し的な役割も担いたいと思いまして。
──「城下町ワイワイワールド」では眉村ちあきさんと数回にわたって競演しましたが、眉村さんも挫・人間の大ファンとのことで。
僕らも大好きだし、ありがたいですよ。この企画にも忙しい中合わせてくれたんです。「城下町ワイワイワールド」は城のある地域のライブハウスで開催するんですけど、眉村さんも城好きで、すごく相性がよかったですね。
──これからレコ発ツアーもスタートしますが、菅さんが抜けてから初の長期間ツアーとなります。「ブラクラ」の曲だけでなく過去曲の演奏、さらに言えばステージパフォーマンスもキモツさんと詰め直す必要があると思うのですが、いかがでしょうか?
「ブラクラ」の曲も、まだライブ用に合わせていないものもあるんです。これから詰めていくので、キモツさんとがんばります。
──挫・人間は結成から12年、上京して10年が経ちますが、この長い活動期間、下川さんは自問自答から生まれた感情をアウトプットして楽曲を作り続けています。この制作スタイルを貫くのは大変だったのでは?
基本的に普段モヤモヤしていることを吐き出す感じなので、そこまで行き詰まることはないんですよね。ただこれからは自分の中から出てきたものだけじゃなく、外から得たものを発信できるようにしたいです。
──下川さんは前作「OSジャンクション」制作時、精神的にかなりつらかったとブログで書いていましたが、「ブラクラ」はいかがでした?
歌詞を一気に10曲以上作らないといけないので、アルバムを作るたびに精神がブチ壊れそうになりますよ。もしかしたら「ブラクラ」が一番キツかったかもしれない。あんまり他人にも相談しないので、1人で考え込んで何度も落ち込みました。
──その一方で「電球」のように、メンバー間での意識の違いがいい結果を生み出したケースもありますよね。
確かに。アベや夏目と意見がぶつかることも多くなったんですが、それぞれ考え方が違う証拠だから、けっこうなことかもしれないですね。そこから新しいスタイルが見つかるかもしれないですし。でも2人がなんと言おうと、これからも僕がイニシアチブを取っていきますよ(笑)。
ツアー情報
- 挫・人間 TOUR 2020~さような来世!風と共に去りヌンティウス~
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- 2020年3月21日(土)愛知県 安城夢希望RADIO CLUB
- 2020年4月10日(金)北海道 Spiritual Lounge
- 2020年4月20日(月)京都府 磔磔
- 2020年5月14日(木)香川県 高松TOONICE
- 2020年5月15日(金)福岡県 Queblick
- 2020年5月17日(日)岡山県 PEPPERLAND
- 2020年5月21日(木)宮城県 enn 3rd
- 2020年5月27日(水)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2020年5月29日(金)愛知県 APOLLO BASE
- 2020年5月30日(土)大阪府 Shangri-La