挫・人間|“暗い自分”解禁、そして全下川団結

挫・人間の5thアルバム「ブラクラ」が3月4日にリリースされる。

2018年11月に4thアルバム「OSジャンクション」を発表し、長年サポートドラマーを務めた菅大智(ゴールデンシルバーズ、電化アベジュリー、ex. ドレスコーズ)がバンドを離れてからは、複数の自主企画を中心にライブ活動を展開してきた挫・人間。1年4カ月ぶりとなる今回のアルバムでは長年封印していたという“暗い曲”を解禁し、さらにバラエティ豊かなバンドサウンドを追求した1作に仕上がった。音楽ナタリーではフロントマンの下川リヲ(Vo, G)に「ブラクラ」発表までの1年間とアルバムの制作背景を聞いた。

取材・文 / 高橋拓也 撮影 / 後藤壮太郎

キモツ? ただのおじさんですよ

──前作「OSジャンクション」リリース後、サポートドラマーの菅大智(ゴールデンシルバーズ、電化アベジュリー、ex. ドレスコーズ)さんがバンドを離れました。オフィシャルサイトでその理由が発表されましたが(参照:サポートドラム菅大智よりお知らせ)、もはや正式メンバーに近い関係でしたね。

下川リヲ(Vo, G)

2年以上参加しましたからね。とは言え今も週2回くらい会いますし、ローディみたいな形でバンドに関わっているので、距離感は全然変わらないです(笑)。

──菅さんは演奏だけでなく「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」では一緒に踊ったり、ライブパフォーマンスの面でも欠かせない存在だったと思います。

何気にダンス、僕らよりキレありましたから。普段の趣味の話も合いますし、バンド全体のグルーヴにもよくなじんでいましたよ。

──その後2019年7月、突然キモツさんが新たなサポートドラマーとなることが決まったのですが、彼とはどういうきっかけで出会ったんでしょうか?

僕らがよく出入りしている新宿red clothの店長が紹介してくれました。サポートのドラマーはもう1人いたんですけど、途中からメンバーを固定することにしたんです。そこでヒマそうだったキモツさんにお願いしました。

──菅さんのドラミングは手数が多く個性的でしたが、キモツさんとの演奏でギャップは生まれませんでしたか?

菅さんは自分のスタイルと挫・人間のスタイルを混ぜながら演奏してくれたので、やっぱり変わった部分はありますね。大変ですけど、キモツさんもうまく合わせてくれてます。

──キモツさんは皆さんのSNS上でもあまり触れられていないのでミステリアスな部分があるのですが、どんな方なんでしょう。

ただのドラム好きのおじさんですよ……もともとブルボンズのメンバーで、今はいろんなバンドでサポートをやってます。僕らより10歳以上年齢が離れてて、練習でアドバイスしてくれますけど、「それはこのバンドに合わないから」とか言って無理やり却下してます。ほかにもメンバー全員でボロクソに文句を言ったり。キモツさん、くじけそうになりながらもがんばっているところです。

下川リヲ(Vo, G)

今、ブログを更新する意味

──菅さんがバンドを離れる直前、下川さんが毎日ブログを更新し始めたのも印象的だったのですが、調べてみると去年の3月1日の深夜から9月1日までちょうど半年間続いたのち、一時中断期間を経て最近投稿を再開しましたね。

挫・人間はインターネットが大好きなわりにSNSを使いこなせていないので、「それじゃいけない、時代はSNSだろ」みたいな感じでがんばったんですよ。でもTwitterもInstagramも、どうも向いてない気がして。それで「一番自分に合っているSNSって何かな」と考えていくうち……。

──ブログに注目したと。

とは言え毎日書くぐらいの意識じゃないと、絶対更新しなくなるので無理やり書いてましたね。Twitterって自分たちの予想できないところまで話題が拡散して、ねじ曲がって解釈されることがあるし、面白ツイートの方程式みたいなものがある程度固まっていて、そういう文化に乗り切れなかったんです。ブログは文字数制限がないし、リンクを踏むワンクッションが入るじゃないですか。その手間があることで、僕らに対して悪意のある読者を減らせると思ったんです。

──ひと通り下川さんの投稿をチェックしてみたのですが、学生時代のエピソードのほか、ピアノ練習やダイエットの記録などパーソナルな話題もあり、人となりが垣間見えて面白かったです。

引きこもりが普段何しているかよくわかるブログですよ。けっこう反響があって、ライブとかTwitterで「この服買いました!」「あの本読みました!」と教えてくれる隅っコ(※挫・人間のファンの呼称)もいてうれしかったです。

──でもブログ内ではコメントを投稿できないんですよね。

あんまりピンとこなかったんですよ……感想はTwitterでリプライしてくれたほうが全然うれしいです(笑)。

ブラクラにはお世話になりました

──挫・人間の作品タイトルや曲名はWebカルチャーに関するものがよく使われますが、今回はなぜ「ブラクラ」になったんでしょう?

下川リヲ(Vo, G)

響きがカッコよかったので(笑)。僕らの過去の体験を踏まえた作品になったので、そこから連想して「ブラクラがいいかな」って思ったんです。

──「ブラクラ」と聞いてブラウザクラッシャーだけでなく、いきなりグロテスクな画像が表示される“精神的ブラクラ”も想像したので、過激な内容になるんじゃないかと思ったんです。ところが聴いてみると暗い雰囲気の曲もありますが、明るいテーマの曲もあり、絶妙なバランスで成り立っている作品だと感じました。

暗い歌はここ数年、意識的に作らないようにしていたんです。一時期「ちょっとネガティブかな?」と軽い気持ちで作った曲がドン引きされることが多発しまして、「想像以上に自分は暗い」と気付いたんですね。でも今回のアルバムでは、あえてその暗い部分を出してみたんです。そういう部分は「ブラクラ」というタイトルにもつながってます。

──下川さんはブラクラで痛い目に遭った世代ですよね。

いろいろ観ましたよ。昔Flash動画をまとめたサイトがありましたよね? 小学生の頃よくチェックしていて、「おっ! このリンクエッチな動画っぽい!」と思ってクリックしたら、血まみれな女性の絵が出てきて……。

──こういうのですよね(有名なグロ画像を見せる)。

そうそうコイツですよ! 「ウワー!」ってなって、電源ボタンでPCを強制終了させてました。ブラクラには何度も傷付けられましたけど、今となってはもう戦友みたいな愛着があります(笑)。