音楽ナタリー Power Push - 挫・人間
“超人”にして“美少女”下川リオの考えるバンドの今
ストレートに無条件に「アイラブユー」と言い切りたい
──お話を聞けば「なるほど」とは思うものの、リード曲の「セルアウト禅問答」で本当に「とにかくおれは音楽を続けたいんだアイラブユー」と歌ったことにはやっぱり驚きがありました。
でもあの「アイラブユー」は「アイラブユー」でけっこうヤケクソな「アイラブユー」なんですよ。「アイラブユー」って言うぞ!っていう意識が前に出過ぎちゃってたのか「あれっ!? これ、オレの言いたかった『アイラブユー』じゃないぞ」ってなってしまった気がして。
──その「いろいろ思うところはあるけど、それでも『アイラブユー』って言い切った」っていう感じがむしろ新しいし、ポップだと思ったんですけど……。
でも僕としてはもっとJ-POP的というか、ストレートに無条件に「アイラブユー」って言い切るつもりだったし、言い切りたかったんですよね。
──それはなぜ?
「ストレートに『アイラブユー』って言い切らないと伝わらねえな」と思ってたので。世の中にはいろんな「アイラブユー」があるし、僕らだって昔から「アイラブユー」って歌ってきたつもりではあったんですけど、それじゃダメだなって。今回のアルバムには「もう四日もしてない」っていう曲が入ってるんですけど……。
──高校時代からライブでやっている曲ですよね。
何を「もう四日もしてない」のか?っていったら、まあマスターベーションなんですけど(笑)、これはこれで僕なりの愛情表現ではあったんです。
──詞にある通り「せめておれが君にあげられる誠実さだと思って」いるからこそ「もう四日もしてない」わけですもんね。
だから高校時代から「アイラブユー」を歌っていたはずなんだけど、伝わらないんですよね。たいていの人からは「『もう四日もしてない』だって」って鼻で笑われてオシマイで。だったら「アイラブユー」って言い切る「セルアウト禅問答」の入ってるアルバムを作ったら、「もう四日もしてない」も「アイラブユー」の曲なんだってわかってもらえるんじゃないかっていう気はしています。
自我と超自我のバトルアルバム
──本当に「苺苺苺苺苺」当時と今の下川さんのありようは大きく違う。この2年で何があったんでしょう?
ヒマだったからこうなった感じですね。
──でも、坂本悠花里監督の映画「おばけ」に参加したり、大槻ケンヂさんと対バンしたり(参照:挫・人間、憧れのオーケンと印度化&ダメ人間)、ドラマ「念力家族」の主題歌「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」を作ったり(参照:挫・人間、NHK Eテレ「念力家族」に楽曲提供)、CDデビュー以降、忙しく活動してますよね。
ただ、僕自身はけっこうボーッとしていた気がして。なんかいろんなことを考える時間がスゲーあったんです。
──どんなことを考えてました?
「セルアウト禅問答」の歌詞の通り「最後のナゴムの遺伝子」みたいに呼ばれることは少なくないし、それはもちろん光栄なんだけど、その「最後のナゴムの遺伝子」的な曲を誰にも聴いてもらえなかったらオレの自尊心の行き場がなくなるぞ、みたいなことを。狭間にいる自分はどっちに行けばいいんだろう?とか。「最後のナゴムの遺伝子」的な道をひた走るのか? もっとたくさんの人に聴いてもらう道を選ぶのか? そういうことを2年間考えてました。ボーッとプレステしながら(笑)。
──プレステで遊び倒した結果、至った結論は?
どっちにも行きたいなって。そしたらこんなアルバムになってました。
──「ナゴムの遺伝子を引き継いだままメインストリームに打って出よう!」「さあ曲を作ろう!」ってギターを握ったら新機軸ともいうべき楽曲群ができていた感じ?
ホントにそういう感じですね。「放送できない言葉を使うのはもうやめよう」みたいなことは考えてましたけど。
──今さらながらに(笑)。
20歳を越えたらもうそういうことを歌ってちゃダメじゃないですか(笑)。
──確かにそんな気もしますけど「苺苺苺苺苺」をリリースしたときにはすでに成人してましたよね?
……あっ! でも今回は過激な言葉で目を引くんじゃなくて、そういう言葉はあえて抑えた限られた枠の中でどれだけ面白いことができるか? 僕はどういうことを言えるか?っていうある種の実験をしようとは考えてました。「そうすればどっちにも行けるんじゃないか」って。あと僕だってマニアックと呼ばれがちなものだけを聴いてるわけじゃないですから。
──「下川最強伝説」では「美術館で会った人です」とP-MODELを引用しつつも「でも最近J-POPを聴くと涙が溢れて止まらないのは何故だろう」とも歌っているし。
そこには複雑な感情があって、自分でもわけがわかってない……感動して泣いてる自分が悔しいみたいな感情が渦巻いてるんですけど、確かに今はJ-POPを聴いて泣く自分も認めようとは思ってます。本当は「認めようとは思う」じゃなくて「J-POPを聴いて泣くのは当たり前」にしたい。そういう自分たちが作った「よっしゃ売れるぜ!」っていうアルバムにするつもりだったんですけど、なんか最終的にはサブカル的な自意識と、自分の道徳観や美意識を司る超自我とのバトルものみたいなアルバムになっちゃってました(笑)。
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- ニューアルバム「テレポート・ミュージック」 / 2015年8月26日発売 / 2700円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0061
- ニューアルバム「テレポート・ミュージック」
収録曲
- 念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ
- セルアウト禅問答
- 土曜日の俺はちょっと違う(Memory Ver.)
- オー!チャイナ!
- 可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた
- 十月の月
- 下川 vs 世間
- もう四日もしてない
- 過呼吸です。
- 今までお世話になりました
- ロンググッドバイ
- 下川最強伝説
- お兄ちゃんだぁいすき
- 挫・人間 インストアライブ
- 2015年8月29日(土)東京都 タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース
- 挫・人間「あなたの心にテレポート~アルバムの曲全部やるまで帰れま10~」
- 2015年9月12日(土)東京都 新宿red cloth
- 2nd Album「テレポート・ミュージック」発売記念TOUR
- 2015年10月25日(日)愛知県 池下CLUB UPSET <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
- 2015年11月7日(土)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
- 2015年11月8日(日)福岡県 Queblick <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
挫・人間(ザニンゲン)
下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表する。