音楽ナタリー PowerPush - 在日ファンク
ハマケン(+川副マネージャー)の熱血ファンク物語
浜野謙太(Vo)率いる7人編成のファンクバンド、在日ファンクが日本コロムビアよりメジャーデビュー。その第1弾作品となるニューアルバム「笑うな」が完成した。インディーズで活躍を続けてきた彼らが、なぜこのタイミングでメジャーデビューを決意したのか。インタビューではこの節目に合わせ、インディーズ時代の活動を影で支え、メジャー進出にも一役買った川副耕介マネージャーを交えて在日ファンクの歴史を振り返るとともに、ハマケン個人の歴史にも迫った。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 宮腰まみこ
浜野謙太はインテリなのか?
──浜野さんはこれまで、自分のルーツについての発言をあまりしていないですよね?
浜野謙太 ああ、そうですね。あんまり詳しくはしゃべった覚えがないです。
──在日ファンクをはじめとする浜野さんの音楽を聴いたり、そのほかのカルチャーに対する関わり合いから推測するに、根っこの部分は案外インテリなんじゃないかと思うんですよ。
浜野 オッ、わかってるなあ。
川副耕介 浜野を喜ばせる言葉ですね(笑)。
──在日ファンクだけ見ても、一見ユーモラスに見える言葉選びは極限まで削ぎ落とした結果にも見えるし、タイトルの「笑うな」はズバリ筒井康隆を思わせるものですよね。
浜野 オーッ!!
──で、本当にインテリなの?というのを検証できたらと。まず音楽の出会いについては、両親がジャズ愛好家で、その影響を受けたと聞きました。「幼少時からジャズに慣れ親しんでいた」と書くとすごくインテリっぽいですけど(笑)、実際はどうだったんですか?
浜野 いや、あの、でもね、子供の頃の記憶だからあいまいなんですよ。親父はすごく音楽が好きで、よくレコードを聴かせてもらって、その時間がすごく楽しくてっていう記憶なんですが……。でも今思うと、親父はそんなに音楽の趣味が広くないし、持ってたレコードもこんなもん(両手を狭めるジェスチャー)だったんですよ(笑)。
──広くジャズに親しんでたというよりは、何枚かあるジャズのレコードを繰り返し聴いていたと。
浜野 たぶん繰り返してすらいないんですよ。聴いてる時間が楽しかったっていう記憶が強く残ってるだけで。その数少ないレコードの1枚がクインシー・ジョーンズのビッグバンドもので、それは今聴いてもめちゃくちゃカッコいいんです。その記憶があったから、自分の中では「音楽にあふれた幼少期」になってるけど……。
常に最先端の横にいる男、ハマケン
──でも学生になれば楽器を始めるわけだから、やはり影響は大きかったんですよね。ジャズ以外の音楽、いわゆる子供らしい音楽の聴き方だったり、“中二病”的なハマり方はしなかったんですか?
浜野 いや、ありますよ。ポップスで言えばTRFとかも聴いてたし……そういうのですよね? あとはゲームにめちゃめちゃハマってて、「ファイナルファンタジー」のサントラばっかり聴いてました。電子音のほうの。星野(源 / SAKEROCK)くんみたいに「ドラゴンクエスト」とか「MOTHER」の音楽いいよね、みたいなのは面白いけど、FFってちょっと軟派じゃないですか。
──サブカル的に掘り下げることはなかった?
浜野 まったくないですね。浅い子供でした。
──浅い子供(笑)。
浜野 あと「信長の野望」も好きだったけど、地方だからサントラCDが売ってなくて。だからテレビでゲームをやって、その音をテレコで録ってました。ちゃんと自分でフェードアウトとかさせて(笑)。カセットで「信長の野望傑作音楽集」を作ってたら、家族でスキーに行ったときに車の中にお母さんが持って来てて「何これ」ってかけたら延々電子音が流れるっていう(笑)。
──じゃあ小学生から中学生ぐらいにかけて、何かカルチャーにどっぷりハマるようなことはなく。
浜野 今もないですけどね。
──では音楽を始めた動機は?
浜野 吹奏楽部に入ったから。なんとなく入って、本当はトランペットがやりたかったのに、妥協でトロンボーンを始めて(笑)。……後付け後付けなんですよね、全部。誰かのトロンボーンに憧れて始めたわけじゃなく、トロンボーンをやるうちに「ああこんなプレイヤーがいるんだ」ってあとで知ったぐらい。
──ここまで残念なぐらいインテリ要素が出てこないですけど(笑)、たまたま聴いた1枚がクインシー・ジョーンズだったり……。
浜野 たまたま! そうそうそう! そうなんです。
──さらに学生時代には在日ファンクのメンバーである村上啓太(B)さんや、のちのSAKEROCKのメンバーと出会ったり、センスのいい仲間に恵まれてますよね。数少ないルーツが、いい仲間に出会うことによりセンスのいい過去に塗り替えられてるみたいな(笑)。
浜野 いや、ホントそうですね(笑)。高校で村上とバンドを始めて、「お前これ観ろ」って言われて「ブルースブラザーズ」のビデオを借りたんですよ。村上が「今一番カッコいいのはブルースだ」って言うから、ブルースを聴き漁ったり演奏したり。ほかにそんなやついなかったんですよ。村上がカッコよかったから、カッコいいやつがいいっていう音楽は間違いなかった。
──ほかの同級生はどんな音楽をやってたんですか?
浜野 普通の高校ならスカコアが流行ってた時期ですよ。SNAIL RAMPとか。僕らのいた自由の森学園はちょっと異質な学校だったので、マニアックなパンクだったりヒップホップだったり。その中でも僕らはさらに異質な音楽だったと思います。
──でも浜野さんはあまり「俺はほかのやつらとは違う」みたいな自意識が強いタイプにも見えないんですよね。
浜野 それは村上のおかげですね。あいつは頭がよかったし、あの頃からリア充だったし……村上がインテリなんですよ!
川副 インテリの表層をさらう的な(笑)。
浜野 そうそう。村上は卑屈にならないんですよ。その頃からおっさんみたいだったんで。女の子にもモテてたし、鬱屈した何かがまったくないんですよ、あいつは。常に最先端だったんですよね。
──最先端の横に常にいる人(笑)。
川副 かたや村上啓太、かたや星野源……(笑)。
浜野 うっせえな!!
──でも今に至るまで一緒にいるということは、村上さんとしてもセンスを分かち合えるいい相棒だったということですよね。
浜野 それもちょっと違うんですよ。俺は村上が超好きで、いつも「啓太! 啓太!」って感じだったんだけど、ある日いつものように「ちょっと会おうよ」って電話したら「いや、しばらく距離を置かないか」って言われて(笑)。男同士ですよ? 友達で距離置こうって言われたの初めてだったからショックで(笑)。でも、じゃあいいよ!って村上と距離を置いたときに、星野くんとガンガン仲良くなってったんですよ。今度は星野くんからいろいろ吸収して、村上のところに戻ったら「おお、やっぱお前面白いな」って。星野くんと村上の間をずっと行き来してきたっていう認識はありますね。今も。
──だんだんわかってきました。浜野さんはインテリ的な部分も含めたセンスある流れにフワッと乗っかる、風に乗るセンスに長けた人なんだなと。
浜野 そんなんじゃねえよ!
──いや、それもセンスが必要だと思うんですよ。風を読めない、読んでも乗れない人がほとんどだから。出会う才能や運もないといけない。
浜野 あー、そう言われたらその才能には恵まれてるのかもしれないですね。
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- メジャー1stアルバム「笑うな」 / 2014年9月3日発売 / 日本コロムビア
- 在日ファンク「笑うな」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / COZP-964~5 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3024円 / COCP-38724 / Amazon.co.jp
- アナログ盤 3456円 / COJA-9280 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- 大イントロ
- 根にもってます
- ちっちゃい
- 脈
- 不甲斐ない
- 場
- パラシュート
- 恥ずかしい
- 断固すいません
- 産むマシーン
- 笑うな
- 百年
初回限定盤 DVD収録内容
- 「根にもってます」Short Movie(監督:萩原健太郎)、Making Movie
- 「在日ファンク【所信表明】コメント」Long Version(監督:山岸聖太)
※メンバーによるオーディオコメンタリー付き
アナログ盤収録曲
SIDE A
- 大イントロ
- 百年
- 根にもってます
- 場
- 脈
- 不甲斐ない
SIDE B
- ちっちゃい
- 産むマシーン
- パラシュート
- 恥ずかしい
- 断固すいません
- 笑うな
在日ファンク「笑うな」発売記念ツアー
- 2014年10月4日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2014年10月5日(日)広島県 ナミキジャンクション
- 2014年10月12日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2014年10月13日(月・祝)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2014年10月18日(土)香川県 DIME
- 2014年10月19日(日)京都府 KYOTO MUSE
- 2014年10月25日(土)長野県 ALECX
- 2014年10月26日(日)石川県 Kanazawa AZ
- 2014年11月1日(土)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2014年11月2日(日)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2014年11月8日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2014年11月9日(日)秋田県 Club SWINDLE
- 2014年11月14日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2014年11月16日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI
在日ファンク(ザイニチファンク)
浜野謙太(Vo)を中心に2007年に結成された7人組のファンクバンド。メンバーはハマケンのほかに、村上啓太(B)、仰木亮彦(G)、永田真毅(Dr)、後関好宏(Sa)、ジェントル久保田(Tb)、村上基(Tp)。結成当初は「浜野謙太と在日ファンク」名義で活動していたが、2010年6月に1stアルバム「在日ファンク」をリリースしたタイミングで現在のバンド名に改名した。さらに同年10月からサイトウ“JxJx”ジュン、サイプレス上野とロベルト吉野、ROY(THE BAWDIES)らとのコラボシングルを3カ月連続で発表。2011年には2ndアルバム「爆弾こわい」をリリースし、翌2012年1月にはシングル「爆弾こわい -岡村靖幸REMIX-」が発売された。2014年6月には日本コロムビアからメジャーデビューすることを発表。9月にメジャー第1弾作品となる3rdフルアルバム「笑うな」をリリースし、10~11月には全国14都市を回る「笑うな」発売記念ツアーを行う。