ナタリー PowerPush - ゆよゆっぺ×城崎勇太(小説「ぼかろほりっく」作者)対談

小説×バンド×ボカロの“生身”の関係

ゆっぺ&ゆっぱ、兄弟初の共同制作

──今回のアルバムのトピックとしては、ゆよゆっぺさんの実弟であるゆよゆっぱさんが参加されていることも挙げられると思います。どういった経緯でそういう流れになったんですか?

ゆよゆっぺ クリエイティブな面ではスムーズではあったんですけど、実作業的な部分ではどうしても1人でやるのはムリだと思ったんですよ。なので自分の弟をひっぱり出してきたっていう(笑)。

マコト(赤井誠)

城崎 実質、制作期間は2週間くらいしかなかったですからね。

ゆよゆっぺ ゆよゆっぱという人間も、バンドをやりつつ、ボーカロイドをツールとして使っているという部分で僕と同じ道を歩んでるんですよ。だから僕のやりたいことが一番理解できるだろうなっていう思いもあって。プロットや決定稿ではない小説を読んだ上で、「じゃ君はこの章を」「俺はこっちをやるから」みたいな感じで手分けして作業していきました。弟はベーシストなんで、基本全部のベースを弾いてもらったり。

城崎 大変な作業だったと思います。

ゆよゆっぺ まあ、大変ではありましたね(笑)。夜中から朝方にかけてSkypeでやり取りしてたんですけど、僕が送った3MBくらいのデータファイルが、弟から戻ってくるときにはいろいろやりすぎて6GBくらいになってて。「Skypeじゃ送れないよ!」みたいな(笑)。弟的には6GB分のてんやわんやをしてたんだと思うんですけど。とは言え、そこには僕らの妥協したくない思いも詰まってると思うんですよ。小説の内容が生っぽいものなので、音も生っぽくしようっていうところにこだわって、竿モノ(ギター、ベース)は絶対打ち込みにはしない、このドラムのフィルが気に食わない、この音は生に差し替えようとか、いろんなことを時間がない中、延々やってましたからね。今回の経験を通して、弟は相当鍛えられたんじゃないかな。

城崎 兄弟で素晴らしい曲を作っていただけたんで、ほんとありがたいなって思いますね。ゆっぱさんにはまだ会ったことがないんで、僕の中では謎の少年なんですけど(笑)。

ゆよゆっぺ 俺の身長マイナス5センチっていう感じですよ。とりあえずそれでイメージはつかめると思うんで。顔もめっちゃ似てるって言われますから。本人たちはそんなこと全然思ってないんですけどね(笑)。

音楽は生身の人間がいてこそ成り立っているもの

──アルバムにはボーナストラックとして「遥か彼方へ ゆよゆっぺver.」も収録されています。ゆよゆっぺさんが歌うこの曲が収録されることで、「ぼかろほりっく」という作品の根底にあるテーマがより明確になってくる印象もありました。

城崎 まさにそうですね。もともとはボーカロイドの曲だけで終わりにしようと思っていたんですけど、作品のテーマである生っぽさを考えると、ゆっぺさんに歌ってもらう曲が入っていたほうが全体として締まるかなあと思ったんです。で、実際お願いしてみたら、もう主人公の城崎勇太そのまんまな感じがして。やってもらってよかったなあって思いました。

ゆよゆっぺ ちゃんと勇太になれたのかなあ(笑)。

──エモ / スクリーモを得意とする普段のゆよゆっぺさんとは対極とも言える優しいボーカルがすごく新鮮でしたよ。

ゆよゆっぺ

ゆよゆっぺ 人間の持つあったかみみたいなものがこの小説の醍醐味なんだなっていうことが物語を読んでわかったので、とにかく優しく優しく、そっと歌ってアルバムを締めようっていう気持ちはありましたね。曲自体、ものすごく丁寧に作りましたし。ギターアンプのチャンネルも、いつも使わないクリーントーンを選んだりとかして。ここまで丁寧にギターを弾いたのはかなりひさしぶりかも(笑)。

城崎 僕が「ぼかろほりっく」という作品を通して言いたいのは、ボーカロイドがいい悪いとか、生バンドの音がいい悪いとかってことではなく、生々しい人間味がある音楽をやっていれば、どんな環境であっても人を納得させられることができるんじゃないかっていうことだったんですよ。そういう部分を小説とCDから感じ取ってもらえたらすごくうれしいなって思うんですよね。

ゆよゆっぺ うん。僕はテクノロジー否定派ではないけど、やっぱり感情の乗った音は人間にしか出せないんだよっていうことは言いたい。最近の若い子はボカロPを職業だと思ってるみたいなんですけど、俺はそれをすごく危惧してるんですよ。ボカロを使ってる人たちはみんな、アーティストや作家としての表現の1つとして使ってるだけですからね。だから、ボカロを専門に扱う人たちではないわけだし、ボカロPが職業なわけではないっていう。そういう意味でも、音楽は生身の人間がいてこそ成り立っているものだっていうことをこの作品を通して感じてほしいんです。

城崎 小説には友情や恋愛の要素もあるので、もちろん音楽にあまり興味がない人でもきっと楽しんでもらえると思いますし。たくさんの人に届くといいですね。

──さまざまなメディアミックスの可能性を秘めた「ぼかろほりっく」ですが、作者である城崎さんとしてはここからどんな展開を期待しますか?

城崎 小説内に出てくるバンド“The Third Kind”名義で実際にアルバムを出すことができたらいいなって思ってますね。そのときはね、またゆっぺさんに歌ってもらうかもしれないですけど(笑)。

ゆよゆっぺ あははは(笑)。そうなったときのために、ちょっと気合い溜めておきます。

ゆよゆっぺ

ラウドロックを軸にさまざまなジャンルを盛り込んだボーカロイド楽曲をニコニコ動画に発表し、何度も“殿堂入り”を果たしている人気ボカロP。2012年9月にアルバム「Story of Hope」でメジャーデビューを果たしたあとも、自身のバンドや「DJ'TEKINA//SOMETHING」としての活動、BABYMETALをはじめとするさまざまなアーティストへの楽曲提供など活躍の幅を広げている。2014年7月には同名の小説と完全連動したアルバム「ぼかろほりっく」をリリース。