ゆるミュージックほぼオールスターズが発信したい、生きやすくなるための“ゆる”の概念 (2/3)

ちょっと力を抜く大切さ

──昨年11月リリースのデビュー曲「るるる生きる」は、世界ゆるスポーツ協会および世界ゆるミュージック協会代表の澤田智洋さんが作詞作曲を手がけられています。皆さんにとってどんな曲になりましたか?

トミタ 私はこのお話をいただいてから澤田さんの「マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう」という本を読んで、大きな衝撃を受けたんです。“弱さ”を生かせる社会を作ろう、ゆるいことは悪いことではない、むしろゆるいって素敵なんだという自分の中になかった概念をズドーンとくださって。こういう考え方の人がすごく増えたらうれしいな、澤田さんと一緒にお仕事したい、お話もいっぱい聞きたいと思っていたときに、「るるる生きる」の曲をいただいたんです。

──そうだったんですね。

トミタ 歌詞を読むと、本当に澤田さんの伝えたい「マイノリティデザイン」の考え方がそのまま入っていて、これができないからダメ、ではなく、できないことを逆手に取ってがんばりすぎてる人たちの気持ちを緩めるような言葉ばかりで。だからレコーディングしててもすごく気持ちがいいし、自分自身にも足りてない“ゆる”という概念を考えさせてくれる1曲なんです。この曲をどんどん歌っていくにつれて、たぶん私にも“ゆる”というものが染み付いていくだろうし、聴いてる人たちも、ふとしたときに「あっ、緩めよう」と思う概念が生まれるきっかけになる曲だと思いました。キーはみんなが歌いやすい高さに設定していて、普段のソロのときよりちょっと低めで歌っています。もちろん締めるところは締めつつ、自分の中で緩めながら歌った1曲です。

──確かに歌いやすいように考えられた楽曲になっていますね。

トミタ 聴いてて楽しいだけじゃなく、ちゃんと心に訴えかけるものがある曲だと思うので、ぜひ自分自身に置き換えながら聴いてもらえるとうれしいです。MVはLINDAさんがプロデュースしてくださいました。

LINDA 予想以上にたくさんの人たちが聴いてくれてるという印象がすごくあって、めっちゃうれしいです! ゆるほぼのクリエイティブは7人それぞれがヒーローみたいな立ち位置で作っていて、MVにも観る人が観れば戦隊モノっぽいシーンを意識して入れてみました。「るるる生きる」のレコーディングとMV撮影は一生に残る思い出になりました。すごく大切な曲です。しかもこれ、歌詞の中に実際のトミタさんのエピソードが隠れてるんですよね?

トミタ 「ギター5年やってるけどFが鳴らない」って部分ですね。「私、6、7年ぐらいギターやってるんですけど、いまだにFが難しくて、ギターと“仲よく”なれないんです。でも、ライブがしたいからがんばってるんです」という話を澤田さんにしたら、まんまと歌詞に入れられました(笑)。

──Fは人差し指で全部の弦を押さえないといけないから。

トミタ そこで離脱する人が多いので、たぶん共感する人多いと思います。MVのこの歌詞の部分、大福くんがウクレレをポイッてする動きがめちゃめちゃかわいいので、ぜひ観てほしいです。

LINDA 私もトミタちゃんと一緒で、ゆるいことは悪いことだって、ずっと思ってたんです。けっこうせかせかした性格で、レスポンスが悪いと「これどうなってるんですか?」とか聞いちゃうみたいな。でも、去年1年間がっつり、ゆるほぼに関わる中で「ちょっと力を抜いても大丈夫かも?」と思えるようになって。そこから気持ちもハッピーな方向にどんどんどんどん向いていったので、ゆるいってめっちゃいいなと思いました。

五十嵐LINDA渉

五十嵐LINDA渉

ステップが踏めなくても大丈夫

──肩の力を抜いて、無駄な力みをなくしてということですね。ラヴィさんの母国インドは今やIT大国で国民の皆さんが忙しいイメージがありますが、実際はいかがですか?

ラヴィ ゆるいですね。時間というよりも気持ちの面です。僕は「るるる生きる」のMVを撮ってるとき、みんな上手なのに僕だけステップが遅くて。もうクビかなと思ってたら「OK、OK」とみんなが励ましてくれて(笑)。

──「ゆるい」がキーワードなのにステップが踏めないからクビってことはさすがにないと思います(笑)。

ラヴィ 何回かやって、僕が遅かったら「みんな遅くしましょう」とLINDAさんが言ってくれて。

トミタ LINDAさんもゆるい(笑)。 ゆるほぼの曲は振り付けがあるんですけど、みんなダンスしたことがないので、いい意味で素人感があるんです。私もダンス苦手だし。でも、うまく踊ることが大事なんじゃなく、小澤さんも座りながら映えるダンスを作ったり、まずは楽しもうというのが1つのテーマでもあるので。いろんな人に踊ってもらえる曲になったらいいなと思いますね。

──素晴らしいです。小澤さん、いかがですか?

小澤 「すごく自分たちが生きやすくなった」とメンバーの皆さんが言ってましたけど、私も本当にそうだなと思っていて。社会の作った枠の中で生きようとすると苦しくなっちゃうことって、誰もが経験あるんじゃないかなと思うんです。音楽の成績が悪くて嫌な思いをしてきたとか、体育祭に嫌な思い出があるとか。そういうのって自分が悪いとついつい思っちゃうけど、そうじゃなくて、それを作っている社会の枠組みに問題があるんじゃないか。だったら自分じゃなくて周りを変えたほうがもっともっと生きやすくなる人がいるんじゃないかという発想を原点に“ゆる”という概念ができていると思うんですね。「本当は私たちこんなんでいいんだよ」というメッセージを「るるる生きる」で発信できたんじゃないかな。ラヴィさんの踊りがちょっとズレていたり、私も自分の病気から座ったままだったり、あまり手を早く回すことができなかったりしても、「それぞれ違ってるけどみんなめっちゃ楽しそう!」というのが伝わってくるので。正解はこう、じゃなく、自分らしくやれればいいんだなって、観てくれたみんなの価値観が広がる曲になったんじゃないかなと思います。

小澤綾子

小澤綾子

──MVもカラフルで楽しいです。

小澤 とにかくLINDAさんのクリエイティブが素晴らしいので、観てくれた人みんなが「めっちゃかわいい」と言ってくれます。特に子供たちが喜んで観てくれていて、イベントなどで私を見つけると「あ、ゆるゆるの人だー」って(笑)。みんな覚えててくれて、好きでいてくれるのはうれしいですね。

──ご自身のシンガーソングライター活動とは違いますか?

小澤 全然違いますね。私は筋肉がどんどんなくなる病気なので、ダンス自体あまりしないですし、楽器はそもそも弾けないので、普段と全然違う脳みそを使っている感覚があります。覚えることが多いのでけっこう年齢的にキツいところもあるんですけど(笑)、すごく楽しくやってます。

「ゆる楽器ハッカソン2021」を振り返って

──皆さんが参加した11月の「ゆる楽器ハッカソン2021」についても教えてください。

LINDA “ハッカソン”っていうのは、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を合わせた言葉で、エンジニアやデザイナーが集まってチームを結成して、決められたテーマに沿って何日間か開発を行い、最終日に発表して成果を競い合うイベントです。「ゆる楽器ハッカソン2021」では、ゆるほぼを代表して私とトミタさんが審査員を務めさせていただきました。

トミタ ハッカソンって知ってました?

LINDA うん、知ってた。海外だとよくあるよね。

トミタ 私、全然知らなくて。そういった知識がなかったから見るものすべてが新鮮で、本当に面白かったです。「ゆる楽器ハッカソン2021」は「誰もが楽しく音楽ができる未来」をテーマに、こんな楽器あったらいいなと思うアイデアをゼロから考えて、2日間で形にしました。

LINDA 当日はじめましての人たちがその場で15組のグループを作って、コミュニケーションをとりながら道具から材料からすべて自分たちでそろえていくんです。

ラヴィ 僕も参加したんですけれども、一般的なハッカソンと違って、みんなその場でアイデアを出して2日目にはもう楽器として形になっていたから、すごかったです。

ラヴィクマール

ラヴィクマール

トミタ 例えば、動きを感知して音を発するブロックを箱の中に入れてシャカシャカ振ることでいろんな音が奏でられるとか、ボールにセンサーを付けてキャッチボールをするだけで運動と演奏が一度にできちゃうとか。

ラヴィ そうやって生まれたものはスポーツにも使えるし、楽器としても使えるから、もっと作る会社が出てきてほしいです。

──これから参入が増えれば、より広がりが大きくなっていきそうですね。

トミタ 最近、私は幼稚園とか小学生の子たちとリモートで“ゆる楽器”を作るワークショップをやらせてもらっているんですけど、「新しい楽器を描いてみて」と言うと、個性豊かなものがいろいろ生まれるんですよね。今まで頭ガチガチだった大人だからこそ「これはできない」と排除するのではなく、自由な発想を大事にしていく活動の1つが“ゆるミュージック”なのかなと思います。

──お話を伺ってるだけで、未来をみんなの手で作っている実感が伝わってきます。

トミタ 発明家であるラヴィさんみたいな専門分野の人たちだけじゃなく、子供たちも楽しみながら参加していたので、発想とやりたい気持ちさえあれば誰でも作れるものなんですよね。テクノロジーもあるし環境も整ってきているので、もっともっと広まっていくために、ゆるほぼが先陣を切っていけるバンドになればいいなと思っていて。“ゆる楽器”とか“ハッカソン”を私が最近知ったように、今まで触れてこなかった人たちに届けることが目標だなと思います。そういう人たちの可能性を引き出すのが、ゆるミュージック協会の役割なので。

ラヴィ 楽器の歴史を遡ると、例えば弦楽器って最初は弦を弾くだけの誰でも扱えるものだったと思うんです。こすって音を出すパーカッションと同じような。それが時を経てバイオリンとかギターに進化していくにつれ、スキルが必要とされるようになっていくんですけど、2000年前から弦そのものの形状や原理自体は変わってないんですよね。だから例えばテクノロジーの力で軽く振っただけで演奏できるとか、もっと簡単に表現できたらいいなと思います。

──インドにもシタールとかタブラといった古来から伝わる楽器がありますよね。

ラヴィ はい。あれはプロの人がやってるのを見ると、自分は絶対無理だと思います(笑)。