音楽ナタリー Power Push - YURiCa/花たん

ボカロPと手を取り合った“原点回帰”の1枚

YURiCa/花たんがニューアルバム「Flower Rail」を10月21日にリリースする。

今作では、ダルビッシュP、40mP、まらしぃ、buzzGといった花たんが自ら指名した人気のボカロPたちが1曲ずつ楽曲を制作。名うての作家陣による提供曲と自身の書き下ろし曲で構成されたアルバムが完成した。音楽ナタリーでは花たん本人にインタビューを行い、アルバム制作の経緯や各ボカロPとのエピソードなどを語ってもらった。また特集後半では各ボカロPからのメッセージや、彼らと花たんとのQ&Aを掲載している。

取材・文 / 倉嶌孝彦

歌うことへの葛藤から原点回帰へ

──花たんさんのこれまでのオリジナルアルバムはdorikoさんやOSTER projectさんといったプロデューサーとタッグを組んで作ってきたものばかりでしたが、今回はこれまでとは作り方を変えてきましたよね?

今回は“原点回帰”を意識したんです。私がニコニコ動画を始めてからもう7年くらい経つんですけど、これまでいろんなボカロPさんから曲を書き下ろしていただいて。すごく才能ある作家さんがたくさんいらっしゃるので、もっと多くの方にその楽曲を届けたいんです。だからこれまでお世話になった方や、書き下ろしをお願いしたいボカロPさんに声をかけて、アルバム作りを始めました。

──なぜ原点回帰を意識したんでしょうか? 花たんさんはこれまでアルバムを何枚も発表していて、8月のワンマンライブも即ソールドアウトしています。外から見るとシンガーとしての活動は順調そうに見えますが。

歌うことが義務になっているように感じるときがあったんです。初めてニコニコ動画に“歌ってみた”動画を投稿したときって、ただただ歌うのが楽しかった。でも去年ぐらいに「ただ歌うだけになっていないか」って自分を見つめ直す時期があって。

──「ただ歌うだけ」というのは?

なんて言うんだろう……「歌わなきゃいけない」と思って曲と向き合っていると、どんどん自分らしさがなくなってくる気がしたんです。周りの人は「そんなことないよ」って言ってくれるんですけど、自分がそう思ってるっていうのが一番ダメージが大きいんですよね。

──それで初心に戻って歌う楽しさを再発見しようと。

そうですね。私自身、歌いたくなくなったわけじゃなくて、長く歌を続けていきたいんです。だから「自分はこのままでいいのかな」とか「ニコニコ動画で知ってくれたユーザーの人たちを大事にできているか」とかいろいろ葛藤があって、同じフィールドで活動しているボカロPさんたちと一緒にアルバムを作ることにしました。

「花たん」で歌手になるとは思ってなかった

──アルバムには9人のボカロPが参加してますが、皆さんに楽曲制作をお願いするとき、花たんさんからはどういうオーダーをしたんですか?

基本的にはそれぞれのボカロPさんのイメージを尊重しつつ、私はロックな曲がすごく好きなので、エモーショナルな感じで作ってもらえたらっていう提案はしました。

──表題曲「Flower Rail」や花たんさんがYURiCa名義で作詞作曲を手がけた「Color」はゴリゴリのロックサウンドですもんね。もともとロックがお好きなんですか?

たぶんロックが一番好きだとは思うんですけど、あまりジャンルでは考えていないんです。ロックじゃなくてもかわいくてキャッチーな曲が好きだったりしますし。ただ振り返ってみると、これまで私が好きだと感じた曲はロックが多いなと。

──表題曲はOSTER projectさんにお願いしたんですね。

前作「The flower of dim world」(2014年9月発売)は、OSTER projectさんにプロデュースをお願いしていたのもあって、今回のアルバム制作が決まったとき、表題曲は絶対OSTER projectさんにしようって思っていたんです。すでにCDを1枚作る中で私の葛藤とかすべてを打ち明けていて、少なからずいい信頼関係を築けていたと思ってますし。楽曲はほぼお任せだったんですけど、本当にカッコいいロックな曲を作っていただいて、すごく感謝しています。

──アルバムには花たんさん自身が「YURiCa」という名義で書いた「Color」というロックチューンも収録されています。この曲のボカロバージョンも公開されましたね。

そうなんです。今回の曲でボカロPデビューを果たしまして。これでアルバムの謳い文句「ボカロPたちからの10の贈り物」というのが嘘じゃなくなりました。

──ちなみに、なぜ名義を「YURiCa」にしたんですか?

今回の「Color」はダルビッシュPさんと一緒に作曲したんですけど、なんかユニット名でもないですけど“作家名”みたいなものがほしいなと思いまして。それでYURiCaって名前を今後推していくためにもこの名義をクレジットに載せることにしたんです。

──今後は「YURiCa」の名前を推していきたい?

そうなんです。「花たん」って、そもそもニコニコ動画始めるときに、歌手になるとか全然イメージせずに付けた名前だったんです。今ではCDもたくさん出させてもらってますが、本当は「花たん」でこんなに活動が本格化するとは思ってなくて(笑)。いつかはYURiCaでやっていけたらって考えていることもあって、アルバムの名義は「YURiCa/花たん」にしています。

花たんד荒北”の掛け合い

──収録曲の1つ「かまってウォーアイニー」には声優の吉野裕行さんが参加しています。これはどういう経緯で?

個人的には自分の曲に声優さんをお呼びするのって、恐縮してしまうというか、まだ早いかなって思ってたんです。でもボカロPのてにをはさんが、曲の中にすごく軽快なセリフのやり取りを入れてくれたから、どなたかにお願いしようかという話になり、私の大好きなアニメのキャラクターの声を担当している吉野さんにお願いすることになりました。

──大好きなアニメって「弱虫ペダル」のことですよね?

そう!「弱ペダ」の荒北靖友が大好きで。もともと声優さんにそんなに執着があるわけではないんですけど、アニメの「キルラキル」とかゲームの「朧村正」とかで気になるキャラクターの声がみんな吉野さんだったんです。「弱ペダ」のときはTwitterとかでもものすごく「荒北が好き」って言ってたから、CDを聴いてくれるみんなも私と吉野さんの組み合わせを喜んでくれるのかなと。

──実際に掛け合いをしてみてどうでしたか?

もうずっとリピートしてます。レコーディングが終わると仮ミックスの音源をいただくんですけど、「かまってウォーアイニー」はもらってすぐヘビーローテーションでした。掛け合いの部分だけ巻き戻して何度も聴いたり。実は歌の部分は「かわいい感じの声はキツいかな」って思っていて、ちょっと不安だったんです。でもてにをはさんが作る曲のかわいさに引っ張ってもらえたし、吉野さんとの掛け合いも入っててすごくお気に入りの1曲になりました。

ニューアルバム「Flower Rail」 / 2015年10月21日発売 / Subcul-rise Record
「Flower Rail」
初回限定盤 [CD+DVD] 2592円 / SCGA-00040
通常盤 [CD] 2160円 / SCGA-00041
CD収録曲
  1. Flower Rail
    [作詞・作曲:OSTER project]
  2. Psycho theory
    [作詞・作曲:buzzG]
  3. かまってウォーアイニー
    [作詞・作曲:てにをは / CV:吉野裕行]
  4. 極夜街
    [作詞・作曲:40mP / piano:まらしぃ]
  5. うらみのワルツ
    [作詞・作曲:きくお]
  6. Reason for being
    [作詞・作曲:ダルビッシュP]
  7. 時の終着点
    [作詞・作曲:かめりあ]
  8. Color
    [作詞:YURiCa / 作曲:YURiCa、ダルビッシュP / 編曲:ダルビッシュP]
  9. Cinderella Holic
    [作詞・作曲:TOKOTOKO]
  10. Linaria
    [作詞・作曲:まらしぃ / 演奏:logical emotion]
<ボーナストラック>
  1. 「千本桜」Studio Live Session
  2. 「飴か夢」Studio Live Session
初回限定盤DVD収録内容
  • レコーディングメイキング
  • ショーケースライブレポート(8/8渋谷Star lounge)
YURiCa/花たん「Flower Rail」レコ発ワンマンライブ

2015年11月8日(日)
東京都 下北沢GARDEN

YURiCa/花たん(ユリカ/ハナタン)

ニコニコ動画やYouTubeなどの動画共有サイトを中心に活動する女性シンガー。2008年2月に「ハジメテノオト」の歌唱動画を初投稿した。2009年4月に投稿した「ロミオとシンデレラ」が“歌ってみた”カテゴリでランキング1位を獲得し、その知名度を一気に広める。2011年6月には1stアルバム「FLOWER DROPS」をリリース。アルバム収録曲「笹舟」は、TBS系テレビ「教科書にのせたい!」のエンディングテーマとしてオンエアされた。2013年にはボカロ曲のカバーを集めたアルバム「FLOWER」を発表している。2015年8月に初のワンマンライブ「『Flower Rail』YURiCa/花たん ShowCase Live」を開催。同年10月にニューアルバム「Flower Rail」をリリースする。