ナタリー PowerPush - ゆれる

忍者屋敷に隠された人生観

1歳のときに名前を変えた

──今作「XENOtransplantations」の聴きどころはどこですか?

音がけっこう変わってて。本当によくなったなと思ってます。

──どういうふうに変わったんですか?

今回、いろいろな楽器やアンプを試しました。スタジオやエンジニアさんも変わったし、レコーディングする環境がかなり変わりました。あと、ハーフインチのアナログテープでマスターを作ってマスタリングしました。この方法だと爆音でも耳にも当たらんし、まろやかに爆音を鳴らしてる感じがいいです。

──「クレイジーサマーソルト」はAmiさんの実経験から生まれた曲だそうですね。「七月に生まれてから一年後、変えた名前 二十歳になってから名乗る名を戻して、修羅って候」という、衝撃的な歌詞もあります。

Ami(G, Vo)

僕、1歳のときに名前を変えてるんです。命名が「羅(あみ)」なんですけど、生まれてから1年間ずっと病気してて。奄美大島には「神様」っていう職業の人がいるんですよ、沖縄のユタみたいな、占い師みたいな人たち。その「神様」に見てもらったら「羅」っていう漢字の画数がむちゃ悪かったみたいで。で、名前を変えたんです。そして20歳になってバンド始めてからバンドのホームページに「Ami」って書いてたら浸透してしまって。それを名前にしたら、また運命が修羅っていくんじゃないかって。

──なるほど。

なだらかな日常よりは上がり下がりが激しいほうが面白いじゃないですか。だから「Ami」っていう名前のほうがいいんですよ、きっと。

──名前を変えるって、運命を左右する大きな出来事ですよね。

いいことと悪いことは50%50%で来ると思ってて。いいことがあるときって悪いことを意識してしまうし、悪いことがあったら、もうすぐいいことがくるのかなって思う。それを歌にしました。

節目に「ヒュー」っていう音がする

──2曲目「ヒューズヒュー」の解説として資料に「節目になると頭の中でヒューっていう音がするんですよ」ってあるんですが、これは?

なんかね、人と別れるときとか上京するタイミングとか、過去何回も、ことあるごとに自分のブログやTwitterとかに何となく「ヒュー」って書いてたんですよ。何かをするタイミングで「ああヒューって音がするな」って毎回思うんです。風みたいな、悲しい音を感じるんですね。そのときは気付かないんですけど、あとになって「ヒュー」って鳴ったときが節目だったなって思うんです。節目以外のときって人は流動的に過ごしてて、節目にだけ選択肢が与えられてると思ってるんです。だから節目にきちんと選択して、左右を決めていかなければいけないと思っていて。

──ちなみに最近ヒューって音がしたのはいつですか?

12月ですかね、冬でした。

──それはなんの節目でした?

今のレーベルが決まるときですね。そのときの日記にも書いてました。

──「ヒュー」を?

そう(笑)。面白かったです。

──「鵺になく」は能の演目「鵺」をテーマにしてるんですよね。

能ってハッピーエンドがけっこう多いんですね。でも「鵺」はアンハッピーエンドの話で。鵺っていう化け物が主人公で、鵺は鵺としての業みたいなものを背負って生きてしまっているんですよ。で、成敗されるときに、歌詞の最後の1行「山の端の月に闇を照らせ」みたいなことを言うんですね。鵺として生まれたから鵺として死ぬしかできひんし、こうやって成敗されるしか自分を亡くすことができないっていうふうに自分でわかってて。

──鵺の視点に立ってみると、とても切ないストーリーですね。

そうやって、1つの物事を違う角度から観ることによっていろんなことが見えてくるんじゃないかって思って書いた歌です。

からくりを仕掛けた忍者屋敷

──この曲の「故に鵺似 YOU AND ME」もそうですし、ゆれるの曲には掛け言葉や韻を踏む歌詞が多いですね。

ゆれる

日本語が好きなんで。掛け言葉がない歌詞でもいいと思うんですけど、あればからくりみたいで曲がもうひと段階面白くなるって思ってて。忍者屋敷みたいな曲がいいと思うんです。みんながそれを感じるか感じないかは別にして、からくりを仕掛けておいたら、引っかかる人は引っかかってくれるじゃないですか。引っかかったらこっちのもんです(笑)。

──「ABZRBRND」は、最初収録曲のタイトル一覧を観たときこういう単語があるのかなと思って調べてしまいました(笑)。曲を聴いて「なるほど!」と。

そうそう(笑)。「アバズレ」って悪い言葉やと思うんですけど、そういう人たちの空気感っていうのをいいふうに捉えてる歌なんですよ。それをいい雰囲気のまま伝えたくて。あとね、ここ(歌詞の最後の段落を縦に読むと)「アバズレ」になってるんです。

──まさに忍者屋敷ですね。この曲は軽快なサウンドで“アバズレ感”が全然ないですよね。

あの人たちは俺たちとは見てる世界は違って、その人たちの考えにスポットライトを当ててみたらいいメロディができた。

ミニアルバム「XENOtransplantations」
2014年6月25日発売 / 1836円 / テイチクエンタテインメント / QFCS-1007
CD収録曲
  1. クレイジーサマーソルト
  2. ヒューズヒュー
  3. そうそう これは想像です
  4. ABZRBRND [Chorus 壺坂恵(ecosystem)]
  5. 鵺になく
  6. 赤い破壊
ゆれる

奄美大島出身のAmi(G, Vo)とYuta Sakae(B)、京都出身のBauchi(Dr)による3人組ロックバンド。大阪を拠点に活動を始め、2011年12月に1stミニアルバム「mutilations」をリリースする。翌2012年10月に2ndアルバム「distractions」を発売。文学的な歌詞と情熱的なライブパフォーマンスで聴衆の心を揺さぶり、全国でじわじわと知名度を上げる。そして2014年6月に、スマイルカンパニーの自社レーベル「BLUE ALBUM」より3rdアルバム「XENOtransplantations」を発表した。