2022年7月から9月にかけて放送されたテレビアニメ「ユーレイデコ」。このアニメの各話をイメージしてさまざまなアーティスト陣が書き下ろしたコラボレーションソングが、毎週放送終了後にリリースされた。
全12話から生まれた12曲のコラボレーションソングは、毎話異なるアーティストが担当。KOTARO SAITO(with leift)、Yebisu303×湧、TWEEDEES、ココロヤミ、Sarah L-ee×浅倉大介×Shinnosuke、YMCK×MCU、kim taehoon、DÉ DÉ MOUSE×パソコン音楽クラブ、ミト(クラムボン)、CMJK、☆Taku Takahashi(m-flo、block.fm)×xiangyuといった豪華アーティスト陣が参加した。
音楽ナタリーとコミックナタリーでは「ユーレイデコ」をさまざまな側面から紐解くため、複数の特集を展開してきた。今回はパソコン音楽クラブが制作したアニメ最終回の第12話のコラボレーションソング「I0/U0」をフィーチャー。ユーレイ探偵団が歌う「I0/U0」は、彼女たちの日常を明るくにぎやかな曲調と歌詞で表現した楽曲だ。パソコン音楽クラブは「I0/U0」のほか、DÉ DÉ MOUSEとの共同制作となった第8話のコラボレーションソング「SMILE SPLASH!!」、そしてエンディング主題歌「あいむいんらぶ」の3曲を「ユーレイデコ」に提供している。そんな2人はこのアニメの最終回を観てどのように感じたのか? なぜこのようなハッピーな音楽にたどり着いたのか? 楽曲の制作秘話や今回のプロジェクトでの収穫について語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
「ユーレイデコ」ストーリー
現実とバーチャルが重なり合う情報都市・トムソーヤ島をユーレイ探偵団が駆け抜ける近未来ミステリーアドベンチャー。物語は「らぶ」と呼ばれる評価係数が生活に必要不可欠になったトムソーヤ島で起こった、“0現象”という「らぶ」消失事件に少女・ベリィが巻き込まれたことから動き出す。ベリィは“ユーレイ”と呼ばれる住人のハックたちと出会い、怪人0と0現象の謎を突き止めるためにユーレイ探偵団に参加。トムソーヤ島に隠されたある真実に近付いていく。
最後は幸せな感じの音楽を聴きたいなと思った
──今日はアニメ「ユーレイデコ」最終話にあたる第12話のコラボレーションソング「I0/U0」について伺います。まず、この第12話をお二人はどんなふうに観ましたか?
西山 自分的にはかなり興味深い結末でした。何か明確な敵がいて「その敵を倒すことによって世の中がガラッと変わりました」という終わり方ではなく、「今までのやり方を踏襲しつつ、よりよい形にちょっと修正しようよ」というエンディングだったと思うんですよ。すごくリアルな考え方だなと感じて、自分は相当好きでしたね。
──視聴者に対して「これが正解ですよ」を押し付けるのではなく、「何が正解かは自分の頭で考えなさい」という終わり方ですよね。
西山 そうですよね。「今までのシステムは全部間違っていました」ではなく、「もうちょっとうまいやり方があるはずだよね」という。「何か1個歯車さえ噛み合えばもっとうまくいくのに」みたいなことは現実でもよく感じることだし、劇的に革命を起こすような展開よりもリアルだよなあと。
柴田 本当に、視聴者に委ねてますよね。一見子供向けにも思えるくらいポップな見た目のアニメなのに、実はかなり奥深い。人によって異なる解釈ができるような多重構造になっていて、ヤバい作品だったなあと思ってます。
──受け手に委ねるのって、そもそも受け手を信頼していないとできないことですよね。
柴田 うんうん。リスキーっちゃリスキーですよね。
──お二人の作る音楽にもそれと似たような姿勢を感じるんですが……。
西山 ああ、そうかもしれないです。意識というよりは単なる好みの話になっちゃいますけど、映画でもなんでも、作り手の正義を突き付ける系のシナリオよりもファジーなところを解釈させる物語が好きなので、音楽もそういうもののほうが好きで。その意味で、この「ユーレイデコ」はすごく僕好みの終わり方ではありましたね。
──そんな第12話に曲を作るとなったとき、どんなふうに考えて取りかかりましたか?
西山 12話目のシナリオに寄せるというよりも、最後のコラボソングでありユーレイ探偵団全員が参加する曲でもあるというところで、どちらかというと“集大成”として音楽にまとめ上げることを意識しました。
柴田 「大団円的な、楽しい曲調にしよう」みたいな話は最初にありましたね。
──実際、とてもにぎやかな楽曲になっています。言ってみればプロ野球のオールスターゲームのようなお祭り感がありますよね。
柴田 ああ、まさにそのイメージですね。
西山 僕はすごく観る側の気持ちで考えちゃったんですよ。物語がクライマックスへ近付くにしたがってだんだんシリアスな雰囲気になってくるし、ダークな世界観とかも見えてくるんですけど、それを観てきた視聴者が最後の最後に聴く音楽ってどういうものがいいかな?みたいな。僕としては、そこでやっぱり幸せな感じの音楽を聴きたいと思ったんですよね。
柴田 佐藤純之介さん(「ユーレイデコ」音楽プロデューサー)からのオーダーは「ダンサブルなものを」くらいしかなくて……まあ、そのオーダーからこの曲になるというのも変な話だなと思いますけど(笑)。
感動的なまでのディレクション術
──作るうえで何か苦労した点はありますか?
西山 作詞はけっこう難しかったですね。それはエンディング主題歌の「あいむいんらぶ」にしてもデデさん(DÉ DÉ MOUSE)とやった「SMILE SPLASH!!」にしても同じなんですけど、僕は事前に何回も作品本編を観て汲み取ってからでないと書けないタイプなんです。しかもこの「I0/U0」は関わってくるキャラクターの人数も多いから、シンプルに考えなきゃいけないことが多かったんですよね。そこは少し苦労したというか、がんばりました。
柴田 詞もそうなんですけど、探偵団の全キャラクターが参加する曲ということで、歌う声優さんの声質や音域がバラバラになるわけじゃないですか。それがとにかく難しかったというか……純之介さんの手腕なしには成立しなかったところだなと。
西山 確かにね。男性も女性もいて、年代的にもおばあちゃんから子供まで、本当に老若男女が一堂に会していますから。それぞれ声域も違えば声のスウィートスポットもバラバラという中で、楽曲のキーをどこに設定すべきなのか、どういうふうにボーカルディレクションをしたらいいのか……そこには相当な知識と経験と技術が必要になってくるんです。かなり専門的な領域になってくるんで、そこはもう純之介さんにお任せしてまとめていただきました。
──具体的には、どのような調整が行われたんでしょうか。
西山 まずキー設定に関しては、僕らが最初のデモを納品した段階で純之介さんのほうで「このキーだと出ない人がいる」とか「出せたとしてもキャラクター的に合わない」というシミュレーションをしてくださって。それを受けて、僕たちがそのガイドに合わせてキーを変えて作り直すという作業がありました。それがまず純之介さんの1つのすごさなんですけど、もう1つ、純之介さんは実際のボーカル録りのときのディレクションが本当にすごいんですよ。僕らはレコーディングには行ってないんですが……。
柴田 僕は釘宮(理恵)さんだけ行きました。
西山 あ、そうか。まあ僕らが行ったところで、やれることは何もないんですけどね(笑)。
柴田 ははは、確かに(笑)。
西山 声優さんはキャラを演じながら歌うわけですけど、それって普通に歌うよりも倍ぐらい難しいことだと思うんです。歌が特殊な分、その録り方やディレクションの仕方にも特有の作法みたいなものがあって、「こういう声の出し方をしてください」と的確に指示ができるというのはすごく特殊なスキルなんですよ。この道で長く仕事をされてきた純之介さんならではの特殊技能だと思います。
柴田 見ていると本当にちょっと感動しちゃうようなディレクション術なんです。「なんであのレコーディング風景をドキュメンタリー映像としてBlu-rayの特典に付けないんだろう?」と思うくらい。
西山 まあ、その場面って声優さんたちにとっては完全に裏だから。表には出せないでしょ。
柴田 そうなんですけど、本当に純之介さんのディレクションは皆さんにも見てもらいたいくらいすごいんですよ。
西山 そんなふうに純之介さんや声優さんたち、いろいろなプロフェッショナルの尽力があって無事完成した曲なんです。非常に勉強になりましたし、いい経験をさせていただきました。
自分の中に“ギャル”を降ろそう
──パ音としては「I0/U0」以外にもハックとベリィが歌う本編エンディング主題歌の「あいむいんらぶ」も手がけていて、言うなればエンディング曲を2種類作ったも同然ですよね。その2曲を作る際、何か意識は違いました?
西山 「あいむいんらぶ」はハックとベリィの関係性だけを意識していて、「I0/U0」はユーレイ探偵団みんなの歌なので、意識としては「誰を見て曲を作るのか」が違っていたくらいですかね。とはいえ制作時期もけっこう離れていたので……。
柴田 このアニメは全体的にかなり早い段階からいろいろ話が進んでいたので、「あいむいんらぶ」に関しては放送開始の1年くらい前から制作がスタートしていたんです。その時点ですでにビジュアルボードとか絵コンテとかは完成していたので、そのイメージを補完する……というか拡張するような意識で音を作っていきました。
西山 アニメの曲を作るのって、すごく不思議な仕事というか。本編ができあがってない状態で曲を作り始めるので、設定資料とかを見ながら「このキャラクターはどういう子なんだろう?」「誰とどんなふうに出会って、どう成長していくんだろう?」と想像しながら手探りで作っていく感じなんですよ。それがすごく面白いなと思いましたね。
──それで言うと、「I0/U0」のほうはかなり全貌が把握できた状態で作れた感じですよね?
西山 そうですね、そこはけっこう違いました。
──作りやすさも違いました?
西山 ああー……作詞に関しては、違う難しさがありましたね。「あいむいんらぶ」のほうはまだ知らないことが多かったから、滅多なことは言えないというか(笑)。実際、先の展開を知らずに書いちゃって監督からNGが出たワードとかもありましたし。逆に「I0/U0」はさっきも言った通りで、関わるキャラの人数が多い分、単純に考えることが多いという。
──なるほど。あと気になった点としては、「あいむいんらぶ」の公式コメントで「制作中は自分の中のギャル性に相談する瞬間も多く」と書かれていましたよね。この“ギャル性”というのは?
西山 それはですね、作詞をするときに「普段の自分だったら使わないような言葉を使ったほうが楽しいな」とまず思ったんですよ。で、このアニメには「デコ」とか「らぶ」という言葉がキーワードとして登場しますけど、それがかなりギャルっぽいなと僕は思っていて。ベリィの言う「らぶい」とか「デコっちゃう」みたいな言葉遣いもちょっとギャル感があるじゃないですか。しかも本人たちが歌う楽曲でもあるので、そういう表現を詞の中に入れたいなと思ったんです。そのために「自分の中にギャルを降ろそう」という意識で作詞作業をしていきました、ということですね。
──「自分たちの純粋なオリジナル曲を作るときとは明確に違う手法でやりましたよ」という意味なんですね。
西山 そうですね。クライアントワークならではの楽しさがあったと思っています。
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ドレスコードのあるパーティに呼ばれた感覚