アニメ「ユーレイデコ」☆Taku Takahashi(m-flo、block.fm)×佐藤大(原案・脚本)|物語の終盤を彩る“ハッピーサッド”なコラボソング (2/2)

11話はすごく難しい回

佐藤 ☆Takuさんに聞いてみたかったことがあるんですけど……このアニメを観て、率直にどう思いました?

☆Taku 最初に観たときから、もう大好きな作品になったんですよね。「コロナ禍以降のリモート社会というものをドンピシャでハメてきてるのがすごいですね」って大さんに言ったら、「いや、コロナ前からこの企画こうだったんですよ」と言われて「ウソー!?」と思って。

佐藤 そうそう。この作品は2016年とか17年ぐらいに走り始めまして。

☆Taku まず冒頭の、物語のビルドアップの仕方が見事だなと。おとぎ話が語られるところから始まって、ハックとベリィがそれぞれ登場するんだけど、「ここ、つながってんの? 別の世界なの?」って思ってるうちに2人が出会うっていう。その持っていき方にどんどんのめり込んでいく感じでした。観ているとゲームで遊んでいるような感覚になっていくというか、そういう作りがすごく好きですね。めっちゃよかったです。

佐藤 よかった。僕、☆Takuさんが11話の曲を担当すると聞いたとき、☆Takuさんなら安心だと思ったんですけど、同時に申し訳ないなとも思ったんです。11話はユーレイ探偵団全員の話とも言えるし、両親の真実を知るベリィの気持ちの回でもあるから、すごく難しい回だなと思っていて。

☆Taku ハックとベリィが歌う曲ということで「2人のどっちも立てたい」という思いがあったから、その塩梅はけっこう何回もやり直しましたね。ベリィを主人公にしすぎないように、というか。

左からハック、ベリィ。

左からハック、ベリィ。

佐藤 どっちに力点を置くかっていうのは難しいところですよね。あの曲はウェットにいきすぎていなくて、そこがすごくよかったです。ベリィの気持ちを考えたらもっとウェットな方向にもいけるんだけど、それを共有したくない彼女の気持ちもあるから、そういう部分がうまく出てるなと思いました。

☆Taku それがエピソードに色濃く出ていたんで。あと、11話はクライマックスが始まる回で、伏線を回収しつつ全部の状況を説明し始める段階だから、「完全なエンディング曲にしたらダメ」というのもすごく考えました。

佐藤 なるほど! まさにそうですね。脚本を書いている段階では、11話と12話って「前編 / 後編」としていたんです。だから11話単体では話がキレイに終わっていない。しかも12話はあさっての方向から始めることを決めていたから……。

☆Taku そうそう。だから曲としては、エンディングでもありオープニングでもあるものにしなきゃいけない、っていう思いはありましたね。

──めちゃくちゃ難しい立ち位置の楽曲だったんですね……。

佐藤 そうですね。だからこそ純之介さんも最初、「待ってください」と言ったんだろうなと。

MVPはxiangyu

佐藤 この曲では「絡まり合い」という詞が特にすごいなと思いました。ハックとベリィはもちろんですけど、フィンも含めて、みんなが出会っていろいろな経験を共有してきた中で、お互いを家族だと思うようになっていきますよね。その感じを見事にひと言で言い表していて、すごくちゃんと観てくれたんだなと。

☆Taku いや、そこは本当にxiangyuのファインプレー。ちゃんとストーリーを理解して、吟味したからこその「絡まり合い」だから。あの歌詞って一見すると支離滅裂な言葉の羅列にも思えるんだけど……「アユ ハマサキ ガンダッ」とか(笑)。

佐藤 はははは。

☆Taku 一瞬「何を言い出すんだ?」って思うんだけど(笑)、実は精密にできている歌詞なんです。まあ本人は感覚的に作ってるのかもしれないけど、この楽曲制作のMVPはxiangyuですよ。僕がやったのは音と雰囲気作り、方向性の提示までで、彼女が最終的に言葉を使うところでしっかり表現してくれた。

佐藤 「絡まり合い」もそうだし、「泣き笑い」というフレーズもすごく象徴的ですよね。「泣き」か「笑い」のどっちかにいくのは簡単なんだけど、どちらでもないところにいけるといいなというのは作っていて思っていたことなので。たぶん、ハックとベリィを演じた2人もそうやって演じてくれたんじゃないかと思っているんです。素っ頓狂に歌っているような感じだけど、ちゃんとキャラに合わせて繊細にやってくれている。

☆Taku さっき僕が「想定していたボーカルが返ってこなくて、でもいいなと思った」と言ったのはまさにそこで。元気いっぱいに歌っていても、どこかセンチメンタリズムを感じさせられたんですよね。

佐藤 強がっている感じもちゃんとありますもんね。

☆Taku そうそうそう。

──歌でありつつ、ちゃんと芝居でもある感じですよね。

佐藤 ああ、その通りですね。

☆Taku うんうん、その表現はすごくしっくり来ますね。演者も作り手も含めて、みんなが持っているものをそれぞれいい感じに出せたプロジェクトだったんじゃないかな。

佐藤 そうですね、幸せな企画だったなと思います。得がたい経験でしたし、私と☆Takuさんの関係性も「絡まり合い」だな、と改めて思いましたね(笑)。常にベッタリではないんだけど、いざ絡むとめちゃくちゃ濃いという。

☆Taku 普段は違うところにいるんだけど、一緒に動くとなるとお互いの呼吸がすぐに合いますよね。「ああ、あれね」みたいな。所属クラブは違うのに代表に招集されるといきなり連携できちゃうサッカー選手みたいな感じで。

──事前に打ち合わせておかなくても、試しにスルーパスを出してみたらちゃんと裏へ走ってくれているみたいな?

☆Taku そうそう。

佐藤 見てなくてもパスが来るのがわかる。

☆Taku わかる。まあ、でも事前のミーティングはしたほうがいいですけどね。

佐藤 そうですね(笑)。

プロフィール

☆Taku Takahashi(タクタカハシ)

DJ、プロデューサー。1998年にm-floを結成。ソロとしてもカルヴィン・ハリス、The Ting Tings、レディー・ソヴァリン、NEWS、Crystal Kay、加藤ミリヤ、キズナアイ、SKY-HI、BE:FIRSTなど国内外アーティストの作品制作に携わっており、「アイドリッシュセブン」「ユーレイデコ」などアニメ作品にも楽曲を提供している。2011年には日本初のダンスミュージック専門インターネットラジオ「block.fm」を立ち上げた。m-floはデビュー20周年を迎えた2019年11月にオリジナルアルバム「KYO」をリリースし、東京・Zepp Tokyoでワンマンライブ「m-flo 20th Anniversary Live "KYO"」を開催。2020年にはさまざまなアーティストとコラボレーションする“loves”プロジェクトを12年ぶりに行った。

佐藤大(サトウダイ)

19歳の頃、放送構成・作詞の分野でキャリアをスタート。その後、ゲーム業界、音楽業界での活動を経て、現在はアニメの脚本執筆を中心に、さまざまなメディアでの企画、脚本などを手がけている。2007年、ストーリーライダーズ株式会社を代表取締役として設立。代表作に「カウボーイビバップ」「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「サムライチャンプルー」「交響詩篇エウレカセブン」「サイダーのように言葉が湧き上がる」「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」「ぼくらのよあけ」など。近作では、2023年4月14日からスタートするテレビアニメ「ポケットモンスター」のシリーズ構成、脚本を担当する。