7月から放送中のテレビアニメ「ユーレイデコ」。このアニメの各話をイメージしてさまざまなアーティスト陣が書き下ろしたコラボレーションソングが、毎週放送終了後にリリースされている。
全12話から生まれた12曲のコラボレーションソングは、毎話異なるアーティストが担当。KOTARO SAITO(with leift)、Yebisu303×湧、TWEEDEES、ココロヤミ、Sarah L-ee×浅倉大介×Shinnosuke、YMCK×MCU、kim taehoon、DÉ DÉ MOUSE×パソコン音楽クラブ、ミト(クラムボン)、CMJK、☆Taku Takahashi(m-flo)×xiangyuなど、豪華アーティスト陣が参加している。
音楽ナタリーとコミックナタリーでは「ユーレイデコ」をさまざまな側面から紐解くため、複数の特集を展開中。今回は第5話のコラボレーションソング「I AM I」を歌うSarah L-eeと、作曲者の浅倉大介、編曲者のShinnosukeのインタビューをお届け。3人をリモートでつなぎ、企画への参加経緯や楽曲の制作過程について語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
「ユーレイデコ」ストーリー
現実とバーチャルが重なり合う情報都市・トムソーヤ島をユーレイ探偵団が駆け抜ける近未来ミステリーアドベンチャー。物語は「らぶ」と呼ばれる評価係数が生活に必要不可欠になったトムソーヤ島で起こった、“0現象”という「らぶ」消失事件に少女・ベリィが巻き込まれたことから動き出す。ベリィは“ユーレイ”と呼ばれる住人のハックたちと出会い、怪人0と0現象の謎を突き止めるためにユーレイ探偵団に参加。トムソーヤ島に隠されたある真実に近付いていく。
すごい人を引っ張ってきたな
──まずお三方の関係性について伺いたいんですけど、浅倉さんとShinnosukeさんはもう付き合いが長いんですよね?
Shinnosuke 浅倉さんは僕にとって中学生の頃からの神様なので、そこまでさかのぼると相当古いんですが(笑)。直接の絡みで言うと……いつでしたっけ。
浅倉大介 覚えてないねえ。なんかいつの間にか……10年くらい前にSNSが流行り始めたタイミングで、僕の師匠であるTM NETWORKとかも含めてみんなでわーっと仲よくなった印象がありますけど。
Shinnosuke 僕の記憶では、確か最初にHIRO(貴水博之)さんと知り合って、accessのライブに招待していただいたときに浅倉さんともご挨拶させてもらったような……相当前の話ですけど。
浅倉 でしたっけ? やっぱね、キーボーディスト同士ってなかなか仕事で会う機会がないんですよ。
Shinnosuke そうですね。異なる担当楽器の人で、とかだったらわりとあると思うんですけど。
──なるほど。そしてSarahさんに関しては、Shinnosukeさんがずっとプロデュースをされている間柄ということですね。
Shinnosuke そうですね。3年前くらいからかな。
──「ユーレイデコ」のオフィシャルサイトに掲載されているコメントには「実はいまだに彼女本人と会ったことがないんです!」とありましたが……今回の鼎談もリモートですし。
Sarah L-ee そうなんですよね(笑)。
Shinnosuke まあ、コロナ禍というのもありますし、今はデータのやり取りで制作ができちゃうんでね。浅倉さんとも相当会ってないですもんね。
浅倉 そうだね。
──今回、「ユーレイデコ」のイメージソングをこのお三方で、というお話はどこからどういうふうに始まったんですか?
Shinnosuke 「ユーレイデコ」で音楽プロデューサーをやっている佐藤純之介くんとは、もともと個人的なつながりがありまして。僕がSarahちゃんと一緒に活動するようになってから「彼女も絡めて一緒に何かやれたらいいね」という話をしていたところに、今回この「ユーレイデコ」の話を持ってきてくれたんです。
Sarah びっくりしました。アニメの曲を歌うのも初めてのことだったので、プレッシャーも感じたんですけど、自分らしい歌詞さえ書ければなんとかやれるかなって。
Shinnosuke 最初は「どういう座組になるかはわからない」みたいな感じだったんですけど、いつの間にか浅倉さんが作曲で入ることになっていて。すごい人を引っ張ってきたなと(笑)。
浅倉 僕は佐藤さんから「コラボレーションとかって、するスタンスですか?」みたいな感じで声をかけてもらって。メンツを聞いたらもうShinnosukeくんが決まっていたので、安心して「楽しそうなのでやってみます」とお答えしました。
Shinnosuke 僕は本当にうれしくて、びっくりで、光栄で。
浅倉 ただ、「作曲だけを」というお話だったので、それはちょっとハードルが高いかもと思ったんですよ。というのも、僕は今までシンセサイザーで作った音色やアレンジ上のフレーズまでを含めて“浅倉大介の音”として発信してきた人間なんですけど、今回はそれ抜きで、コード進行とメロディラインだけを作るという話だったわけですから。ハードルは高かったですけど、最終的にはコード進行や転調の持っていき方は自分なりに表現できたかなと思えたし、佐藤さんからも「メロディとコードだけでこんなに浅倉さんを感じることができるんですね」と言ってもらえて。そこでやっと安心できました。
こんな偶然、あるんだ
──皆さんは第5話のイメージソング「I AM I」を担当されましたが、曲作りにあたってあらかじめアニメ本編はご覧になりましたか?
浅倉 僕のところに話が来た段階では、まだ完パケじゃなかったと思うんですね。世界観のわかる映像資料とかを見せてもらいました。
Sarah ストーリーを知る前から楽曲の制作が始まっていたので、ほぼ何もわからない状態で。ビジュアル資料を見る限りでは未来っぽい感じだったから、「未来をイメージさせるようなアニメなのかな?」と想像しながら歌詞を書いていきました。
Shinnosuke だからアニメのストーリーに寄せて作ったものではないんですけど、第5話を観て「よくこれだけ合ったな」と思いましたね。曲調も、歌詞も、雰囲気も。
Sarah そうそう、本当にそうです。タイトルの「I AM I」にしても、メインキャラクターのハックの口癖「あい らぶ あい」にすごく似ていたので、心底びっくりしました。「こんな偶然、あるんだ」って。
浅倉 不思議ですよね。ストーリー展開がわからない状態で、絵の質感や世界観だけを手がかりにスルッとこれを作れたというのが。
Shinnosuke 僕、浅倉さんはもっとアッパーな感じの曲で来るのかなと思っていたので、最初にデモが上がってきたとき、びっくりしたんですよ。
浅倉 そこはね、最初に佐藤さんのほうから「そんなにアップテンポではないもので、メロディ重視で」という話があったんで。
Shinnosuke ああ、それはあったんですね。
浅倉 実はそれとは違う、テクノジャズみたいな雰囲気で作る構想も最初はあったんです。映像がVR的な世界観を持っていたからそういう質感でいくのもありかなと思ったんだけど、そこに関してはミトさんがオープニング主題歌のほうで見事に表現していたので、じゃあ今回はもうちょっと切なさをメロディに入れたほうがいいかなと。そのほうが自分らしいし、ミトさんとの対比にもなるかなと思って、マイナー調のメロディとコード進行で作り始めた感じかな。
Shinnosuke なるほど!
浅倉 あと、「Shinnosukeくんがどうにでも料理してくれるだろう」という甘えもあったんだよね(笑)。アレンジ次第でアッパーにもできるし、EDMにも、ヒップホップにもできるくらいのメロディだと作ってるときは思ってたから。
──実際、そう感じました。なんならフォークソングとかにアレンジしても成立しそうなくらい、強いメロディだなと。
浅倉 ありがとうございます。メロディは強いと思います。Sarahさんの歌唱力がすごいという話は聞いていたので、聴く分には気持ちよく聴けるんだけど、歌うと難しい音の飛び方をサビの中にちりばめました。ごめんね、Sarahさん。
Sarah いえいえいえ、うれしかったです。めっちゃ素敵なメロディが届いて「すごーい!」ってなりました。
浅倉 詞と編曲は、どっちが先?
Shinnosuke 今回は同時進行でしたね。ちょうどSarahちゃんがカナダへ1カ月くらい行っちゃうタイミングだったこともあって、その前にメロを把握しておいてもらったほうがいいだろうと思い、浅倉さんから届いたデモをそのまま投げて。「なんとなく言葉をハメてみておいて」と伝えつつ、こっちはこっちでアレンジを並行して進めていったんですよ。
浅倉 そうなんだ、面白いね。一般的にはアレンジが終わってから、音の世界観を見つつ歌詞に取りかかるケースが多いけど。
Sarah それで言うと、Shinnosukeさんのアレンジが上がってきたあとで歌詞を変えた部分がありましたね。サビ部分は最初もっと暗い感じが強かったんですけど、音のイメージに合わない気がしたので、もうちょっと明るい感じにしようかなって。
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丸裸のデモだった