アニメ「ユーレイデコ」×Yebisu303&湧|物語の幕開けをポップに彩るコラボレーションソング「Square Pop Town」 (2/2)

“四角い”アレンジとは

Yebisu303 ボーカルレコーディングのとき、湧さんが歌う前に自分の好きな曲を聴いてテンションを上げていたのが面白かったです。なんでしたっけ、「弱虫ペダル」の……。

 田村ゆかりさんが演じられる姫野湖鳥の「恋のヒメヒメぺったんこ」ですね。今回の曲には「恋のヒメヒメぺったんこ」が合うと思ったので、それを聴いてテンションを上げてました。

──アスリートみたいですね。試合前に音楽を聴いて集中力を高めている方が多いらしいですけど。

 いつもそうしてるんですよ。

Yebisu303 その様子を見ていて、歌って本当に運動なんだなと思いました。何テイクも何テイクもテンションを保ちつつ歌い続けて、到達点へ向けて徐々にパフォーマンスを上げていく過程は、ほとんど棒高跳びみたいで。「もうちょっとイケる!」を繰り返して高みを目指していく様は、本当にアスリートに通ずるものがあるなと思いましたね。

 あははは。確かに、いつもすごく集中してはいますね。

左からYebisu303、湧。

左からYebisu303、湧。

Yebisu303 もう1つすごいなと思ったのは、湧さんってトラックダウンのときのエンジニアさんへのディレクションが鬼のようで。ものすごく的確だし、数も多い。録り終えたボーカルトラックに対して「ここは2db弱めで」とか「もうちょっとアタック抑えめで」ということを細かく指示するんですよ。もちろん録りの時点でベストは尽くしているんですけども、それがオケと合わさったときにどうすれば最大限生きるのかという、ディレクター視点がすごくて。

 炸裂させちゃいましたね(笑)。1音ずつ、全部こだわりたいんですよ。例えば「晴天の空」だったら「『そ』は大きく、『ら』はちょっと小さめで」とか。それをやるかやらないかで、歌詞の入ってくる度合いが全然違ってくるんです。これは以前エンジニアをしていただいた渡辺省二郎さんから学んだことなんですけど。

──なるほど。あと個人的に、この曲はギターがすごく効いてるなと感じました。これは湧さんが弾いているんですよね?

 そうです。なんか、無骨ですよね(笑)。基本は打ち込みの曲なので、打ち込みってわりとカッチリした、四角いイメージがあるじゃないですか。そこにちょっと人間味みたいなものを入れたかったんです。だから無骨な感じのギターになりました。

湧

Yebisu303 オケだけの状態だとちょっと冷たい雰囲気があったので、そこにギターが入ることで血を通わせてくれた感覚はありますね。最終的にすごくいいバランスになった。

──湧さんのおっしゃる「四角い」というのは、つまり「スクエアな」という意味ですよね?

 スクエア……?

──「型通り、整った、折り目正しい」みたいな意味なんですけど。ちなみに英語の「square」を直訳すると「正方形」となります。

 そうなんですね。はい、四角い感じです。

──ベースがその“四角い”アレンジになっているのは、もちろんYebisuさんの芸風がそれだからというのもあるでしょうけど、カスタマーセンターのイメージでもあるわけですよね。

 そうですね。

Yebisu303 カスタマーセンターもそうだし、デコを通して見る街の、作り物の飾りが被さっている感じを表現したものでもありますね。

 結局、どんなにデジタルが主流になって世の中が機械化されていっても、主役は人間じゃないですか。人間が関わる以上、絶対に拍にピタッとは合わないし、不ぞろいなところはどうしても出てくる。そういうのを表現したかったんです。歌詞で言えば「ジャンキーラブなNoise」という部分が、「きれいな街とか真っ白な壁を見ると汚したくなっちゃう」というようなイタズラ心を表現していて。

Yebisu303 私の解釈としては、この曲におけるギターはアニメで言うところのベリィだなと思っていて。管理社会的な側面のあるトムソーヤ島において、その管理を当たり前と思わずにどんどん謎を暴いていこうとするベリィの異分子な感じ、人間臭さみたいなところを、ギターがいい感じに表現してくれました。

Yebisu303

Yebisu303

どの年代でも楽しめるアニメ

──せっかくなので、アニメ本編のご感想も聞かせてください。

 最初に観たとき、「めちゃくちゃポップだな」と思いました。原色を基調としているし、主人公のベリィも明るいイメージで、ハキハキしゃべるし。例えるなら「電脳コイル」の原色バージョンみたいな(笑)、本当にポップなアニメだなって。

Yebisu303 そういうポップな印象なんだけど、よくよく観ていくと「“本当”とはなんだ?」「人間の認識とは?」という哲学的な問いかけが多く含まれていたり、ハックとベリィの関係性が育っていく物語であったりもしますよね。いろんな要素が複雑に絡み合いつつ、1つのエピソードが起承転結できれいに完結しない回もあったりして、すごく挑戦的な作品でもある。だから、ハマる人はハマるし、ハマらない人はハマらない。評価が激しく割れそうではあるなと(笑)。

──なるほど(笑)。でも確かに挑戦的ではありますよね。12話すべてにイメージソングを用意するという企画からして、かなり挑戦的ですし。

Yebisu303 ですよね。あと自分が思ったのは、深夜帯に放送するのがもったいないアニメだなと。

 ああ、めっちゃわかります。

Yebisu303 土日の朝とかのキッズアニメ枠で放送してもいいんじゃないかと。ポップな手触りだから無垢に楽しんで観てもらうこともできると思いますし、その奥にあるメッセージに対して子供たちがどんな反応をするのか見てみたい気持ちもあって。深夜アニメのターゲット層だけに限定するのはもったいない作品だなと思いましたね。

 私も、子供向けっぽいなと思ってたんですよ。でも完成版を観たらディテールが細かくて質感もリアルで、それによってめっちゃ入り込める。見た目は子供向けだけど中身は本格派だから、どの年代でも楽しめるアニメだと思います。

Yebisu303 観る人のバックグラウンドによって、見えてくるものが変わってくる作品ですよね。懐が深い。

 あと最近、「らぶい」っていうベリィの口癖がうつっちゃって(笑)。めちゃくちゃいい言葉だなと思って「これ、らぶいわあ」とか使いまくってたら、それにつられたのか友達も使い始めたんですよ。この調子で広めていきたいなと思っています。

──そういえば、第4話のコラボソングを担当されたココロヤミさんも「らぶい」を日常的に使っているとおっしゃっていました。

 ホントですか! やっぱり使っちゃいますよね(Yebisuのほうを見ながら)。

Yebisu303 いや、おじさんが使うにはちょっとハードルが高いです(笑)。……でも、VR空間とかでなら使えるかもしれない。アバターを女の子の姿にしたりすれば。

 つまり、本当は使いたいんですね?

Yebisu303 使いたいです(笑)。

左からYebisu303、湧。

左からYebisu303、湧。

プロフィール

Yebisu303(エビスサンマルサン)

トラックメイカー。アシッドハウス、デトロイトテクノ、エレクトロに強い感銘を受け、20代後半よりトラック制作を開始。無類のハードウェア機材愛好家でもあり、日々マシンライブやデモンストレーション動画の制作を行っている。近年ではKORGのアナログシンセサイザー「monologue」や、SONICWAREのデジタルシンセサイザー「ELZ_1」「LIVEN 8bit warps」「LIVEN XFM」のプリセットサウンドシーケンス作成を担当するなど、その活動は多岐に渡っている。

(ワク)

京都出身のシンガーソングライター。宅録で音楽制作を行い、2021年5月に1stミニアルバム「Train Pop」を発表。同年にオーディションプロジェクト「ミスiD2021」のファイナリストにもノミネートされた。2022年10月にアルバム「ソーリョベルク」を発表予定。また、Marie Louiseのボーカルギターとしても活動している。