松任谷由実|音楽で刻んだ2020年の記録

確信犯的なシティポップ

──「Good! Morning」は、初出時から歌詞が一新されています。

朝の情報番組(テレビ朝日「グッド!モーニング」)からオープニング曲のオファーをいただいて歌詞を書いたのが一昨年でした。配信シングル「深海の街」の少し前にレコーディングしたことも手伝って、ちょっとジャズ寄りのアレンジになった。コロナ禍を経て、「Good! Morning」というキーワードをより強く打ち出そうと、歌詞を加筆修正して、ボーカルも録り直した。アルバムのラストにつながる大事な1曲になりました。

──そのラストは、アルバムの表題曲「深海の街」です。この曲も結果的として、配信リリース時とはまた異なる意味合いを持ってしまった。

そうですね。春頃にプロデューサーから「アルバムタイトルにしよう」と提案されて、私も賛成しました。

──曲のイメージは、2018年にベルリンを訪れた際に浮かんだそうですね。

現地でハードなテクノのクラブへ行く機会があって、そのときふと「ハードなDJがチルアウトする時間に聴く曲って面白いかも」と思った。部屋にいながらにしてチルアウト気分やリゾート感覚が味わえるという近未来の“脳内リゾート”というイメージでした。まずは歌い出しのメロディとマイナーナインスのコードが浮かんで、サビの展開で、同じスケールの中でコードがマイナーになったりメジャーになったりするというアイデアにたどり着いたとき、「あ、できた」って。

──配信リリースされた昨年9月は、いわゆる“シティポップ再評価”がちょっと盛り上がりを見せていた頃でもありました。

昔から私の中にもあったシティポップの要素に、より大人っぽく洗練されたAORをプラスして、確信犯的なシティポップをやりたかったんです。ブラックコンテンポラリーのアレンジに乗せて日本語の歌詞を歌うアプローチも、私にとっては70年代後半から80年代初頭に通った道。でも今改めてトライすれば、絶対に新鮮な曲が生まれるという確信があった。日本屈指のプレーヤーたちが一緒だったので安心して臨めましたね。

私自身を立て直せたアルバム

──こうして全曲を見渡すと、今作はやはり“会えない”ことを前提に、互いの関係性を俯瞰で見ている物語が大半を占めているように感じられます。

やはりこの世相で“メメント・モリ”がより強まったことは確かですね。ただ、そもそも昔から私の音楽は“一緒に暮らしている物語”をあまり求めていないのかもしれないけど。

──来年9月からはアルバムタイトルを冠した全国60カ所のホールツアーが予定されています。

すべてはコロナ次第とも言えますが、まずは「度肝を抜くツアーにしますよ」と書いておいていただけたら(笑)。1つだけ確かなのは、「配信ライブでは決して届けられないステージを全国津々浦々のホールで同じように再現する」ということ。すでに全国から取り寄せたホールのステージ図面とにらめっこしています。

──コロナ禍において、“不要不急”という言葉でエンタテインメントやライブの存在意義も問われました。

初めにもお話した通り、私も春から初夏にかけてはどうしてもモチベーションが湧かなかった。でもどう聴かれようが聴かれまいが、まずは自分のためだから。私は荒井由実名義の時代から、まず私のために、私の物語を書いてきました。そして、その結果として、光栄にも多くの曲を皆さんの“私の物語”にしていただけた。だから、自分自身が本気で感動する音楽さえ作り続ければ、きっと多くの方々にも響くはずだと信じてやってきた。今回もその思いを貫きました。私はおそらく私自身をこのアルバムの制作で立て直せたのだと思います。

──最後に、48年目を迎えたユーミンのキャリアにおいて、改めてこのアルバムはどんな1枚になったと言えるでしょうか?

例え最後のアルバムになっても胸が張れるようなクオリティを目指したつもりです。この時代、もういつどうなるかなんて誰にもわからない。私だって松任谷だって、数年先はわかりません。でもきっと私たち人間には愛しか残らないし、私には音楽しか残らない。私はそう思っています。明確なメッセージこそ歌ってはいませんが、このアルバムの曲からさまざまな死生について考えていただけて、そこから前を向いて、元気になってもらえたらうれしいですね。そして願わくは100年後を生きる人々にこのアルバムを聴いてもらえて、「かつてコロナ禍の真っただ中に、日本のシンガーソングライターが、こんな音楽の記録を残していたのか」と感じてもらえたら、シンガーソングライターとして冥利に尽きます。

ツアー情報

松任谷由実 コンサートツアー 深海の街

第1期

  • 2021年9月30日(木)神奈川県 よこすか芸術劇場
  • 2021年10月1日(金)神奈川県 よこすか芸術劇場
  • 2021年10月6日(水)千葉県 森のホール21 大ホール
  • 2021年10月12日(火)埼玉県 川口総合文化センターリリア メインホール
  • 2021年10月18日(月)群馬県 高崎芸術劇場
  • 2021年10月20日(水)長野県 ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)
  • 2021年10月21日(木)長野県 ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)
  • 2021年10月27日(水)大阪府 フェスティバルホール
  • 2021年10月28日(木)大阪府 フェスティバルホール
  • 2021年10月31日(日)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2021年11月1日(月)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2021年11月9日(火)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2021年11月10日(水)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2021年11月18日(木)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2021年11月19日(金)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2021年11月24日(水)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2021年11月25日(木)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2021年12月3日(金)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)大ホール
  • 2021年12月17日(金)静岡県 静岡市民文化会館 大ホール
  • ほか岡山(倉敷)、愛知(名古屋)で開催予定

第2期

  • 2022年3月21日(月・祝)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
  • 2022年3月29日(火)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2022年3月30日(水)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2022年4月2日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年4月3日(日)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年4月9日(土)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2022年4月10日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2022年4月15日(金)山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)
  • 2022年4月16日(土)山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)
  • 2022年4月22日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2022年4月23日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • ほか鹿児島、福岡、大分、神奈川、北海道(帯広)、福島、岩手で開催予定

第3期

  • 2022年5月10日(火)石川県 本多の森ホール
  • 2022年5月11日(水)石川県 本多の森ホール
  • 2022年5月21日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2022年5月22日(日)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2022年5月30日(月)愛媛県 愛媛県県民文化会館
  • 2022年6月17日(金)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年6月18日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年6月25日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2022年6月26日(日)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2022年6月29日(水)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年6月30日(木)大阪府 フェスティバルホール
  • 2022年7月5日(火)兵庫県 姫路市文化センター 大ホール
  • 2022年7月8日(金)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2022年7月9日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • ほか香川、沖縄、熊本、福岡、愛知(名古屋)で開催予定

2020年12月2日更新