音楽ナタリー PowerPush - 悠木碧
4匹の怪獣とともに いざ“スキマ”を巡る冒険に
悠木碧が1stフルアルバム「イシュメル」をリリースした。
2012年のアーティストデビュー以来、悠木は自身の思いや価値観をシニカルながらもどこかコミカル、そして緻密な物語へと昇華。その物語をベースに新居昭乃、藤林聖子ら名うての作家陣とともに制作した楽曲群を歌うことで高い評価を集めてきた。そして今回満を持して発表された初のフルアルバム「イシュメル」で彼女はちょっと意外な、しかしらしくもあるサムシングをモチーフに1つの物語と11の楽曲を作り上げている。
そのモチーフとは「スキマ」。悠木はスキマの向こう側に一体何を見たのか? 話を聞いた。
取材・文 / 成松哲
“媚びない”1stアルバム
──1月末に放送された「リスアニ!TV」での悠木さんの特集、拝見しました。
おおっ! ありがとうございます。
──その中でも特に印象的だったのが、今回のアルバム「イシュメル」制作時に心がけたことを聞かれた悠木さんの回答なんですけど……。
「媚びない!」。これも「リスアニ!TV」さんで言ったことなんですけど、媚びても媚びなくても何かを表現すれば、必ず一定のご批判はいただくんだよなって最近気付いたので(笑)。
──だからビックリしたんです。「悠木さんは批判を引き受けて我が道を進むのか」「タフだなあ」って。
ふふふふふ(笑)。でも「媚びない」とは言っても開き直ってワガママに振る舞おうとは思っていなくて。「媚びない」のと「理解されなくても結構」っていうのは少し違うと思うんですよね。今回の「媚びない」は皆さんの好きなものに私が寄っていくのではなくて、私が好きなものを皆さんに知ってもらいたいっていう意味での「媚びない」というか。「私にはこれがキラキラかわいいものに見えています」「そのかわいさを皆さんに伝えるためにこういう音と言葉を選んでみました」っていう結果できあがったのが「イシュメル」なんです。
──新居昭乃さんが指摘していた楽曲制作術ですよね(参照:悠木碧「メリバ」インタビュー with 新居昭乃)。あのとき新居さんは悠木さんの「メリバ」の作り方を、ごくパーソナルな“悠木碧ワールド”と実際の“広大な世界”のバランスを測った上で、自らの思いを大衆性のある表現に昇華させていると評していました。
確かにそういう作り方をしようと思っていました。自分の思うかわいいものを皆さんに伝えるための音や言葉を探すのって、女の子がデートに着ていく服を考えるのと同じようなものだと思っていて。「あなたに好きになってもらいたくて、私の好きな服でかわいく着飾ってみました」っていう作り方、「あなたに聴いてもらいたくて、私がかわいいと思う音と言葉を集めてみました」っていう作り方をしたかったし、本当にかわいいものばっかり集めてみましたから。
デート前夜の洋服選びのように
──“悠木さんが”かわいいと思っているものや、“悠木さん自身”をチャーミングに見せるプレゼンテーションをしてみた感じ?
そういう感じかもしれないですね。デートの前の夜、明日着ていく服のことを考えるのはきっと相手のためだけじゃないはずですから。かわいいお洋服で自分をかわいく着飾りたい。そんな自分をかわいいと思ってもらいたいと思っているのは、その子自身だし、そんなことを考えている時間ってその子にとってすごくステキな時間のはずですから。それと同じで、かわいいもののことを考えているという私の本質に近い姿や、かわいいと思うものをみんなにもかわいいと思ってもらうために、ちょっと背伸びしている私の姿も収められている。そういうアルバムになったかなって思ってます。
──実際「イシュメル」で歌われていることには、悠木さんが日々感じていることがダイレクトに反映されていますよね。以前悠木さんは「いずれ“スキマ”の歌を歌いたい」「なぜなら半開きのドアみたいなスキマには何者かが潜んでいる気がして怖いから」とおっしゃっていて……(参照:悠木碧「ビジュメニア」インタビュー)。
本当に1枚通してスキマをテーマにアルバムを作っちゃいました(笑)。
──「SWEET HOME」や「ロッキングチェアー揺れて」「ダスティー!ダスティーストマック」には「スキマ」という詞が出てくるし、「アールデコラージュ ラミラージュ」のビデオクリップでは実際に悠木さんがスキマを覗き込んで驚いてましたし(笑)。
でも実はそんなに怖いことを歌っているつもりはないんですよ。
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- 1stフルアルバム「イシュメル」2015年2月11日発売 / FlyingDog
- 初回限定盤 [CD+DVD+小冊子] 3996円 / VTZL-92
- 通常盤 [CD] 3240円 / VTCL-60383
CD収録曲
- SWEET HOME
- アールデコラージュ ラミラージュ
- ビジュメニア
- twinkAtrick
- たゆたうかなた
- 迷宮舞踏会
- ロッキングチェアー揺れて
- ソラミミPiZZiCATO
- ダスティー!ダスティーストマック
- クピドゥレビュー
- Angelique Sky
初回限定盤DVD収録内容
- 「アールデコラージュ ラミラージュ」MV
- 「アールデコラージュ ラミラージュ」メイキング映像
悠木碧(ユウキアオイ)
3月27日生まれ、千葉県出身の声優・歌手。4歳の頃から子役として活動し、2003年にテレビアニメ「キノの旅」で声優デビュー。2008年放送の「紅」では初のヒロインに抜擢され、その後さまざまな作品で主要キャラクターを演じる。2011年には「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公、鹿目まどか役で大きく注目を集めた。またその一方で2012年3月に1st“プチ”アルバム「プティパ」を発表し、アーティストデビューも果たす。2013年2月には新居昭乃らを迎えた2nd“プチ”アルバム「メリバ」をリリースし、11月には神奈川・横浜アリーナでのアニソン系イベント「ANIMAX MUSIX 2013」に出演。そして2014年1月、表題曲がアニメ「世界征服~謀略のズヴィズダー~」のエンディングテーマに採用された1stシングル「ビジュメニア」を発表し、わずか3カ月後となる4月にはアニメ「彼女がフラグをおられたら」のオープニングテーマ「クピドゥレビュー」をリリース。そして同年夏の「Animelo Summer Live 2014 -ONENESS-」への出演などを経て、2015年2月、1stフルアルバム「イシュメル」を完成させた。