湯木慧が6月5日にメジャーデビューシングル「誕生~バースデイ~」をリリースする。
自身の21歳の誕生日にリリースされる本作は、「誕生」をテーマに制作された4曲入りの作品で、アレンジャーとして葛西大和(Mili)、Sasanomaly、西川ノブユキ(アノアタリ)が参加している。
高校在学中から自主制作盤をリリースしていた湯木はこれまでに音楽活動と並行して、個展の開催や、舞台への主題歌提供、自身の舞台装飾やミュージックビデオ、衣装の製作を手がけるなどマルチな才能を発揮してきた。さらには高校1年生の頃に始めたツイキャスが2年間で累計200万ビューを超えるなど、すでに多くのリスナーとコンタクトしている。そんな彼女がメジャーデビューを決めた理由とはなんなのか。そして“命”と向き合う歌を歌うのはなぜなのか話を聞いた。
取材・文 / 内田正樹
何かを生み出すことへの快感
──湯木さんが初めて音楽に興味を持たれたのはいつでしたか?
4歳上の姉が音楽好きで、通っていた小学校にあった鼓笛隊のクラブに入っていたんです。その影響で小学3年生のときにトランペットを始めました。「Sing, Sing, Sing」とか、スタンダードな曲が好きでしたね。目立ちたがり屋だったので、幼稚園の頃もみんながやっていたピアニカじゃなくて、自分だけ木琴を叩きたがったり、合唱のときも前に出ようとしたりしていました。
──目立ちたがり屋というのは、今の湯木さんのイメージと比べるとちょっと意外ですね。
幼い頃は今と真逆の性格でした。目立ちたがり屋で、活発で、外で男の子と遊ぶことが多かったです。たぶん今でも根底には目立ちたがり屋が潜んでいるんだと思います。そうでないと、こうした活動なんてしていないと思いますし(笑)。
──自分で歌い始めたきっかけはなんだったのですか?
小学5年生のときにYUIさんを観て、シンガーソングライターという分野を初めて知ったんです。「歌とギターだけって、すごくカッコいい!」と思って、自分でギターセットをAmazonで買いました。自分の体よりも大きなアコギで練習し始めて、ある程度まで弾けるようになったら、コピーした曲で使っていたコードを使って、曲のようなものを作り始めて。曲に限らず絵も同じでしたけど、何かを生み出すことへの快感は幼い頃から感じていましたね。例えば紙コップが電話になるとか、粘土でゼロの状態から形を作り出すとか、そこに無限の可能性を見出していたんです(笑)。
──つまり「何かを生み出すことへの快感」が創作の原動力だったのですね。
今はちょっと違うのかもしれません。「作ることが楽しい」という気持ちが先行して作った曲って、なんだか中身がないんですよ。絵を描くときはまだちょっと“描きたい欲求”が先に立ちますが、音楽は「誰かに何かを伝えたい」「この事柄を創作に落とし込みたい」と思ってから作るようになりました。だから今の自分の主軸が音楽なのかもしれません。
──楽曲制作が“ただ楽しい”から“形にしたい”に変化したのはいつ頃ですか?
切り替わったのは高校生のときですかね。両親が離婚したんですけど、それをきっかけに物事に対する視点が確立されたというか、自分の作品にきちんと意味を持たせたいと思うようになりました。その頃の私って、わがままで自分勝手だったと思うんですが、そこで自立心も芽生えて。幼なじみも、離婚以前と以降の私を見て「変わったね」と言っていましたから。
もっとも等しく魅力的に映るものが命
──弾き語りを始めた湯木さんは、高校1年生のときにライブハウスや路上でのライブ、さらにツイキャス放送を始めたそうですね。ツイキャスは2年間で累計200万ビューを記録したとか。
初めは5人くらいだった視聴者がドカンと増えたときは「何百人も観てくれているんだ」と、うれしかったですね。
──メジャーデビューを決めた理由は、より多くの人に自分の曲を聴いてほしかったからですか?
まさにそうですね。自分で自分の思いを正しく伝えるのは、すごく難しくて大変なことなので。それに新しいことを始めるとき、まずどこのどなたに連絡すればいいかわからないし、すべていちから自分で調べて動かないといけなかったので大変だったんですが、自分と同じ熱量で作品について向き合ってくれる方々と出会えて、「これで創作の可能性が無限に広がる」と思ってお願いしました。
──メジャーデビューしたけれど、表現方法を音楽だけに絞るわけではないんですね。
はい。絵で個展も開く予定ですし、以前、舞台の主題歌を書かせてもらったことがあるんですが、そういった曲も書きたいと思っています。でも、まずは音楽を通じて湯木慧を知ってもらえたらうれしいですね。あとは絵本も作りたいんです。母と姉が保育士ということもあって、絵本を目にする機会が多かったので。
──絵本のどんな要素に惹かれますか?
わかりやすい言葉で伝えることができて、それでいて受け取った人たちがそれぞれに何かを感じることができるところですかね。
──それって、湯木さんの音楽が持つ要素と同じ気がしますね。
ありがとうございます。もちろん曲は作り込むし主張も込めますが、1つの答えを出したくはないんです。どう捉えてもらってもいい。ただ、命に向き合っていない人には伝わらなくていいというか、命に向き合っている人に伝わってほしいんです。
──湯木さんの音楽は“命”や“生きていくこと”がモチーフとなっています。それはどうしてなのでしょうか?
そこは自分自身、わからないの境地ですね。ただ、性別とか年功序列とか上下関係といったものに昔から興味がなくて。自分にとってもっとも等しく魅力的に映るものが命だったからでしょうか。人間が生まれること自体、もっとも魅力的な行為だと思うし、一方で、人間というのは死に対して敏感な動物でもありますよね。何より自分自身も人間だし、そこが自然とテーマになっていたという感じですかね。命以外に着眼した曲も作りますが、作ってみた曲を厳選していくと、結局残る曲はすべて命についての曲なんです。
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誕生日の概念が変わった