YUKIインタビュー|ニューアルバム「SLITS」に託した“自由”のイメージ

YUKIのニューアルバム「SLITS」がリリースされた。

12枚目のオリジナルソロアルバムとなる「SLITS」には、5月にリリースされた両A面シングル「こぼれてしまうよ / Hello, it's me」と新曲10曲の計12曲を収録。スカートのスリットから着想を得たというタイトル「SLITS」には、彼女が持つ“自由”のイメージが託されている。アルバムの発売を記念して、音楽ナタリーではYUKIのインタビューを掲載。アルバムに込めた思いについて1曲ずつ話を聴いた。

取材・文 / 矢隈和恵

スリットは自由を表すもの

──今作は、どういうアルバムを作ろうというところからスタートしたんですか?

「パレードが続くなら」(2023年2月発売の11thアルバム)の曲は、20周年のコンサートで自分が感じたことや気付いたことを歌詞にしたものが多くて。と同時に、並行して進めていたレコーディングでできた曲たちをまとめたものとなりました。でも、これができたら「私は吸収の時間に入ろう」と思っていたんです。なので、2023年に入ってからは、旅行をしたり、アートに触れたりしていて。曲作りは作曲家の方と何回か会って一緒にメロディを構築したり、プリプロダクションにたっぷり時間をかけて、ゆっくり作っていきました。

──「SLITS」というタイトルは、どういう思いで付けられたんですか?

作っていた曲たちを1つの作品としてまとめられそうだなと思っていたときに、これを表すタイトルはなんだろうと考えていたんです。家でコーヒーを飲みながら大好きなファッション誌を眺めていたら、深くスリットの入ったスカートを穿いている女性が目に入って、「これだ!」と思いました。「スリットというのはすごくセクシーでカッコいいな」と思ったんです。タイトスカートはスリットが入っていなかったら足が動かしづらいから、それを自由にするためにスリットが入っている。でも、自由にするためだけではなくて、強さや、自分のことをわかってほしい、見せたいという意思もあるなと思いました。

YUKI「SLITS」ジャケット

YUKI「SLITS」ジャケット

──それでアルバムタイトルが「SLITS」になったんですね。

タイトスカートに入ったスリットから着想を得て、スリットは私にとって自由を表すものだなと思ったんですけど、言葉の意味を調べたら「傷」という意味もあって。今回、歌詞に「傷」という言葉がいくつか入ってますけど、私は歌詞で「残っていく傷たちが愛しいな」と振り返ることも多いので、今回は“自分の傷たち”もテーマにしようと思いました。「SLITS」には、ここ何年か私自身が感じていた閉塞感に「風穴を開けたい」という思いがあって、それはつまり「スカートに切れ目を入れることで足が動かしやすくなるのと同じように、不自由な部分を私が切り裂いて、より自由に、軽やかで、楽しい気持ちになりたい」という意味があります。タイトルの候補はいろいろあったんですけど、この言葉がイメージにピタリと合って、それでさらにアルバム作りがスムーズになりました。

大切なのは尊重し合うこと

──1曲目の「Now Here」は、まさにYUKIさんの言いたいことが詰まった、新しいダンスミュージックに仕上がっていますね。

ポップスの歌モノから外れたいなという思いがあったので、いきなりサビから始まって、ずっとサビで展開しているようなイメージで作りました。

──メロディが自由に動き回っていて、つかみきれない感じがワクワクしました。

「どこに行くんだろう? そこからここに行く?」というような構成は、わざとそういうふうにしてみました。今私が思っているすべてのことが詰まった、1曲目にふさわしい曲になったと思います。ダンスミュージックに乗せて、自分が思っていることをこんなに軽やかに歌詞で言えたのはうれしいです。

──2曲目の「雨宿り」もダンスミュージックで、1曲目からのグルーヴが続いているような感覚がありますね。

この曲はオリエンタルな感じが好きだったので、それをメインにしたいなと思ってフレーズを増やしていきました。まず「あ・あ・あ・あまやどり」というフレーズが出てきたんです。「雨宿り」って素敵だなと思ったので、そこから書いていきました。アーケードで雨宿りしながら、男の子と女の子が2人で遊んでいるのがいいなと思って。

──歌詞を見ていると本当にミュージカルみたいですよね。アーケードをくるくる踊りながら場面が展開していくような。「大切な人に 大切にされたいと思うから」というフレーズも印象的です。

人とわかり合うというのはすごく大事だけど、相手の心を100%理解することは不可能に近いですよね。ただ、察してあげたり、「わかるよ」と言ってあげたり、そういう考えもあるんだねと言ってあげたり。そういう“尊重し合う”ということが大切で。それで「大切な人に 大切にされたいと思うから 言われて嬉しい言葉 相手に 自分からも言ってあげなくちゃ」という歌詞を書きました。

──3曲目の「流星slits」には、アルバムタイトルにもなっている「スリッツ」という言葉が入っています。

流星は、空にひっかき傷を付けているみたいに見えますよね。それを「スリッツ」と呼ぶのがいいなと思って「流星slits」というタイトルにしました。私が星を夜空に投げて、ひっかき傷のような線を空に付けているイメージです(笑)。こういうダンスミュージックは面白い言葉遊びを入れた歌詞のほうがいいなと思って、気楽に聴ける感じに仕上げました。

──聴いていてすごくテンションが上がる曲ですね。

これはベースとシンセが本当によく効いていると思います。こういうシンセのコードは、もれなくテンションが上がりますよね。

──今のYUKIさんの思いや考えが、この歌詞にもたくさん出てきますね。

歌詞の中の女の子に便乗して、そこかしこに私が出てきています。あきらめたいなと思うようなことや虚しいなと思うような世界に対して、私はまだあきらめていないんだということをこのアルバムでは言いたかったので、それが出ていると思います。

自分との向き合い方は十人十色

──シングル曲「Hello, it's me」は、FANCLのCMソングにもなっている、さわやかで元気が出る曲です。

人は誰でも生きていれば、仕事でもプライベートでもいろいろなことがあって、自分との向き合い方というのは本当に十人十色ですよね。どうしようもない自分がいたり、がんばれない自分がいたり、そういうことはいつの時代も同じだと思います。今はSNSが発達して、自分と人を比べることも多いけど、一方で自分は自分なんだと、確固たる自分を追求する気持ちが逆に強くなるのはSNSのいいところだと思うんです。昔は人の生活や行動なんて話さないとわからなかったけど、今はお互いのSNSを見たりして、その人の好きなものや生活がわかる。すごくたくさんのことを感じながら、みんながんばっていると思うんです。

──この曲はシンプルで、言葉もすごくストレートに入ってきます。

歌詞の「足りないものばかり数えて 美しい自分だけの宝物 見えないの」というところは、私自身のことでもあります。「どうしてこうじゃないんだろう、こうだったらもっといいのに」ということに、どうしてもフォーカスしてしまうときがあって。でもそうやって人と比べれば比べるほど、実は自分のよさがわかってくる。私は私だけのもので、誰のものでもない。そういう思いは忘れたくないなと思っています。この曲はコンサートも想定して、お客さんとコール&レスポンスできるところも作りました。

──「ユニヴァース」は、ピアノと歌で始まるバンドサウンドの楽曲です。

私以外の声でコーラスが入っているイメージがあったので、男女のゲストコーラスに入っていただいて、自由に歌ってもらいました。コーラスも一緒に歌いたくなるぐらい主張があるスイートソウルがやりたかった。甘い男性の声が私の頭の中では鳴っていましたね。

──歌入れはいかがでしたか?

コーラスの存在感があったので、自分の歌はその中を流れる涼しい存在にしたかったんですね。70年代のソウルミュージックを涼やかに軽やかに、まっすぐな感じで歌っているイメージというか。ちょっと少年のような感じで歌おうと思いました。

──「追いかけたいの」は、軽やかなバンドサウンドのかわいらしい曲ですね。

作曲者のお二人は、higimidariというユニットで活動していて。不思議なメロディを付ける方たちで面白かったです。サウンドはちょっとリバーブがかかっている感じで、ギターが入っていて、浮遊感があって……デモ音源を聴いてすぐにラブソングにしようと思いました。ボーカルのずっと淡々としている感じは最初からイメージがあったので、変えずにそのまま歌いました。ギターソロも最高ですね。

──「追いかけたいの」という言葉はどこから出てきたんですか?

いつだったか、複数人との雑談で「恋で追いかけるか追いかけられるか」みたいな話になったことがあって、それが残っていたのかもしれないです。私は追いかけたい派です(笑)。