「マグロ漁船」なんて歌詞、絶対前野くんでしょ
──「口実にして」は前野健太さんの作曲ですが、今回なぜ前野さんにオファーしようと思ったんですか?
前野くんは声がすごくよくて、彼の歌が大好きだったので、いつか作曲を頼みたいと思っていました。「詩のモチーフになるような日記みたいなものを送るので、そこからメロディを作ってほしい」とお願いしたら、私が送ったメール内容にしっかりと寄り沿ったメロディが返ってきて「最高! 天才!」と思いました。プリプロにはギターを持ってきてもらって、一緒にレコーディングしていきましたね。一発録りです。途中で入っているトランペットのような音は、実はフルートなんです。
──ジャジーですごく素敵なサウンドなんですが、「マグロ漁船」とか「貸した3万円返してほしかった」とか、とにかく歌詞のインパクトがすごくて(笑)。そしてそういうものたちを“口実にして”もう一度会いたいという、強烈な歌詞ですね。
これは私の実話というか、私が実話を元に書いた手紙のような詩ですね。でもみんなには「前野くんの歌詞なの?」と言われました。「『マグロ漁船』なんて歌詞、絶対前野くんでしょ」と言われて。こういう歌詞の曲は前野くんとなら絶対できると思いました。最高です。本当に面白くて、いい曲になりました。
無双状態で書いた「風来坊」
──「風来坊」は「トロイメライ」のカップリング曲「かたまり」のときにも作曲をお願いした、赤い公園の津野米咲さんの曲です。
今回は「かたまり」みたいなストレートな感じもいいけど、そうではない変化球的な曲が欲しいと思ってオーダーしました。最初のデモはバンドサウンドだったんですけど、アレンジは私が気に入って聴いていたアルバムのほぼ全編のプログラミングをしていたトオミヨウさんにお願いして。それで作ってもらったアレンジ2パターンからブラッシュアップしていきました。
──このアレンジにした決め手はなんだったんですか?
私だったらこうはしないなという音や、こういう音は私には思いつかないという音がたくさん入っていて、新鮮だと思ったので。
──この曲も歌詞が印象的ですよね。「あばらの骨折れるまで 風に吹かれてる」という一節がありますが、どんな風が吹いたらあばらの骨が折れるのか(笑)。一体どこに立ち向かっているんでしょう。
この曲を作っている頃、いろいろとやらなければいけないことが同時進行していて、すごく忙しかったんです。曲を作って、歌って、ほかのプロジェクトにも参加していて。でもそれがすごく幸せなことだなと思っていて。無双状態というか「絶対できる! 私は大丈夫!」という気持ちが大きくて「あばらの骨折れるまで」という歌詞になりました(笑)。歌詞に出てくる「勧進帳」は何にも書いていないものを見て、書いてあるふうに読むという、ハッタリを効かせるということなんですけど、私はずっとそうやって強気で、自分を奮い立たせてやってきたなと思って。でもハッタリというのはすごく大事なんです。さっき言ったように「絶対できる! 私は大丈夫」という気持ちがすごく働いていた時期に書いた歌詞だったので、こういう内容になったんだと思いますね。
自分の詩にこんな素敵なメロディが付くなんて
──「転校生になれたら」はこれも古くからの友人である、川本真琴さんの曲ですね。
真琴とは23歳の頃に仲良くなって、いつか曲を作ってもらいたいと思っていました。彼女から弾き語りの曲が届いて、すぐに「転校生にもしなれたら」という歌詞が出てきました。今回は変身願望を込めたアルバムでもあって、「魔法はまだ」とか「しのびこみたい」とかも全部そうなんですけど。私が憧れてやまなかったものの究極が転校生なんですよ。私、ずっと転校生になりたかったんです。「YUKIってこうだったっけ?」と言われるくらい、明日会ったら全然違う人になっていたい(笑)。だからメイクや髪型を変えるのは好きですし、違う自分になるのは最高に楽しいんです。
──「Sunday Girl」はポップス界のレジェンドでもある細野晴臣さんの作曲です。これはどういう経緯でお願いすることになったんですか?
自分が好きな音楽をやるには私が日頃から聴いていて最高に好きな人にお願いするのがいいなと思って、細野さんにお声掛けさせていただきました。ダメ元でお願いしたんですけど「一緒にいい曲を作りましょう」と快諾してくださって。
──往年の細野節が全面に出ている、ポップスの王道のような素晴らしい曲ですよね。
「いろいろなことは突然やってくる」という内容を書いた「国境は突然やってくる」という日記を細野さんに送って、それに曲を付けてもらいました。歌詞は細野さんへのオマージュです。まさか自分の詩にこんな素敵なメロディが付くなんて、本当にうれしいです。
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尾崎くんのメロディにはネガティブな詩が合う